EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
「IFRS 国際会計の実務 International GAAP シリーズ2024」が公開されました。本稿では、本書で新たにアップデートされたIFRS第16号「リース」に関連する論点の一部についてご紹介します。
本稿の執筆者
EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 IFRSデスク 公認会計士 柏岡 佳樹
当法人入社後、製造業等の会計監査に携わる。2014年よりIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援業務、研修業務、執筆活動などに従事している。22年から24年までIFRS財団アジア・オセアニアオフィスへ出向し、国際会計基準審議会(IASB)の会計基準開発に関与。
要点
2025年2月、IFRSに関するEYの解説および見解をまとめた「International GAAP® 2024」の日本語版として、「IFRS 国際会計の実務 International GAAPシリーズ 2024」を発刊しました。本刊行物は原著の英語版と同様に無料で利用できるPDFにて提供し、2025年2月を初回として、3年にわたって各章のPDFを定期的に公開することを予定しています。詳細はオンライン刊行物:IFRS 国際会計の実務 International GAAP シリーズ 2024をご確認ください。
IFRS実務講座では、前回(情報センサー2025年4月「『IFRS 国際会計の実務 International GAAP シリーズ2024』公開記念 IFRS第15号『顧客との契約から生じる収益』に関する主なアップデート」)より、2022年版からアップデートされている論点の一部を紹介しています。第2回となる本稿では、IFRS第16号「リース」(以下、IFRS第16号)に関連する論点を紹介します。各論点の詳細は、「IFRS 国際会計の実務 International GAAP シリーズ2024」第23章を参照ください。
なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします。
IFRS第16号では、リースの借手はリースの開始日において使用権資産とリース負債を認識し、その後は使用権資産とリース負債のそれぞれに対して、IFRS第16号に定められた方法に従って事後測定を行います。ここでIFRS第16号は、以下のいずれかに変更があった場合、リース料の変動を反映するようにリース負債の再測定を行うことを求めています。
(a) リース期間(例:過去にリース期間の決定に含めていなかったオプションを借手が行使する場合)
(b) 原資産を購入するオプションを借手が合理的に確実に行使するか
(c) 残価保証で支払いが見込まれる金額
(d) 指数又はレートの変動から将来生じるリース料
(e) 実質上の固定リース料
上記(a)~(e)の要因から生じたリース負債の再測定によるリース負債の変動は、原則として純損益に影響させることなく使用権資産の修正として認識する必要があります。ただし、使用権資産の帳簿価額がゼロまで減額されていて、さらにリース負債の再測定の結果、リース負債が減額される場合には、再測定の残額を純損益に認識する必要があります。
ここで、リース契約の中には、市場金利の調整(市場賃料の見直し)に関する条項が含まれている場合があり、借手と貸手の交渉が決着するまでに一定の時間を要する場合があります。このような場合、どのタイミングでリース負債の再測定を行うかが論点となりますが、市場賃料の見直しが完了し、契約上のキャッシュ・フローの変更が有効となる時点で、上記(d)に基づいてリース料の修正を認識し、リース負債を再測定することになるものと考えられます。
さらに、リース契約の中には、リース期間中の市場賃料の見直しが遡及的に適用されるケースもあります。この場合には、遡及的に修正される部分も含めたリース料の修正を、どのタイミングでどのように会計処理するかが論点となります。これについて、以下の例を基に解説します。
このような賃料の見直しにおいては、前述した考え方に従い、借手である企業Aは6年目の期首において賃料の増加を予想してリース料を調整することはなく、交渉が完了した6年目の9月にリース料の調整を行います。リース負債は6年目の9月時点で再測定され、将来のリース料の変動によるリース負債の変動に伴い、使用権資産が調整されることとなります。
一方で、新しいリース料が遡及して適用される期間(上記の例における6年目期首から6年目の9月まで)の当初のリース料と新しいリース料の差額は、交渉が完了した時点での純損益に認識するか、あるいは使用権資産の調整として認識することも可能であると考えられます。ただし、使用権資産の調整として認識する場合には、使用権資産の回収可能性を考慮する必要がある点は留意が必要です。これらをまとめると<表1>の通りです。
出所:「IFRS 国際会計の実務 International GAAPシリーズ 2024」第23章5.4を基に筆者作成
IFRS第16号では、セール・アンド・リースバック取引について、売手である借手から、買手である貸手への資産の譲渡が売却であるかどうかに応じて、<表2>の通り、異なる会計処理を行うことを求めています。
売手である借手 |
買手である貸手 |
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---|---|---|
資産の譲渡が売却である場合 |
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|
資産の譲渡が売却ではない場合 |
|
|
出所:IFRS第16号第100項及び第103項を基に筆者作成
従って、セール・アンド・リースバック取引の会計処理の検討に当たっては、売手である借手からの資産の譲渡が売却であるかどうかを検討する必要がありますが、この判定においては、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」(以下、IFRS第15号)に含まれている、履行義務がいつ充足されるのかという決定に関する規定を適用する必要があります。
ここで、IFRS第15号では企業が資産を買い戻す権利(買戻しオプション)を有している場合には、顧客は当該資産に対する権利を獲得していないとされていることから、セール・アンド・リースバック取引において売手である借手が買戻しオプションを有している場合には、売手である借手は当該セール・アンド・リースバック取引を、上記<表2>の「資産の譲渡が売却ではない場合」に従い金融取引として会計処理する必要があります。
一方、セール・アンド・リースバック取引の中には、売手である借手がリース期間の一部の期間のみ買戻しオプションを有している場合があります。この場合、売手である借手が買戻しオプションを行使せず、オプションが失効した場合に、売手及び買手は成立しなかった売却を再評価してもよいかどうかが論点となりますが、このようなケースでは、IFRS 第15号に従って売却(又は購入)が存在するか否かを再評価し、売却(又は購入)が存在する場合には、支配が買手である貸手に移転する時点でIFRS第16号におけるセール・アンド・リースバック取引に関するガイダンスを適用することが認められると考えられます。
本稿では、「IFRS国際会計の実務 International GAAP シリーズ2024」でアップデートされたIFRS第16号に関連する論点から2点取り上げました。世界的に金利に関する不確実性が増している中、特にリース期間が長期にわたる不動産のリース契約においては、リース期間中の賃料見直し条項を含む契約が締結される可能性もあり、会計処理には留意が必要と考えられます。
「IFRS国際会計の実務 International GAAP シリーズ2024」では、本稿で紹介した論点以外にも記載が拡充されています。本刊行物は、クライアントとのIFRSに関する各種取組み、規制当局や基準設定主体、その他の専門家との議論を通じて培われた実務上の論点に対する解釈も含めて解説しており、財務諸表作成者に限らずIFRS適用実務に関与するすべての方に必携の刊行物と言えるでしょう。ぜひ、手に取っていただけますと幸いです。
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2025年2月に「IFRS 国際会計の実務 International GAAPシリーズ2024」(日本語版、無料)が公開されました。
「IFRS 国際会計の実務 International GAAP シリーズ2024」が公開されました。本稿では、本書で新たにアップデートされたIFRS第16号「リース」に関連する論点の一部についてご紹介します。
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オンライン刊行物:IFRS 国際会計の実務 International GAAP シリーズ 2024
本刊行物は、EY発刊の原著である「International GAAP」の日本語版です。本刊行物は、クライアントとのIFRSに関する各種取組み、規制当局や基準設定主体、その他の専門家との議論を通じて培われた実務上の論点に対する解釈も含めて解説しています。
「IFRS 国際会計の実務 International GAAP シリーズ2024」公開記念 IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」に関する主なアップデート
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