グローバル・ミニマム課税に係る初年度申告対応のポイント (前編)

情報センサー2026年5月 Tax update

グローバル・ミニマム課税に係る初年度申告対応のポイント (前編)

グローバル・ミニマム課税に係る初年度の申告対応について、作成・提出が求められる申告書等の概要、日系企業および外資系企業における対応、申告書等の作成上のポイントについて、前編・後編の2回シリーズで解説します。

本稿の執筆者

EY税理士法人 グローバル・コンプライアンス・アンド・レポーティング・グループ 税理士 山口 優子

日系・外資系多国籍企業の税務申告業務、税金監査業務等に従事。外国子会社合算税制およびグローバル・ミニマム課税の専門チームに所属し、申告サポート業務、アドバイザリー業務に加え、申告に係るシステム開発にも携わっている。

※所属・役職は記事公開時のものです


要点

  • 日本では2024年4月1日以後に開始する対象会計年度からグローバル・ミニマム課税(BEPS 2.0 Pillar 2)の適用が開始。
  • 情報申告制度に基づき、特定多国籍企業グループ等報告事項等(GIR)の提供や、トップアップ税額が生じる場合には税務申告書の提出が必要となる。
  • 日系企業のみならず外資系企業(米系外資系企業を含む)においても一定の対応が求められる。

Ⅰ はじめに

本稿では、日本において令和6年(2024年)4月1日以後に開始する対象会計年度から適用されるグローバル・ミニマム課税に係る申告対応について解説します。なお、あくまで日本の法制度に基づく申告対応についての説明であり、国外の法制度に基づく申告対応については本稿ではカバーしていませんので、ご了承ください。

Ⅱ グローバル・ミニマム課税の制度概要

2021年10月にOECD(経済協力開発機構)/G20のBEPS包摂的枠組みにおいて合意されたグローバル・ミニマム課税(BEPS 2.0 Pillar 2)に対応するため、令和5年(2023年)度税制改正により、所得合算ルール(Income Inclusion Rule〈以下、IIR〉)に係る法制化として各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税が創設され、内国法人の令和6年(2024年)4月1日以後に開始する対象会計年度から適用が開始されています。

IIRは、対象会計年度の直前の4対象会計年度のうち2以上の対象会計年度において、全世界での年間総収入金額が7億5,000万ユーロ以上の多国籍企業グループ(以下、MNEグループ)を対象とし、一定の所得について国ごとに基準税率15%以上の課税を確保する目的で、子会社等の所在する軽課税国での実効税率が基準税率15%に至るまで、親会社等の所在するIIR導入国において親会社に対して上乗せ(トップアップ)課税を行う制度です。

Ⅲ グローバル・ミニマム課税適用初年度において提出が必要な申告書等

グローバル・ミニマム課税の適用初年度の申告対応として、日本では以下の申告書等の提出が必要となります。なお、MNEグループごとのグローバル・ミニマム課税の適用状況により提出する申告書等が異なるため、第Ⅳ章にて詳述します。

  • 特定多国籍企業グループ等報告事項等(GIR)
  • 特定多国籍企業グループ等に係る最終親会社等届出事項
  • 各対象会計年度の国際最低課税額に係る申告書(別表20関係)

1. 特定多国籍企業グループ等報告事項等(GIR)

(1) GIRの概要

「特定多国籍企業グループ等報告事項等」、通称GIR(GloBE Information Return)は、グローバル・ミニマム課税に関して税務当局が適切なリスク評価を実施し、構成会社等のトップアップ税額の正確性を評価するために必要な情報を提供することを目的として、本制度の対象となるすべてのMNEグループに提供が義務付けられています。OECDによる統一フォーマットを使用して英語で作成することとされており、日本では2025年6月に国税庁から記載要領およびデータポイントの和訳が公表されています※1

GIRは3つのセクションによって構成され、セクションごとの主な記載事項と留意点は<表1>のとおりです。

表1 GIRの構成および留意点

表1 GIRの構成および留意点
出所:EY作成

※1 2026年4月に軽微な修正が加えられた改訂版(金融庁「特定多国籍企業グループ等報告事項等の記載要領 〈令和8年4月改訂〉」、www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kokusai/global-minimum/pdf/01.pdf〈2026年5月8日アクセス〉)が公表されている。

(2) GIRの提供義務者および提供情報の範囲

GIRの提供義務者は、原則としてMNEグループの各構成会社等とされており、MNEグループの構成会社等の各所在地国においてGIRを提供することとなります(ローカルファイリング)。同一所在地国内に提供義務者が複数ある場合には代表提供者(Designated Local Entity)を選択することも可能です。

ただし、MNEグループのコンプライアンス負担に鑑み、最終親会社等(以下、UPE)の所在地国の税務当局にGIRを提供し、当該税務当局がGIRの提供期限において有効な当局間合意(Multilateral Competent Authority Agreement: MCAA)に基づき他の所在地国の税務当局とGIRを交換すること(セントラルファイリング)も認められています。実務上はセントラルファイリングが利用可能な場合は、これによるものと考えられます。また、MNEグループは指定提供会社等(Designated Filing Entity〈以下、DFE〉)を選択し、DFEの所在地国においてGIRを提供することも可能です。

次に、GIRにおける提供情報の範囲については、GIRの設計上採用されている「誰に、どの情報を渡すか」というDissemination(情報の配布)の考え方に基づき、GIRの提供先により提供される情報が<表2>のとおり区分されています。

表2 GIRの情報提供範囲

表2 GIRの情報提供範囲
出所:EY作成

なお、<表2>にある課税権を有する国とは、MNEグループにおいてGloBEルールの対象となり、かつ、いわゆる「ルール・オーダー」に従ってGloBEルールを適用する必要がある国または地域を言い、国内ミニマム課税(QDMTT)を導入している国または地域も含まれます。

2. 特定多国籍企業グループ等に係る最終親会社等届出事項

MNEグループがGIRをセントラルファイリングにより提供する場合で、下記の i) および ii) のいずれも満たすときには、構成会社等は特定多国籍企業グループ等に係る最終親会社等届出事項(以下、最終親会社等届出事項)を提供することにより、GIRの提供義務が免除されます。すなわち、最終親会社等届出事項は、子会社等の所在地国においてGIRに代えて提供されるものです。

i) 提供期限内にUPE(またはDFE)の所在地国にGIRの提供があること
ii) 日本とUPE(またはDFE)の所在地国との間にGIRの提供期限において有効なMCAAがあること

GIRと同様、最終親会社等届出事項についても、所在地国内に構成会社等が複数ある場合には代表提供者を選択することができます。なお、既存の国別報告事項(CbCR)に係る最終親会社等届出事項とは、フォームの形式は似ているものの別の届出事項となります。

3. 各対象会計年度の国際最低課税額に係る申告書(別表20関係)

MNEグループが日本においてトップアップ税の納税義務者となる場合には、各対象会計年度の国際最低課税額に係る申告書(以下、IIR税務申告書)を提出する必要があります。ただし、トップアップ税額が発生しない場合には、IIR税務申告書の提出は不要であり、いわゆるゼロ申告は日本では求められていません。

IIR税務申告書は別表20および別表20付表1~4が国税庁より公表されていますが、国別実効税率やトップアップ税額の計算等の過程に関する詳細はGIRにて記載されるため、IIR税務申告書の別表自体はGIRに比べるとシンプルな記載事項となっています。

なお、IIR税務申告書の添付書類として、UPEに係る連結等財務諸表および連結等財務諸表に係る勘定科目内訳明細書等の提出が必要とされています。

4. 提出期限

提出期限については、上記1.~3.のいずれも、IIR適用初年度における日本での提出期限は対象会計年度(UPEの連結会計上の計算期間)の終了の日の翌日から1年6カ月以内とされています。よって、対象会計年度が3月決算であるMNEグループの場合は日本での適用初年度である2025年3月期について2026年9月末日、12月決算であるMNEグループの場合は日本での適用初年度である2025年12月期について2027年6月末日が初回の提出期限となります。

なお、次年度以降は、提出期限は対象会計年度の終了の日の翌日から1年3カ月以内とされています。

Ⅳ 日系企業および外資系企業における対応

グローバル・ミニマム課税に係る申告書等については、同じ内国法人でもMNEグループのUPEが日本に所在するかどうかによって、提出が求められる申告書等の種類が異なってきます。

UPEが日本に所在する日系MNEグループの場合と、UPEが日本以外に所在する外資系MNEグループに属する日本法人の場合について、それぞれ提出が必要な申告書等を説明します。

1. 日系MNEグループの場合

(1) GIR/最終親会社等届出事項

日系MNEグループの場合は、基本的にはセントラルファイリングによりUPEが日本の税務当局にGIRを提供することが想定されます。ただし、例えば一部の構成会社等について、日本と当該構成会社等の所在地国との間でGIRの提出期限において有効なMCAAがない場合には、当該所在地国においては原則に戻りローカルファイリングによるGIRの提供が必要になります。よって、MNEグループの構成会社等の所在地国と日本との間のMCAAの締結状況について留意が必要です(GIR MCAAの締結状況はOECDのウェブサイト※2において確認が可能)。

GIR提供時には、併せて「特定多国籍企業グループ等報告事項等 兼 特定多国籍企業グループ等報告事項等の提供義務者が複数ある場合における代表提供者に係る事項等の提供」を作成しますが、日本国内に複数の構成会社等がある場合には、UPEを代表提供者として記載し、付表にその他の内国法人である構成会社等を記載します。

なお、最終親会社等届出事項については、上述のとおりセントラルファイリングの場合にGIRに代えて子会社側で提供するものであるため、日系企業の場合には日本で最終親会社等届出事項を提供することは不要です。

※2 “Automatic Exchange of Information - Exchange relationships”, OECD,  oecd.org/en/topics/sub-issues/international-standards-on-tax-transparency/automatic-exchange-of-information-exchange-relationships.html(2026年5月8日アクセス)
 

(2) IIR税務申告書

日本においてトップアップ税が発生する場合には、IIR税務申告書の提出も必要となります。MNEグループにおいて、UPEのほか国内の被部分保有親会社等(以下、POPE)において税額が発生する場合には、納税義務者ごとにそれぞれIIR税務申告書を提出します。

2. 外資系MNEグループに属する日本法人の場合

(1) GIR/最終親会社等届出事項

外資系企業MNEグループでは、UPEの所在地国で当該対象会計年度に関してIIRが導入・適用されているかどうかにより、適用関係が異なります(<図1>参照)。

図1 外資系MNEグループの日本でのGIR提供に係る実務上の検討フロー

図1  外資系MNEグループの日本でのGIR提供に係る実務上の検討フロー
出所:EY作成

UPEまたはDFEの所在地国においてGIRが提供される場合には、日本と当該国との間に提供期限の時点で有効なMCAAが締結されていれば、セントラルファイリングにより日本では最終親会社等届出事項を提供することでGIRの提供は不要となります。この際、日本国内に複数の構成会社等がある場合には、最終親会社等届出事項において代表提供者を選定することで、他の内国法人では届出事項の提供が不要となります。

一方で、いずれの国でもGIRの提供がされない場合、またはGIRが提供される国と日本との間にGIRの提供期限の時点で有効なMCAAがない場合には、原則としてのローカルファイリングが適用され、日本でGIRの提供が必要となります。その場合、日本法人の傘下に海外子会社や恒久的施設等(PE)が存在しない場合には、前掲の<表2>パターン3により、GIRではSection 1のみを提供することとなります。ただし、日本法人の傘下に海外子会社やPEを有し、当該所在地国に対して日本がIIRによる課税権を有する場合には、前掲の<表2>パターン1にあたり、Section 1に加えて、当該課税権を有する国に関するSection 2およびSection 3の情報を提供することになります。

なお、セントラルファイリングにより子会社所在地国でのGIR提供が免除されるには、GIRがUPEまたはDFEにより提供される必要があります。すなわち、UPEやDFEによるGIRの提供がなく、中間親会社等により傘下の課税権を有する国に係る情報のみを記載したGIRが提供される場合には、セントラルファイリングの方式はとれず、傘下の子会社所在地国においてGIRのローカルファイリングが必要となるものと考えられます。

さらに、直近の動向として、2026年1月にOECDより公表されたSide-by-Side Packageに含まれるSide-by-Sideセーフハーバー(以下、SbS SH)により、UPEが米国に所在するMNEグループについてはIIRおよびUTPRの適用が免除されることとなりました。ただしSbS SHは2026年1月以降の対象会計年度において適用されるため、適用初年度においてはIIRを導入している子会社所在地国においてGIRの提供が必要となります。また、SbS SH適用後の対象会計年度においても、SbS SHの適用には他のセーフハーバー同様、GIR上で適用選択をすることが求められるものと考えられます。よって、米系外資系MNEグループに属する日本企業においても、①ローカルファイリングによる日本でのGIR提供、または②セントラルファイリングによる日本での最終親会社等届出事項の提供が必要となる点に留意が必要です。

(2) IIR税務申告書

日本のIIRは内国法人には適用されないため、日本法人の傘下に海外子会社やPEが存在しない場合には、日本国内においてIIRによるトップアップ課税が発生することはなく、日本においてIIR税務申告書の提出が必要となるケースはありません。ただし、日本法人の傘下に海外子会社やPEを有し、かつ当該子会社等の所在地国についてトップアップ課税が発生する場合には、外資系MNEグループに属する日本法人において中間親会社等やPOPEとして日本でIIR税務申告書の提出が必要となります。


Ⅴおわりに

上述の前編では、日本におけるグローバル・ミニマム課税に係る初年度申告対応について、提出が必要な申告書等の内容と、日系MNEグループおよび外資系MNEグループにおいて求められる対応を説明しました。

次回の後編では、申告書等の作成にあたって具体的なポイント、提出方法、その他の留意事項について解説します。



サマリー 

本稿では、グローバル・ミニマム課税の適用初年度において作成・提出が求められる申告書等の概要と、日系企業および外資系企業における対応について説明しました。



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