EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
今年もシンガポール個人所得税の申告期日が近づいてまいりました。シンガポール法人の人事ご担当者様におかれましては、最新の申告要件をご確認いただき、賦課年度2026(YA2026)従業員給与所得申告書(Form IR8A)の提出期限2026年3月1日に向けて、必要情報を早期に取りまとめていただくことが重要となります。
また、この機会に税務上の取扱いが明確でなかった項目について改めて見直し、従業員の各報酬・福利厚生項目を包括的にレビューすることで、課税対象項目が漏れなく正確に把握され、現行制度と整合した取扱いになっているかを確認することが望まれます。
申告誤りが判明した場合には、過年度の給与所得申告書(Form IR8A または Form IR21)についても内容を再確認し、同様の誤りがないかを検証する必要があります。あわせて、必要に応じてシンガポール内国歳入庁(Inland Revenue Authority of Singapore:IRAS)の自主開示制度(Voluntary Disclosure Programme:VDP)を活用した早期是正を検討することが求められます。
YA2026より、整理解雇手当(Retrenchment Payment)の課税免除に係る事前承認制度が廃止されることとなりました。本改正により、当該手当を非課税として取り扱う際にIRASへの事前申請が不要となるため、申告手続きが簡素化されます。今後、雇用主は当該報酬の課税・非課税の判定をIRASウェブサイトに掲載されているガイダンスに基づき自己判定した上で、給与所得の申告手続き(Form IR8AまたはForm IR21)を行うことが可能となります。
詳細につきましては、2025年10月24日付EY Singapore Tax Alert「Updated employer tax reporting requirements for retrenchment payments」(英語のみ)をご参照ください。
雇用主による CPF への超過拠出または任意拠出は、従業員の給与所得として課税対象となります。従来、雇用主は、超過拠出/任意拠出の詳細や、CPF Board(中央積立基金庁)に請求した還付額を申告するため、専用の申告書であるForm IR8Sを作成する必要がありました。
YA2026より、上記の申告書Form IR8Sは廃止され、雇用主は還付済みまたは還付予定額を控除したCPF超過拠出額/任意拠出額を、従業員給与所得の申告書Form IR8Aの「d)6.」項目に記載する必要があります。
さらに、従業員のCPF超過拠出の還付により生じた利息は、還付を受けた年に課税対象となります。例えば、利息の還付が2026年に行われた場合、当該利息はYA2027において課税対象となります。これら利息の還付額は、Form IR8Aの「d)1. Allowances(手当)」項目にて申告する必要があります。
一般的に、コンプライアンス・ギャップが生じやすく、申告漏れや誤りが発生しやすい要因としては、以下のような点が挙げられます。
第三者ベンダーによる従業員への立替精算(Reimbursement)や、海外(シンガポール国外)の給与計算で処理される報酬・福利厚生などがこれに該当します。これらは、雇用主による従業員給与所得の申告において見落とされがちですが、シンガポールでは課税対象となるため留意が必要です。
新たな賞与制度や株式報酬制度などを導入する場合、雇用主は税務上のポジションを適切に評価し、当該制度から生じ得る従業員への支払い、福利厚生および経済的便益を正確に申告する必要があります。また、社内の給与計算システムや関連プロセスの更新が適切なタイミングで実施されていない場合、申告誤りにつながるおそれがあります。
既存の報酬規程を改定する場合、例えば車両貸与から交通手当への切替えや、健康診断の対象範囲を配偶者や扶養家族へ拡大することは、従来の税務上の取扱いに影響を及ぼす場合があります。雇用主は、規程改定の内容を踏まえて税務上のポジションを見直し、過去の取扱いをそのまま踏襲しないよう留意する必要があります。
クロスボーダーで人材が異動する場合、対象者の給与計算が出向先と出向元に分割されたり、リロケーション・ベネフィットが発生したり、あるいはシンガポール就労期間中に付与され、権利未確定または未行使である株式報酬・ストックオプションが、みなし行使(deemed exercise)の対象となる場合があります。これらのケースでは、シンガポール源泉所得を漏れなく正確に申告するため、詳細なレビューが必要となります。
合併・買収(M&A)や社内再編に伴い従業員の異動・移動が発生した場合、CPFの年間限度拠出額や整理解雇手当の取扱い、さらには株式報酬の権利確定などに影響を及ぼす場合があります。雇用主は、これらの異動・移動によって影響を受ける可能性のある各報酬項目について、課税判定、課税額、および課税事由を確認し、正確な申告手続きを行う必要があります。
海外(シンガポール国外)の公的年金・社会保障制度の雇用主負担分へ対する非課税措置は、YA2025以降は撤廃されています。そのため、2024年1月1日以降の拠出に関し、雇用主負担分は対象制度が強制加入であるか否か、当該費用がシンガポール法人税申告において損金不算入であるか否か等の条件にかかわらず、従業員給与所得として課税対象となります。
従業員および役員を対象とした団体定期生命保険、重篤疾病保険、傷害保険などについては、契約条件や受取人、またはシンガポール法人税申告における当該費用の損金算入可否により、課税対象となる場合があります。また、団体保険制度に関する費用は、加入対象となる従業員の給与計算とは別で処理されることが多く、申告漏れが発生しやすい項目となっています。さらに、法人税申告上の損金算入可否が個人所得税上の課税判定に影響するため、担当者間での情報共有やコミュニケーションが十分でない場合、申告誤りにつながる可能性が高まります。
これらの領域において適切な申告対応が実施されていない場合、申告誤りが発生しやすく、罰則やペナルティーが科されるリスクにつながります。今後の申告にあたり、これらのリスク領域を事前に把握・対応しておくことが重要となります。
近年、シンガポールの雇用主に対しては、IRASからのオンライン形式の調査用紙(Assurance Questionnaires)や、法人所得税申告に基づく個別照会などを通じ、従来よりも厳格な税務調査が実施される傾向にあります。
税務コンプライアンスを適切に維持し、税務調査への備えを強化するため、シンガポールの雇用主には以下の対応が推奨されます。
VDPにおいて過去の申告誤りに関する罰則およびペナルティーの軽減措置を受けるためには、開示内容が正確かつ包括的であり、さらに下記いずれかの条件を満たす適時かつ自発的な開示である必要があります。
または
シンガポール所得税法(Income Tax Act 1947)に基づき、故意による誤り(例:詐欺または脱税行為)がないことを前提とする場合、修正申告が認められる遡及期間は、現行の賦課年度(Year of Assessment:YA)から過去4賦課年度までとなっています。例として、現行の賦課年度がYA2026の場合、対象となる過去4賦課年度はYA2022〜YA2025(課税年度:2021〜2024年)となります。
VDPに基づくペナルティーの軽減措置が適用された場合、過少申告額に対し、遅延年数に応じて各年5%の加算税が科されます。これに対し、本制度を利用せず、税務調査等において故意による誤り(例:詐欺または脱税行為)と判断された場合、罰則は過少納税額の200%〜400%となります。
VDPに基づく是正を行う場合、シンガポール雇用主は、開示対象となる従業員に対し、今後の申告が適切に行われる旨を説明することが重要です。これは、雇用主と従業員間の信頼関係を構築する上でも、重要なプロセスとなります。
ご不明点やご支援が必要な場合は、EYの担当者までお気軽にお問い合わせください。
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