EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
「IFRS 国際会計の実務 International GAAP シリーズ2024」が公開されました。本稿では、IFRS第15号に関連する論点の一部である、顧客に支払われる対価に関する論点を紹介します。
本稿の執筆者
EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 IFRSデスク 公認会計士 北出 旭彦
当法人入社後、大阪事務所にて主として海運業、小売業、製造業などの会計監査および内部統制監査に携わる。2019年よりIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援業務、テクニカルコンサルテーション、執筆活動、研修講師などに従事している。当法人 シニアマネージャー。
要点
「IFRS 国際会計の実務 International GAAP」シリーズがリニューアルされました。本刊行物は、原著である「International GAAP」と同様に、無料で利用できるPDFにて提供しています。日本語版の発刊に当たっては、2025年2月を初回として、3年にわたって章ごとのPDFを定期的に公開することを予定しています。詳細はオンライン刊行物:IFRS 国際会計の実務 International GAAP シリーズ 2024をご確認ください。
IFRS実務講座においては、本稿より全3回にわたって、2022年版からアップデートされている論点の一部を紹介します。第1回となる本稿では、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」(以下、IFRS第15号)に関連する論点(詳細は「IFRS 国際会計の実務 International GAAP シリーズ2024」第27章を参照)を紹介します。
なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします。
直接の顧客としては識別していない財又はサービスの最終消費者に対してインセンティブを支払う取引が近年増加しています。例えば、オンライン上で商品を売買できるようなプラットフォームを提供するビジネスが典型的なものです。一般的に、プラットフォーム提供企業(<図1>の企業A)はプラットフォーム上で取引が成立した場合、取引対価の一定率を売手(販売者)から収受することで収益を稼得します。従って、売手を顧客として識別します。
一方で、プラットフォーム提供企業は、プラットフォームの利用を促進するために当該サービスの最終消費者である買手(購入者)に対してインセンティブ(例えば、ポイントプログラム)を支払うことがあり、直接の顧客ではない最終消費者に対して支払われる当該インセンティブをどのように会計処理するのか検討が必要となります。
図1 プラットフォーム提供企業の取引スキーム
まずは、インセンティブの支払いが公正価値で取得した別個の財又はサービスとの交換により行われたものであるかどうかを検討します。別個の財又はサービスとの交換によるものである場合、通常の仕入先からの購入と同様に会計処理することになります(IFRS第15号第71項)。一方で、別個の財又はサービスとの交換ではない場合、その支払いを収益の減額として会計処理すべきかどうかを判断します。
インセンティブの支払いを収益の減額として会計処理すべきかどうかを判断する際には、企業が売手に代わって最終消費者にインセンティブを提供する契約上の義務、又は黙示的な義務が存在するかを考慮することが重要となります。この検討に際しては、企業が最終消費者にインセンティブを提供するという“合理的な期待”を売手が抱いているかどうかについて事実及び状況に基づいた慎重な検討が必要となります。
顧客は、広告や企業が実施したプレスリリースなどを通じて、企業が実施するインセンティブプログラムに関する情報を入手し、企業から最終消費者に対してインセンティブの支払いが行われるという合理的な期待を抱いている可能性があります。このような顧客に対する黙示的な義務に基づく支払いは顧客に支払われる対価として取り扱われ、顧客との取引で生じた収益の取引価格から減額されることになります。
すでに顧客に移転した(又は部分的に移転した)財又はサービスに関連して、現在又は以前の顧客から訴訟を提起される場合があります。訴訟の結果、和解金の支払いが生じた場合、当該和解金の支払いをどのように会計処理するか検討が必要となります。
まずは、訴訟和解金の支払いの事実が収益を創出する契約に関連しているかどうかを判断することになります。収益を創出する契約と関連している場合、当該契約の履行が完了しているかどうかを検討します。
図2 訴訟和解金に係る会計処理の判断
契約又は顧客との関係はすでに存在しないため、発生する負債に対してIAS第37号を適用して会計処理することが考えられます。これは、訴訟和解金の支払いが、すでに履行が完了した契約に対して当事者間で合意した取引価格の一部を構成するものではなく、また、その顧客との将来の契約にも関係しないとの考えが前提にあります。
ただし、IAS第37号第8項において「他の基準書が、支出を資産として扱うのか費用として扱うのかを定めている。これらの論点は、本基準書では扱っていない」とされており、貸方である負債の認識及び測定に関してIAS第37号を適用するものの、借方である純損益における分類について、IFRS第15号を適用する(従って、売上収益の減額処理する)ことも考えられます。
一方で、IAS第37号ではなく、IFRS第15号を適用することも考えられます。IAS第37号第5項において、IFRS第15号が適用される引当金、偶発負債又は偶発資産をその適用範囲から除外しています。また、IFRS第15号は顧客に支払われる対価について詳細な規定を定めています。契約や顧客関係はすでに終了しているものの、以前に履行が完了した契約に直接起因していることから、IFRS第15号の適用範囲の取引であると判断し、IAS第37号の適用範囲の除外規定を考慮してIFRS第15号を適用することが考えられます。
契約又は顧客との関係に基づいて発生する支払いであることから、訴訟和解金の支払いの事実が、IAS第37号に基づいて会計処理される品質保証型の保証取引の対象となる支払いでない限り、IFRS第15号を適用します。すなわち、顧客に支払われる対価として取り扱い、取引価格(すなわち、売上収益)の減額として会計処理します。
今回リニューアルしました「IFRS 国際会計の実務 International GAAP シリーズ2024」では、本稿で紹介した論点以外にも内容が拡充されています。本刊行物ではEYのクライアントとのIFRSに関する各種取組み、規制当局や基準設定主体、その他の専門家との議論を通じて培われた実務上の論点に対する解釈も含めて解説しており、財務諸表作成者に限らずIFRS適用実務に関与するすべての方にとって必携となり得る刊行物と言えるでしょう。ぜひ、手に取っていただけますと幸いです。
メールで受け取る
IFRSメールマガジンで最新情報をご覧ください。
2025年2月に「IFRS 国際会計の実務 International GAAPシリーズ2024」(日本語版、無料)が公開されました。
「IFRS 国際会計の実務 International GAAP シリーズ2024」が公開されました。本稿では、IFRS第15号に関連する論点の一部である、顧客に支払われる対価に関する論点を紹介します。
EYのIFRS専門家チームは、国際財務報告基準の解釈とその導⼊にあたり、企業が直⾯する問題を精査します。
IFRSインサイトでは、EYの財務報告プロフェッショナルによるあらゆる専門的なコンテンツ、ガイダンス、ツールを取りそろえています。
全国に拠点を持ち、日本最大規模の人員を擁する監査法人が、監査および保証業務をはじめ、各種財務関連アドバイザリーサービスなどを提供しています。
EYのプロフェッショナルが、国内外の会計、税務、アドバイザリーなど企業の経営や実務に役立つトピックを解説します。