EU、炭素国境調整メカニズム(CBAM)オムニバス簡素化パッケージを採択


  • 2025年10月8日、欧州議会と欧州理事会は炭素国境調整メカニズム(CBAM)オムニバス簡素化パッケージ法案を正式に採択した。新規則は2025年10月20日に発効し、2026年1月1日以降のCBAM本格適用期間に先立ちCBAMを対象とする簡素化措置を規定している。
  • 企業は新規則の下でのCBAMによる影響を評価する必要があり、特に輸入量が基準を超える場合は認可CBAM申告者登録要件に留意し、2026年1月1日以降に生じるCBAMコストの経済的な影響に備える必要がある。
  • 企業はEU域外のサプライヤーと連携の上、CBAM対象製品における体化排出量の正確な文書化を実施し、CBAM証書関連コストへの経済的および組織体制的な備えを確立すべきである。同時に、CBAMのコンプライアンスプロセスを既存の関税・付加価値税(VAT)の領域と調和させる必要がある。


エグゼクティブサマリー

炭素国境調整メカニズム(CBAM)オムニバス簡素化パッケージ(EU規則2025/2083)は、EU規則2023/956を改正し、炭素集約型製品の輸入者に対するコンプライアンスの合理化と管理負担を軽減しようとするものです。同規則は欧州連合(EU)によって2025年10月8日に採択され、同年10月17日のEU官報への掲載を経て、10月20日に発効しました。

規則の変更点には、CBAM対象製品の輸入重量に基づくCBAM適用除外基準、CBAMに関して金銭的なコストを発生させるCBAM証書の購入・償却義務の延期、そして体化排出量報告の簡素化が含まれます。これらの調整は、移行期間中に企業から提起された懸念に対応しつつ、CBAMの環境的公正性を維持することを目的としています。CBAM対象製品を輸入する企業は、新規則の下での影響を評価し、本格適用期間に向けた準備を進める必要があります。


背景

CBAMはEUの気候政策の中核であり、EU加盟国における国内製品とEU域外からの輸入品の間での炭素コスト均等化を図ることを目的としています。2023年10月のCBAM移行期間開始後、EU委員会はステークホルダーからのフィードバックに応じて枠組みを改善してきました。オムニバスパッケージは、2026年1月1日からのCBAM本格適用期間における規則の執行を容易にすることを意図し、対象を限定した改正となります(詳細については、2025年3月3日付EY Global Tax Alert「European Commission releases Omnibus Package I proposal to simplify EU Carbon Border Adjustment Mechanism regulation」および 2025年3月24日付EY Japan税務ニュース「欧州委員会、EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)規則を簡素化するためのオムニバスパッケージ法案を発表」をご覧ください)。


オムニバスパッケージによる主な変更点

1. 新たな重量ベースでのCBAM適用除外基準の導入(年間50トン)

主な変更として、鉄鋼、アルミニウム、肥料・化学品カテゴリーの製品輸入につき、輸入者あたり年間50トンの基準が導入されました。CBAM対象製品の輸入総量がこの基準を下回る輸入者は、CBAM上の義務を免れます。これは、従来の1貨物につき150ユーロという価格ベースのCBAM適用除外基準に代わるものです。新しい基準は、小規模輸入者のコンプライアンス負担を軽減しつつ、制度による環境への影響範囲を損なわないように設計されています。


2. 価格ベースでのCBAM適用除外基準の撤廃(1貨物あたり150ユーロ)

輸入1貨物あたり150ユーロとの適用除外基準の廃止により、法的枠組みが簡素化され、CBAM義務の免除基準が商業的価値をベースとした判定ではなく環境への影響により一層考慮をおく重量ベースに変わります。また、この変更により、CBAM上の義務免除を受けるために全ての請求書金額をモニタリングするといった事務上の負担がなくなり、物理的な重量の確認のみに焦点を移すことが可能になります。


3. CBAM証書購入・償却義務の2027年への延期

CBAM本格適用期間は2026年1月1日に開始されますが、CBAM証書の購入および償却が必要となるのは2027年2月からとなっており、ここで2026年輸入分の体化排出量が対象となります。この延期により、企業は新規則での要件にシステムやプロセスを適応させるための猶予を得ることが可能となりました。ただし、CBAM証書の購入によるキャッシュアウトが2027年2月以降に発生するとしても、2026年においてもCBAMによるビジネス上および会計上のコストを検討しておく必要があります。


4. 新たな年次申告期限の設定:9月30日

年次CBAM申告書の提出期限は、2026年の報告年度より翌年9月30日と設定されました。これは、以前予想されていた7月31日の期限に代わるものとなっており、企業は排出量データを収集・検証するためにより多くの時間を確保することができます。例えば、2026年のCBAM申告は2027年9月30日が提出期限となります。


5. CBAM対象製品の輸入者に係る認可の義務化

2026年以降、50トンの閾値を超えるCBAM対象品を輸入できるのは、認可CBAM申告者の地位を得た者のみとなります。2025年末までの移行期間が満了し、本格適用期間が開始された後には初回輸入時から認可CBAM申告者としての資格が必要となります。ただし、2026年3月31日までに認可申請が提出されているものの、同時に管轄当局がその申請についてまだ裁定を下していない場合、輸入者に50トンの制限を超えて輸入を継続することを認める簡素化措置が設けられています。ただし、電力・水素の輸入および通関代理人による輸入については、当該簡素化措置の対象となるか現時点においては不明となっているため、引き続きCBAM当局からのアナウンスを注視する必要があります(2025年3月20日付EY Global Tax Alert「European Commission sets conditions and procedures for authorized CBAM declarants」〈英語のみ〉をご参照ください)。


6. EU域外の輸入者を対象としたCBAM代理人の導入

EU域外に設立され、EU域内にCBAM対象製品を輸入しようとする者は、CBAMの義務履行のために代理人を指名できるようになりました。これは、関税法およびVAT法の仕組みに類似しており、EU域外の企業が関与するグローバルサプライチェーンのコンプライアンスを容易にすることを目的としています。


7. 複雑な製品における体化排出量算定のための簡便法

オムニバスパッケージでは、複数部品や中間投入材料から成る製品の体化排出量を算定するための簡便法も導入されます。これらの方法は、特に川上製品の排出量データ取得が困難な場合において、複雑な製品を扱う輸入者にとっての管理負担軽減を目的としています。


8. 第三国で支払われた炭素価格の認識

認定された独立機関がCBAM対象品の製造施設において生じた実際の体化排出量とともに、原産国で支払われた炭素価格を検証した場合、輸入者は購入・償却すべきCBAM証書の数量を減ずることでその価格を控除できるようになります。この規則においては、文書化、検証、透明性要件を含む認識の具体的な条件を定めており、二重のカーボンプライシングを回避し、国際貿易における公平性を促進することを目的としています。


9. デフォルト値使用の明確化および拡大

体化排出量報告におけるデフォルト値の使用が明確化・拡大されました。デフォルト値は、特に小規模な輸入者や、認定された独立機関によって検証された実際の体化排出量データが利用できない輸入者を対象として、より広く使用できるようになりました。この変更により、コンプライアンスコストの削減とCBAMコストに係る予測可能性の向上が期待されています。


10. EU排出量取引制度(ETS)ベンチマークとの連動

体化排出量の算定および無償割当の調整方法は、現在、EU ETSとより密接に連動しています。このような連携により、カーボンプライシング手段全体の一貫性が確保され、既存のコンプライアンスフレームワークへのCBAM統合が簡素化されるものとされています。


企業における戦略的検討事項

CBAMオムニバスパッケージはCBAMの目的を見据えた有意義な簡素化措置であるといえますが、同時に新しいコンプライアンス上の課題を提起します。企業は以下の事項を検討する必要があります。


適用除外基準に係る確認

EU域内へのCBAM対象製品の年間輸入量が50トン基準を超えている、または今後超える可能性があるかについて2026年のCBAM本格適用期間以前に分析を行う必要があります。なお、閾値の超過が想定される場合には認可CBAM申告者としての登録を検討する必要があります。


サプライチェーンプランニング/サプライヤーとの協力

デフォルト値を使用した体化排出量算定およびCBAM証書購入よりも、実際の体化排出量を使用することが経済的に有利な選択肢であると見込まれる場合、あらかじめEU域外のサプライヤーと協力して、実際の体化排出量の算定、文書化および検証可能性を確認することが重要です。なお、このような一連のプロセスは、関連するCBAM対象の原料物質を含むサプライチェーン全体で実施する必要があることに留意しなくてはなりません。


ビジネス上の検討事項

CBAM対象輸入品に対するCBAMコストは、2026年1月1日から生じることとなりますが、このコストにはビジネス的な観点からの検討が必要です。それには想定されるコストの透明性および複数当事者間取引における役割設定およびコスト負担の合意が求められ、契約条件に明確に反映される必要があります。


財務上の備え

CBAM証書の償却義務の適用開始時期は延期されますが、企業は2027年に償却しなければならないCBAM証書の購入コストに対し、2026年中に財務上の備えを確立する必要があります。また、2027年以降は、繰り延べられたCBAMコストを会計上で考慮する必要があります。


第三国におけるカーボンプライシング

EU域外で支払われた炭素価格をCBAMにおける控除対象として認識できるかどうかを評価することが肝要となります。また、バリューチェーン内のサプライヤーと協力し、実際の体化排出量および支払われた炭素価格につき、その検証時に提出が可能となる裏付け文書をあらかじめ整備する必要があります。


プロセスの統合

CBAMコンプライアンスを、既存の関税、VATおよびサステナビリティの報告システムと連携させ、プロセスの最適化を図ることが望ましいと考えられます。


組織としてのCBAM実装

CBAMに対応するためには、対応する組織やその構造の整備、コンプライアンス義務履行に係る社内プロセスの確定、内部統制、関与する人員への教育、サプライヤーを含む外部との協力といった各要素の整備が不可欠となります。CBAMの本格適用開始に先んじて、CBAM対応に係る詳細な計画を策定が必要になると考えられます。これを怠ると、予期せぬコストの増加やコンプライアンス違反が発生し、ビジネス的または執行当局による制裁を招く可能性があります。


今後のステップと展望

欧州委員会は2025年末から2026年初頭にかけて、CBAM規則を運用するためにより詳細な追加実施規則を公表する見込みです。これらの規則では、体化排出量の算定方法および検証要件、さまざまな関係当局間の協力、CBAMコスト計算の詳細(ベンチマーク値やデフォルト値など)について、さらなる詳細が示されると期待されています。企業はこれらの動向を注視し、新規則の公表後に即時の対応が求められる場合も想定してあらかじめ備えを万全とすることが肝要です。なお、EU委員会による追加のパブリックコンサルテーションも予想されています。最後に、かねてよりEU委員会はCBAMの対象をより多くの川下製品群に拡大する計画を公表していましたが、2025年末に向けて同委員会は関連する情報を発表すると見込まれています。


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