確定拠出年金(DC)法改正で見えてきた次代の年金制度設計パラダイム

確定拠出年金(DC)法改正で見えてきた、福利厚生と組織活性を両立させる次代の年金制度設計パラダイム


「DC年金法改正を最大限に活かす制度設計スキーム ~法令対応を超え、従業員満足度と株主資本効率向上を目指すには~」セミナーレポート(2026年5月22日開催)

確定拠出年金(DC)の法改正により、2026年4月から「従業員が拠出する掛金が事業主掛金を上回らない」制限が撤廃され、2026年12月からは拠出限度額が拡大します。これにより、事業主と従業員にどのような利点が生まれ、そのために企業は何をすべきなのか。EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社のプロフェッショナルが解説しました。


要点

  • 投資意識の高まりや雇用の流動化を背景に、企業年金は今、DB(確定給付企業年金)からDC(確定拠出年金)へのシフトが進んでいる。
  • 2026年のDC法改正では、従業員掛金の拠出制限撤廃や拠出限度額の引き上げにより、DCの「使い勝手」が大きく向上する。
  • 自律性重視の時代においても、老後の資金準備を従業員だけに任せるのは危険。DC法改正を機に、DCと退職金を組み合わせた新たな仕組みづくりが重要となる。


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Section 1

確定拠出年金(DC)とは? 2つのDC制度の概要

DC制度の基本構造と、企業型および個人型の違いについて整理します。


「DC」は周知のとおり、あらかじめ定めた額の掛金を毎月積み立てながら運用することで、その拠出額と運用益の合計額をもとに老後の資金(給付額)を備えていく制度です。勤め先の企業が掛金を拠出するのが「企業型DC(企業型確定拠出年金)」であり、加入者自身(従業員)が掛金を拠出するのが「個人型DC(個人型確定拠出年金/通称iDeCo:イデコ)」で、どちらも資産運用するのは加入者本人。その運用成績に応じて、将来の給付額が変わってきます。

また、これら2つのDCは、決められた給付額に向けて企業が掛金を運用する「確定給付企業年金(DB)」や、企業が独自に実施する自社年金、退職一時金などと並び、基礎年金・厚生年金に上乗せされる、日本の年金制度全体のいわゆる3階部分に相当するものです。

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今回のセミナーでは、こうしたDCの位置付けを確認した上で、2024年12月に行われたDCの法改正と、2026年4月からすでに施行され、さらに2026年12月にも段階的に実施される今般の法改正に照準を合わせて、その背景と概要、企業に求められる対応などについて、2名のプロフェッショナルが解説しました。


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Section 2

確定拠出年金(DC)法改正で、企業と従業員が受ける恩恵とは?

数年おきに法改正され、そのたびに利便性が増していくDC。投資ブームに乗って拡大するDC活用の機運と可能性を、2026年の法改正が大きく後押しします。


「身分保障」から「自律性」へとシフトする企業年金

最初に登壇したEYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ピープル・コンサルティング シニアマネージャーの立本貴大はまず、この10年の傾向として、個人型DCであるiDeCoの加入者数が顕著に増加を続けるとともに、DB(確定給付企業年金)からDC(確定拠出年金)への移行が徐々に進んでいる状況を明らかにしました。それによると、企業が実施する制度数では、DBが微減で企業型DCが微増。加入者数でも、DBが横ばいで企業型DCが微増である一方、iDeCoの伸びは著しく10年で十数倍にも急増。背景には、アベノミクスによる株高で若年層を中心に投資への関心が増してきたこともあるようです。

このiDeCoの普及に見られる投資意欲の高まりは、企業年金のあり方がDBからDCへ、すなわち「身分保障」から「自律性」へと重心を移しつつある状況の後押し要因でもあると、立本は指摘します。DBは、役割重視や年功重視のポイント制を取り入れるなど「功労報償」の性格が強い制度であり、老後の所得保障を会社に任せるといった「身分保障」により近い位置にあります。これに対してDCは「賃金後払い」の性格が強く、勤続年数や年齢を問わずに掛金が設定されるなど終身雇用からの脱却傾向にも沿っており、掛金運用とそのリスク負担を従業員に委ねるという「自律性」の高い制度となっています。

「DBからDCへの移行が進みつつある背景には、バランスシートの圧縮効果や掛金追加拠出のリスク回避といった財務面でのインセンティブだけでなく、こうした人事面でのパラダイムシフトもあり、それらが相まってDC拡大への機運が醸成されています」(立本)

DC法改正で「マッチング拠出」の利便性が大きく向上

次に立本は、このようなDC普及への追い風となる「DCの法改正」をテーマに解説。「企業型DCやiDeCoは数年おきに法改正され、どんどん使い勝手がよくなっている」とした上で、企業型DCにおいて加入者本人も掛金を上乗せできる「マッチング拠出」が可能になったこと、iDeCoの加入資格が拡大してきたこと、55,000円の総枠の範囲内で拠出限度額が引き上げられてきたことなどの経緯を追いました。

これまでの拠出限度額は、「公的年金+私的年金で退職前給与の6割程度確保」を前提に設計されていますが、企業年金の実施状況により、本人が希望しても総枠を使い切れない場合があるのが実情でした。その是正に向けた、事業主掛金を超える加入者掛金の拠出を可能にする2026年4月の法改正、ならびに2026年12月に予定される55,000円から62,000円への拠出限度額の引き上げが、人事関係者の大きな注目を集めています。これにより、2号被保険者は全員が平等に拠出限度額の総枠を使えることになります。

これまでのDC法における拠出額見直しの流れ

これに先立ち2024年12月になされたDCの法改正では、大きく次の2点が改善されています。

  1. DBとDCを併用する場合のiDeCoの上限拠出額が、12,000円から20,000円に変更。これにより、DCのみを実施(企業型DCとiDeCoを併用)する場合のiDeCoの上限額と同額になった。
  2. 企業型DCの拠出枠が、「一律27,500円」から「55,000円−DB等の他制度掛金相当額」に変更。

上記「2.」の改正により、これまで企業型DCの拠出額が27,500円で頭打ちしていたところ、事業主掛金が比較的高い水準であったケースについては、マッチング拠出の枠が拡大することになりました。ところが、DC法には、加入者掛金は「事業主掛金の額以下」とする制限があったため、事業主掛金が低いケースでは、マッチング拠出の可能額拡大の恩恵が受けられない不合理が発生していました。

「この点を改善したのが、2026年4月の法改正です。『事業主掛金+加入者掛金+DB等の他制度掛金相当額』の合計で55,000円まで拠出できることになりました。これにより、すべてのケースで『マッチング拠出≧iDeCo』となったため、これまでのようにiDeCoの拠出可能額がマッチング拠出のそれよりも大きい状況は解消され、従業員が節税目的でiDeCoを実施する必要もなくなったのです」(立本)

DCをもっと便利に、有効に活用するために

これらの法改正を踏まえて立本は、総枠62,000円となる2026年12月以降の数値例として、「DBのみ」「DBとDCを併用」「DCのみ」などケースごとの拠出限度額を提示。以下のような恩恵について例証しました。

  • マッチング拠出はすべてのケースで一律7,000円の増額
  • iDeCoとマッチング拠出の限度額一致により両者の有利・不利解消
  • 企業年金とiDeCoの合計掛金はすべてのケースで62,000円に統一
  • 本人が希望しても総枠を使い切れない不合理も解消

加えて、企業型DCの拠出限度額を2024年12月の法改正以前の27,500円に据え置く「経過措置」が有効となるケースと、その注意点について解説した上で、話題は「今般の法改正で企業は何をするべきか」へ。2026年12月の改正法施行に向けて必要な法令対応として、立本は以下の2点を挙げて注意を促しました。

1. DC掛金の上限超過分を、退職一時金から支払う制度の場合

DC上限額を「55,000円」と金額で規定している場合は対応不要だが、「DC法施行令第11条に定める額」と規定している場合は、退職一時金の累積額が減少する。退職給付債務(PBO)の再計算が必要となるため、自社の会計監査人に早期に相談すべき。

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2. DC掛金の上限超過分を、DB年金制度から支払う制度の場合

旧制度経過措置によりDC上限額を「27,500円」と規定していれば対応不要。1と同様に法令条文で規定している場合は、PBOへの影響に加え、年金財政や他制度掛金への影響も生じるため、DB総幹事会社に限度額引き上げ後の掛金算定を依頼すべき。

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「このように実務上の留意点はありますが、今年4月および12月の法改正で制度上もDCの普及が後押しされることは確かです。便利になったDC制度をより有効に活用できる環境が整備されてきたといえます」。立本は最後にそう述べて、その有効な制度設計について論じる次の講演へと話をつなげました。

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EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ピープル・コンサルティング シニアマネージャー 立本 貴大

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Section 3

確定拠出年金(DC)法改正で加速する「組織の健全な新陳代謝」

自律性への流れが強まる中でも「従業員任せ」は得策とはいえません。確定拠出年金の法改正を機に、企業と従業員が共に幸福を得る新たな制度設計スキームを検討するべきです。


「報酬の構成要素」に変動を起こす「自律」への流れ

次に登壇したEYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ピープル・コンサルティング アソシエートパートナーの北野信太郎は、2026年のDC法改正を受け、企業年金でどのような制度設計が可能になるのか、従業員エンゲージメントの観点も踏まえた有効性について話を展開しました。冒頭で北野は大手メーカーがこの春に発表した、新入社員を対象に退職一時金を廃止し、その分を基本給に上乗せするというニュースに言及。大企業では極めて異例といえるこの措置は、すなわち「報酬の構成要素の再構築である」として、以下のように述べました。

「報酬の構成要素は、基本給(約60%)+賞与(約25%)+手当・福利厚生費(約15%)というのが一つの典型ですが、退職金を基本給にシフトするというのは要するに、手当・福利厚生費や、季節ボーナスなどの固定賞与を基本給に含め、総額を変えずに基本給(約85%)+変動賞与(約15%)に集約する動きの表れと考えられます。つまり、渡せるものは金銭報酬として渡してしまい、老後の備えなどは従業員自身に任せるという、先ほどの立本の話にあった『自律性』への流れといえるでしょう」(北野)

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EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ピープル・コンサルティング アソシエートパートナー 北野 信太郎

企業が福利厚生制度を持つ意義とは

では、企業において福利厚生制度は不要となるのでしょうか。北野は「企業が金銭報酬ではなく、あえて福利厚生制度を提供するのには意味=メッセージがある」として、次の3点を挙げています。

  1. 個人での購買よりも企業を通じて購買するメリット
    例)団体長期障害所得補償保険(GLTD)の保険料が割安になるなど
  2. 強制力を伴う人事施策による不利益に対する補償
    例)身分保障とセットで強制される転勤や異動に伴う手当・補助金など
  3. 特定の行動を促す効果
    例)健康維持のためのスポーツジム会員資格/成績インセンティブとしての表彰など

「自律」への流れに潜むリスクと退職給付制度の役割

北野はその上で、「組織の健全な新陳代謝を担保する仕組み」こそが、これからの年金を含む退職給付制度の意義であると指摘。その背景として、①労働人口減少や社会保障を求める圧力などにより、2030年代前半には「70歳までの雇用確保」が義務化される可能性があり、その中で、②「定年→リタイア」の時代から「フレキシブル・リタイアメント」の時代へとシフトする、と言います。高齢者雇用が進むのと同時に、ジョブ型志向の雇用モデルが定着し、退職時期を含めてキャリア設計・人生設計を従業員自らが決める時代となったとき、もし退職給付制度がなかったら、どうなるでしょうか。

「従業員の自主性だけに依存してしまったら、資金の備えが足りずにリタイアできない『ぶら下がり』状態が必ず発生します。そうならないよう強制的な貯蓄により、健全な新陳代謝を図るという役割を、退職給付制度が果たします」(北野)

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米国型「マッチング拠出」に学ぶDC活用のあり方

現に、米国の企業には定年がなく、いつリタイアするかは従業員の裁量で決める文化が根づいているにもかかわらず、老後の備えを完全に従業員任せにする企業は圧倒的に少ないと言います。

北野によれば、米国版の企業型DCである「401k」は、従業員が任意で自分の給与から掛金を切り出して運用する仕組みであるため、日本でいえばiDeCoのみで運用するのとほぼ同じ状況といえます。つまり、企業があえて掛金を出す必要はありません。それにもかかわらず、実際には従業員の拠出に応じて事業主も拠出するマッチング型を実施するケースが大勢となっています。従業員の拠出の有無とは関係なく拠出する、ノン・エレクティブ型を実施する企業もあります。

「米国系の大手DC運営会社による2025年の調査では、実に顧客企業の96%が何らかの年金掛金を拠出していることが明らかになりました。ほとんどのケースで、従業員の老後に向けた貯蓄を奨励するためにコストを投じているのが実態なのです。その大きな目的が、組織の新陳代謝にあります」(北野)

米国で主流のマッチング拠出には、基本給に対する拠出額の割合に上限を設けた上で、従業員の掛金の50%を事業主が上乗せするタイプや、一定の基準まで100%の上乗せとするものがあり、従業員にとって拠出のメリットが大きい仕組みとなっています。

DCと退職金を共に活かす新しい確定拠出年金スキーム

こうした事例を参考に、日本でも似たような制度設計によってDCを有効活用する方法があると、北野は言います。

「日本の場合、米国とは逆で、会社が出す掛金に対して従業員が上乗せするのがマッチング拠出であり、従業員の拠出に対して会社がマッチする方法はDC法で認められていません。そこで、企業型DCの枠はすべて従業員が任意で使えるよう開放し、会社はこれとは別に、拠出限度額に影響しない退職金制度を活用して、例えば従業員と同じ掛金を退職一時金の原資として積んでいく、という手法が考えられます。このとき、会社の拠出額の上限を現行の退職金等のターゲット給付額に合わせて設定すればコストダウンにつながりますし、退職金は資本効率がよいため財務的にも有効でしょう」(北野)


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この方法を応用し、ターゲット給付額の一部に会社負担による退職一時金を組み込むことで、「強制的な貯蓄」によって従業員の老後を保障し、これをもって組織の新陳代謝に寄与することも可能です。

「従業員が安心して老後を過ごせるようにするには、企業負担による拠出だけでなく、従業員自身によるDC活用が不可欠です。それを最大限に後押しするマッチング拠出の新しい制度設計スキームが、今般のDC法改正で加入者掛金の制限が撤廃されたことにより、実現可能となりました」。北野は最後にそう述べて、講演を締めくくりました。


サマリー 

2026年の法改正により、格段に利便性がよくなったDC。高齢者雇用の安定化促進、従業員の自律性重視の風潮が高まる中で、どのようにDCを活用し、従業員の福利厚生と組織の新陳代謝を確保していくかが問われています。


本セミナーのアーカイブを配信中です。ぜひご覧ください。
DC年金法改正を最大限に活かす制度設計スキーム ~法令対応を超え、従業員満足度と株主資本効率向上を目指すには~
(配信期間:2027年5月21日まで)


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