本稿では、CIDOが成功するための5つのアプローチについて解説します。
1. 価値創造とコラボレーションのマインドセットを養成する
CIDOには、オペレーション面を重視する受動的な心持ちではなく、インスピレーションを持ち前向きな姿勢で、テクノロジーを活用し価値創造の機会を追求する気概が必要です。こうしたマインドセットがCIDOに対する「オーダー・テイカー(受け身の役職)」という周囲の認識を払しょくして、意思決定を下す会議の場に参加し、経営課題の解決を支援する立場へと前進することを助けるでしょう。CIDOが常に意識すべき価値創造の典型的なアプローチには、以下3つの軸があります。
- 既存の業務を自動化/最適化して収益性を向上させる
- 部門別損益に責任を持つこともある他のビジネスリーダーと協力し、収益源となる新製品を立ち上げる
- 資本効率を高めることで、柔軟性を確保する
EYパルテノンが実施した2022年デジタル投資インデックス(Digital Investment Index)によると、デジタル投資に対するリターンを検証している回答者の割合は41%にすぎないという結果でした。価値創造の取り組みの有効性を示すためには投資効果を定量的に示すことを、CIDOは念頭に置かなくてはなりません。
顧客エンゲージメント、新たなデジタル製品のローンチ、あるいはアップセルの機会を見出だすテクノロジーの導入などにおいて、CIDOはテクノロジー起点の価値創造に絶えず注力していくべきでしょう。オペレーション、営業、またはマーケティングなど他のビジネス部門とIT部門とのコラボレーションが生じる時こそ、インパクトも最大化されます。複数の部門が関与するクロスファンクションチームであれば、AI/自動化、モノのインターネット(IoT)、ブロックチェーンなど、企業データに先端テクノロジーを掛け合わせたソリューションを共同開発できます。こうした新たなチャンスがあればCIDOは即座に動き、パイロットや概念実証(PoC)を通じて新機能を検証し、果敢に適用範囲を拡大して勢いを加速させていくべきです。
「テクノロジー起点の価値創造」に関する最新のEYの意見については、「プライベートエクイティファンドの投資先企業の価値創造を推進するテクノロジーの3本柱とは」を参照してください。
2. データのオーナーシップを持ち、そしてデータを金鉱として扱う
企業は顧客、業務、製品について年々多くのデータを収集しています。工場の生産ラインに設置されたIoTデバイスから医療機関での患者のリアルタイムモニタリングまで、今や企業は自社の事業状況についてあらゆる視点から包括的に把握できるようになりました。こうした貴重なデータストリームに直接アクセスができるCIDOは、ビジネス上のさまざまなレベルで戦略的な意思決定を積極的に推進することができます。
また、こうしたデータの蓄積から新たな事業売上を伸ばす好機を作り出すことで、IT部門がコストセンターや戦略サポート機能からプロフィットセンターへと変革できるでしょう。例えば、遺伝子サンプル等のさまざまな標本を販売するバイオテクノロジー企業であれば、数百または数千にわたるサンプルデータを集約し、デジタル病理学研究分野において顧客価値の高い豊富なデータセットを生成することが可能です。
既存のデータソースを出発点として、高い価値を持つデータを製品化し収益化する手立てを探る取り組みをCIDOが主導することもできるでしょう。
さらに、価値の高いデータの取得を主目的もしくは二次的な動機とした企業買収も活発化しており、データの存在がM&A活動の重要な要素にもなっています。EYでは、高精度な患者データプラットフォームの利活用を主目的とした医療機関による資産取得例を見てきました。CIDOには、こうしたM&Aを支援する機会もあるでしょう。データがM&A取引の重要な推進力になり得る一方で、該当資産が試算価値の基準を満たせない可能性も残り、さらに悪いケースでは精査不十分で不正が発覚することさえあります。
3. AIや機械学習の導入をリードする
データの爆発的な増加に伴い、ChatGPTに代表される生成AIによってAIの民主化が進み、さまざまなビジネス部門の日常業務でアクセシビリティとユーザビリティを向上する潜在力に期待が寄せられています。企業経営者は、こうしたツールが自社の競争力の維持にどう役立つのか、まず理解することを要求しています。CIDOは、他のビジネス部門と継続的に連携しながら、AIツールの実装を実行・監視・強化するための戦略アドバイザーかつ変革エージェントの役割を担う最適な立場にあると言えます。
一方で、AI倫理とデータ戦略がCIDOにもコアコンピテンシーとなるでしょう。企業は急速にデータを生成・購入し、AIモデルの改善に役立てようとしています。データを増やせば改善されるモデルもありますが、されないモデルもあり、また常に安全に改善できるわけでもありません。粗悪なデータをモデルに追加すると、バイアスが発生し即座にパフォーマンスに悪影響を及ぼし、企業にとって重大な責任となる可能性も出てきます。社内全体に普及するAIや機械学習の取り組みをCIDOが確実に管理し続けるためには、内部の説明責任機能が重要な役割を果たします。
4. パートナーエコシステム戦略を策定し、優先事項に集中する
CIDOが戦略的な取り組みを実際にリードするためには、強力なパートナーエコシステムを築いた上で構想から実行まで手がけることが重要です。
CIDOは、どのコア機能を社内で実行し、どの非コア機能をパートナーエコシステムでサポートできるかを特定することが不可欠です。例えば、アイデアをテストし、プロトタイプやPoCを開発するためにテクノロジーインキュベーションセンターを自社で立ち上げ、ソリューション開発や全社展開の段階で外部パートナーを活用する場合もあるでしょう。
インフラ運用に深く関与することは、一部の企業にとっては優先事項ではないかもしれません。一方、例えば防衛セクターの企業などでは複雑な法規制に厳格に準拠することが前提となるでしょう。さらに、コモディティ化された領域に限定せずイノベーションのサポート役に外部パートナーを起用し、新たな機能の立ち上げを加速できれば、長期化しがちな需要の高い人材の獲得競争プロセスを開始せずに済むかもしれません。
アウトソーシングは「コスト削減」の手段に捉えられますが、一定の日常タスクを管理する負担を軽減し、より重要性の高い価値創造のための活動に重点的に注力できる利点もあります。その好例として、クラウドが業界にもたらしたインパクトが挙げられます。
こうしたアプローチをCIDOが前進させるためには、求められる専門性を調達でき、必要に応じて柔軟に拡張できるパートナーネットワークを構築しなければなりません。また、パートナー企業にサービス・レベル・アグリーメント(SLA)や品質基準を順守させ、生産性とコスト効率を維持させる管理手法として、強固なベンダー管理フレームワークを社内で整備することも欠かせません。
5. 強固な人材パイプラインを育成し、実行・調査・試行する
企業が持続的に成功をおさめるためには、コアコンピテンシーを特定し、それに適した業務モデルに調整し、あらゆる組織レベルの現状の従業員がその役割においてオペレーションとイノベーションを実行できるかどうかを評価し、ギャップがあれば適切な人材を採用するといった一連のタスクから始めなければなりません。
デジタル人材のリスキリングには、革新的なソリューションをトライアルする安全な環境を提供することで組織が従業員の試行を奨励することが必要です。最近のサミットにおいてある参加者が共有したのは、単に机上で話し合うことに終始せず「素早く試し失敗から学ぶ(Fail Fast)」アプローチをいかに実践するかについてです。何度も反復して試行錯誤するための予算を確保することで、成功は後から付いてくると言及しています。
重要なのはイノベーティブな人材を定着させることであり、また「デジタルネイティブ企業の成功の秘訣となった企業文化を醸成できるかどうかが鍵になる(英語版のみ)」と言えます。イノベーティブな企業文化では、組織横断的なオペレーション構造、新規のテクノロジーを迅速に受け入れる意欲、そして初期の成功を基にビジネスに再投資する取り組みが重視されています。
最終的にCIDOは、新たなデジタル時代に向けて自社のカルチャー変革を主導する人材リーダーとしての役割も果たすことが必須となるでしょう。多くの企業内組織で技術的な変化への抵抗が見られる中で、持続的な進歩には「感情と理性」を全社規模で変えていくことが必要です。EYパルテノンの2022年デジタル投資インデックスによると、デジタル戦略を策定する際に企業文化や社内プロセスに関わる変更を考慮している企業はまだ31%です。IT部門だけでなく、ビジネス部門全体へアジャイル手法を導入するなどの取り組みをリードするCIDOは、全社施策の実行責任者として重要な立場に位置付けられます。