英国における現地会計基準(FRS102)の改正概要とその留意点

情報センサー2024年12月 JBS

英国における現地会計基準(FRS102)の改正概要とその留意点


英国における現地会計基準(FRS102)の改正概要を理解し、現行基準からの変更点やIFRSとの違いを確認することで、現地会社での当該会計基準の適用に向けての留意点や今から準備すべき点を理解できます。


本稿の執筆者

EY英国 公認会計士 三井 洋介

2022年よりEY英国監査部門(ロンドン事務所)で監査マネージャー及びJapan Business Service(JBS)の デスクとして、日系子会社の全般サポートに従事している。日本基準及び国際会計基準に基づく多国籍企業の監査を経験。EY英国 シニアマネージャー。



要点

  • 2024年3月27日に英国独自の会計基準であるFRS102が改正された。
  • 改正FRS102は、一部の項目を除き2026年1月1日以降開始事業年度より適用となる。
  • 今回の改正には、主としてIFRS第16号「リース」とIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」が含まれている。


Ⅰ はじめに

英国財務報告評議会(FRC)は2024年3月27日、「英国およびアイルランド共和国で適用される財務報告基準であるFinancial Reporting Standard(FRS)102」の改正を発表しました。改正後のFRS102は、2026年1月1日以降開始事業年度より適用され、早期適用が認められています。主要な改正点は、国際財務報告基準(IFRS)第16号「リース」とIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」の概念を取り込むことになります。なお、FRS102は中小企業が適用することを前提とした会計基準であることから、改正頻度が少なくなっていることと、実務的な負担の増加とIFRSと整合されることによる比較可能性の向上のバランスを考慮して、改正が決定されます。


Ⅱ 英国で適用される会計基準について

英国では、IFRS、FRS101から105という会計基準が存在しますが、日系子会社のほとんどが、IFRS、FRS101またはFRS102のいずれかを会計基準として採用しています。このうち、FRS101とFRS102については以下のとおりです。
 

1. FRS101:英国独自の会計基準(今回の改正の影響なし)

適用されるすべてのIFRSと認識・測定の考え方が同様の基準であるものの、財務諸表の中で開示が要求される項目が限定されます。そのため、IFRSの各基準が変更または新規に規定された場合には、その内容が直ちに反映されます。適用するための要件がありますが、会計基準はIFRSである一方で、キャッシュ・フロー注記や関連当事者注記等の一部の開示を省略できることから、日本親会社がIFRS適用の英国子会社では多く採用されています。
 

2. FRS102:英国独自の会計基準(今回の改正の影響あり)

定期的にIFRSに沿った改正が行われますが、その頻度は少なくとも5年に一度とされています。IFRSの変更反映に時間を要するのは、FRS102は中小企業を前提とした会計基準であることから、改正頻度が少なくなっていることと、改正を行うことの実務的な負担の増加とIFRSと整合されることによる比較可能性の向上のバランスを考慮して、改正が決定されることになります。現地基準のため、親会社グループの会計方針と不一致となる可能性がある点は留意が必要です。


Ⅲ 主な改正内容

1. リース(セクション20。以下、セクション番号は、FRS102における参照箇所を指す)

IFRS第16号の基本概念が導入され、借り手の会計処理としてオペレーティング・リースとファイナンス・リースの区別が撤廃されたことで、広く使用権資産をオンバランスすることになります。ただし、短期リース、原資産が少額であるリースについては、実務上の負担を勘案し、オフバランスを認める免除規定も設けられています。

(1) 短期リース

開始日において、リース期間が12カ月以内であるリース。購入オプションを含んだリースは、短期リースではありません。

(2) 原資産が少額であるリース

IFRS第16号B8では少額リースの例示としてタブレットやパーソナル・コンピューターなどが挙げられており、該当する場合は、借り手が使用権資産の認識免除が認められています。また、同基準BC100においては、新品の価値が5千米ドル以下の場合は少額リース資産に該当する点も明示されています。他方、FRS102では少額リースではない資産として自動車や土地といった例示が示されている一方で、少額リースの例示は示されておらず、また数値基準も示されていません。従って、FRS102の方が、少額リースの範囲が限定されていない分、少額リースということで借り手がリースの認識を免除できる範囲がより広いことが示唆されていると考えられます。

使用権資産及びリース負債の計上は、企業間の比較可能性及び開示の透明性を向上することを目的として、IFRS第16号に沿った改正となります。一方で、前述のとおり少額リースとして計上不要と考える範囲はIFRS第16号と比較してより広いと考える点も示されていることから、実際の実務の動向についても今後注視が必要と考えています。リースに関連して、政府補助金を受領した場合には、使用権資産を算定する時にその金額を考慮することが明示されているなど、IFRS第16号と異なる点もありますので、その点はご留意ください。
 

2. 収益認識(セクション23)

改正前の収益認識基準では重要なリスクと経済価値が買い手に移転した際に収益を認識することになっていましたが、今回の改正ではIFRS第15号と同様に<図1>のとおり5ステップが導入され、約束した財又はサービスの顧客への移転を、それらと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で、収益を認識することが求められます。当該改正は、会社の規模や契約の形態を問わずIFRS第15号に沿って収益認識を企業が行うことが、より信頼性かつ利便性の高い企業の開示を促進するとして、改正に織り込まれました。一方で、例えば返品が予想される商品をどのように貸借対照表上で開示するかIFRS第15号では明確な定めがありませんが、FRS102では、在庫(棚卸資産)に含めることが要求されているなど、細かい基準差が存在しますので、その点は合わせて留意する必要があります。

図1 収益認識の5ステップ

図1 収益認識の5ステップ

Ⅳ その他の改正内容

前述で説明したIFRS第15号及び第16号に関する改正に加えて、以下の内容についても、企業が開示する財務情報がステークホルダーにとってより有用でかつ高品質の開示が可能になると共に、企業間の比較可能性を高めるとして改正内容に含まれています。会計基準及び開示に関する改正は以下のとおりです。

1. 公正価値測定(セクション2A)

公正価値の測定は会計処理の基本であり、また重要な経営者の判断が含まれる場合があります。そのため、IFRS第13号「公正価値測定」に整合する形で会計基準が見直され、実務上のガイダンスが示されました。
 

2. キャッシュ・フロー計算書(セクション7)

IAS第7号「キャッシュ・フロー計算書」に合わせ、サプライヤー・ファイナンス契約に関する開示要求を追加しました。なお、当該開示については、他の改正内容より1年早く2025年1月1日から適用となります。その点をご留意ください。
 

3. 株式に基づく報酬(セクション26)

IFRS第2号「株式に基づく報酬」に整合する形で会計基準が見直され、実務のガイダンスが示されました。
 

4. 法人所得税(セクション29)

IFRIC第23号「法人所得税の税務処理に関する不確実性」に整合する形で法人所得税の処理に関する不確実性のガイダンスが示されました。


その他の改正については以下のとおりです。


5. 小規模会社(セクション1A)

該当する小規模会社が、真実かつ公正な開示を英国の法律に基づいてどのような開示が要求されているかをより明確に示されました。この結果、該当する会社は、開示項目を決定するにあたってより明確な指針が示されたと考えられ、より質の高い財務報告が達成されることが期待されています。
 

6. 概念と普及原理(セクション2)

セクション2の概念と普及原理は、FRS102におけるIASBの「財務報告に関する概念フレームワーク」と同等のフレームワークを示したセクションであり、財務諸表の全体的な目的と、財務諸表を有用にするために財務諸表に含める必要がある特性について明確にする内容です。こちらは2018年の当該フレームワークに沿った内容で改正されています。
 

7. 特殊な事業に関する個別規定(セクション34)

個別論点になることから、本稿では取り扱いませんが、農業、金融会社、公益法人等の特殊な事業に関する規定の改正となっています。


              Ⅴ 改正されない主な内容

              今回の改正では、金融資産の減損に関するIFRS第9号「金融商品」の予想信用損失モデル、及びIFRS第17号「保険契約」の採用は、企業の実務負担を考慮して見送られています。IFRS第9号及びIFRS第17号とのさらなる整合性は、将来のプロジェクトの一部となり、適切な時期に協議を経て行われることになります。


              Ⅵ 改正を踏まえた今後の対応について

              2026年1月1日以降開始事業年度より適用されることから、改正の影響について事前に確認する必要があります。特にIFRS第15号に沿った会計処理が求められる収益認識とIFRS第16号に沿った会計処理が求められるリースは、会計処理の変更が求められる可能性が高いです。当該影響を検討するためには既存の契約を網羅的に洗い出し、契約パターンごとの会計処理を検討する必要があります。このような大きな改正がある場合には、会社の会計処理を検討したポジション・ペーパーを作成することが一般的となります。また、検討された会計処理を徹底するために、会計ポリシーに落とし込み、その運用を徹底する必要があります。会計処理が変更になった場合は、会計システムやその上流システム(販売システム)等の改正も必要となる可能性がありますので、前広な検討が必要だと考えます。


              Ⅶ おわりに

              本稿を通じて、FRS102の改正内容をご理解いただけましたでしょうか。会計基準の改正があった時に、既存の契約の洗い出しを行い、その形態にあった会計処理を検討する必要があります。そのため、契約を標準化していくこと、形態にあった業務フローを整備・運用することは、会計基準の適用になったタイミングでの会計処理の煩雑さを防ぐことになります。2026年1月1日以降開始事業年度より適用されるということで、皆さまの中にはまだ先の話と思う方もいるかもしれませんが、ぜひ前広に検討するとともに、何かお困りのことがあれば、ぜひEYのプロフェッショナルにご相談ください。本稿が英国会社の事業運営の一助になれば幸いです。


              サマリー 

              英国における現地会計基準(FRS102)の改正概要を理解し、現行基準からの変更点やIFRSとの違いを確認することで、現地会社での当該会計基準の適用に向けての留意点や今から準備すべき点を理解できます。


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