英国歳入関税庁、移転価格および迂回利益税に関する年次統計を発表

  • 2026年3月11日、英国歳入関税庁(HMRC)は、移転価格および迂回利益税(DPT)に関する2024-25年度の統計を発表し、移転価格による税収が33億8,700万ポンドへと大幅に増加し、前年度からほぼ倍増したことを明らかにした。
  • 移転価格による税収およびDPTに関連して徴収された金額は大幅に増加しており、その大半はDPT自体の納付ではなく、移転価格調査による追加の法人税納付によるものとみられる。
  • また、利益迂回に係る開示制度(PDCF)および相互協議(MAP)による解決件数に関する最新情報も含まれている。
  • 企業はこれらの動向を注視し、移転価格およびDPTのリスクの程度を評価するとともに、変化する税制環境に適切に対応するため、十分な文書化と堅牢なコンプライアンス体制を整備する必要がある。

 

2026年3月11日、英国の税務当局であるHMRCは、2024-25課税年度の移転価格税制および迂回利益税に関する統計を発表しました。

英国の移転価格税制およびDPT規則の下では、英国に適切な利益が配分されていない取決めに対し、HMRCが異議を申し立てます。今回公表された統計は、こうした異議申し立てに関連する案件数や処理期間、税収額などに関して興味深い動向を示しています。


移転価格に関する調査

HMRCは2024-25課税年度に33億8,700万ポンドの移転価格税収を計上しており、2023-24課税年度の17億8,600万ポンドからほぼ倍増しました。注目すべき点は、この大幅な税収増が、解決件数が前課税年度の128件から143件へとわずかに増えただけで達成されたことです。

これは、1件当たりの平均税収が大幅に増加したことを意味します。

解決案件における税収の増加は、移転価格調査においてHMRCが継続的に圧力をかけ、かつ持続的な精査を行っていることを示しています。HMRCの調査活動を緩和する兆候は見られません。また、調査の平均期間は前課税年度と比較して大幅に延びている点に注意が必要です。より複雑な案件ではこの平均を上回る可能性が高く、企業の税務部門は、変化し続ける事業環境において、長期間にわたり多大なリソースの投入や過去情報へのアクセスが必要となる可能性を認識しておくべきです。

解決済みの調査期間については、平均が2023-24課税年度の33.1カ月から2024-25課税年度には41.0カ月へと延びました。前述のとおり、一般に、移転価格調査の完了には約3年を要します。最新のデータは、事案の複雑化、事実関係の精査の重要性の増大、国際的に連携した案件の割合の増加に伴い、調査期間が長期化していることを示しています。

リソースの観点では、移転価格およびDPTに係る国際案件に従事するHMRC職員数は、2023-24課税年度の395人(フルタイム換算職員数:FTES)に対し、2024-25課税年度は392人FTESと実質的に横ばいでした。人員はほぼ変わらない中で税収が急増していることは、HMRCが調査の優先順位付けにおいて引き続き「リスクに応じたリソース配分」のアプローチを採用していることを裏付けています。


事前確認(APA)および過少資本事前確認(ATCA)

APAおよびATCAは、企業とHMRCとの間で締結される書面による合意であり、申告書の提出に先立って、一定の期間にわたり、特定の取引に適用すべき適切な移転価格算定方法を定めるものです。これらは、多国籍企業(MNE)が税負担についてより高い確実性を得て、適切な時期に適切な額の税金を納付できるようにするための重要な手段です。

2024-25課税年度において、HMRCは26件のAPAを締結しました。これは2023-24課税年度の27件と同程度であり、件数が急増した過去数年以降、安定した水準が維持されていることを示しています。重要な点として、APA締結までの平均期間は、2023-24課税年度の53カ月から2024-25課税年度には43.9カ月へと短縮され、処理の効率性が向上したことを示しています。これは、これまで平均期間を押し上げていた長期の未解決案件が解決に至ったことを反映している可能性もあります。一方、以前の年度とは対照的に、APA申請件数は急減しました。2024-25課税年度には20件の申請が受理され、これは2023-24課税年度の45件から大きく減少しています。近年の傾向として、APA申請が却下される例はありませんでした。申請件数の減少は短期的な需要変動を示唆している可能性はあるものの、HMRCがAPA協議に取り組む姿勢が弱まったことを示すものとは考えにくい状況です。むしろこれは、案件のスコープが適切に設定され、技術的にも堅牢である場合には、HMRCが引き続きAPA協議に積極的であるというメッセージを裏付けるものです。

2024-25課税年度には2件のATCAが締結され、2023-24課税年度の10件から減少しました。ATCAの件数は長期的に減少しているのは、英国の利子損金算入に関するアプローチが広範囲で構造的に変化してきたことを反映しています。注目すべき点は、ATCA締結までにかかる平均期間が2024-25課税年度では21.7カ月となり、2023-24課税年度の37.3カ月から大幅に短縮された点です。2024-25課税年度における締結案件数が少ないため、このデータから導ける結論には限界があるものの、より対象を絞り込んだATCA案件が、現在の制度下でより迅速に処理されていることを示唆しています。HMRCがこれまでに認めているように、利子損金算入制限(CIR)規則の導入により、多くの場合、利子損金算入に対して形式的な上限が設けられることになりました。その結果、一部の納税者にとってはATCAの実務上の重要性が低下した可能性があります。しかし、大規模または複雑な資金調達構造を有する企業グループにとっては、他の国・地域との相互作用や過去の資本構成が事実関係に含まれる場合もあり、ATCAは依然として将来を見据えた確実性を提供する有益な手段です。

APAに関するプロセスは通常、少なくとも二国間で協議するため、所要期間に関する指標は必ずしも英国側の遅延を示すものではありません。しかし、2024-25課税年度の統計は、安定した合意件数、完了時間の短縮、そして継続的な協議への前向きな姿勢を通じて、APAがHMRCの税務確実性を高めるための重要な手段として、引き続き確固たる位置を占めていることを示しています。


相互協議(MAP)

MAPは、ほとんどの二重課税防止協定に含まれており、税務当局が協議と相互の合意を通じて二重課税の案件を解決するための手続きです。

HMRCが引き続きMAPを効果的に活用することを重視している姿勢は明らかです。解決されたMAP案件数は、2020-21課税年度の62件から、2021-22および2022-23課税年度には131件へと大きく増加しました。2023-24課税年度には一時的に86件へと減少したものの、直近の期間には回復し、2024-25課税年度には115件のMAP案件が解決されました。また、平均解決期間についても改善がみられ、2023-24課税年度の28.8カ月から2024-25課税年度では24.8カ月へ短縮され、2022-23課税年度に見られた上昇傾向が反転しています。

これらの統計は、英国におけるMAP案件の平均解決期間は24.8カ月であり、世界平均の30.9カ月を引き続き上回る水準であることが示されています。特に注目すべき点としては、英国では移転価格に関わるMAP案件の91%について、租税条約締結国との合意、ユニラテラルな救済措置、またはその他の国内救済措置を通じて、二重課税が完全に排除されており、これは世界平均を大きく上回る結果となっています。

納税者はMAP制度を十分かつ適時に活用することで、移転価格調整に起因して生じた二重課税を単なる経済的コストとして残すのではなく、実務上確実に排除する可能性を大幅に高めることができます。


利益迂回に係る開示制度(Profit Diversion Compliance Facility:PDCF)

PDCFは、MNEに対し、重要な税務上の不確実性や誤りを自主的かつ包括的に開示することを促し、HMRCと協調的・能動的・透明性の高い形で関与することにより、税務リスクの早期解決を図る協調的なコンプライアンス制度です。

新規案件の選定の動きが一時的に落ち着いていた期間を経て、HMRCのPDCFに関する活動は再び活発化しつつあります。2024-25課税年度において、HMRCは9通のPDCF通知書を発行し、その結果、同年度中に4件の登録が行われました。依然として件数は過去のピーク水準を下回っているものの、新規登録の増加は、HMRCが本制度の活用に適した案件の特定に再び注力し始めていることを示唆しています。

HMRCはこれまで、PDCF通知書の発行件数が減少していた背景として、すでに当該制度下にある案件の進展および解決にHMRCのリソースを重点的に配分していた点を挙げてきています。足元の統計は、この段階が一巡し、案件の新規特定および関与を再開するフェーズへ移行しつつあることを裏付けています。

PDCFの解決実績の堅調な推移についても特筆すべきです。2024-25課税年度には17件のPDCF案件が解決されており、2023-24課税年度の19件とおおむね同水準を維持しています。これは、HMRCが本制度を通じた既存案件の着実な進展および終結を引き続き重視していることを示しています。

また、PDCFが従来の移転価格調査と比較して、依然として大幅に迅速な解決を実現していることは、明るい兆候と考えられます。解決済み案件によれば、登録に向けた初回ミーティングからHMRCによる最終判断の通知までの平均所要期間は23カ月であり、最終提案の98%がHMRCにより受け入れられています。

HMRCの推計によれば、PDCFは2019年1月の導入以降、解決の提案および納税者の対応方法の変更を通じて、8億7,200万ポンド超の追加税収を確保しています。また、HMRCによれば、PDCFへの登録を促す通知(いわゆる「ナッジレター」)を受領したにもかかわらず登録を行わないMNEに対する調査も継続しており、利益迂回リスクが想定される場合には、早期かつ慎重な対応の重要性が改めて強調されています。

これらの統計を総合すると、HMRCは引き続きPDCFを、複雑な移転価格および利益迂回案件を解決に導く有効な手段として位置付けていると考えられます。重要な税務リスクに直面する納税者にとっては、長期化する調査対応に代えて、PDCFのような協調的アプローチが、より効率的な解決手段となり得るかを検討する価値があります。特に、早期かつ透明性の高い関与が可能な場合には、その意義は一層大きいといえます。


迂回利益税(Diverted Profits Tax:DPT)

DPTは、人為的なスキームを通じて英国から低税率国・地域へ移転された利益に対して課される税です。2024-25課税年度にHMRCが徴収したDPTの純徴収額は9,400万ポンドとなり、前年度(1億800万ポンド)から減少しました。同報告書によると「純徴収額」とは、DPTの課税通知および補足通知に基づき徴収された金額のうち、最終的に還付されなかった金額を指しています。

DPT導入以降、2025年3月31日までに、HMRCはDPTを通じて累計で105億ポンド超の追加税収を確保しています。2025年3月末時点では、PDCF登録案件を含め、利益迂回スキームを有するMNEに対する約53件の審査が進行中であり、検討対象となっている税額は約35億ポンドに上ります。

このように、DPTの純徴収額は足元で減少傾向にあるものの、DPTは課税額の前払いが求められる制度であることから、MNEにおいては引き続き慎重なリスク評価が求められます。

重要な点は、DPTの税収が減少している反面、当該制度が持つ「レバレッジ効果」が、依然としてHMRCの国際税務戦略の中核を成していることです。この点は、政府が、DPTを廃止し、2026年1月1日以降に開始する会計期間から「未査定移転価格利益(Unassessed Transfer Pricing Profits:UTPP)」規則へ移行することを発表したことにも表れています。

UTPP課税は、独立企業原則から乖離した取り決めを通じた利益迂回を抑止するというDPTの基本的な政策目的を維持しつつ、法人税制度の枠組みの中で課税を行う点に特徴があります。また、UTPPはDPTよりも低い関与基準で適用されることが想定されており、より広範な移転価格および利益配分上の論点が対象となる可能性があります。


実務上の示唆

最新の統計は、HMRCが移転価格および利益迂回に対して引き続き強い関心を持って取り組んでいることを改めて示しています。関連調査は依然として金額規模が大きく、かつ複雑であり、データ、ガバナンス、および証拠の観点から高い対応水準が求められるものとなっています。

PDCF、APA、ATCA、MAPといった制度は、早期の関与、確実性の確保、二重課税の軽減といったメリットを提供する一方で、その前提として、十分に裏付けられた独立企業間価格分析に基づく説明が不可欠です。

英国がDPTからUTPP課税へ移行する中においても、利益迂回の抑止および納税者の対応方法の変化を促すという政策上の基本的な方向性は一貫しています。こうした環境の下では、能動的なリスク評価、高品質な文書化、そして協調的コンプライアンス手段の戦略的活用が、税務リスクの管理および長期化する係争の回避において極めて重要となります。


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Ernst & Young Tax Co. (Japan), UK Tax Desk, Tokyo
Richard Johnston EY UK パートナー、EY Japan UK Tax Desk リーダー

Ernst & Young LLP (United Kingdom), London
平井 恵理子 パートナー
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伊藤 伸彦 シニアマネージャー

※所属・役職は記事公開当時のものです