草地の丘陵で交わる小道

カーブアウトにおいて税務の早期関与が成果を向上させる要因とは


カーブアウトにおける想定外の税務論点を回避するために、企業が取るべき3つのアクションを解説します。


要点

  • 事業の一部を分離する際の税務会計は非常に複雑になることが多く、企業価値評価、取引の経済性、そして、分離と分離後初日(Day One)の税務プロファイルに直接影響を及ぼす可能性がある。
  • 早い段階で実務的な対応を行うことで、税務上の想定外の課題を減らし、分離の成功と、独立運営または買収グループへの統合運営への移行を円滑に行うことができる。


EY Japanの視点

カーブアウト成功のカギを握る早期税務検討

カーブアウトでは、事業譲渡や会社分割+株式譲渡などスキームごとに課税関係が大きく異なります。組織再編税制の適格・非適格判定に留意しつつ、時価取引による資産のステップアップが税務上ののれん償却を通じ買主の税効率に与える影響など、メリット・デメリットをケース別に見極めることが重要です。特に海外子会社・海外ビジネスが絡む場合は現地の課税や欠損金制限の影響が大きく、入り口段階からの早期の税務分析が成否を左右します。
 
分離された企業に帰属する税務ポジション・繰延税金資産・負債を適切に把握することは、分離事業の適切な評価価値につながります。分離事業に海外の事業が含まれる場合には、各国の税法に基づき、適切に繰延税金資産・負債や不確実な税務ポジションについて検討を行う必要があり、分離後に意図しない損益計算書における税金費用の認識を避けるためにも、取引の早い段階での専門家の関与が重要です。また、分離事業が独立もしくは、合併先の企業の一部として円滑にビジネスを行うための税務体制構築が事業分離の成功のカギになります。
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現在のM&A環境において事業の一部を売却・分離する「カーブアウト」は、一般的な手法となっています。価値の創出や戦略的焦点を明確にする一方、多くの企業にとって非定型取引であり、財務報告・税務報告に多大な複雑さと課題をもたらします。そして、その複雑さや課題による負荷は、過小評価されています。

取引ライフサイクルの早い段階でカーブアウトの税務上の影響を評価すれば、想定外の問題を回避し、確度の高い意思決定ができ、結果として取引価値そのものをさらに高めることにつながります。

カーブアウトとは、企業が事業の一部を組織から切り離すことを指します。切り離された事業は、第三者に売却される場合もあれば、スピンオフされる場合、独立した事業体として運営される場合もあります。

企業がカーブアウトを実施する理由は、市場環境の変化、顧客ニーズの変化、中核事業への経営資源の集中などさまざまです。多角化された企業グループでは、カーブアウトは価値創出を目的として行われることが多く、個々の事業は、大きな組織の一部でいるよりも、独立した方が高い価値を持つことがあります。

 

なぜカーブアウトにおいて税務会計が重要なのか?

 

税務会計は、カーブアウト対象事業の評価や、親会社からの最終的な分離方法を決定する場面において、重要な役割を果たします。

 

カーブアウト対象事業には通常、独立した法人としての法務・会計・税務の履歴がありません。カーブアウト対象事業の法人税上のポジションや税務属性は多くの場合、グループ内のさまざまなセグメント・法人に組み込まれています。そのため、繰延税金資産・負債、税務上の属性、未収・未払法人税を対象事業に配分する作業が必要になり、多くの場合、このような配分を初めて行うこととなります。

 

これらの配分結果は、カーブアウト対象事業の財務諸表に影響を与え、取引の経済的条件やカーブアウト対象事業のDay Oneにおける税務プロファイルにも影響を及ぼす可能性があります。税務会計が特に複雑である理由には、以下が挙げられます。

 

  • 標準化された唯一のアプローチが存在しないこと――US GAAPにもIFRSにも、カーブアウト会計を単独で定めた基準が存在しません。そのため、企業はASC 740やIAS 12など複数の適用可能な基準を参照しながら対応する必要があります。しかも、カーブアウトの税務会計では、複数の国・地域、複数の報告期間にまたがって税金を配分する必要があることが多く、企業には高度な判断力が求められます。
  • 構造がグループで共有されていること――税務申告、法人格、会社間取引の仕組みは、対象事業を単独で報告するためではなく、既存の連結グループや事業体のために設計されています。企業は、従来の法的・税務的な構造の中で対象事業の業績を算定し、その税務上の影響をグループ全体からどのように切り離すかを判断しなければなりません。通常、対象事業の業績を算定するためには、その事業が独立して運営されていたと仮定して過去の業績を再計算します。ただし、この再計算は、過去の事業を新しい組織形態に組み替えることを意味するものではありません。そのため、既存グループ内に混在しているカーブアウト対象事業の過去の業績や会計上・税務上ののれんをどう反映させるかについての判断が求められます。
  • プロフォーマ調整が必要となること――売り手は、対象事業の実際の過去実績と、独立事業だったとすれば生じたはずの業績との差異を反映するため、対象事業の財務諸表にプロフォーマ調整を加えることがあります。例えば、独立事業として必要になると予想される資金調達コストを反映させるケースなどです。この調整を行う際、企業は調整に伴う税務上の影響も併せて考慮しなければなりません。
  • 関係者の目が厳しくなること――対象事業の財務諸表は、連結グループ全体よりも重要性のしきい値が低く設定されることが少なくありません。加えて、財務諸表の作成には判断の要素が多く入るため、買い手、規制当局、監査人の精査が厳しくなる傾向があります。ステークホルダーの期待に応える財務諸表を作成するためには、細部への目配りと税引前の判断と税務上の判断の整合性が不可欠です。

カーブアウト税務会計における重要な検討事項

 

税務会計を適切に処理できれば、カーブアウトの成果を向上させることができます。質の高いカーブアウト税務会計は、企業価値評価に対する信頼性を高め、買い手や投資家への説明を明確にし、デューデリジェンスやクロージング後の想定外の問題を低減し、事業分離、残存事業および分離事業の会計・報告体制への移行を円滑にします。

 

また、分離事業の対象範囲(ペリメーター)の実際の業績を企業自身がより正確に把握することにも役立ちます。カーブアウト税務会計の成果を向上させるために、企業が取るべき3つのアクションをご紹介します。

 

  1. 財務分析を包括的に着手し、市場環境を継続的にモニタリングする――カーブアウト事業の財務諸表の作成は、法務、税務、移転価格、財務、会計、特殊要因および個別事象を含む、過去の事業について深く理解することから始まります。これにより、分離事業対象範囲と財務諸表に含めるべき取引を適切に定義することができます。

    政治、政策、規制の動向に加え、マクロ経済、金利、資本市場の動向は、いずれも事業分離に適した市場環境とタイミングに影響を与えます。税務会計・税務報告の担当者は、急な対応が必要になり得る戦略的取引を常に把握し、必要に応じてリソースの優先順位を見直すことが求められます。事業分離の好機は限られており、短い準備期間内で取引を完了させるには、集中的かつ迅速な対応が求められます。

  2. ステークホルダーに周知し、専門家を関与させる――カーブアウトは、多くの企業にとって、経常的な会計プロセスや手続では対応を想定していない特殊な取引です。カーブアウト取引の範囲とタイミングを理解した上で、税務上の技術的論点や税務会計・財務報告上の潜在的な問題に対する認識を深め、主要な関係者に周知し、専門家を巻き込んで対応することは、税務リスクの管理と取引を成功させるために重要です。

  3. 分離後の税務報告を見据えて計画する――税務会計・税務報告は、カーブアウト取引の完了によって終わるものではありません。取引の完了は、残存グループの継続的な税務会計・税務申告にも影響を及ぼします。企業は、税務プロセス、手続、統制の有効性を評価し、法的構造や税務上の構造、データ、システム、人員の変化を確実に考慮した上で、必要な見直しを行う必要があります。また、資金フロー、一時的な税務申告、事業分離特有の税務上の技術的論点についてもあらかじめ検討しておく必要があります。これらはいずれも、事業分離に伴う税務上の影響や、残存グループの継続事業に影響を及ぼす可能性があります。

    対象事業が新たな独立グループとなる場合、自力で運営できる体制の整備が必要です。そのためには、独立したグループとしての財務報告と税務コンプライアンスを遂行できるプロセスと内部統制を設計し、導入しなければなりません。対象事業が既存グループに買収される場合、買収グループが継続的な財務報告のスケジュールを崩すことなく、対象事業を自社の税務会計・申告の枠組みへ取り込む必要があります。

サマリー

カーブアウトは、企業が価値を創出し、戦略を再構築するための強力な手段です。しかしながら、税務会計の観点から見ると決して単純な取引ではありません。税務論点に早期に着手し、適切な専門家を関与させ、分離後の運営を見通して計画する。この3点を押さえることが、想定外の問題を回避し、取引の成果を高めることにつながります。


事業ポートフォリオ変革のためのカーブアウト

M&A市場が活況を呈する今、企業の事業ポートフォリオ変革において「カーブアウト」は重要な手段の1つです。EYが有する各分野のプロフェッショナルが、カーブアウトの戦略的な考え方から実行まで、実務に役立つ知識を体系的に解説します。

事業ポートフォリオ変革のためのカーブアウト アメリカ国会議事堂


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