EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
2026年8月12日にEU包装・包装廃棄物規則(PPWR)が適用開始されました。しかし、多くの日本企業では対応が十分に進んでいません。本稿では、PPWR対応の第一歩として優先的に検討すべき3つの実務論点を解説します。
要点
2026年8月12日、EU包装・包装廃棄物規則(Packaging and Packaging Waste Regulation:以下PPWR)の主要な要求事項が適用開始されました。PPWRは、包装廃棄物の削減、包装のサーキュラーエコノミー促進、加盟国間でのルール統一を目的とした包括的な規制であり、包装の設計からリサイクル、再生材利用、ラベル表示、リユースまで幅広い要求事項を規定しています。
もっとも、制度開始後の現在においても、多くの日本企業では対応が十分に進んでいるとは言い難いです。実際、企業との意見交換を行う中でも、「自社が対象なのか分からない」「何から対応すべきか分からない」「2030年要求と2026年要求が混在している」といった声を耳にします。PPWRは条文数も多く、要求事項も多岐にわたるため、全体像を把握しづらいことがその背景にあります。
しかし実務上は、まず優先的に対応すべき論点はかなり明確です。本稿では、PPWR対応支援や企業との議論を通じて見えてきた「日本企業が優先的に取り組むべき3つの論点」を整理したいと思います。
【自社の立場の特定】
PPWR対応において、まず整理しなければならないのは、
です。
PPWRでは、製造者、輸入者、流通者など主体区分ごとに義務が規定されています。また、同じ製品であっても商流によって主体区分が変わる場合があります。さらに、緩衝材や内装材など、一見すると包装と認識されにくいものも包装として扱われる可能性があります。そのため、自社の製品や包装について、
を整理し、PPWRの影響範囲を特定するインパクトアセスメントが重要となります。
実務的には、この整理を行わないまま個別要求事項の検討に着手すると、「そもそも対象外だった」「実際の義務主体は別法人だった」といった手戻りが発生するケースも少なくありません。
また、日本企業が見落としやすい点として、「自社はブランドオーナーであって包装メーカーではないため、PPWR上の製造者には該当しないのではないか」という認識があります。しかしPPWRにおける製造者の考え方は、日本企業が一般的にイメージする「包装を製造する事業者」とは必ずしも一致しません。実際には、包装の設計や市場投入に関与し、自社名や商標のもとで包装された製品をEU市場に供給する企業が製造者に該当するケースが少なくありません。
そのため、日本企業においては「包装材メーカーの対応状況を確認すればよい」という発想ではなく、自社自身がPPWR上どの主体に該当するかを整理することが重要となります。
【技術情報の作成】
PPWR対応の中核に位置づけられるのが、技術文書(Technical Documentation:以下TD)です。
PPWRでは、製造者は包装の適合性評価を実施し、その結果を技術文書として整理・保管しなければなりません。また、その内容を根拠としてEU適合宣言書(Declaration of Conformity:以下DoC)を作成し、市場監視当局から求められた場合には提示できる状態にしておく必要があります。
ここで重要なのは、PPWR対応を単なる「文書作成業務」と考えないことです。
多くの企業では、
といった状況にあります。
そのため、技術文書作成の本質は、むしろ「情報取得の仕組み作り」にあります。
具体的には、
という流れを構築する必要があります。
そして現在技術文書の中核をなす要求事項として有害物質が挙げられます。PPWRでは鉛、カドミウム、水銀、六価クロムに関する既存要求が継続されるほか、一部食品接触包装についてPFAS(ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物)規制が適用されます。
企業が悩みやすいのは、
といった点です。
法律上は基準値が規定されている一方、確認方法については実務的判断が求められる部分も多いです。したがって、情報源や根拠を整理しながら、適切な確認手段を選択していくことが重要となります。
【有害物質調査の考え方】
また、実務上見落とされがちな点として、「完璧な情報を最初からそろえることは難しい」という現実があります。サプライヤー側でも情報整備が進んでいないケースは少なくありません。
そのため、まずは取得可能な情報を整理し、不明点や情報不足箇所を把握した上で、継続的に文書を充実させていく運用設計が現実的です。
PPWR対応においては、有害物質対応、表示対応、将来のリサイクル性対応など、さまざまな要求事項が存在します。しかし、それらの多くは最終的にTDへ集約されます。言い換えれば、TDを中心とした情報管理の仕組みが構築できているかどうかが、今後のPPWRの対応を円滑に進めるための基盤となります。
また、ここで日本企業特有の課題となるのが、サプライヤーとの関係です。
欧州域内においては、サプライチェーン全体がPPWRの影響を受けるため、包装材料や構成部材のサプライヤー側も規制内容を理解し、顧客への情報提供を前提として準備を進めているケースが少なくありません。
一方、日本の包装材料サプライヤーは多くの場合EU域外に位置しており、PPWR上の直接的な義務を負いません。そのため、規制内容を十分に把握していない場合や、顧客が必要とする情報を保有していない場合も想定されます。
結果として、製造者側が法令要求を整理した上で、なぜその情報が必要なのかを丁寧に説明しながら、サプライヤーと協力して情報収集を進める必要があります。日本企業におけるPPWR対応は、単なる法規制対応というよりも、サプライチェーン全体の情報管理能力が問われるプロジェクトと言えます。
2026年8月12日に向けて企業が優先的に取り組むべき具体的なテーマとして、表示対応が挙げられます。
現在でも、「ラベル表示は2028年からだから、まだ対応不要」と理解している企業が存在します。しかし、これは第12条の統一ラベル表示と、第15条・第18条の識別情報および事業者情報表示を混同しているケースが多いです。
実際には、製造者情報、輸入者情報、識別情報などの表示については既に対応対象となっています。包装と技術文書を結び付ける識別情報は、PPWR対応の根幹となる仕組みでもあります。
さらに実務上は、
といったオペレーション設計も必要になります。単なる法令解釈ではなく、製造現場や物流現場を含めた業務プロセス全体の見直しが求められます。
さらに、日本企業には通関という特有の論点も存在します。
EU域内で既に流通している製品と異なり、日本から輸出される製品はEU市場に入る際に必ず通関手続きを経ます。そのため、表示不備や必要書類の不足といった問題が物流の節目で顕在化しやすい点に留意が必要です。
特に識別情報や事業者情報の表示は、現物を見ることで確認できる要件であるため、不適合が外形上確認されやすい点にも留意が必要です。PPWR対応は法務部門やサステナビリティ部門だけの課題ではなく、貿易実務やSCM、品質保証部門も含めた全社的な対応として捉える必要があります。
PPWRというと、2030年以降のリサイクル可能性評価や再生材利用率の達成などに注目が集まりがちです。しかし現在、多くの日本企業にとっての喫緊の課題はそこではありません。まず必要なのは、
です。
特に日本企業の場合、
といった欧州企業にはない特有の課題を抱えています。
実際、企業との意見交換の中でも、「自社が製造者に該当するのか分からない」「サプライヤーから必要な情報が取得できない」「技術文書をどのように構成すればよいか分からない」「識別情報や事業者情報の表示方法を決められない」といった悩みを多く耳にします。
PPWR対応の本質は、単なる法令対応ではありません。インパクトアセスメント、サプライヤーからの情報収集、有害物質評価、TD・DoCの作成、そして現物表示までを一貫して運用する「包装情報の取得・証拠化・ひも付け」の仕組みを構築することにあります。
EYでは、PPWR対応に向けたインパクトアセスメント、義務主体整理、IRLの設計・展開、有害物質調査、TD・DoCの作成支援、識別情報・事業者情報表示の運用設計まで、企業の実務対応を包括的に支援しています。
2026年8月12日は、PPWR対応のゴールではなく重要な起点です。今後、リサイクル可能性評価、再生材含有率、リユース要件など、さらに高度な要求事項への対応が求められる中、まずは足元の対応状況を確認し、自社に必要な対応を具体化することが重要です。必要に応じて外部専門家も活用しながら、法令解釈、サプライチェーン情報収集、技術文書化、表示運用までを一体として設計することが、今後のPPWR対応を着実に進める第一歩となります。
【共同執筆者】
茂呂 正樹(Moro Masaki)
EY Climate Change and Sustainability Services, Japan Environmental, Health & Safety (EHS) Leader, Nature Services APAC Regional Lead
PPWR対応の鍵は、製造者などの義務主体整理、技術文書を中心とした情報管理体制の構築、そして表示対応の実装にあります。特に日本企業は、サプライヤーからの情報収集や通関対応など独自の課題を抱えており、早期の対応体制整備が重要です。
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