OECD、個人のグローバルモビリティに関するパブリックコンサルテーションを開催

  • 2026年1月20日、OECDは個人のグローバルモビリティに関するパブリックコンサルテーションを開催し、OECD事務局、世界各国の税務当局者、企業代表者などが、グローバルモビリティの拡大と、それが生み出す機会や成長を阻害し得る税務上の課題について見解を述べた。
  • 本コンサルテーションは、OECD/G20包摂的枠組みが、グローバルモビリティに関連する税務上の課題を検討することで合意したことを受けて実施されたものである。
  • 企業は、グローバルモビリティに関する包摂的枠組みの作業の進展における動向を注視するとともに、自社事業に影響を与える実務上の課題についてOECDや関係国と連携することを検討すべきである。


エクゼクティブサマリー

2026年1月20日、OECDは、個人のグローバルモビリティに関連する課題を協議するパブリックコンサルテーションを開催しました。本コンサルテーションは2025年11月26日に発表され、同時に、国境を越えた人の移動から生じる課題の概要を示し、利害関係者からの知見や経験の提供を求めるパブリックコンサルテーション資料が公表されました。OECDには、幅広い論点に関する見解を反映する60件を超えるコメントが寄せられました。

コンサルテーションはハイブリッド形式で実施され、グローバルモビリティにおける経済動向、グローバルモビリティに関連する法人税の問題、税務以外のグローバルモビリティの課題、給与所得の課税、ギグエコノミーおよびデジタルノマドの課税に焦点を当てた5つの協議セッションが行われました。各セッションは、OECD事務局メンバー、各国政府税務当局者、学識者、非政府組織(NGO)代表者、企業代表者からなるパネルが主導しました。

本コンサルテーションは、OECD/G20が個人のグローバルモビリティの課題を検討することで合意したことを受け、多様な視点を持つ利害関係者から意見を収集する機会となりました。各セッションのパネルでは、グローバルモビリティが継続的に拡大している状況を解説し、コンプライアンス要件のさらなる明確化や簡素化が最も必要とされる分野について、実務的な提言が行われました。またグローバルモビリティが個人にもたらす機会を促進するためのガイダンス策定と、それが牽引する経済成長の障壁を低減するアプローチの可能性についても提案されました。

OECD事務局の上級メンバーは、グローバルモビリティに関する今後の作業の重要性と、作業が進展する中で利害関係者との継続的な関与が不可欠であることを強調しました。


詳細

背景

2025年11月19日、OECDによってOECDモデル租税条約(OECD MTC)の2025年改訂版が発表されました。本改訂版では、OECD MTCおよびそのコメンタリーのさまざまな分野において修正が加えられています(詳細は2025年11月25日付EY Global Alert「OECD releases update to Model Tax Convention」および2025年12月8日付EY Japan税務ニュース「OECD、モデル租税条約の改訂を公表」をご参照ください)。

2025年改訂版に含まれる変更点の中には、OECD MTC第5条(恒久的施設)に関するコメンタリーへの大幅な追加があります。これらの変更は、個人が勤務先企業の所在国以外の場所から業務の全部または一部を行う機会があるという現代の労働形態を、確実にコメンタリーに反映することを目的としています。改訂されたコメンタリーでは、分析的枠組みが導入され、他国にある自宅や別荘、短期滞在用の賃貸住宅、友人や親族の自宅など関係先の場所を、企業の事業に関連する活動を行うために使用することが、当該企業の固定的施設として恒久的施設(PE)に該当するかどうかを明確にしています(詳細は2025年12月5日付EY Global Alert「OECD 2025 Update to the OECD Model Tax Convention - key highlights」〈英語のみ〉をご参照ください)。

2025年改訂版は、2026年に公表されるOECD MTCに組み込まれる予定です。


パブリックコンサルテーション

2025年11月26日、OECDは個人のグローバルモビリティに関するパブリックコンサルテーション資料を公表しました。本資料は、人の国境を越えた移動から生じる課題の概要を示し、利害関係者の知見や経験に基づく意見を求めるものでした。主に個人所得税と給与所得に焦点を当てていますが、PEの存在、当該PEへの利益帰属、居住地、移転価格に関する課題などを含む法人税上の課題についての意見も募集していました。

2026年1月14日、OECDは、企業、業界団体、コンサルティング会社、個人からのコメントを含む、60件以上の利害関係者から提出された意見書を公表しました。これにはEYコメントレターも含まれています。

2026年1月20日、OECDは提出された意見書で取り上げられたグローバルモビリティの課題について協議するパブリックコンサルテーションを開催しました。終日行われた協議はハイブリッド形式で実施され、参加者はパリのOECDコンファレンスセンターでの対面参加、またはオンラインのいずれかで参加しました。議題には5つのテーマに関するパネルディスカッションが含まれ、OECD事務局、欧州委員会、複数国の財務省・税務当局関係者、学識者、NGO代表者、および企業や業界団体、コンサルティング会社代表者らがパネリストとして参加しました。


開会の挨拶

開会にあたり、OECD租税政策・税務行政センター局長のマナル・コーウィン氏は、事務局として、租税委員会およびOECD/G20包摂的枠組みの堅実な作業計画を支援できることを喜ばしく思うと述べています。また、デジタル経済、安定性、確実性、および経済成長への取り組みと整合する、グローバルモビリティに関する作業の重要性を強調しました。

同氏は、グローバルモビリティに関する作業は、エビデンスに基づく段階的アプローチを反映し、利害関係者や政府が直面する課題、および経済格差を理解することに重点を置くものであるとしています。そして、利害関係者との連携が極めて重要であり、提出された意見書には、この作業に活用できる経験と専門知識が豊富に存在していることが示されていると述べました。

同センター副局長であるアヒム・プロス氏もまた、税務政策、税務コンプライアンスおよび税務行政、国内法、租税条約など、意見書には幅広い関連分野について豊かで多様な視点が反映されていると述べました。


セッション1:グローバルモビリティ環境における経済動向

プロス氏が進行役を務めた本セッションでは、ナイジェリアとアラブ首長国連邦(UAE)の政府関係者および企業代表者による発表が行われました。グローバルモビリティ環境における経済動向について協議が進められ、調査を通じて収集されたデータおよび発表者が指摘した動向に焦点が当てられました。

プロス氏はまず、協議において検討すべきモバイルワークの類型として以下の4つを示すとともに、意見書の中で、モバイルワーカーの類型にさまざまな異なる特性付けがなされていることを認めています。

(1)国境を越えた短期のリモートワーク(出張、家族訪問や休暇中のリモートワークを含む)

(2)永久的または長期的な国境を越えたリモートワーク(越境通勤者、恒常的なリモートワーカー〈分散型チーム〉を含む)

(3)駐在員

(4)デジタルノマド

また、OECDの研究と同様に、リモートワーク(越境勤務を含む)が労働市場において恒久的かつ拡大する特徴となっていることを示す、さまざまな企業の調査結果を発表しました。

同氏によれば、企業は人口動態の傾向、将来の労働力の供給と需要パターンの変化をより体系的に考慮し、グローバルモビリティをマクロ視点で捉える傾向を強めています。企業は従来入手困難だったスキルを持つ人材プールを、新たな国・地域でも確保する必要があり、この傾向は強力かつ加速していると指摘しました。プロス氏は、グローバルモビリティが幅広い成長ストーリーに大きく貢献しており、最終的には雇用主と経済双方にとって重要な機会を意味すると結論づけました。

ある企業代表者は、2024年の労働力調査データを示し、ハイブリッド勤務やリモート勤務の形態がCOVID-19パンデミック後も依然として維持され、構造的に定着していると述べました。データでは、ハイブリッド勤務がすでに主流の形態となり(58%)、完全な対面勤務は最も少なく、従業員の20%が他の国・地域から勤務した経験を有していると報告されています。地域間では顕著な差異が認められ、西欧ではハイブリッドまたはリモートワーカーの81%が国境を越えた活動を行っているのに対し、アジア太平洋地域(APAC)では64%、北米および中東欧ではさらに低い水準でした。この傾向を主導しているのは若年労働者、人工知能(AI)の常時利用者、そして上級管理職であり、モビリティの比率は中小企業で最も高くなっています。パネリストはさらに、モビリティが高所得層に限定されない点も指摘しました。実際、経済的に余裕のある従業員よりも、経済的に制約のある従業員の方が越境勤務を報告する割合が高くなっています。

プロス氏もこの調査結果に同意し、スタートアップ企業では人材が所在するその場所で直接雇用する傾向が強まっており、柔軟で分散型の働き方に移行する大きな流れに寄与していると述べました。

他の企業パネリストは、約1,000万人が国境を越えて働くドイツ労働市場では、グローバルモビリティが今や決定的な特徴となっていると強調しました。戦略的かつイノベーションを志向する人材を獲得しようと競い合う企業にとって、デジタルインフラによる物理的な所在地の重要性低下によって実現したモビリティは、企業の競争力の中核的要素となっています。パネリストは、生産性の向上、知識交流、イノベーション、労働市場への参加(特に女性)、従業員満足度の向上など、経済と個人の双方にもたらされる利点を取り上げました。しかし一方で、従業員の期待と現行の法的枠組みで認められる内容との間には、乖離が依然として存在すると警告しています。既存の規則は、より伝統的で場所に縛られた環境を前提として設計されたものであり、企業が国境を越えた就労を提案する能力を制限し、人材流出のリスクをもたらしています。パネリストは、これらの枠組みの簡素化と近代化を求め、OECDがこの取り組みを主導するのに相応しい立場にあると指摘しました。

ある企業のコメンテーターは、グローバルモビリティの人口動態的側面を強調し、世界の若年層の約90%が開発途上国に居住しており、インドだけでも2030年までに1億人を超える労働者の増加が予測されていると述べました。さらに、このような急速な労働力増加に直面する経済にとって、グローバルモビリティ市場に対応し参加することができるような支援が必要であると強調し、人口動態に起因するモビリティを優先的な作業ストリームとするよう強く求めました。

ナイジェリア歳入庁財政・税制改正実施局長のオルフェミ・マイケル・オラリンデ氏は、人口動態が他のどの要因よりも将来の課税基盤を再構築しつつあり、租税政策は働く場所ではなく働く人間に目を向ける必要性が高まっていると指摘しました。アフリカは世界で最も若年層の多い地域であり、ナイジェリアはその最大の労働市場です。今後10年間で5,000万人を超える若者が労働市場に参入すると予測されています。同氏は、増加する越境勤務の所得の流れは把握することが難しく、アフリカの税務当局にとって課題が生じていると述べました。一方、リアルタイムでの取引捕捉、中小企業向けの税務申告の簡素化、デジタル起業家を考慮した税制枠組み、税務行政のさらなるデジタル化など、政策対応の可能性を概説し、若い起業家にとって税制は簡素でなければならないと強調しました。

UAEの財務省税務政策局エグゼクティブ・ディレクターであるシャバナ・ベグム氏は、他のパネリストが提示したデータはUAE政府の調査結果と一致していると述べました。同氏は、リモートワークとハイブリッド勤務が、主として外国人労働者を中心とするUAEの労働市場の重要な特徴であると強調しました。この状況を受け、UAE政府はビザ制度の改正や連邦政府職員の勤務方針の調整を行い、国外からの勤務を可能とする措置を講じています。ベグム氏によれば、デジタルサービスやテクノロジー分野の企業が柔軟な勤務形態の導入を牽引しています。また地域レベルでは勤務形態の変化の度合いに差があり、サウジアラビアやカタールでは公務員のリモートワークが実現しつつあり、クウェートやオマーンも政策変更を進めていると述べました。同氏は、UAEは、地域の資本と人材の戦略的ハブとしての自国の役割を踏まえ、こうした変化の最前線にあると説明しました。


セッション2:法人所得税 最新の進捗状況および論点の検討

Business at OECD(OECD経済産業諮問委員会:BIAC)共同議長のクリスチャン・ケーザー氏が進行役を務めた第2セッションでは、法人所得税関連の課題が協議されました。同氏は、モバイルワークの拡大が税務上の不確実性を生み出していると指摘し、人材の調達、バーチャルチームの管理、上級管理職の機能、ビジネスへのAI統合、リスク管理を主要な課題として強調しました。アルゼンチン政府関係者、アフリカ税務行政フォーラム代表者、複数の企業代表者からなるパネルは、特にPEおよび移転価格の課題に焦点を当てました。


PEの課題

アルゼンチン財務省のカルロス・プロット氏は、OECDで租税条約に関する技術的作業を担当する第1作業部会の副議長であり、モバイルワークに関する同作業部会の近況と進行中の作業を紹介しました。これは、従業員の柔軟性への要望と、企業・政府のPEリスクや活動の細分化を伴うマイクロPEリスクが増加していることへの懸念とのバランスを図ることを目的としています。第5条(恒久的施設)に関するコメンタリーの最近の更新では、こうしたさまざまな利害関係が考慮されています。同氏は、OECD MTCそのものの改正に代えて、迅速に新たなガイダンスを策定することで、モバイルワークやリモートワークの増加を踏まえ、既存の租税条約上のPE規定をどのように適用するかを明確にしたと述べました。

ある企業代表者は、作業部会において草案が策定される過程で、今後利害関係者が意見を述べる機会が設けられることを歓迎しました。同氏はOECDに対し、各国・地域が更新後のコメンタリーを自国の条約ネットワークにどのように適用する意向であるかの概要を公表するよう求めましたが、これには他の企業代表者も賛意を示しました。また、従業員が企業の所在国とは異なるタイムゾーンにいる状況が、商業的理由を有する存在とみなされる場合を判断するために、さらなるガイダンスが必要であると指摘しました。BIAC税務委員会の共同議長は、この問題の重要性、特にソフトウェアチームにとっての重要性を強調し、確実性を提供するため一層の明確化が必要であると訴えました。

企業代表者は、現行のガイダンスが、主として自宅オフィスによって生じる固定的施設としてのPEを対象としている点を指摘し、今後の作業では他の一般的な事実関係も取り上げるよう求めました。これには、コワーキングスペースからのリモートワーク、国境を越えて給与が支払われる場合、そして従属代理人PEを生じる可能性を有する、管理従事者の国境を越えた活動が含まれます。また企業代表者は、多国籍企業でますます重要性が増している複雑なシナリオにも言及しました。この点では、企業が管理機能を分散したマトリクス組織として編成されている場合や、組織体制が法的枠組みと厳密には一致しないその他の形態が挙げられます。

企業代表者は、従業員自身による報告以外の追跡手段の可能性を含め、リモートワークに関連するコンプライアンスの簡素化を求めました。具体的な提案として、時間に基づくセーフハーバーの導入や、経済的存在ではないことの証明書の試験的な導入が挙げられましたが、これらは雇用主が従業員の所在を正確に把握できない場合があることを考慮したものです。

他の企業代表者は、税務および社会保障上の影響に関する懸念が雇用や投資判断に大きく影響していることを示す企業調査データを引用し、これらの課題が現実にもたらす影響を説明しました。また、国際商業会議所の調査では、対象となった雇用主の67%がすでに何らかの形で国際的なリモートワークを認める一方、シリコンバレーの税務責任者グループの最近の調査では、回答した雇用主の80%が子会社を有さない国・地域での採用を避け、50%がPEリスクを理由に潜在的な投資機会を見送っており、90%がPEリスクのためにリモートワークに制限を設けていることが明らかとなりました。

他の企業代表者は、利益配分方法を見直す必要性、特に企業と消費者がプラットフォームやクラウドソフトウェアを介して相互作用するデジタル化された事業環境において、OECD承認アプローチ(AOA)の適用を再評価する必要性に言及しました。

企業代表者はまた、二重居住に関連する紛争解決メカニズムを強化することの重要性を強調し、これらの問題に対処するための相互協議手続(MAP)の活用、または各国が二国間で解決できる枠組みの整備を提案しました。


移転価格の課題

アフリカ税務行政フォーラムを代表するアンソニー・ムナンダ氏は、同組織が加盟国の新規則採用を支援し、税務当局と企業の双方に確実性を提供することを目指していると強調しました。また、アフリカでのインターネット普及の進展と若年人口の多さがリモートワークの機会を生み出す一方で、国境を越えた利益配分やPE認定に関する明確な税務規則とガイダンスが必要であると強調しました。同氏は、公正で確実な利益配分を実現するため、移転価格ルールの更新、機能分析の見直し、リモート活動から生じる価値を追跡することを推奨しました。

ある企業代表者は、複雑かつダイナミックな国境を越えた組織構造を有する多国籍企業グループが直面する、一般的な状況について言及しました。それは、実質的に複数国の関連企業にサービスを提供する従業員を抱えるケースです。同氏はOECDに対し、こうした事実関係への対応に取り組むとともに、これらのサービスに対する報酬の算定方法(例:標準的なグループ内コストプラスサービスとして扱うか、あるいはその価値に見合う場合は損益の分配として扱うか)に関して明確化を進めるよう求めました。

そしてBEPS行動計画8-10に沿って、リスク管理の枠組みの出発点は、契約条件に従ってリスクが配分され、実際の行動の評価によって補完されるものであることを改めて強調しました。同氏はまた、モビリティが主導する環境では、異動や分散型チーム、遠隔のリーダーシップによって、経済的に重要なリスクを統制する者が変わり得るため、そのような統制を行う企業には適切な対価が与えられるべきであると強調し、こうした変化がもたらす結果に関して明確なガイダンスを求めました。さらに、限定的または移行期の現地利益・損失への参加に対するセーフハーバーの適用を提案しました。また、無形資産に適用されるDEMPE(開発、強化、維持、保護、利用)の概念に関して、分析の出発点が法的所有権であるにもかかわらず、各国でDEMPEの解釈が異なっている点を強調しました。グローバルモビリティが高まる中、DEMPEがリスク管理の概念とどのように相互作用するかについて、明確なガイダンスの必要性が増しています。

パネリストからは、実際の取引の境界設定に関する主張が、契約条件や行動が示す範囲を超える事例が見られるとの指摘がありました。場合によっては、単にグループ企業の従業員がその国に所在しているという理由だけで、その国に何らかの形で関連付けられるリスクや残余利益の一部を、雇用企業に配分すべきだと税務当局が主張することがあります。こうした主張は、OECD移転価格ガイドライン第1.105項に基づく場合もあれば、リスク管理の枠組みをほぼ完全に無視している場合もあります。同氏は、バーチャルチームやハブの存在を踏まえ、OECDのレビューに当たってはこの問題を慎重に検討することが特に重要であると提案しました。加えて、リスク管理権限の変更によって、退職金やその他の調整が必要になるか否かについての明確化を求めました。

PEへの利益配分に関しては、企業のパネリストは、マイクロPEの乱立を避けるため、デミニミスまたはセーフハーバーの基準値を設定する余地があるかどうか、OECDに検討を促しました。また、サービス会社の従業員が他の国・地域に所在する関連会社の利益のために業務を行い、かつその関連会社に雇用される個人と機能的な業務関係を有する場合、経済的雇用主は形式的雇用主とは異なるという主張がなされていることにも言及しました。経済的雇用関係が想定されると、その想定に基づきPEが存在するとの主張がなされます。同氏は、こうした状況において雇用主をどのように判断すべきかに関して、OECDがさらなるガイダンスの提供について検討することを提案しました。

高度に非物質化されたAI支援型のクラウドベースのビジネスモデルに関して、ある企業代表者は、「大きな人的機能」という概念が現在の実務に依然として適切かどうか疑問を呈しました。同氏は、マクロ経済指標を用いた、任意の客観的な「集約度」診断の方がより合理的な可能性があると述べました。

最後に、他の企業代表者が、グローバルなファンド管理とアジア特有の問題点、という2つの特定の課題を取り上げました。非居住者取締役を擁する投資ビークルの利用やファンド企業の集約が見られることから、居住地およびPEに関する明確なルールが不可欠であると同氏は強調しました。また、アジアでは資金還流を制限する為替規制や複雑なストックオプション規則といった問題に直面していることも指摘しました。新興市場向けに明確なガイダンスを提供することを提案する一方、小規模案件におけるMAPプロセスの限界を指摘し、OECDによる多国間解決策の推進を求めました。


セッション3:より広い背景におけるグローバルモビリティ

OECD事務局のヤスナ・ヴォイェ氏が進行役を務め、国境を越えた従業員の活動が直面する課題を増大させる、税務以外の問題について協議が行われました。パネルには欧州委員会当局者、学識者、NGO代表者、企業代表者が参加しました。ここでは、このような税務以外の事項に対する基礎的な認識を高め、国ごとの対応の差異や企業・個人双方にとっての潜在的な複雑性をより深く理解することが目的でした。

協議はアフリカに焦点を当てる形で開始され、企業代表者が動向と課題について述べました。この大陸における主要な動向の1つは、訪問ビザで可能であった渡航および事業活動が、就労許可が必要とされる状況へと移行していることです。同氏によれば、地域全体で前例のない種類の新規ビザが導入されたことで、短期派遣やリモートワーカーにリスクが生じています。また、国・地域間で雇用に関する法制度に相違があることで法的問題が大きく、国境を越える状況において不確実性が高まっているとも述べました。税務の観点からは、個人が2つの地域で課税対象となる一方で、税負担軽減のための居住者証明を取得できない場合、二重課税が生じ得ることが強調されました。同氏は、地域内の各国で、インフラ、制度の成熟度、経済成長率において大きく差異があるものの、この地域は急成長しており、大きな機会を有する地域であると述べました。全体として、アフリカにおけるグローバルモビリティの動きは、企業の人事・税務部門が対応できる速度を上回って進展しています。

あるNGO代表者は、社会保障制度は単なる財源確保の仕組みではなく、疾病・医療、業務災害、年金給付など、将来の給付に対する期待を提供するものであると述べました。同氏は、現在、195カ国において、要件を満たす労働者に対して、現地の社会保障制度への強制加入が求められていると指摘しました。国際的な状況としては、制度の適用に空白が生じることで給付が減少し、将来の貧困やその他の悪影響を招く恐れがあります。このため、社会保障制度は相互に連携して機能する必要があると述べました。2020年の時点で、社会保障を対象とする協定は660件存在し、この数は増加し続けていますが、全ての国、全ての保障区分、全ての労働者を網羅しているわけではありません。同氏によれば、多くの国において本国を離れて派遣される労働者は、最大2年間は出身国の制度に引き続き加入でき、その後受入国の保障へと切り替わります。社会保障協定は、このような場合における保障の空白を最小化しつつ、労働者のキャリア終了時や事故発生時に、給付を受ける権利を確保することを目的としています。

同氏は、社会保障の国際的な連携の目標は、多様性を認めつつ、給付・保護の喪失や不当な二重課税を回避することであると述べました。テレワーカーの状況は特に複雑です。どの国・地域の社会保障が適用され、将来の給付にどのようにつながるのかが不明確な状況を、現行法は想定していないためです。

欧州委員会のシルビア・ケルセメイカーズ氏は、欧州連合が加盟国の自律性を損なうことなく、各国の社会保障制度の調整において果たす役割を強調しました。この調整においては、平等な待遇、拠出期間の通算、給付の移転、ならびに就労が行われる国・地域に基づき社会保障拠出が1つだけ適用されることの確認(就労地法原則)が重視されます。ただし派遣労働者、自営業者、複数国で就労する労働者については例外があります(ここでは就労時間または所得の25%以上と定義される活動の実体に焦点が当てられます)。解決策の可能性の1つとして、国境を越えたテレワーカーやその雇用主が、相手国の同意を前提に、居住国での就労時間が全体の50%未満であってもその国での全面的な加入を選択できる仕組みが考えられています。

最後に2人の学識者が、国境を越えるケースにおける給付内容や適用範囲の決定など、その他の問題点を提起しました。提起された重要な課題の1つは、失業保険の適用範囲でした。学識経験者は、受入国で就労していた従業員が失業し、居住国に戻って求職しながら失業給付を申請する可能性を指摘しました。この点について両氏は、複数国による協力が必要な課題であると考えています。


セッション4:グローバルモビリティの状況における給与所得課税

前のセッションで国境を越えた雇用問題の広範な背景を協議した後、本セッションでは、グローバルモビリティに関連する具体的な給与課税上の複雑性に焦点が当てられました。ドイツ連邦財務省のジルケ・ブルンス氏が進行役を務め、OECD事務局メンバー、スイス政府関係者、学識者、企業代表者がパネルに参加しました。

OECD事務局のメリッサ・デヨング氏は、意見書で指摘された3つの主要な雇用実態のパターンと、それぞれに伴う複雑性を要約して説明しました。

最初の最も単純なケースは、雇用主と従業員が同一国に所在しながら、従業員が短期かつ限定的な期間だけ他国で業務を行う短期出張の場合です。このような働き方は、従業員側からもますます要望が高まっています。

デヨング氏は、OECD MTC第15条が適用可能であっても、循環的な問題が生じる可能性があるとする意見書での指摘について述べました。具体的には、従業員の短期滞在が、その報酬を支払う企業にとってPE認定の要因となる場合、第15条が想定通りに適用されない可能性があります。実務上、短期出張であっても雇用主にコンプライアンス義務が生じ、滞在日数計算や書類作成の必要性に伴う管理上の課題が生じます。第15条の文言でカバーされない支店構造における対応についても懸念が示されました。

第2のケースは、長期的な取り決めに基づく従業員の転勤です。この場合の課題は新しいものではありませんが(家族の事情により元の国・地域との間を行き来する状況などが含まれます)、リモートワークが可能になったことで問題がさらに深刻化しています。

関連する租税条約に双方居住者の振分け条項が組み込まれていない場合、特に問題が生じるとの指摘がありました。もっとも、そのような条項が存在しても、「生活の本拠」という概念の解釈は必ずしも明確ではありません。株式報酬の課税も複雑性を生じさせる可能性があります。滞在日数計算に関する管理上の課題に加え、2つの国・地域で課税年度が異なることによる複雑性、また一方の国・地域から他方へ移動する過渡期における重複の問題も生じます。

第3のケース、すなわち従業員が恒久的に異なる国・地域の雇用主のために働くケースは増加傾向にあり、意見書によれば今後も増加する見込みです。

この場合、従業員の居住地における個人課税の可能性に加え、従業員が雇用主の国・地域へ出張すると、雇用主の国・地域で初日から課税権が適用される可能性があり、特に問題が生じると指摘されています。取締役会や、増加傾向にあるバーチャル取締役会に関する実務上の課題も生じています。

さらに、租税条約では「越境通勤者」という概念が扱われる場合がありますが、この概念が今日の広範な事例全体に適用されるかどうか、またその概念を単純に拡張することがデジタルワークの新たな形態に適応するかどうかは明らかではありません。従業員課税、特に給与所得からの源泉徴収に伴う明確で簡素化された管理要件と同様に、セーフハーバーも有用であると考えられます。

第4の勤務形態であるデジタルノマドについては、次のセッションで取り上げられました。

ブルンス氏は、すでにさまざまな税務当局によって開発されたいくつかのアプローチについて解説しました。同氏によれば、8つの国・地域と国境を接するドイツは、国境を超えることに関する特定のルールを定めた二国間条約を3カ国(オーストリア、フランス、スイス)と締結しています。また、就労日数に基づくデミニミスルールを定めた条約を2カ国(ルクセンブルク、オランダ)と締結しています。さらに、ドイツはオランダとの間で、事業拠点が国境上に位置する場合の特例ルールを設けており、この場合は社会保障上の取扱いとの整合性が図られていると述べました。

ブルンス氏は特に、オーストリアとドイツの租税条約現代化に注目しました。新しい議定書では、従業員が指定された国境地帯に居住および勤務し、かつ国境地帯外の他国での滞在が45日を超えない場合、従業員の居住地国に排他的な課税権が与えられています。同氏によれば、両国・地域における課税および税収の水準が非常に近かったため、新議定書の交渉は比較的円滑に進んだとのことですが、他の状況で同様の結果をもたらす交渉は、そう容易ではないであろうと述べました。

また、フランスとドイツの租税条約における対応についても解説しました。同条約では、従業員の居住地国に課税権を認める一方で、越境通勤者の年間総報酬額の1.5%を、両国間で補償として別途支払うことが求められています。この国家間の支払額は、交渉により決定された総額です。ブルンス氏は、租税条約は締約国のニーズを満たす必要があり、本件では原則に基づいた解決策を導くことが重要であったと述べました。

スイス連邦財務省のパスカル・デュス氏は、スイスの規則は主に従業員の物理的な移動を前提としているが、テレワーカーに適用される追加規則も存在すると述べました。2023年に締結されたスイスとフランスの協定では、全ての国境を超える労働者について、テレワークの基準を最大40%と定めています。居住国または第三国において雇用主の代理として行われる一時的な業務は、この40%の算定に含まれ年間10日を超えてはなりません。同氏はさらに、この規定には一定の複雑性があり、広く同様な取り扱いをすることは容易ではないであろうと述べました。

セッションの残りの部分は、この分野での作業を進める上で考慮すべき課題について、企業代表者や学識者からのコメントに焦点が当てられました。主な意見は以下の通りです。

  • 第15条第2項の三要素テストは、パートナーシップ、ハイブリッド事業体、コミッショネア契約など複雑な企業構造において「雇用主」の特定が困難であるなど、さまざまな問題を引き起こしている。
  • 越境通勤者の課税に関する規定を、リモートワークに容易に適応させることは難しい可能性があるが、短期滞在に対するデミニミスルールやセーフハーバーは、雇用主の主要な懸念事項の一部を解決する可能性がある。
  • 雇用主が自身の国・地域外で支払う報酬から源泉徴収する税金を、両国・地域の税務当局間の支払いに置き換えることができるかについて検討すべきである。
  • ここでの提案をどのように実施するかについての検討が必要であり、これには多国間協定や選択可能な解決策のメニューを用意することが考えられる。同時に、将来の人材プールの相当部分が、二国間条約の対象ではない地域に存在する可能性を認識すべきである。
  • 「生活の本拠地」や「経済的雇用主」といった用語は、グローバルモビリティの文脈において見直す必要があるかもしれない。経済的雇用主という概念については、新たな視点での再検討が求められる可能性がある。
  • 企業の組織構造を決定づける可能性のある規制上の課題(金融サービス分野など)は、あらゆる提案に組み込まれるべきである。しばしば支店形態を用いる銀行にとって、第15条は限定的な助けに過ぎない。
  • 効果的なセーフハーバーやその他の「ガードレール」が開発・合意されない場合、企業は引き続き独自の方針を策定する必要があり、それは必要以上に制約的となる可能性があるとの懸念が示された。

企業代表者と学識者は、グローバルモビリティ分野の発展は、簡素化と法的確実性をもたらすべきであると強調しました。この点に関して、滞在日数計算やセーフハーバーに関して調整されたガイダンスが有用であること、特に給与支払義務に関連する管理コストの削減や二重課税リスクの軽減に向けた取り組みが重要であることが指摘されました。さらに、企業代表者と学識者は、企業にとっての人材確保の重要性、および各国が現地の人材育成を促進することの重要性を、今後の作業に反映させるよう、強く求めました。


セッション5:ギグエコノミー、デジタルノマドの課税および特別な制度の影響

本セッションでは、デジタルノマドの業務形態および、報告要件や特別制度の運用などデジタルノマドに関して生じる可能性のある課題について検討しました。セッションはOECD事務局のポール・ホンディウス氏が進行役を務め、ケニア政府関係者、学識者、企業代表者らをパネリストに迎えました。

セッションは、デジタル・コンテンツ・クリエイターによる活動という概念に含まれる幅広い活動範囲と、それらの活動を構築し収益化する方法についての協議から始まりました。あるパネリストは、デジタル・コンテンツ・クリエイターによる活動には有償な部分が増加しているものの、その収入の大部分は、プラットフォーム運営者によるOECDモデルルールに基づく報告に含まれない場合があると指摘しました。その理由として、収入が個人の役務から生じる必要性、対価の額を当該プラットフォームが把握している必要性、または受け取るものが「複合的対価」であることが挙げられます。

ケニア歳入庁のニクソン・オモンディ氏は、同国が最近導入したデジタルノマドビザについて説明し、デジタル雇用がケニア経済の主要な牽引役であることを強調する一方、こうした事業の非公式性や収入の流れの不安定さが、税務行政上の課題を生じさせる可能性を指摘しました。ある学識者は、現在のデジタルノマド課税では断片的なアプローチが取られていることを指摘し、一部のビザの下では1年から2年にわたり個人所得税が免除されることに言及しました。多くの場合、これは課税が無い状態を招く一方で、免除がない場合には二重課税につながる可能性があります。個人は、セーフハーバールールやデミニミスのガイドラインを自ら管理せざるを得ない状況に置かれています。さらに、前のセッションで協議されたとおり、社会保障と税制規則の乖離によって、過払いや保護の欠如が生じる可能性があります。同氏はデジタルノマドに対し、雇用主に源泉徴収を依頼し、滞在期間に応じて全ての国・地域に源泉税を分配することで問題を最小化するよう促しました。また、OECD MTC第4条を改正し、「国際的税務居住者」という新たなカテゴリーの追加を検討すべきであると提案しました。

さらに、特別な税制は有用である一方、公平性や調整上の問題を引き起こす可能性があると述べました。このような制度は、出国関連のコスト(主として移動後1年目)を補填することを目的とする場合や、特定の高度技能人材や富裕層の誘致を目的とする傾向があります。さらに、同氏はこれらの制度が正当なものと受け止められるためには、客観性と透明性を備え、期間が限定され、二重非課税を助長するものではないことが必要であると述べました。同氏は、これらの制度について、その社会的・経済的価値を確認するため、定期的に評価されるべきであるとの見解を示しました。

セッションの最後には、2名のデジタルノマドが実務的な課題に焦点を当てたコメントをしました。そこでは、国際税制の健全性を全ての人が信頼できるようにするために、簡便性、公平性、そして情報交換が必要であることが述べられました(前のセッションでのコメントと同様)。彼らは自身の経験から、デジタルノマドは課税を回避しようとしているのではなく、税制を理解しようとしていることに理解を求めました。また、従業員からフリーランスへといった区分変更に伴い、規則が急に変化する点にも言及しました。知識労働者11億人、そしてデジタルノマド2,000万人から4,000万人を合わせると、これは大きく拡大しつつある課題です。さらに、10日から90日間海外で就労する個人を含めると、影響を受ける人口は約1億5,000万人に達します。

登壇者の1人はさらに、デジタルノマドと「場所を選ばない一時的な就労」や「場所を選ばない採用」の概念には本質的な違いがあると指摘し、その違いと意味合いを明確にすることが重要であると述べました。同氏は、場所を選ばない採用は、通常事業上の必要性によって推進される一方、場所を選ばない就労は従業員主導であると説明しました。結局のところ、透明性を高め、企業が世界的に必要なスキルにアクセスする能力を促進するためには、税務その他の分野において、基本的な定義を調和させる必要があります。登壇者の1人は、「これを正しく実現できれば、全てにおいて大きな経済的機会が生まれる」と総括しました。


閉会の挨拶

閉会の挨拶において、プロス氏はグローバルモビリティを成長の原動力として位置付け、今後の作業の重要性を強調しました。デヨング氏は、会議での協議が、租税条約、移転価格、税務行政、税の確実性、経済的影響など幅広いテーマを網羅したことを振り返り、世界各地における多様な経験が共有されたと述べました。同氏は、グローバルモビリティは人と機会に関わるものであることを強調して会議を締めくくりました。


予想される影響

このパブリックコンサルテーションは、グローバルモビリティに関する包摂的枠組みの作業の始まりを意味します。寄せられた意見および実施されたコンサルテーションは、今後のプロジェクトの範囲を決定する際に考慮されます。OECD事務局は、今後の作業に関連して、利害関係者との継続的な関与が重要であることを強調しました。

企業は、包摂的枠組みによるグローバルモビリティに関する作業の進展を注視し、自社の事業に最も関連性の高い課題について、その影響を分析すべきです。また、事業を展開する国・地域の政策立案者と直接対話することも必要です。



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