サーキュラーエコノミーの新指標 GCP v1.0が企業にもたらす3つの効果(実務編)

SSBJ基準と改訂版ESRSの同時対応を見据えてどのようにGHG排出量の報告境界設定をするか(スコープ1およびスコープ2)


SSBJ基準と改訂版ESRSの同時対応が必要な企業が、手戻りのない効率的な報告のために、スコープ1とスコープ2のGHG排出量の報告境界をどのように設定すべきかを明らかにします。


要点

  • SSBJ基準と改訂版ESRSの両立が必要な企業は、両基準の報告境界の違いを理解した上で、開示指標の定義・情報収集を進めなければ、手戻りが発生する可能性がある。
  • SSBJ基準と改訂版ESRSの同時対応を見据えると、GHG排出量の測定において「財務支配力アプローチ」を採用することが手戻りを抑えるために効果的であると考えられる。

1. 日本企業の現状と課題

日本国内では有価証券報告書において「企業内容等の開示に関する内閣府令」で要求されるサステナビリティ開示基準(SSBJ基準)の適用を見据え、多くの企業が準備を進めています。また、将来的には、欧州で一定規模以上の事業を展開する企業のCSRD開示対応が必要になります。こうした背景から、SSBJ基準と改訂版欧州サステナビリティ開示基準(改訂版ESRS)の双方に効率的かつ一体的に対応するアプローチを検討する企業も多いと考えられます。

その中で留意すべきは、SSBJ基準と改訂版ESRSの間には温室効果ガスの報告境界に関する規定に差異がある点です。そのため、先行する可能性が高いSSBJ基準への対応の段階から改訂版ESRSの要件を考慮して報告境界を設定しておかないと、後の改訂版ESRS対応で手戻りが発生する可能性があります。

本記事では、スコープ1およびスコープ2の温室効果ガス排出量の測定アプローチに焦点を絞り、基準ごとの報告境界の違いを整理した上で企業の実務対応方針として取りうる選択肢を示すことを目的とします。

2. SSBJ基準の報告境界

SSBJ基準において、気候基準第49項本文に従い、原則として「GHGプロトコル(2004年)」に基づいて温室効果ガス排出を測定します。その際、報告企業として報告する温室効果ガス排出を集計する範囲は、GHGプロトコル(2004年)に規定されている「持分割合アプローチ」「経営支配力アプローチ」「財務支配力アプローチ」の3つのうち1つを選択することを求められます(SSBJ基準 気候基準60項)。

SSBJ基準で認められている3つの測定アプローチ間でのスコープ1およびスコープ2の温室効果ガス排出の報告境界の差異は以下の表の通りと考えられます。

図1

なお、日本基準上、「共同支配企業(ジョイント・ベンチャー)」に対する投資について、連結財務諸表上、持分法を適用する旨の規定がある一方で、IFRS第11号が定義する「共同支配事業」(ジョイント・オペレーション)に直接対応する包括的な会計処理の規定は、日本基準では明示されていません。このため、日本基準で開示を行っていてジョイント・オペレーションに類する事業を行っている企業は温室効果ガス排出の報告境界の決定に際しても会計基準との整合性を考慮した慎重な検討が必要となります。

3. 改訂版ESRSの報告境界

① 原則:財務支配力アプローチによる開示

改訂版ESRSでは「財務支配力アプローチ」の採用を必須としつつ、改訂版ESRS独自に報告境界に関する固有の追加規定を定めています。これは、改訂版ESRSでは、「サステナビリティ報告書は財務諸表と同じ報告主体に関するものでなければならない(改訂版ESRS1.61項)」とされており、財務支配力アプローチが、より対応する財務諸表との親和性が高いためです。

ただし、Wave1企業の温室効果ガスの測定において実務上、解釈上の懸念が生じた項目については、比較可能性確保の観点から、改訂版ESRSでは報告境界に関する追加規定を設けています。

図2

② 例外:経営支配力アプローチによる追加的開示(報告境界外の運営資産から生じる排出量を十分に表せない場合の取扱い)

前述の通り、改訂版ESRSでは「財務支配力アプローチ」による温室効果ガス排出の開示が原則です。しかし、例外として、特定の事実や状況により報告境界外の運営資産から生じる温室効果ガス排出量を「財務支配力アプローチ」の開示のみでは十分に表せない場合には「経営支配力アプローチ」に基づくスコープ1・スコープ2排出量を別途報告することが必要(改訂版ESRS E1-8. AR19項)とされています。

これは、財務的に支配はしていないが企業の運営資産として相当量の温室効果ガスを排出している資産がある場合等を想定した規定と考えられます。

4. 企業の対応方針の決定に際しての考慮事項

前章まででSSBJ基準と改訂版ESRSの基準の内容を参照し、温室効果ガス排出量のスコープ1およびスコープ2における報告境界の違いを整理しました。

図3

SSBJ基準では「持分割合アプローチ」「経営支配力アプローチ」「財務支配力アプローチ」からの選択適用である一方で、改訂版ESRSでは「財務支配力アプローチ(場合によって、経営支配力アプローチを併用)」が必須です。このため、「財務支配力アプローチ」を採用することが、SSBJ基準およびCSRDの双方の対応が必要となる企業にとって手戻りを防ぐ効率的な方法と考えられます。

しかしながら、改訂版ESRSでは報告境界に関する追加規定を適用しなければならない場合があり、SSBJ基準で採用可能なGHGプロトコル(2004年)の「財務支配力アプローチ」と完全に一致しないケースが生じる可能性がある点には注意が必要です。

したがって、先行してSSBJ基準対応の準備を進める際にも改訂版ESRSの報告境界に関する規定を参照し、自社の温室効果ガス排出の状況に鑑みて、SSBJ基準と改訂版ESRSによる温室効果ガス排出報告の間にどのような差異が生じ得るのかを把握する必要があります。

その上で、差異が生じる場合には、温室効果ガス排出量の報告に向けた情報収集の設計時にその差異を考慮したプロセスを構築することが手戻りのない効率的な開示準備につながります。

【共同執筆者】

EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部 米国公認会計士  マネージャー 山中 紗織

EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部 シニアコンサルタント 松井 俊樹

EY Belgium JBS(Japan Business Services)  公認会計士 CFA 日本アクチュアリー会 準会員   馬場 翔太 


サマリー 

「財務支配力アプローチ」を採用することが、手戻りを防ぐ効率的な方法と考えられます。しかしながら、改訂版ESRSでは報告境界に関する追加規定を適用しなければならない場合があり、SSBJ基準で採用可能なGHGプロトコル(2004年)の「財務支配力アプローチ」と完全に一致しないケースが生じる可能性がある点には注意が必要です。


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