CIDOが新たな時代のビジネスを切り開くための5つのアプローチ

CIDOが新たな時代のビジネスを切り開くための5つのアプローチ

企業の未来を指し示す新たなリーダーとして、最高情報デジタル責任者 (CIDO) の存在意義が高まっています。


要点
  • CIOの役割はさまざまな方向に進化する可能性がある。
  • CIOとCDOの両役割がCIDOとして進化し、統合されるケースが増えている。
  • CIDOは、今こそ主導的な役割を果たすべきである。



EY Japanの視点

昨今、ビジネストランスフォーメーション(事業変革)を支えるテクノロジーの進化が止まりません。とりわけ(生成)AI領域や、自社内外のさまざまなデータを収集・分析するデータアナリティクス領域において新たなプロダクトやサービスが日々、ローンチされています。この両領域においてCIDOが自社のデジタル戦術を策定するにあたり、有効となるのが次世代におけるデジタル戦略体系「Triple Digital-Strategy Model」です。これは、最上位概念に「経営・事業戦略」を位置付け、その実現手段として3つのテクノロジー戦略を定義するものです(下図)。

「経営・事業戦略」と完全に整合させた「DX戦略」をその直下に位置付け、さらに「AI戦略」と「データ戦略」を「DX戦略」の下位概念に位置付けます。これら3つのテクノロジー戦略を策定し、それぞれの方針に矛盾が生じないよう常に相互連携させ、CIDOが先頭に立ち更新・実行していくべきでしょう。その実現に向けてEYは支援してまいります。

次世代型デジタル戦略体系「Triple Digital-Strategy Model」

EY Japanの窓口

塩野 拓
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 デジタル・イノベーション AI&データ パートナー



業界や国・地域を問わず、企業は、前例のないテクノロジーの進化とデータの急増が引き金となって生じた大きなディスラプション(創造的破壊)と変革の時代を駆け抜けています。テクノロジーを活用して市場の変化をうまく捉えて迅速に対応し、結果として自社独自の価値を創造し続ける企業や経営者が、勝者として生き残ることができるでしょう。

テクノロジーリーダーは、「最高情報責任者(CIO)の役割が進化する前提」に立って自ら変革し始めています。そして、保守運用といったITサービスデリバリーやバックオフィスに留まらず、ビジネスパートナーシップの構築やイノベーションの支援へと発展しています。

 

CIOの役割は、最高デジタル責任者(CDO)、最高技術責任者(CTO)、またはビジネス部門のリーダーが本来果たしてきたさまざまな役割へと進化する可能性があります。生成AI時代をリードするCIOは、将来的にテクノロジーリーダーとビジネスリーダーの両刀使いをするCIDOの立場をとることになるでしょう。CIDOは、取締役会や経営層に対して情報提供者となり、影響力を持つことができます。また、サービスデリバリーやビジネスを支援するIT部門から昇華させ、ビジネス戦略の方向性を定めて変革をリードする組織にする適任者がCIDOでもあるのです。CIOは複数の役割(CDO、CTOなど)を志向する一方で、CIDOは独自の役割を持ち、その特徴はテクノロジーと密接に関わりながら、デジタルの視点でビジネス戦略を推進する側面にあると言えます。他方では、ビジネス戦略と損益(P&L)管理をビジネス部門に残し、CIDOがフロント領域(製品/プラットフォームエンジニアリング、デジタル製品開発)とバックオフィス領域(ERPなど)を継続して管轄する場合もあるでしょう。


テクノロジー、成長戦略、オペレーションが交差する場面で有利な立ち位置にいるCIDOには、新たなテクノロジーとデータの導入により業務変革を進め、新規ビジネスモデルの構想を始動・推進する絶好のチャンスがあると言えます。

こうした変革ジャーニーのどの地点に現在位置するのかはそれぞれですが、次の飛躍への準備ができているリーダーも多く存在します。EY Center for Executive Leadershipの調査によると、フォーチュン100社におけるCDOの役職が過去10年間で13倍、つまり1,300%増加していました。また、CDOの49%はビジネス部門の責任者の経歴を持ち、豊富な組織横断的なスキルセットがあり、CDOが多様な経験を生かして職務に就く傾向があることが明らかになりました。

歴史的にCIOとCDOは別々の役職と見なされていたものが、両者の役割が近年CIDOとして統合されつつあります。例えば、これまでCTOに権限のあったプラットフォームやエンジニアリング領域の監督責任をCIDOが担うことで、自社のテクノロジー機能をフル活用することが可能になります。CDOのレポートラインをCIDOに移行し(EY Center for Executive Leadershipによると、フォーチュン100社のうち76%はCDOがCEOに直接レポートしています)、CIDOがテクノロジーや製品/プラットフォーム領域の業務ニーズに従来通り対応しながら、自社の戦略を推進する他部門のリーダーとの協力関係を維持できるでしょう。これにより、CIDOは自社の事業戦略と損益目標を策定するビジネス部門のリーダーと緊密に連携し、それらをチームが目指すべきテクノロジー/デジタル施策の目標に落とし込むことができるのです。

“The role of Chief Information and Digital Officer allows for a true horizontal view of the firm, cutting across multiple business units and corporate functions. This allows for a natural connection with other BU leaders and members of the c-suite, resulting in powerful partnerships to solve critical business problems through technology. While this provides a wide array of opportunities to a CIDO, the key to being successful is to have a commensurately broad and flexible skillset. This flexibility allows the CIDO to lean in on the enterprise’s priorities, whether that be traditional IT responsibilities, supporting a new product launch or advancing digital transformation initiatives. However, while it may appear to be easy to shift gears between topics in theory, in practice, CIDOs find extreme demands on their time and attention. It is absolutely imperative to have strong support from the CIO or CTO to reduce noise and enhance the CIDO’s ability to focus on other topics. As technology leaders aspire to the CIDO role, preparation is critical. Joining boards as a technology specialist, further enhancing the technical toolkit with skills like digital proficiency and product engineering, and augmenting the existing professional network with business leaders all help build a foundation to be a successful CIDO.”

Mark Murphy, CIDO at 3M


“CIDOは、複数の事業部門やコーポレート機能を横断する全体的な視点で、自社の本当の姿を見渡すことができます。したがって他のビジネスリーダーや経営層との自然なつながりが生まれ、テクノロジーを駆使し重要な経営課題の解決にあたる際に強固なパートナーシップを発揮できます。CIDOにはこうした機会が多くありますが、幅広く柔軟に相応のスキルセットを持つことが成功要因になります。柔軟な対応力のあるCIDOは、従来のIT機能、新製品のリリース支援、デジタル変革プログラムの推進など、自社が優先すべき事項に対処できます。こうした多岐にわたるテーマの切り替えは、理論的には容易に見えても、実際は非常に多くの時間と注意力が要求されるものだとCIDOは感じています。CIDOが雑念を排除して新たなタスクに集中できるようにするには、CIOやCTOからの手厚いサポートが不可欠です。テクノロジーリーダーがCIDOの役割を目指す場合、準備も欠かせません。テクノロジーの専門家として取締役会に参加し、デジタル技術や製品エンジニアリングスキルをさらに磨き、既存の人脈からビジネスリーダーとの接点を広げることなどのすべてが、CIDOとして成就するための基礎固めに役立つでしょう。”

3M CIDO Mark Murphy氏


business team meeting discussion
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第1章

なぜ今CIDOが主導するべき時なのか

これまでの企業変革プロセスの中で、多くのCIOは主導的な役割を担っていなかったのではないでしょうか。

テクノロジーディスラプション(テクノロジーによる創造的破壊)から、明らかな転換点が生まれました。インフラのコモディティ化、サービスとしてのソフトウェア(SaaS)ベースのアプリケーションの急増、急激な企業データの蓄積、デジタルファーストの顧客エクスペリエンス(CX)、さらにAIのメインストリーム化が進行する中で、CIDOと同等の立場にあるテクノロジーリーダーは事業戦略を開発・推進・支援する場面に積極的に関与する絶好の立ち位置にいます。

あらゆる業界で価値創造の源泉と手段が変化し、テクノロジーとデータを駆使する企業の能力が、こうした進化をさらに加速させています。変革をけん引するCIDOが、テクノロジーとデータを社内に取り込み自社を進化させる役割を担っているのです。顧客のニーズや産業界のディスラプションに対して手を打つために、自社ではどのようにテクノロジーを活用し変革できるのかを示すビジョンをCIDOが策定します。また、各業界のトレンドには、以下に挙げることが含まれます。

こうした昨今の新たな環境において、テクノロジーは経営戦略の主軸に位置付けられます。EYパルテノンが2022年4月に発表したEYデジタル投資指数(EY Digital Investment Index)によると、売上に対するデジタル投資の割合は近年3.5%から5.8%に増加しています。成功している企業は、もはやテクノロジーを単に業務をデジタル化する手段として捉えるのではなく、もっと全体的な視点で自社におけるテクノロジーの役割を設計しているのです。こうした戦略を具体化するためには、変革を推進する立場で様変わりするビジネス構造を理解し、技術的な専門知識と洞察力を持つリーダーシップが必要とされています。言い換えれば、この新たなリーダーシップ像を体現することがCIDOに与えられた使命なのです。

次の変革の波は、これまでとは異次元のものになるでしょう。「デジタル」がゲームチェンジャーであることに変わりはありませんが、業界を再定義するような変革を成し遂げるには、CIDOは従来とは一線を画す方法でオペレーションに取り組まなければなりません。段階的に変更機会を特定してデジタル化を実行するアプローチでは、社内全体に終わりの見えない混乱と疲弊をもたらし、変革の完全な実現を妨げることになりかねず、もはや十分ではないのです。そこでCIDOであればテクノロジーの専門知識を生かし、顧客接点、データプラットフォーム、またこれらを実現するためのプロダクトアーキテクチャおよびロードマップが統合されたテクノロジーの全体設計図を作成するなど、一体感のある将来ビジョンを推進し、戦略的なアプローチを率先することができるでしょう。

  • ある老舗のグローバル製造企業では、自社のあるべき姿を定義し直し、実務の比重が高い業態から、状況に適応して変化するデジタルバリューチェーンを備えたビジネスへと転換する必要に迫られていました。この変革プロジェクトを主導したのは、CIO、CTO、CDOに匹敵する複数の権限をすべて1人で体現したテクノロジーリーダーでした。同社では研究開発部門、デジタル部門、IT部門がすべて同じ統括グループ内に組織されていたため、矢継ぎ早にサプライチェーンのデジタル化、B2B向けeコマースの導入を進め、さらに新たなデジタルサービスへと事業を拡大し、価値創出につなげることができました。同社は大手テクノロジー企業と提携し、リアル/デジタル双方の新製品を継続的かつ広範囲にわたってリリースしています。また、このテクノロジーリーダーの手腕でシリコンバレーを含む複数拠点に設置された研究センターを成長・拡大させることができました。このような最重要の従来型ビジネスの変革事例は、CIDOが持つ影響力の大きさを物語っています。


Business people in large modern meeting room
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第2章

CIDOが対処すべき5つの優先課題とは

CIDOが戦略的な役割へと進化するチャンスを最大化するためには、何が必要でしょうか。

本稿では、CIDOが成功するための5つのアプローチについて解説します。

1. 価値創造とコラボレーションのマインドセットを養成する

CIDOには、オペレーション面を重視する受動的な心持ちではなく、インスピレーションを持ち前向きな姿勢で、テクノロジーを活用し価値創造の機会を追求する気概が必要です。こうしたマインドセットがCIDOに対する「オーダー・テイカー(受け身の役職)」という周囲の認識を払しょくして、意思決定を下す会議の場に参加し、経営課題の解決を支援する立場へと前進することを助けるでしょう。CIDOが常に意識すべき価値創造の典型的なアプローチには、以下3つの軸があります。

  • 既存の業務を自動化/最適化して収益性を向上させる
  • 部門別損益に責任を持つこともある他のビジネスリーダーと協力し、収益源となる新製品を立ち上げる
  • 資本効率を高めることで、柔軟性を確保する

EYパルテノンが実施した2022年デジタル投資インデックス(Digital Investment Index)によると、デジタル投資に対するリターンを検証している回答者の割合は41%にすぎないという結果でした。価値創造の取り組みの有効性を示すためには投資効果を定量的に示すことを、CIDOは念頭に置かなくてはなりません。

顧客エンゲージメント、新たなデジタル製品のローンチ、あるいはアップセルの機会を見出だすテクノロジーの導入などにおいて、CIDOはテクノロジー起点の価値創造に絶えず注力していくべきでしょう。オペレーション、営業、またはマーケティングなど他のビジネス部門とIT部門とのコラボレーションが生じる時こそ、インパクトも最大化されます。複数の部門が関与するクロスファンクションチームであれば、AI/自動化、モノのインターネット(IoT)、ブロックチェーンなど、企業データに先端テクノロジーを掛け合わせたソリューションを共同開発できます。こうした新たなチャンスがあればCIDOは即座に動き、パイロットや概念実証(PoC)を通じて新機能を検証し、果敢に適用範囲を拡大して勢いを加速させていくべきです。

「テクノロジー起点の価値創造」に関する最新のEYの意見については、「プライベートエクイティファンドの投資先企業の価値創造を推進するテクノロジーの3本柱とは」を参照してください。

2. データのオーナーシップを持ち、そしてデータを金鉱として扱う

企業は顧客、業務、製品について年々多くのデータを収集しています。工場の生産ラインに設置されたIoTデバイスから医療機関での患者のリアルタイムモニタリングまで、今や企業は自社の事業状況についてあらゆる視点から包括的に把握できるようになりました。こうした貴重なデータストリームに直接アクセスができるCIDOは、ビジネス上のさまざまなレベルで戦略的な意思決定を積極的に推進することができます。

また、こうしたデータの蓄積から新たな事業売上を伸ばす好機を作り出すことで、IT部門がコストセンターや戦略サポート機能からプロフィットセンターへと変革できるでしょう。例えば、遺伝子サンプル等のさまざまな標本を販売するバイオテクノロジー企業であれば、数百または数千にわたるサンプルデータを集約し、デジタル病理学研究分野において顧客価値の高い豊富なデータセットを生成することが可能です。

既存のデータソースを出発点として、高い価値を持つデータを製品化し収益化する手立てを探る取り組みをCIDOが主導することもできるでしょう。

さらに、価値の高いデータの取得を主目的もしくは二次的な動機とした企業買収も活発化しており、データの存在がM&A活動の重要な要素にもなっています。EYでは、高精度な患者データプラットフォームの利活用を主目的とした医療機関による資産取得例を見てきました。CIDOには、こうしたM&Aを支援する機会もあるでしょう。データがM&A取引の重要な推進力になり得る一方で、該当資産が試算価値の基準を満たせない可能性も残り、さらに悪いケースでは精査不十分で不正が発覚することさえあります。

3. AIや機械学習の導入をリードする

データの爆発的な増加に伴い、ChatGPTに代表される生成AIによってAIの民主化が進み、さまざまなビジネス部門の日常業務でアクセシビリティとユーザビリティを向上する潜在力に期待が寄せられています。企業経営者は、こうしたツールが自社の競争力の維持にどう役立つのか、まず理解することを要求しています。CIDOは、他のビジネス部門と継続的に連携しながら、AIツールの実装を実行・監視・強化するための戦略アドバイザーかつ変革エージェントの役割を担う最適な立場にあると言えます。

一方で、AI倫理とデータ戦略がCIDOにもコアコンピテンシーとなるでしょう。企業は急速にデータを生成・購入し、AIモデルの改善に役立てようとしています。データを増やせば改善されるモデルもありますが、されないモデルもあり、また常に安全に改善できるわけでもありません。粗悪なデータをモデルに追加すると、バイアスが発生し即座にパフォーマンスに悪影響を及ぼし、企業にとって重大な責任となる可能性も出てきます。社内全体に普及するAIや機械学習の取り組みをCIDOが確実に管理し続けるためには、内部の説明責任機能が重要な役割を果たします。

4. パートナーエコシステム戦略を策定し、優先事項に集中する

CIDOが戦略的な取り組みを実際にリードするためには、強力なパートナーエコシステムを築いた上で構想から実行まで手がけることが重要です。

CIDOは、どのコア機能を社内で実行し、どの非コア機能をパートナーエコシステムでサポートできるかを特定することが不可欠です。例えば、アイデアをテストし、プロトタイプやPoCを開発するためにテクノロジーインキュベーションセンターを自社で立ち上げ、ソリューション開発や全社展開の段階で外部パートナーを活用する場合もあるでしょう。

インフラ運用に深く関与することは、一部の企業にとっては優先事項ではないかもしれません。一方、例えば防衛セクターの企業などでは複雑な法規制に厳格に準拠することが前提となるでしょう。さらに、コモディティ化された領域に限定せずイノベーションのサポート役に外部パートナーを起用し、新たな機能の立ち上げを加速できれば、長期化しがちな需要の高い人材の獲得競争プロセスを開始せずに済むかもしれません。

アウトソーシングは「コスト削減」の手段に捉えられますが、一定の日常タスクを管理する負担を軽減し、より重要性の高い価値創造のための活動に重点的に注力できる利点もあります。その好例として、クラウドが業界にもたらしたインパクトが挙げられます。

こうしたアプローチをCIDOが前進させるためには、求められる専門性を調達でき、必要に応じて柔軟に拡張できるパートナーネットワークを構築しなければなりません。また、パートナー企業にサービス・レベル・アグリーメント(SLA)や品質基準を順守させ、生産性とコスト効率を維持させる管理手法として、強固なベンダー管理フレームワークを社内で整備することも欠かせません。

5. 強固な人材パイプラインを育成し、実行・調査・試行する

企業が持続的に成功をおさめるためには、コアコンピテンシーを特定し、それに適した業務モデルに調整し、あらゆる組織レベルの現状の従業員がその役割においてオペレーションとイノベーションを実行できるかどうかを評価し、ギャップがあれば適切な人材を採用するといった一連のタスクから始めなければなりません。

デジタル人材のリスキリングには、革新的なソリューションをトライアルする安全な環境を提供することで組織が従業員の試行を奨励することが必要です。最近のサミットにおいてある参加者が共有したのは、単に机上で話し合うことに終始せず「素早く試し失敗から学ぶ(Fail Fast)」アプローチをいかに実践するかについてです。何度も反復して試行錯誤するための予算を確保することで、成功は後から付いてくると言及しています。

重要なのはイノベーティブな人材を定着させることであり、また「デジタルネイティブ企業の成功の秘訣となった企業文化を醸成できるかどうかが鍵になる(英語版のみ)」と言えます。イノベーティブな企業文化では、組織横断的なオペレーション構造、新規のテクノロジーを迅速に受け入れる意欲、そして初期の成功を基にビジネスに再投資する取り組みが重視されています。

最終的にCIDOは、新たなデジタル時代に向けて自社のカルチャー変革を主導する人材リーダーとしての役割も果たすことが必須となるでしょう。多くの企業内組織で技術的な変化への抵抗が見られる中で、持続的な進歩には「感情と理性」を全社規模で変えていくことが必要です。EYパルテノンの2022年デジタル投資インデックスによると、デジタル戦略を策定する際に企業文化や社内プロセスに関わる変更を考慮している企業はまだ31%です。IT部門だけでなく、ビジネス部門全体へアジャイル手法を導入するなどの取り組みをリードするCIDOは、全社施策の実行責任者として重要な立場に位置付けられます。


Coworkers looking at data on laptop in high tech office
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第3章

CIDOを成功に導く組織のあり方とは

CIDOが優先課題に対処していく上で、組織構造と業務モデルによる支えが重要です。

企業は、CIDOが構想するスキルセットやソートリーダーシップのアプローチと一致する、新たな実行モデルや働き方を取り入れるべきでしょう。自社がより機敏な組織へと転換するためには、アジャイルモデルが全社に行き渡るようCIDOが旗振り役を務めければなりません。また、IT部門とビジネス部門のリーダー陣が変革に向けた行動を起こすためには、バリューストリーム(自社製品・サービスが顧客価値を創出するまでの流れ)を経営層が定義することも必要になるでしょう。こうしてCIDOが、体に染みついたような従来の慣習を塗り替え変革推進のために尽力する役割を果たすことができるのです。

企業が持続的な成功を遂げるためには、取締役会にテクノロジー担当役員を参画させ、CIDOとのオープンで定期的なコミュニケーションの場を設けることが必要です。こうしたコミュニケーション体制が欠如している企業は、すでに立ち遅れていると言えます。挽回しなければならない企業のCIDOは、データやテクノロジー分野の相当の経験を持つ取締役を迎え入れることを推奨するべきでしょう。

MIT Sloanの調査によると、明らかな成果としてその違いが見て取れます。デジタルに精通したメンバーが複数在籍する取締役会を持つ企業では、平均よりも利益率が17%高く、増収率が38%高く、時価総額の成長率が34%高く、総資産利益率(ROA)が34%高くなることが報告されています。


Corridors in data center

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第4章

テクノロジーリーダーが将来を見据えて考慮すべきことは何か

「完璧な」環境が整うまで待つというよくある落とし穴を、CIDOは避けるべきです。

変革を支える環境を確実に整えることが重要であるものの、自社における戦略上の優先課題に取り組む方法を複数用意し、トップダウンで定めた構想のための尽力にCIDOは専念すべきでしょう。具体的には、基本的なオペレーション機能と並行して(一部は重複させながら)事業拡大をもたらす価値創造の機会を捉え、実現方法に落とし込んでいくための業務モデルを開発することが求められています。

またCIDOは、絶えずテクノロジー知見を増やしながら損益管理を行う必要性が生じているコーポレート部門やビジネス部門のリーダーと余念なく連携するべきです。こうした部門間連携は、事業の成長や取り組みの実行に向けて社内全体でデジタル能力を成熟させる上で有益となるでしょう。それと同時に、十分な技術的スキルを持たないリーダーがITプロジェクトで独自の行動をとったり、技術戦略のオーナーシップを主張したりといった可能性があると、潜在的なリスクになります。

結局のところ、こうしてみるとCIO、CDO、CTO、CIDOにとって今ほど刺激的な時代はないと言えるでしょう。企業はデジタル市場に参入し、そこで優れた成果を上げるよう求められています。自社がこうした環境で競争力をつけ他社に打ち勝つ準備を万全にするにあたり、テクノロジーリーダーの責任がますます高まり、経営幹部の中でより大きな責務を果たしていくための足がかりにできるでしょう。

自社の変革を加速させるために、テクノロジーリーダーが即実行を検討すべき事項として以下が挙げられます。

  1. デジタル施策の目標とねらい、予測される利益効果を公式発表する。
  2. 取締役会にデジタル/テクノロジー戦略を提示し、自社が描くコアとなるビジネスの将来像と整合させる。
  3. パートナーエコシステムといった人材戦略を自社全体に展開するためのロードマップを作成する。
  4. 「金鉱」となり得るデータソースの特定を進め、自社におけるデータおよび分析の将来像を定義する。

サマリー

企業がデジタル成熟度を追求していく過程において、CIDOがいかに影響力を発揮するかが鍵を握っています。今こそCIDOにチャンスが到来しているのです。


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