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EY新日本有限責任監査法人 消費財セクター
公認会計士 吉田 圭佑
食品・飲料メーカーでは工場、倉庫、営業所など、多くの施設を使用してビジネスを行っているのが特徴です。これらの施設は自社で所有しているケースもありますが、サプライヤーから賃借しているケースも多くあります。現行のリース基準では施設の賃貸借取引はオペレーティング・リース取引と判定され、借手の会計処理はリース料発生時に費用処理していますが、新しく公表された「リースに関する会計基準」ではオペレーティング・リース処理はなくなり、基本的には資産と負債が増加することになり、多くの食品・飲料メーカーに影響のある基準改正となっています。
我が国においては、2007年3月に「リース取引に関する会計基準」(企業会計基準第13号)及び「リース取引に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針16号)が公表されています。しかしながら、2016年1月に国際会計基準審議会より国際財務報告基準(IFRS)第16号「リース」(以下「IFRS第16号」という。)が公表され、同年2月に米国財務会計基準審議会(FASB)より、FASB Accounting Standards Codification(FASB による会計基準のコード化体系)の Topic 842「リース」(以下「Topic 842」という。)が公表されました。IFRS 第16号及びTopic 842では、借手の会計処理に関して、原資産の引渡しによりリースの借手に支配が移転した使用権部分に係る資産(使用権資産)と当該移転に伴う負債(リース負債)を計上する使用権モデルにより、オペレーティング・リースも含むすべてのリースについて資産及び負債を計上することとされています。
そのため、IFRS・米国会計基準との整合性、企業実務への影響、日本特有の事情及び財務諸表利用者のニーズを鑑み、2024年9月13日に「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)(以下「新リース会計基準」という。)及び「リースに関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第33号)(以下「新リース適用指針」という。また、以下、新リース会計基準及び新リース適用指針を合わせて「新リース会計基準等」という。)が公表されました。同基準及び同適用指針は2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から原則適用されますが、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用することも可能となります。
新リース会計基準はIFRS第16号の全ての定めを取り入れるのではなく、主要な定めの内容のみ取り入れることで、簡素で利便性が高く、かつ国際的に比較可能性を損なわせないことを意図しています。現行基準からの主な変更点は以下となります。
(1) 少額リースと短期リースの簡便的な取扱いが適用されるリースを除き、借手は単一のオンバランス会計モデルが適用されます。そのため、従来の借手のオペレーティング・リース処理(賃貸借処理)はなくなります。
(2) 貸手の会計処理はリース料受取時に売上高と売上原価を計上する方法(いわゆる第2法)が廃止される点などを除き、大幅な変更はありません。
(3) 現行基準の注記と比較すると、借手、貸手ともに開示量が増加します。
新リース会計基準では一部の例外があるものの、基本的にすべてのリースに適用されます。そのため、新リース会計基準ではリースの定義を定めており、リースについて「原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分」と定義されています。
契約がリースの定義に該当するかについて、「資産が特定されているか」と「使用を支配する権利が移転しているか」の2要件がポイントとなり、契約で特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合、当該契約はリースを含むことになります。なお、多くの食品・飲料メーカーは契約の借手になると想定されるため、これ以降は借手の会計処理について解説します。
資産は通常は契約に明記されることにより特定されます。ただし、資産が契約に明記されている場合でもサプライヤーが使用期間全体を通じて当該資産を他の資産に取り替える実質上の能力を有しており、かつ取り替えることによりサプライヤーが経済的利益を享受する場合には資産が特定されているとはいえません。また、借手が使用することができる資産が物理的に別個のものではなく、資産の稼働能力の一部(ほとんどすべてである場合を除く)である場合には、当該資産の稼働能力部分は特定された資産に該当しません。
特定された資産の使用期間全体を通じて次のいずれの条件も満たす場合にサプライヤーから借手に、当該資産の使用を支配する権利が移転していることなります。
① 借手が、特定された資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有している。
② 借手が、特定された資産の使用を指図する権利を有している。
食品・飲料メーカーの製造・物流施設を新規に稼働させるには大きな投資が必要となるため、これらの施設は長期に渡って使用する傾向にあります。また、リース期間は借手が貸借対照表に計上する資産及び負債の金額に直接的に影響を与えるものです。そのため、新リース会計基準では、借手のリース期間については、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、次の(1)及び(2)の両方の期間を加えて決定することになると定めています。
(1) 借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間
(2) 借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間
借手は、借手が延長オプションを行使すること又は解約オプションを行使しないことが合理的に確実であるかどうかを判定するにあたって、経済的インセンティブを生じさせる要因を考慮することになり、これには例えば、次の要因が含まれます。なお、「合理的に確実」とは、蓋然性が相当程度高いことを示しています。
① 延長オプション又は解約オプションの対象期間に係る契約条件(リース料、違約金、残価保証、購入オプションなど)
② 大幅な賃借設備の改良の有無
③ リースの解約に関連して生じるコスト
④ 企業の事業内容に照らした原資産の重要性
⑤ 延長オプション又は解約オプションの行使条件
ここで⑤の「延長オプション又は解約オプションの行使条件」については、それぞれのオプションを考慮するか否かでリース期間が大きく変わり得るため、それぞれのオプションを考慮するか否かについては判断が必要であり、企業ごとの状況を踏まえて慎重な検討が求められています。また、特定の種類の資産を通常使用してきた過去の慣行及び経済的理由がオプションの行使可能性を評価する上で有用な情報を提供する可能性があります。ただし、一概に過去の慣行に重きを置いてオプションの行使可能性を判断することを要求するものではなく、将来の見積りに焦点を当てる必要があります。
新リース会計基準では、リース開始日に算定されたリース負債にリース開始日までに支払った借手のリース料、付随費用及び資産除去債務に対応する除去費用を加算し、受け取ったリース・インセンティブを控除した額により使用権資産を計上することとされています。また、リース負債の計上額を算定するにあたっては、原則として、リース開始日において未払である借手のリース料からこれに含まれている利息相当額の合理的な見積額を控除し、現在価値により算定することとされています。ここで、借手のリース料は、借手が借手のリース期間中に原資産を使用する権利に関して行う貸手に対する支払いであり、次の①から⑤のもので構成されるとされています。
① 借手の固定リース料
② 指数又はレートに応じて決まる借手の変動リース料
③ 残価保証に係る借手による支払見込額
④ 借手が行使することが合理的に確実である購入オプションの行使価額
⑤ リースの解約に対する違約金の借手による支払額(借手のリース期間に借手による解約オプションの行使を反映している場合)
原則的な利息相当額の配分方法は利息相当額の総額を借手のリース期間中の各期に利息法により配分する方法とされていますが、使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合は、次のいずれかの簡便的な方法を適用することが可能であり、現行基準と同様の取り扱いとすることとされています。
① 借手のリース料から利息相当額の合理的な見積額を控除しない方法。この場合、使用権資産及びリース負債は、借手のリース料をもって計上し、支払利息は計上せず、減価償却費のみ計上する
② 利息相当額の総額を借手のリース期間中の各期に定額法により配分する方法
使用権資産の償却について、基本的に現行基準のリース資産の償却と同様の会計処理を行うこととされています。
リース会計基準等では、現行基準の定めと同様に、借手は、短期リース(リース開始日において、借手のリース期間が12か月以内であり、購入オプションを含まないリースをいう。)について、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することができるとされています。
新リース会計基準等では、次の①と②のいずれかを満たす場合について、借手は、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することができるとされています。
① 重要性が乏しい減価償却資産について、購入時に費用処理する方法が採用されている場合で、借手のリース料が当該基準額以下のリース
② 次のいずれかを満たすリース
使用権資産について、次のいずれかの方法により、貸借対照表において表示することとされています。
① 対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表において表示するであろう科目に含める方法
② 対応する原資産の表示区分(有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産等) において使用権資産として区分する方法
リース負債について、貸借対照表において区分して表示する又はリース負債が含まれる科目及び金額を注記するとされています。
リース負債に係る利息費用について、損益計算書において区分して表示する又はリース負債に係る利息費用が含まれる科目及び金額を注記するとされています。
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