EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
南アフリカ共和国が議長国を務めるG20首脳会合が、2025年11月22日から23日にかけてヨハネスブルグで開催され、主要な世界的課題への対応と、包摂的な成長の重要な柱として連帯、平等、持続可能性の推進について協議されました。首脳会合では、国際税務に関するセクションを含むG20首脳宣言が発表されました。
同宣言では、第2の柱のグローバル・ミニマム課税に関する懸念に対応するため、建設的な取り組みを継続することが言及されており、「全ての関係者にとって受け入れ可能な、均衡の取れた実用的な解決策を可能な限りに早期に見出すという共有された目標」を掲げています。これらの取り組みは、全ての国の課税主権を保持しながら、「OECD/G20包摂的枠組み」の加盟国間で緊密に協力して進められます。
同宣言はまた、国連国際租税協力枠組条約(United Nations [UN] Framework Convention on International Tax Cooperation)の策定に向けた交渉が進行中であることにも言及しており、参加するG20加盟国は、既存の成果を基盤とし、不要な重複を避けながら、幅広い合意に達するという目標を再確認しています。さらに、国際税務におけるその他の優先事項にも言及しており、具体的には国際的な人の移動、税制・不平等・経済成長の相互作用、税源浸食と利益移転(BEPS)や透明性への取り組みへの包摂的な参加の支援などが含まれています。最後に、同宣言は国内資金動員(Domestic Resource Mobilisation:DRM)を共通の最重要課題として位置づけています。G20首脳会合に先立ち、OECDは「G20首脳に対するOECD事務総長からの租税報告書」を公表し、G20の国際税務アジェンダに関する活動の最新状況を提供しました。OECDはまた、G20財務大臣・中央銀行総裁向けに作成された「税務の確実性と成長を促進するための簡素化の強化(Enhancing Simplicity to Foster Tax Certainty and Growth)」と題する報告書も公表しました。
G20首脳会合で発表されたG20首脳宣言には、「国際課税システムの安定化と国内資金動員の強化に向けた協力」と題されたセクションがあり、国際税務の複数の優先課題に言及しています。
同宣言はまた、第2の柱のグローバル・ミニマム課税に関する懸念に対応するため、建設的な取り組みの継続についても言及しています。
72.我々は、全ての関係者にとって受け入れ可能な、均衡の取れた実用的な解決策を可能な限り早期に見出すという共有された目標をもって、「第2の柱」のグローバル・ミニマム課税に関する懸念に対処するため、建設的な取り組みを継続する。解決策の実現は、実質ベースの税制上の優遇措置の公平な取扱いに関する議論を含む、公平な競争条件の観点から特定されうる重大なリスク、および、BEPSのリスクが対処されることを確保することへのコミットメントを含む必要があり、経済のデジタル化に伴う課税上の課題に関する建設的な対話を含む、国際課税システムを安定させるための更なる進展を促す。これらの取組を、全ての国の課税主権を保持しつつ、OECD/G20包摂的枠組み(IF)の加盟国間の緊密な協力により、推進する。
G20首脳宣言では、国連国際租税協力枠組条約の策定に向けた交渉が進行中であること踏まえ、参加するG20加盟国が、既存の成果を基盤とし、不要な重複を避けながら、幅広い合意に達するという目標を再確認していることが示されています。また、国際租税協力に関するG20リオデジャネイロ閣僚宣言を想起し、国際的な人の移動を考察し、税制、不平等、経済成長の相互作用を理解するために包摂的枠組みが採用している、段階的かつ証拠に基づくアプローチを高く評価しています。(2024年8月2日付EY Global Tax Alert「G20 Finance Ministers affirm commitment to BEPS 2.0 and enhanced global tax cooperation」〈英語のみ〉を参照)。
G20首脳宣言は、OECD/G20 BEPSプロジェクトおよび透明性への取り組みに関する最新報告を好意的に受け止めており、協力によって大きな進展がもたらされたとの見解を示しています。同宣言は、「こうした進展を基盤とし、途上国が完全に参加し恩恵を受けられるようにするためには、包摂的な参加を支援し、ニーズに応じた徴税能力の強化を図ることが必要である」と強調しています。また、OECDの新たな枠組みにより透明性を拡大する機会があることも指摘しています。この枠組みは「関心を持つ国・地域が、不動産に関する国際的な税の透明性を自主的に強化できるようにする」ものです。
G20首脳宣言は、国内資金動員を共通の最重要課題として位置づけています。同宣言は以下の点を強調しています。
(1)南アフリカが議長を務めた期間にまとめられた報告書等では、国内資金動員が最も効果的な資金源であることが示されている。
(2)歳入管理は税制の重要な柱である。
(3)能力構築を担う組織・機関の間の調整と協力が重要である。
(4)納税者との社会契約を果たす、各国が主導し所有する構造化された改革アプローチが重要である。
最後に、同宣言は、税に関する協働プラットフォームが主催し、2026年に東京で開催される「国内資金動員に関する税と開発カンファレンス」に期待を寄せています。
「G20首脳に対するOECD事務総長からの租税報告書」は、主要な税務の進展の最新情報を提供しており、その内容は2025年10月に開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議で公表された報告書と同様なものとなっています(2025年10月21日付EY Global Tax Alert「G20 Chair's Summary cites Pillar Two engagement」〈英語のみ〉を参照)。
本報告書は、国際税務に関する進行中の取り組みの最新情報を提供しています。具体的には、OECDによるG20イニシアチブへの支援、第2の柱のグローバル・ミニマム課税の進捗状況、BEPSミニマムスタンダードに関する継続的な作業、税制・不平等・経済成長および国際的な人の移動に関する新たな取り組み、税の透明性に関する進展、税と開発に関する取り組みなどが含まれています。
2025年11月18日、OECDはG20議長国である南アフリカの要請により、G20財務大臣・中央銀行総裁向けに作成された、「税務の確実性と成長を促進するための簡素化の強化」と題する報告書を公表しました。本報告書は、国際税務の複雑性を生み出す体系的な要因を分析し、多国間協力による簡素化の機会を特定しています。各国が課税主権に基づき定めている税制が数多くあり、それらが相互に絡み合うことで複雑性が生じています。本報告書は、主に大規模な法人納税者に影響を与える、国境を越えた事業所得課税ルールの設計改善に焦点を当てています。
本報告書では、税規則の簡素化における5つの特徴について論じています。
本報告書はまた、複雑性を生み出す主な要因として次の3つを挙げています。
本報告書は、規則の簡潔性だけでは、簡素化が決められないことを強調しています。さらに、設計上の選択においては、実施上の負担と監査上の負担の両方を考慮すべきであると指摘しています。
続いて、税制の複雑性における多国間協力の役割について検証しています。本報告書は、多国間プロセス自体が独自の複雑性を生み出す可能性があることを認めつつ、多国間協力が、最終的には国境を越えた所得課税における複雑性を軽減することができることを強調しています。協調的なアプローチにより、分断化が軽減し、公平な競争環境が整えられ、より効率的な制度運営が可能になり、税務当局間で経験や事務負担を共有できるようになります。
本報告書は、国境を越えた事業課税における多国間協力について、「簡素化チェックリスト」を提案しています。このチェックリストには、解決策やモデルルール(成果物)を設計するための5つのプロセス行動と、5つの実質的な解決策およびモデルルール(成果物)が含まれています。5つのプロセス行動とは以下の通りです。
(1)影響評価と問題診断
(2)早期かつ継続的な協議
(3)モデルルールの開発と起草
(4)既存ルールとの整合性のレビュー
(5)現実的なタイムラインと段階的アプローチの検討
5つの実質的な解決策とは以下の通りです。
(1)簡素化とその他の政策目標とのトレードオフの透明性のある明示
(2)簡素化を明示的な政策目標として組み込む
(3)意図的なルール設計の選択
(4)納税者のコンプライアンス実態の考慮
(5)税務当局の運営能力の支援
本報告書は、今後の対応策に関するいくつかの提案をもって締めくくられます。具体的には、(1)簡素化チェックリストの試験運用、(2)簡素化に重点を置いた能力構築の強化、(3)モデルルール開発に簡素化レビューを導入、(4)新しいルールと既存のBEPS措置との整合性を整理し、全体を合理化するためのレビューの実施、(5)制度の公平性に的を絞った改善を支援するための、さらなる分析の実施、(6)移転価格などの分野における簡素化の検討、(7)プログラミング(デジタル化)が可能なルール設計に関する作業の推進、などが挙げられています。
次の段階として、本報告書が提供する分析やアイデアを、より幅広いステークホルダー(利害関係国・地域、国際的および国内の税務機関、企業、学術関係者など)との協議を通じて検証し、改善させることを提案しています。こうした協議の結果は、本報告書とともに、包摂的枠組みやOECDの税務長官会議などの場において議論され、加盟国が個別に、共同で、あるいは他の組織やステークホルダーと協力して推進したいと考える作業分野を特定する一助となる可能性があります。
G20首脳宣言は、第2の柱に関する懸念事項に対処し、全ての関係者にとって受け入れ可能な、均衡の取れた実用的な解決策を見出すため、G20首脳が建設的な取り組みを継続していることを強調しています。同宣言にはまた、経済のデジタル化に伴う税務上の課題に関する対話を含め、国際課税システムを安定させるための取り組みを支持するG20の姿勢も反映されています。さらに、国連国際租税協力枠組条約の交渉が進行中であること、そして不要な重複を避けながら、幅広い合意形成を図るという目標について言及しています。
企業は、OECD、国連、その他の国際・地域フォーラムにおける国際税務に関する議論を継続的に注視することが重要です。また、自社の事業に関連する国・地域での税制提案や立法の動向について、常に最新情報を把握しておく必要があります。今後、国際税務の議論が新たな領域へと拡大していく中で、企業は政策立案者と意見交換する機会や、こうした国際税務の議論に参加する機会を検討することが望まれます。
EY税理士法人
戸崎 隆太 パートナー
※所属・役職は記事公開当時のものです
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