化粧品・トイレタリー業界 第3回:その他の取引慣行及び会計処理の特徴

新日本有限責任監査法人 消費財セクター
公認会計士 大橋 祐一

1. はじめに

第1回は化粧品・トイレタリー業界の範囲と商流別の論点整理、第2回は化粧品・トイレタリー業界における収益認識に関連する特徴的な取引慣行及び会計処理についてそれぞれ解説してきました。第3回では、化粧品・トイレタリー業界のその他の取引慣行及び会計処理の特徴について、以下の順番で解説します。

第3回:その他の取引慣行及び会計処理の特徴

  • 無形資産(のれん、ブランド等)
  • 店頭陳列棚、金型等、有償支給取引
  • 宣伝物(製造品又は購入品)

なお、文中の意見に関する部分は、私見であることをお断り申し上げます。


2. 無形資産(のれん、ブランド等)

化粧品・トイレタリー業界では、目に見えない無形資産であるブランドの育成がメーカーにとって非常に重要になります。ブランド価値を他の企業による模倣等により棄損しないためにも、企業は製品名、ロゴマーク、パッケージなどを商標登録や意匠登録することで、その権利を保護することが一般的です。企業は、様々な方法でブランドを獲得します。以下では、それぞれのケースごとにその概要及び会計処理について解説します。

(1) 自社で立ち上げ及び育成を行うケース

通常、化粧品やトイレタリー用品に関するブランド価値は、それぞれの企業が企画立案、製品化及びその後の市場での浸透といった一連のプロセスに自ら関わることで育成されていきます。こうして創造されたブランド価値を保護するため、企業は商標登録などを行います。

このケースでは、登録に関する諸経費のうち固定資産に該当するものについて「商標権」等として無形固定資産に計上するとともに、効果の発現する期間にわたって償却を行います。

(取得時)

(償却時)

なお、企業がブランドを創造する過程で生じたその他の様々な支出(人件費等)については、無形固定資産として計上することは認められていません。

(2) 他社が育成したブランドを利用するケース

企業は、他の企業が育成したブランドを用いて事業を展開することもあります。一般的には、ブランドを所有する企業とライセンス契約を締結した上で事業展開するケースと、ブランド自体を取得した上で事業展開するケースに分かれます。

ライセンス契約を通じて他社所有のブランドを利用するケースでは、ブランドを所有する企業に対して売上高などに応じた一定のロイヤリティを支払う必要があります。会計処理としては、個々の契約条件に基づく金額を発生主義により認識し、売上原価に計上します。

(発生時)

しかし、ライセンス契約による事業展開の場合、ブランドを所有する企業から当該契約を解除されるリスクや、更新時にロイヤリティの値上げを求められるリスクなどが存在します。こうしたリスクを回避した上で積極的な事業展開を行うため、企業が他社の所有するブランド自体を取得することもあります。

このケースでは、当該ブランドの取得に要した金額を「商標権」などとして無形固定資産に計上するとともに効果の発現する期間にわたって償却を行います。なお、会計仕訳は2.(1)と同じになります。

(3) 企業買収や事業譲受を通じてブランドを獲得するケース

上記のほか、他社自体や他社の事業を買収することによって企業がブランドを獲得することもあります。買収した企業や事業の時価ベースでの純資産額と買収価額との差額は通常「のれん」として無形固定資産に計上され、効果の発現する期間にわたって償却されます。なお、受け入れた資産に含まれる商標権等のブランド価値が法律上の権利など分離して譲渡可能な場合には、当該金額を控除した上で「のれん」の金額を算定することとなります。ここで、商標権等の無形資産は税効果の対象となりますが、のれんに対する税効果は認識しないこととされています。

また、事業を買収した場合、のれんや商標権等が多額に計上されることがありますが、のれんや商標権等の無形固定資産は、減損会計の適用の対象となるため、留意が必要です。

(取得時)

(償却時)

なお、海外の企業や事業を買収する事例も多いですが、在外子会社が現地企業を買収する場合、親会社の連結財務諸表を日本基準に従って会計処理を行う場合であっても実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」に従って、連結決算手続において、国際財務報告基準(IFRS)又は米国会計基準に準拠して作成された、在外子会社の財務諸表を利用している場合は、次の点を留意する必要があります。

在外子会社等において、のれんを償却していない場合には、連結決算手続上、その計上後20年以内の効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却し、当該金額を当期の費用とするよう修正する必要があります。

ただし、在外子会社におけるのれんや商標権等の無形固定資産の減損の検討については、国際財務報告基準(IFRS)又は米国会計基準に準拠して検討する必要が生じます。なお、在外子会社が国際財務報告基準(IFRS)又は米国会計基準に準拠していない、現地会計基準に準拠している場合、現地会計基準で、固定資産の減損会計基準が整備されていない場合も想定されるため、このような場合は、連結決算手続において、国際財務報告基準(IFRS)又は米国会計基準に準拠した方法で在外子会社におけるのれんや商標権等の無形固定資産を含む、固定資産の減損の検討を実施する必要があります。

また、在外子会社において減損処理が行われたことにより、減損処理後の帳簿価額が規則的な償却を行った場合における金額を下回っている場合には、連結決算手続上、修正は不要ですが、それ以降、減損処理後の帳簿価額に基づき規則的な償却を行い、修正する必要があります。


3. 店頭陳列棚、金型等、有償支給取引

(1) 店頭陳列棚、金型等、有償支給取引に係る取引慣行

化粧品売場では多くの場合、ブランドごとに販売コーナーや陳列棚が設置されます。これらの什器は、製品を陳列するための棚としての役割のみならず、各ブランドのイメージ戦略の一部を担うという重要な役割を持っています。よって、そのデザインから製作に至る工程は、小売業者側ではなく化粧品メーカー側が主導することが一般的です。

なお、店頭陳列棚は新製品の発売や同一店舗内での販売エリアの移動などに合わせて新設・改装がされます。そのため、化粧品メーカーにとっては恒常的に発生する設備投資の一つとなります。

また、化粧品・トイレタリー製品の容器などを成型・加工する際には、金型等を用いることが一般的です。製品ごとに容器のデザインや大きさが異なることから、金型等もそれに合わせて製品ごとに異なるものが用いられます。金型等は製品のライフサイクルに合わせて新しいものが必要となるため、これも店頭陳列棚と同様に化粧品メーカーにとっての恒常的な設備投資の一つです。

化粧品・トイレタリー企業の製造にあたっては、原材料等の支給品を外部の支給先に譲渡し、支給先における加工後、当該支給先から当該支給品を購入することも一般的です。

(2) 店頭陳列棚に係る会計処理

前述のとおり店頭陳列棚は化粧品メーカー主導で製造されますが、その所有権については、化粧品メーカー側がその後も継続して保持するケースもあれば、小売業者側に無償譲渡した上で実際の使用に供するケースもあります。

化粧品メーカー側が所有権を継続して保持するケースでは、通常の有形固定資産の取得に係る会計処理を行います。また、小売業者側に無償譲渡するケースでは、その支出額を会計上は費用項目として処理した上で、税務上は繰延資産として取り扱うなどの実務が考えられます。

一方で、化粧品メーカーが店頭陳列棚をリースにより調達している場合には、2024年9月にASBJ(企業会計基準委員会)より公表されている新リース会計基準である、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」の適用によって、これまではリース料の支払いごとに費用計上する処理だったところが、今後は使用権資産とリース負債の計上が求められるようになる可能性があるため、留意が必要です。

(3) 金型等に係る会計処理

化粧品・トイレタリー企業は、容器の製造を自社で行うこともありますが、外注先に委託するケースも多いと考えられます。よって、金型等が保管される場所は必ずしも化粧品・トイレタリー企業の自社工場内とは限らず、外注先の工場となるケースも多々あります。

また、通常は化粧品・トイレタリー企業側が金型等の費用負担をしますが、所有権については、店頭陳列棚と同様、化粧品・トイレタリー企業側が保持するケースもあれば、金型の入手後に外注先に譲渡するケースもあります。それ以外にも、外注先側で金型を購入し、その費用負担については化粧品・トイレタリー企業への容器の販売価格の一部として回収するケースや、一定期間の分割払いで回収するケースなどもあります。

このように、金型等の取引慣行は多様なケースが考えられます。よって、その会計処理については、実態に即した対応が求められます。

(4) 有償支給取引に係る会計処理

原材料等の支給品を外部の支給先に譲渡し、支給先における加工後、当該支給先から当該支給品を購入する有償支給取引では、企業が支給品を買い戻す義務を有しているか否かによって、会計処理が異なります。企業が支給品を買い戻す義務を負っていない場合、企業は譲渡時に当該支給品の消滅を認識することになりますが、当該支給品の譲渡に係る収益は認識しません。一方、企業が支給品を買い戻す義務を負っている場合、企業は当該支給品の消滅を認識せず、支給品の譲渡に係る収益も認識しないことになりますが、個別財務諸表においては、支給品の譲渡時に当該支給品の消滅を認識することができます(収益認識適用指針第104項)。


4. 宣伝物(製造品又は購入品)

(1) 宣伝物に係る取引慣行

化粧品・トイレタリー業界では、新製品の発売の際に製品のサンプル品を配布することがあります。これは、サンプル品を広く消費者に配布し、実際に利用してもらうことで、新製品発売の際の売上増加に結び付けることを目的としています。また、口紅やファンデーションなど、消費者が実際の色合いを手にとって確かめることが多い製品の場合、販売用の製品の一部がサンプルとして店頭に陳列されることもあります。本稿では、これを宣伝物(製造品)とします。

一方、定期的にキャンペーン期間を設け、自社製品にポーチ、ポスター、食器といった、いわゆる「おまけ」をつけて販売することがあります。これは主に既存製品の販売促進を目的としているものです。また、販売促進活動の一環として、企業は自社製品のカタログを消費者に配布することもあります。こういった宣伝物は、メーカーが自社で製造するのではなく、外部から購入したものを利用することが一般的です。本稿では、これらを宣伝物(購入品)とします。

(2) 宣伝物に係る会計処理

① 宣伝物(製造品)

サンプル品は、販売用の製品と同じ製造ラインを通じて製造されます。よって、サンプル品が完成するまでは通常の製品と同じ原価計算の枠内で取り扱われ、完成してサンプル品として区分された段階で販売用の製品と異なる取り扱いがされます。簡単なイメージとしては、以下の図のとおりです。

②宣伝物(製造品)

② 宣伝物(購入品)

一方、宣伝物(購入品)の会計処理としては、購入時に売上原価や広告宣伝費などの費用項目として計上しておき、期末時点で未使用状態のものについては貯蔵品などの棚卸資産に振り替えるといった事例が多いようです。費用計上区分については、当該宣伝物(購入品)の付与が販売に応じてなされる場合は売上原価、販売とは無関係に付与する場合は広告宣伝費等の販売費及び一般管理費として計上します。

(購入時)

(期末時点)


5. まとめ

本稿では、3回にわたって化粧品・トイレタリー業界の特徴的な論点について連載してきました。なお、取り上げた論点の中には国際財務報告基準(IFRS)導入による影響を大きく受ける項目もあり、IFRS導入を検討する場合は、潜在的な差異の有無などを含めて導入の際の対応を検討する必要があります。




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