EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
2026年6月20日から28日にかけて、London Climate Action Week 2026(LCAW 2026)が開催されました。LCAWは、COP、World Economic Forum、New York Climate Weekと並び、サステナビリティ分野における世界有数の国際イベントとして存在感を高めています。
前年のLCAW 2025は、パリ協定採択から10年、COP30を控えたタイミングで開催され、都市、地域、企業、金融機関といった非国家主体が、気候目標をいかに実装に移すかが大きな焦点となりました。LCAW 2026では、参加者・イベント数がさらに拡大し、公式登録イベント数は1,303件に達しました。
テーマも、気候ファイナンス、移行計画、自然資本、基準・開示、AI・データ活用、適応・レジリエンス、地政学と気候外交まで広がり、より実務的かつ横断的な議論へと発展していました。
LCAW 2026で特に印象的だったのは、議論の重心が「目標設定」から「実装」へと明確に移っていた点です。企業や金融機関にとって、ネットゼロ目標やサステナビリティ方針を掲げることは出発点に過ぎません。問われていたのは、それを投資判断、事業戦略、リスク管理、サプライチェーン、データ基盤、開示・保証にどう落とし込むかでした。
この流れを象徴する動きとして、LCAW直前にはSBTiがCorporate Net-Zero Standard Version 2.0を公表しました。LCAW期間中にはSBTi自身による関連イベントに加え、EYでもSBTi CEOを迎えたイベントが開催され、科学に基づく目標と移行計画・実装をどのように接続するかが議論されました。
また、Gold StandardはLCAW直前にClimate Responsibility Framework v4.0を公表し、企業が排出削減に加えて、継続する排出への責任、バリューチェーンを超えた気候貢献、適応などを気候戦略に組み込むための実践的な枠組みを提示しました。LCAW期間中には同フレームワークを中心とする非公開ラウンドテーブルも開催され、企業が気候目標を具体的な行動や資金配分につなげ、進捗を自己評価していく方法が議論されました。
また、TISFDもFramework Beta Version 0.1を公表し、人権、労働、格差、社会的リスクといった「S」の論点を、企業価値や金融リスクの文脈で捉え直す動きが進んでいます。
開催地であるロンドンならではの論点として、トランジションファイナンスも大きな存在感を示していました。City of London Corporationと英国政府が関与するTransition Finance Councilは、Transition Finance GuidelinesのExposure DraftとImplementation Handbookを公表し、信頼性あるトランジションファイナンス機会を識別するための実務的な枠組みを提示しています。
日本は、鉄鋼、化学、電力、ガス、航空、海運など、脱炭素が難しい産業を多く抱える経済構造を背景に、トランジションファイナンスを政策的に早くから重視してきました。一方、欧州・英国でも近年、高排出産業の移行を支える金融の必要性が強く認識され、制度・市場整備の対象として位置付ける動きが加速しています。
LCAW 2026では、トランジションファイナンスを単なるラベルや商品分類ではなく、企業の移行計画、投資可能性、政策支援、技術ロードマップと接続して捉える議論が多く見られました。日本の実務に対する関心も高く、ラウンドテーブルでは欧州金融機関から日本のプラクティスを評価するコメントも聞かれました。
サステナビリティ開示の文脈では、ISSB基準を踏まえたUK Sustainability Reporting Standards(UK SRS)の動向も重要です。TCFDベースの開示から、ISSB/UK SRSを軸とした統合的な開示へ移行する流れは、企業や金融機関に、開示、内部統制、データ管理、保証対応を一体で整備することを求めています。
EYにおいても、LCAW期間中に複数のイベントが開催され、サステナビリティを経営・金融・テクノロジー・社会価値の観点から捉える議論が行われました。テーマは、SBTiや移行計画を含むネットゼロ実装、ESG reportingやCSRD、EU Taxonomy、ISSB、保証対応などの開示・規制・アシュアランス、AIやデータ基盤を活用したサステナビリティ変革、そして人的資本や包摂性、社会的価値を経営課題として捉える動きに整理できます。
特に、サステナビリティ、サプライチェーン、ファイナンスに関わるデータを統合し、規制対応、監査、移行計画、レジリエンス強化に活用する議論は、サステナビリティが専門部署だけのテーマではなく、経営の中核課題になっていることを示していました。
もう1つの大きな論点は、地政学リスクや政治的分断が高まる中で、気候アクションをいかに継続するかでした。各会場では、気候変動を過度に政治的な対立軸に乗せることへの警戒感と、同時に国際協調を諦めてはならないという問題意識が共有されていました。
気候アクションを、エネルギー安全保障、産業競争力、金融安定、都市のレジリエンス、健康被害の抑制といった実利の観点から語り直す。その一方で、資金動員、技術移転、グローバルサウス支援、基準の相互運用性では、引き続き国際協調が不可欠です。この両立こそが、LCAW 2026を通じた重要な問いでした。
今年のLCAWを象徴する出来事の1つが、日本でも広く報道されていた通り、期間中に欧州・英国を襲った熱波です。英国では、極端な暑さにより一部の学校が閉鎖され、交通機関にも遅延が生じたほか、予定されていたイベントが会場の暑さを理由に中止される事態もありました。ロンドン市内の地下鉄やバスには冷房を設置していない路線も多く、気候変動を議論する国際イベントの最中に、参加者自身が暑さ、移動の混乱、都市インフラの脆弱性といった物理的リスクの顕在化を体感したことは象徴的でした。気候アクションは、理念や合意形成の段階から、競争力、資本配分、リスク管理、社会の強靭性を左右する実務課題へと移行しています。
LCAW 2026では、気候アクションの議論が目標設定から実装へ移り、企業や金融機関には、移行計画を経営、投資、リスク管理、開示に具体化する力が求められていました。
関連記事
現地レポート/AIから自然資本まで。「クライメート・ウィークNYC 2024」で語られた気候変動対策を加速させるためのカギ
「クライメート・ウィークNYC」(Climate Week NYC 2024、以下「NYCW」)が2024年9月22日から29日まで開催されました。英国の非営利組織であるクライメート・グループが主催し、自由でルールに縛られない国際的な気候会議です。だ。世界最大級の参加者数を誇り、今年はCOP29以上に多くの企業から注目を集めました。どのようなことが議論されたのか、参加者の視点からレポートします。
第2次トランプ政権発足後、初開催となる「クライメート・ウィークNYC2025」最新動向はいかに
クライメート・ウィークNYC(Climate Week NYC)は、英国の非営利組織であるクライメート・グループが主催する世界最大級の気候変動に関するイベントです。今回は過去最大規模の10万人超の参加者を集め、期間中には1,000を超える公式イベントがニューヨーク市内各所で開催されました。
EYの関連サービス
EYのサステナブルファイナンス・チームは、価値の創造と測定可能な変化をもたらすサステナビリティ目標を定義できるよう金融サービス企業をサポートします。
続きを読む