EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
2025年11月、ブラジル・ベレンで開催されたCOP30(国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議)のサイドイベントにおいて、「GCP(Global Circularity Protocol for Business) v1.0」が公表されました。GCPは、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)及びUNEP(国連環境計画)ワン・プラネットネットワークとの戦略的パートナーシップのもと、約2年にわたる国際的な議論を経て策定された、企業向けの循環性指標に関する世界的な自主的フレームワークです。
企業はGCPを導入することで、マテリアルリスク(材料が安定的に確保できなくなる供給・価格・規制リスク)の可視化によるサプライチェーンの強靭化や、循環施策の“効果が出る領域”と“無駄な領域”の数値による判別、事業部ごとの標準KPI設定による管理会計的な運用などの有効な活用方法が考えられます。
これまでサーキュラーエコノミーには、国際的に統一された開示枠組みや指標を含む評価手法が存在せず、企業は取り組みの効果を定量的に示す手段を欠いていました。GCP v1.0は、この課題に対し、企業が自らの影響を測定・管理し、投資家や規制当局、顧客、バリューチェーンパートナーに対して透明性をもって情報を提供していくための強力なフレームワークとなっていくことが期待されます。
本稿では、GCP v1.0の概要と特徴、市場にもたらすインパクト、そして日本企業が押さえるべき重要なポイントについて解説します。
前章で記載したように、GCPは、企業のサーキュラーエコノミーへの移行を加速することを目的としたグローバルな任意プロトコルであり、「測る・マネジメントする・開示する」という一連のプロセスを標準化する枠組みです。
GCPは単なる開示に必要なチェックリストではなく、以下の目的を達成するための経営・オペレーションレベルの管理フレームワークとして設計されています1。
GCPの対象は業種・規模・地域を問わず、素材・製品レベルから事業/企業レベルまで幅広く適用可能です。それによって、マテリアルフローのスコープと指標体系が標準化されていて、企業間・年度間のベンチマークが可能となります。
さらにGCPは、企業・環境・経済・社会という4つのシステムの相互作用を前提としたシステム思考に基づいており、資源循環と同時に、気候・自然・社会的公正・経済価値の観点を統合的に扱う設計となっています。
GCPは、企業が段階的に取り組みを進められるよう、以下の5つのステージからなるユーザージャーニーとして構成されています。
最初のステップがFrame(目標とユースケースの設定)です。ここでは、素材・製品・事業/企業のどのレベルを対象にするのか、目的はリスク管理なのか、ビジネス機会の探索なのか、あるいは開示対応なのかといった「評価の軸」を決めて、関与すべきステークホルダーを整理します。
次にPrepare(評価の準備)の段階では、組織境界やバリューチェーンを洗い出し、マテリアルフローや循環性のホットスポットを可視化していきます。ダブル・マテリアリティの観点から、資源利用に関するインパクト・リスク・機会を整理し、優先順位を付けるプロセスです。
3つ目のMeasure(循環性能の測定)では、GCPが示す指標セットの中から自社に適したものを選び、社内外のデータを集計・計算します。ここで、マテリアルの循環率や資源利用効率、製品寿命の延長効果などに加え、それが気候・自然・社会・経済価値にどのような影響を与えているかを定量的に捉えていきます。
続くManage(循環性能のマネジメント)では、測定結果から優先アクションを抽出し、ロードマップに落とし込むフェーズです。部門横断での役割分担や意思決定プロセスを整理し、ガバナンス体制として定着させることで、継続的な改善サイクルにつなげることが狙いです。
最後のCommunicate(ステークホルダーとのコミュニケーション)では、投資家・規制当局・B2B顧客・サプライヤーなどの主要ステークホルダーに対し、意思決定に役立つかたちで結果を共有します。必要に応じて第三者保証も組み合わせながら、他のESG開示との一貫性を持たせて報告します。
またGCPは、企業の成熟度に応じてInitiation(導入)、Expansion(拡大)、Consolidation(統合)という3つのレベルを設定しており、限られたデータ・リソースからでも開始し、徐々に指標とスコープを拡張していくことが想定されています 。
GCPの重要な設計思想の一つがインターオペラビリティ(相互運用性)です。既存のサステナビリティ開示フレームワークと整合させることで、企業側の報告負荷を抑えつつ、データの一貫性を高めることを目指しています。
具体的には、以下の主要フレームワーク・基準と整合するよう設計されています。
GCPで得られた循環性データは、これらの枠組みの中で求められる情報(例えば、資源効率)をScope3に関連するマテリアル利用、自然資本・社会インパクトの共通データ基盤として活用できます。結果として、一度の評価結果を複数の開示・マネジメントプロセスに再利用できる点が、企業にとっても大きなメリットとなります。
GCPは、持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)がこれまで展開してきたCircular Transition Indicators(CTI)を基盤として開発されています。GCPの指標体系はCTI v4.0をベースに更新されており、定義・計算式は本質的に継承しつつ、GCP全体の構造に統合されています 。CTIは主として「指標・計算ツール」としての性格が強いですが、GCPはFrame〜Communicateまでをカバーする包括的なプロトコルとして、戦略立案・ガバナンス・開示までを一気通貫で支援する点が特徴になります。
またGCPは、ISO 59020(サーキュラーエコノミー-循環性パフォーマンスの測定と評価)やISO 59004(サーキュラーエコノミー-用語,原則及び実装のガイダンス)と定義や用語レベルで整合しつつ、企業がより実務的に使えるように、マテリアルフローの区分やオペレーショナルスコープの考え方を取り込んでいます。
GCPの測定ステージ(Measure)は、マテリアルフロー・ベースの評価手法を採用しています。
評価の基本構造
評価は大きく「Circular Performance Assessment(循環性能)」と「Circular Value & Impact Assessment(価値・インパクト)」の2カテゴリから構成され、各カテゴリに2つのモジュールがあり、合計4つのモジュールに分かれています。
Circular Performance Assessment | Circular Value & Impact Assessment |
Close the Loop | Value the Loop |
Narrow and Slow the Loop | Impact of the Loop |
循環性能の、Close the Loop はマテリアルの循環率(circular inflow/circular outflow)を示し、Narrow and Slow the Loop は資源投入量の削減(デマテリアライゼーション)や製品寿命の延長といった側面を捉えます。価値及びインパクトの観点では、Value the Loop が循環型ビジネスから生まれる経済価値(売り上げ・利益・コスト削減等)を、Impact of the Loop が循環戦略によってもたらされる気候・自然・社会的インパクト(GHG削減、PM2.5・大気汚染の低減、社会的包摂など)を評価するモジュールとして位置付けられています。
対象とするマテリアルカテゴリ
GCP v1.0では、以下の主要マテリアルカテゴリに焦点を当てています 。
水フローやエネルギーフローは今回のv1.0の評価対象外としつつ、将来バージョンでの拡張が見据えられています 。
算定アプローチの特徴
GCPではまず、インフロー/アウトフローの量(重量など)を把握し、その中でリサイクル材・再利用材・バージン材がそれぞれどの程度含まれているかを整理することで、マテリアルの循環率を算出します。
次に、製品設計や使用期間、回収率といった情報も組み合わせることで、どれだけ資源を効率的に使えているか(資源利用強度)や、製品寿命をどの程度延ばせているかを数値として捉えます。
さらに、そのような循環戦略が、GHG排出や大気汚染の削減、質の高い雇用創出など社会的包摂にどのような影響を与えているかについても、追加の指標として評価していきます。
実務プロセス
実務面では、まず自社にとって適切な指標セットを選定し、社内システムやサプライチェーンから必要データを収集、計算します。その際、データソース・ギャップ・前提条件を明示的に記録することが求められます。
GCP v1.0は、WBCSDがUNEP ワン・プラネットネットワークとの戦略的パートナーシップのもと、およそ2年かけて取りまとめられました。開発プロセスには、技術ワーキンググループとして80を超える組織・150名以上の専門家が参加し、現場の実務ニーズと科学的な妥当性に重点が置かれました。さらに、ビジネス・政策・サイエンスという3つのアドバイザリー委員会が設けられ、グローバル・ノース/サウス双方から多様なバックグラウンドを持つ専門家がレビューに関わっています。参加組織も、トムラ、フィリップス、トヨタ、パナソニック、イケア・インガ・グループ、鉱山大手、アフリカ開発銀行など、幅広い業種及び地域を代表している企業が集まっています。
ここでは、日本企業がGCPを導入した時に実際にどのような課題を解決できるのかという視点から整理します。特に、資源を海外から輸入している日本の製造業・商社・小売りなどにとって、3つの課題解決の観点から取り上げます。
日本企業が直面している大きな課題の一つは、特定の材料においてサプライチェーン上のボトルネックとなり得るサプライヤーを特定することです。脱炭素や原材料価格高騰への対応は進んでいても、「リスクが高い材料」と「代替が効く材料」の明確な区別が難しく、対策の優先順位が見えにくい状況があります。
GCPの導入によって、マテリアルフローを通じて組織境界に入る・通過する・出ていく材料を定量的に把握できるようになります。具体的には以下の観点を可視化できます。
これにより、従来は「重要だろう」と認識されていた材料についても、数量ベースの裏付けを持ったリスク評価ができるようになります。多くの資源を海外から輸入している日本の企業にとって、これは単なる環境対応にとどまらず、調達戦略・在庫政策・代替材料開発への投資判断など、サプライチェーン強靭化の中核情報として活用できる点が大きなメリットとなります。
もう一つのよくある悩みは、「循環施策の取り組みを開始したものの、どの施策が本当に効果的なのか判断が難しい」という点です。多様な取り組みが生まれる一方で、効果を見える化して、比較する仕組みが整っていないケースが少なくありません。
GCPでは、Close the loop, Narrow & Slow the loop, Value the loop, Impact of the loop の各モジュールを通じて 、
といった要素を同じ物差しで比較できるようになります。
例えば、「リサイクル材の比率を上げる」施策と、「リペアサービスを拡充して寿命を延ばす」施策を、同一製品ラインでシナリオ比較することも可能です。これにより、投資に見合う効果が大きい循環施策と、コストの割に効果が薄い施策を切り分けることができ、限られた予算・人員を「本当に効く領域」に集中させる判断がしやすくなります。
つまり、どの施策にどれだけリソースを振り向けるかを決めるマネジメントツールとしてGCPを活用できる点が、非常に実務的なメリットです。
最後のポイントは、「現場の数字」と「サーキュラーエコノミーの議論」が分断されてしまいがちだ、という課題です。環境チームがいくら温室効果ガスや循環率を語っても、事業部側のKPIと結び付いていなければ、日々の意思決定にはなかなか反映されません。
GCPは、マテリアルフローを起点とした指標体系を持っているため、例えば事業部単位で次のような標準KPIを設定し、管理会計に組み込むことができます。
これらを事業部のP/Lや投資評価プロセスとひも付けることで、「環境指標」ではなく「事業KPI」としてのサーキュラリティを運用できるようになります。例えば、新製品開発のゲートレビューで、収益性の評価項目のひとつとして「マテリアル循環性能」を組み込むといった方針が可能です。
日本の大企業では、事業ごとのKPIやインセンティブが明確である一方で、サステナビリティ目標との接続が課題になるケースが少なくありません。GCPを活用することで、経営企画・事業部・サステナビリティチームが同じ指標を共有しながら意思決定できる土台を整えられる点は、導入メリットとして非常に大きいと言えます。
GCPは、マテリアルフローを起点にサーキュラリティを「測り・管理し・開示する」ための本格的なグローバル・プロトコルであると同時に、日本企業が直面している現実的な課題(例えば、材料リスクの見えにくさ、循環施策における打ち手の優先順位付けの難しさ、事業部KPIとのつながりの弱さ)を解くための実務ツールでもあります。GCPを導入することで、どの材料・どのサプライヤーが本当のボトルネックなのかを定量的に把握し、「効く領域」と「無駄な領域」を数字で見極め、事業部ごとの標準KPIとしてサーキュラリティを管理会計に組み込んでいく、という一連の流れを一つの枠組みの中で整理できるようになります。その結果として、資源コストや調達リスクの低減、GHG・大気汚染の削減、サプライチェーン全体のレジリエンス向上といったマクロな効果にもつながっていきます。
本稿では、主に「GCPとは何か」「日本企業にとってどのような導入メリットがあるのか」という視点から、概要と位置付けを整理しました。続編となる実務編では、GCPの中身をより具体的に読み解きます。具体的には、指標、全体構造、評価の考え方、企業が今後取るべきステップなどを取り上げ、日本企業がどのようにGCPを自社の戦略・オペレーション・データ基盤に組み込んでいけるのかを、より実務的な観点から解説していきます。
ご不明点やお困りのことがございましたら、お気軽にご相談ください。
脚注
1 World Business Council for Sustainable Development and One Planet Network (2025). Global Circularity Protocol for Business (Version 1.0). November 2025, Geneva., p15, p37, p168
2 World Business Council for Sustainable Development and One Planet Network (2025). Global Circularity Protocol for Business (Version 1.0). November 2025, Geneva., p28
3 World Business Council for Sustainable Development and One Planet Network (2025). Global Circularity Protocol for Business (Version 1.0). November 2025, Geneva., p18, p56
4 World Business Council for Sustainable Development and One Planet Network (2025). Global Circularity Protocol for Business (Version 1.0). November 2025, Geneva. Annex 3: Classification of materials124 (Stage 2.5 Prepare - Prioritize your material flows) p178
5 World Business Council for Sustainable Development and One Planet Network (2025). Global Circularity Protocol for Business (Version 1.0). November 2025, Geneva., p16
6 World Business Council for Sustainable Development and One Planet Network (2025). Global Circularity Protocol for Business (Version 1.0). November 2025, Geneva.: Annex 2: The GCP progressive user journey (Stage 1.4 Frame), p 176
参考文献
World Business Council for Sustainable Development and One Planet Network (2025). Global Circularity Protocol for Business (Version 1.0). November 2025, Geneva., 2025(2025年11月21日アクセス)
【共同執筆者】
松島 夕佳子(Yukako Matsushima)
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS(気候変動・サステナビリティ・サービス)事業部
マネージャー
JICA青年海外協力隊(環境教育隊員)、環境教育・環境政策関連のNPO法人での勤務等を経て、2013年に建設コンサルタント会社に入社。建設現場での調査から資源循環・生物多様性・気候変動に係る国及び地方公共団体の環境政策・環境関連計画策定支援に多数携わり、環境分野の幅広い知見を有する。2023年にEY新日本に入社後は、サステナビリティ情報の開示支援等に従事している。
Oleg Pankov
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS(気候変動・サステナビリティ・サービス)事業部
シニアコンサルタント
2021年にEY新日本に入社し、テクノロジーコンサルティング、クライメートテック、気候変動・脱炭素、生物多様性、循環経済分野における動向調査など幅広い業務に従事。
入社前は、外資系テクノロジー企業、国内システム開発ベンチャーにてシステム導入案件や事業開発の経験を有す。
ビジネスのためのグローバル循環プロトコル(GCP) v1.0により、企業はマテリアルフローを起点に循環性能を可視化し、資源リスクとビジネス機会を戦略的に捉えることが求められます。EYは、GCPの理解・初期診断から指標設計、データ基盤構築、サプライチェーン連携まで一貫した支援を提供します。
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