EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
概要編では、GCPの全体像や日本企業にとっての導入メリットを概観し、「なぜ今GCPなのか」「どのような課題解決につながり得るのか」を整理しました。
本編では一歩踏み込み、GCPの「中身」に焦点を当てます。具体的には、どのレベルでサーキュラリティを評価し(評価レベル)、どのような指標体系で循環性能・価値・インパクトを捉えていくのかを整理し、実務で活用していただくための視点を提供します。
まず1.1では、素材・製品・企業といった 評価レベルの整理を行い、続く1.2では、その上に構築される指標体系の構造を見ていきます。
GCPでは、サーキュラリティ評価の「単位」を明確にするため、以下3つの評価レベル(assessment level)が定義されています。
それぞれのレベルは、想定されるユースケースと密接に結び付いています。
マテリアル/資源レベルでは、クリティカル・ロー・マテリアル(CRM)や価格変動が大きい素材などを対象に、調達リスクや資源効率を把握します。GCPでは、ネオジムや銅、プラスチックなど、選定された素材ごとにインフロー・アウトフローを整理し、リサイクル材比率や代替材の効果を評価する事例が示されています。これは、特定素材に関する供給リスクとコスト影響を定量的に把握するためのアプローチとして活用ができます。
製品・サービス/活動レベルは、個別ビジネスの循環施策と収益性を評価する枠組みとして位置付けられます。例えば、自動車メーカーがEVバッテリーの回収・リユース・リサイクルスキームを評価対象とし、一次資源投入量の削減効果や新たな収益機会を測定するケースが紹介されています。家電のリファービッシュ、建設機械のリビルト、リース・サブスクリプションモデルなど、具体の循環ビジネスを対象とする際に有効です。
事業部/企業レベルは、統合報告やグループ戦略のモニタリングなど、よりマクロな視点での活用を想定しています。エレクトロニクスメーカーが、自社全体のサーキュラリティを1年間の単位で評価し、サステナビリティ報告や投資家向けコミュニケーションに活用する事例が示されており、管理会計やESG開示の「共通KPI」として位置付けることが可能です。
日本企業においても、CRMのリスク管理(マテリアルレベル)、重点製品のビジネスモデル評価(製品レベル)、グループ全体の循環経済戦略の進捗管理(企業レベル)といった形で、目的に応じた評価レベルの選択が求められます。
概要編で述べたように、GCPの指標体系は、大きく以下の2カテゴリから構成され、各カテゴリに2つのモジュールがあり、合計4つのモジュールに分かれています。
Circular Performance Assessment | Circular Value & Impact Assessment |
Close the Loop | Value the Loop |
Narrow and Slow the Loop | Impact of the Loop |
Circular Performanceは、マテリアルフローに基づき「どの程度循環しているか」を把握するための指標群です。
例:インフロー総量のうち、リサイクル鋼が占める割合、回収・再利用可能な部材としてアウトフローしている割合等。
例:「1回の使用サイクル当たりの材料使用量」や、「設計変更により達成された材料削減率」「寿命延長に伴う新規生産回避量」等。
GCPでは、洗濯機用部品について、より長寿命な材料への変更により「洗濯サイクル1回当たりの材料使用量」を指標化し、相対的な材料削減効果(relative dematerialization)を評価する事例が示されています。
Circular Value & Impactは、循環戦略が生み出す経済価値と環境・社会インパクトを評価するための指標群です。
例:リファービッシュ品やリユース品の販売収益、リース・サブスクリプションモデルからの収益、リサイクル材活用による材料コスト削減等。
例:エレベーターメーカーにおいて、「バリューチェーン全体の材料投入量に対し、どれだけの売り上げを生んでいるか(circular material productivity)」を算出し、素材投入に比して付加価値創出が小さい領域を特定することで、サプライヤーとの協働や投資優先順位付けに活用。
例:ノートPC製品群において、「循環型製品/サービスによる収益の割合(material circularity revenue)」を算出し、バージン材依存や回収率の課題がどこに存在するかを把握することで、設計・調達・回収スキームを見直し。
このように、GCPの指標体系は、素材・製品・企業レベルの評価と、具体的なビジネスユースケースを結び付ける形で設計されています。自社のユースケースに即して「どのレベルで」「どのモジュールを」「どの指標で」見るのかを整理することが、導入の起点となります。
GCPにおける5つのユーザージャーニーの Stage 1「Frame(目標とユースケースの設定)」では、評価の前提として「ユースケースを明確にする」ことを重視しています。ユースケースの整理は、評価レベルの選択や指標セットの絞り込みに直結します。
代表的なユースケースとしては、以下が示されています。
日本企業においては、まず1〜2のユースケースに絞って、試行プロジェクトとして対象を限定することが現実的です。
例えば、①特定素材の調達リスクの把握、②特定製品ラインの循環ビジネスの収益性検証、③グループ全体のサーキュラリティのベースライン把握といったテーマが候補になります。
多くの企業に共通する課題は、「サーキュラリティ評価以前に、マテリアルフローの全体像が整理されていない」という点です。GCP Stage 2「Prepare(評価の準備)」は、このギャップを埋めるための実務ステップを示しています。
おおまかな進め方は以下のとおりです。
実務上は、購買データ、BOM(部品表)、生産管理データ、廃棄物マニフェスト等を組み合わせることで、マテリアルフローの「粗い見取り図」を描くことが第一歩になります。GCPが求めているのは、初期段階から完全なLCAを実施することではなく、「重要なマテリアルフローを漏れなく把握すること」である点に留意する必要があります。
その上で、各フローに対してリサイクル材・再利用材・バージン材の構成比を載せていくことで、初期的な循環性能評価が可能となります。
GCPは、循環経済の取り組みをサステナビリティ部門のみの課題と捉えるのではなく、経営・事業・オペレーションを含む横断的なテーマとして扱うことを前提としています。Stage 1「Frame(目標とユースケースの設定)」、4「Manage(循環性能のマネジメント)」、5「Communicate(ステークホルダーとのコミュニケーション)」において、体制とガバナンスに関するポイントが整理されています。
主なポイントは以下のとおりです。
日本企業における立ち上げ段階では、サステナビリティ部門を中心としつつ、調達・設計・工場・経営企画/経理を含む最小限の横断チームを組成し、「誰がどの指標を管理するか」「どの会議体で進捗をレビューするか」を明確にすることが重要になります。
GCPでは、バリューチェーン全体での協働(value chain collaboration)を重要な要素として位置付けています。特に、エレベーターメーカーや紙製品企業の事例を通じて、「指標をサプライヤーとの対話の共通言語とする」アプローチが提示されています。
具体的には、以下のような進め方が考えられます。
日本の多層サプライチェーンにおいては、Tier1より先のデータ取得や協働が課題となることが多くあります。GCPの枠組みと指標を共通基準として提示することにより、Tier2以降を含めた対話・協働の土台を整えていくことが期待できます。
本稿では、GCPの中身に踏み込み、「どの単位で何を測るのか(評価レベル)」「どの指標で循環性能・価値・インパクトを捉えるのか(指標体系)」、「そのために企業はどのようなステップを踏むべきか」という観点から整理しました。GCPは、素材・製品・事業/企業レベルを行き来しながら、Close the Loop, Narrow and Slow the Loop, Value the Loop, Impact of the Loop という4つのモジュールを通じて、サーキュラリティを事業経営と結び付けていくための実務的なフレームワークであると言えます。
日本企業にとって重要なのは、「完璧な評価」を目指して立ち止まることではなく、自社のユースケース(例:材料リスク、重点製品、外部開示など)を明確にした上で、優先すべきマテリアルフローから着手し、部門横断の体制とサプライチェーンとの対話を通じて、少しずつデータとKPIを整えていくことです。そのプロセス自体が、調達戦略や設計・開発、投資判断といった日々の意思決定にサーキュラリティを組み込む「ガバナンスづくり」につながっていきます。
EYでは、GCPをはじめとする最新のサーキュラーエコノミー・プロトコルや各種規制動向を踏まえ、自社ユースケースの整理、マテリアルフローの可視化、指標・KPI設計、データ基盤・ガバナンス構築、サプライチェーンとの協働まで一気通貫でご支援します。EYのグローバルネットワークにおけるサステナビリティ/法務ネットワークとも連携し、CSRD・ISSB等の開示対応と循環型ビジネス戦略を統合的にデザインすることが可能です。GCPの活用や循環型経済への移行をご検討の企業の皆さまは、お気軽にご相談ください。
参考文献
World Business Council for Sustainable Development and One Planet Network (2025).
Global Circularity Protocol for Business (Version 1.0). November 2025, Geneva, (2025年11月21日アクセス)
【共同執筆者】
松島 夕佳子(Yukako Matsushima)
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS(気候変動・サステナビリティ・サービス)事業部
マネージャー
JICA青年海外協力隊(環境教育隊員)、環境教育・環境政策関連のNPO法人での勤務等を経て、2013年に建設コンサルタント会社に入社。建設現場での調査から資源循環・生物多様性・気候変動に係る国及び地方公共団体の環境政策・環境関連計画策定支援に多数携わり、環境分野の幅広い知見を有する。2023年にEY新日本に入社後は、サステナビリティ情報の開示支援等に従事している。
Oleg Pankov
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS(気候変動・サステナビリティ・サービス)事業部
シニアコンサルタント
2021年にEY新日本に入社し、テクノロジーコンサルティング、クライメートテック、気候変動・脱炭素、生物多様性、循環経済分野における動向調査など幅広い業務に従事。
入社前は、外資系テクノロジー企業、国内システム開発ベンチャーにてシステム導入案件や事業開発の経験を有す。
グローバル・サーキュラリティ・プロトコル(GCP)1.0により、企業はマテリアルフローを起点に循環性能を可視化し、資源リスクとビジネス機会を戦略的に捉えることが求められます。EYは、GCPの理解・初期診断から指標設計、データ基盤構築、サプライチェーン連携まで一貫した支援を提供します。
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