サーキュラーエコノミーの新指標 GCP v1.0が企業にもたらす3つの効果(実務編)

2026年3月17日開催セミナーレポート

サステナビリティ開示業務を、AIとマネージドサービスでどう効率化するか


制度開示への移行で、サステナビリティ開示の質とスピードへの要求が厳しくなる一方、現場の人員は増やしにくいのが実情です。EYは、制度開示に対応中の上場7社をお招きし、AIと外部リソースで定型作業を減らし、重要判断にリソースを集中する実務像を議論しました。


要点

  • 2027年から段階的にサステナビリティ情報の開示と第三者保証が義務化され、企業の対応が急務に。
  • サステナビリティ情報の整備・開示に伴う業務量拡大に対し、従来型の人海戦術での対応は限界。
  • AIや外部専門家の活用により、定型業務の効率化と正確性を両立し、企業は戦略分野に集中するのが得策。

転換期にあるサステナビリティ業務

企業のサステナビリティ関連業務がいま大きな転換期を迎えています。気候変動やESGを巡る規制強化により、サステナビリティ情報開示は上場企業にとっての法定義務となっており、さらにサステナビリティ基準委員会がいわゆるSSBJ基準を策定し、2027年3月期から段階的に上場企業へ適用される予定です。有価証券報告書でのサステナビリティ関連の重要なリスク・機会と、企業への財務的影響の報告が求められ、まず時価総額の大きい企業から開示が義務化されます。その翌年からは、開示内容に対する限定的な第三者保証の取得も義務付けられる見通しです。また内閣府令により2026年3月期からは人的資本開示の拡充が求められるなど、サステナビリティ報告を取り巻く規制・基準は急速に高度化しています。

このような制度化の動きに伴い、企業のサステナビリティ情報の収集・分析・報告に係る負荷は飛躍的に増大しています。サステナビリティ情報開示は、もはや任意のCSR活動ではなく法定開示としての厳格さが求められるようになります。財務諸表と同様に、非財務(サステナビリティ)データについても内部統制の整備や監査対応を含めた徹底した体制構築が必要となるでしょう。実際、EYのグローバル調査ではCFOの9割以上が自社の非財務データ整備に課題を感じていると報告されています(*1)。また上場企業の約6割がESG情報開示対応に年間1億円超のコストを費やし、8割超が今後さらなるコスト増を見込むと回答している調査もあります (*2)。開示要求の増加に伴う対応コストは企業経営に無視できないインパクトを与えているのです。加えて、日本企業を取り巻く労働環境も深刻です。少子化により労働力人口は減少傾向にあり、ある推計では2040年までに国内の働き手は2020年比で13%減少し、特に中核世代(30~59歳)では19%もの大幅減が見込まれています (*3)。経験豊富な人材を確保し続けることが難しくなる中、拡大するサステナ関連業務を人海戦術に頼ってこなす従来手法は持続困難になりつつあります。投資家からは開示情報の正確性・信頼性向上も強く求められており、各企業はこれまでにないスケール、スピードと精度で非財務情報を扱うという課題に直面している状況です。

サステナ業務の再設計:AIと外部リソースの最適活用

こうした課題に対して、セミナー登壇者たちは「業務プロセスを抜本的に見直す時期に来ている」と強調しました。鍵となるのは、テクノロジーの活用と外部リソースの戦略的な活用です。具体的には、近年飛躍的に進化した生成AIをはじめとするITテクノロジーを積極活用し、データ収集・集計・レポート作成など定型業務を可能な限り自動化すること。そして、サステナビリティやデータ分析の専門知見を持つ外部のプロフェッショナルチームによるマネージドサービスを活用して業務全体を高品質かつ効率的に運営することです。

マネージドサービスとは、単なるアウトソーシングを超えて、高度な専門性と最新テクノロジーを組み合わせ、企業の特定業務領域を包括的に支援するサービスモデルです。従来、人手に頼っていた煩雑なプロセスを外部の専門チームが引き受けることで、社内の限られた人材資源を戦略立案や意思決定など本来注力すべき業務に振り向けることが可能となります。また従来は担当者が手作業で情報を収集し、Excelで集計していたような作業も、テクノロジーの力で飛躍的にスピードアップし、正確性も向上できるのです。

マネージドサービスによる支援内容は単に作業代行にとどまりません。セミナーでは「脱・人海戦術」をテーマに議論が行われ、属人的になりがちな業務を標準化・高度化する取り組みが紹介されました。マネージドサービス提供者は、サステナビリティデータの収集・統合・分析から報告書ドラフト作成、さらには保証提供者とのやりとりの支援まで、サステナビリティ関連業務をワンストップで請け負う体制を構築できます。これにより企業は、限られた社内スタッフで無理に対応し続けるオーバーワーク、さらに属人化やブラックボックス化を避けつつ、品質と効率を両立したアウトプットを得ることが可能となります。単発のコンサルティングではなく、運用まで含めた継続支援である点がマネージドサービスの特長であり、企業のサステナ業務の品質を長期的に底上げするアプローチと言えるでしょう。

AI活用の現在地と“正確性”を支える工夫

サステナビリティ領域におけるAI活用は、すでに現実のものとなり始めています。セミナーではその一例として、米国のテクノロジー企業が自社のサステナビリティ報告プロセスに生成AIを取り入れ、報告書記載内容のドラフト出力や想定問答集の作成を効率化している事例が紹介されました。また、日本でも金融庁の「(サステナビリティ情報の開示)好事例集2025」において「AI等を利用した分析手法に広がりに対応できるように、(中略)機械可読性と分析可能性を高めることは(中略)有用」と、AIによって開示物が分析されることを想定しています (*4)。AIによる迅速な情報分析や横比較が当たり前になる時代が目前に迫っていると言えます。

AIは人間に代わって膨大なデータ処理を行える一方で、適切に制御しなければ事実と異なる回答をもっともらしく生成してしまうリスク(いわゆる“ハルシネーション:幻覚”)があります。また従来の業務プログラムのような緻密な設計・テストを経ずに実用化できてしまうことから誤った結果を出力してしまう恐れもあります。実務でAIを活用する際には、結果を検証する仕組みと最終的な人間の目によるチェックが不可欠です。セミナーでも、「AI任せにせず、最後は人間の責任で検証・説明することが重要」との指摘がなされました。

このようなクライアント企業のニーズを先取りし、EYではセミナーに先駆け、日本のサステナビリティ基準開示に特化した生成AIプラットフォームを開発しました。このプラットフォームの設計思想は、「AIが間違えることを前提とした上で、間違いを構造的に検出・補正する」という点にあります。このプラットフォームでは、まず大規模言語モデル(LLM)を使って企業の統合報告書や有価証券報告書から所定の情報を自動抽出します。次にルールベースの検証エンジンが作動し、AIの抽出結果に含まれる数値や記述をすべてビジネスルールに照らしてチェックします。例えば、報告書から抽出された温室効果ガス排出量や人的資本に関するデータが、本来あるべき桁数や単位と矛盾していないか、文脈上の意味に沿っているか、といった点を洗い出すのです。これにより、AIの誤認識や集計ミスを検出でき、回答内容の整合性を担保しています。さらに、AIが参照するナレッジ(知識体系)にはサステナビリティ報告の基準や業界固有の専門知識を論理的に体系化した上で組み込んでおり、的外れな回答やハルシネーションを防ぐ工夫も凝らされ、構造的に抑止しています。このように、人間の専門知識を検証可能な論理ルールとして形式知化してAIに与え、AIの出力を独立したプログラムで検証するという多層的な仕組みによって、“業務で使える”AIが実現しています。

今後に向けた示唆

セミナーを通じて浮き彫りになったのは、「人間の経験知とAI技術を融合させた新しい業務モデル」の重要性です。人手不足の中で、サステナビリティ情報の開示義務化や保証導入といった環境変化に対応するには、従来の発想だけにとらわれずに業務プロセスを再構築する必要があります。先端テクノロジーと外部専門サービスを巧みに組み合わせれば組み合わせることで、作業生産性を高められるだけでなく、属人的な判断に頼らない一貫性・正確性を備えた、検証可能で説明可能なアウトプットを得ることができます。重要なのは、AIに任せきりにするのではなく、人間の専門知を検証可能な形でシステムに組み込み、AIの出力を構造的に担保する仕組みを持つことです。実際、すでに一部の先進企業ではAI活用が始まっており、その潜在力は計り知れません。

人手だけでは限界に近づいているサステナビリティ業務の現場ですが、技術と人間の知恵を組み合わせ、これからの開示・保証要件に耐え得る効率的かつ質の高いプロセスを築くために、EYでは企業の取り組みを支援すべく、最先端のAI技術と専門知見を取り入れたマネージドサービスを提供し、より一層の正確性を追求したサポートして参ります。

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松本 真 EY Financial Services, Climate Change and Sustainability Services, Partner
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手前:小林 元 EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 データサイエンスリーダー/中央:鶴田 雄介 EY新日本有限責任監査法人 気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)事業部 シニアマネージャー/ 奥:大熊 嵩平 EY Climate Change and Sustainability Services, Japan Non-Financial Reporting & Assurance Partner

(*1) 出典:”EY Global Corporate Reporting Survey,” EY website, ey.com/content/dam/ey-unified-site/ey-com/en-gl/insights/financial-accounting-advisory-services/documents/ey-gl-global-corporate-reporting-survey-10-2024.pdf (2026年4月30日アクセス)
(*2) 出典: “The Risks of Divergence Between Global ESG Reporting Standards,” Business at OECD, businessatoecd.org/hubfs/The%20Risks%20of%20Divergence%20Between%20Global%20ESG%20Reporting%20Standards.pdf(2026年4月30日アクセス)
(*3) 出典:独立行政法人 労働政策研究・研修機構 「2023年度版 労働力需給の推計 -労働力需給モデルによるシミュレーション-」 2024年8月公開公表より、最も保守的なシナリオである「一人あたりゼロ成長・労働参加現状シナリオ」を引用、www.jil.go.jp/institute/siryo/2024/documents/0284.pdf(2026年4月30日アクセス)
(*4) 出典:金融庁「記述情報の開示の好事例集2025(サステナビリティ情報の開示)」、fsa.go.jp/news/r7/singi/20251225/01.pdf(2026年4月30日アクセス)


【共同執筆者】

真貝 一之
EY新日本有限責任監査法人 金融事業部 気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS) シニアマネージャー

鶴田 雄介
EY新日本有限責任監査法人 気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)事業部 シニアマネージャー

岡本 亘
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 データサイエンス マネージャー


サマリー 

SSBJ対応で高度化するサステナビリティ開示。人手不足が進む中、AIとマネージドサービスを活用し、業務効率と正確性を両立する実務の考え方を解説。


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    この記事について

    執筆者


    EY Japan Assurance Hub

    EY新日本有限責任監査法人が経営・経理・財務に携わる方に向けて企業会計・サステナビリティ開示情報の解説や経営インサイトをお届けします。