EUの包装および包装廃棄物規則(PPWR)の概要と企業への影響

EUの包装および包装廃棄物規則(PPWR)の概要と企業への影響


EUの包装および包装廃棄物規則(PPWR)とは?規則の要点と企業が備えるべき対応ポイントを解説します。


要点

  • 欧州では2025年2月に、包装の材料やリユース、リフィル、リサイクルまで多岐にわたる目標や要件を課した包装および包装廃棄物規則(PPWR)が発効した。
  • EU域外企業も含め、事業者は包装の削減、材料の見直し・転換、ラベリング、新たな物流やリユースシステムの導入など循環型のシステムへの変革が求められる。
  • 特に2030年から開始するプラスチックリサイクルに関する量的規制は日本企業への影響も大きく、先行しての準備が極めて重要である。
  • EYは、サーキュラーエコノミーの専門家による影響分析、包装設計やサプライチェーンの見直しや内部体制整備、継続改善まで包括的な支援が可能。


1. PPWRの背景

EUでは、過去10年間で包装廃棄物の量が約25%増加し、何も対策が採られなければ2030年までにさらに19%、プラスチック包装廃棄物については46%増加すると予想されています。包装材のリユースやリサイクルが十分に進んでいない状況をふまえ、これまでにあった包装および包装廃棄物指令(PPWD)に置き換わる形で包装および包装廃棄物規則(Packaging and Packaging Waste Regulation、以下PPWR)が2022年11月に提案され、2025年2月に発効しました。


2. PPWRの内容解説

2.1 PPWRの概要・全体

PPWRは欧州グリーンディールと新サーキュラーエコノミーアクションプランの一環として、2030年までにEU市場のすべての包装材を経済的に実行可能な方法でリサイクル可能にすることを目指し、加盟国や経済事業者(製造業者、供給業者、輸入業者、流通業者等)に対して包装の材料やリユース、リフィル、リサイクルまで多岐にわたる目標や要件を課しており、日本企業においては、対EU輸出金額が大きい各種電子機器を筆頭に製紙、パレット、プラスチック、包装、化学、飲食・飲料等幅広い業界に大きな影響が及ぶと想定されます。ここで、素材にかかわらず原則すべての包装材が対象となること、および製造業者とは包装だけでなく包装された製品を製造する事業者も含むことに注意が必要です。

同規則に違反する行為に適用される罰則はPPWR上では規定されておらず、各加盟国が定める必要があり、事業者の義務を順守しない場合は行政罰金が科される可能性もあります。

2.2. 個別要件

PPWRの主な内容は下記の構成となっています。

条項

セクション

主な内容

第5条~第11条

持続可能性要件

懸念物質の使用規制、リサイクル可能な包装、プラスチック包装におけるリサイクル材含有割合、プラスチック包装におけるバイオベース材、堆肥化可能な包装、包装の最小化、リユース可能な包装

第12条~第14条

ラベリング、マーキングおよび情報要件

包装のラベル、包装廃棄物回収容器のラベル、環境主張

第15条~第23条

一般的な義務

製造業者、サプライヤー、輸入業者、流通業者等の一般的な義務

第24条~第33条

経済事業者の包装および包装廃棄物の削減義務

過剰包装に関する義務、特定の包装の禁止、リユース、リフィルに関する義務

第34条

プラスチックレジ袋

加盟国によるプラスチックレジ袋の削減

第35条~第39条

包装の適合性

適合性評価のプロセス、適合宣誓

第40条~第57条

包装および包装廃棄物の管理

拡大生産者責任(EPR)、加盟国によるリユース・リフィルシステム、リサイクル目標

本記事では関係する企業が多いと想定される、「リサイクル」、「ラベルおよび環境主張」、「包装の適合性」、「拡大生産者責任(Extended Producer Responsibility、以下EPR)」に関する要件の詳細について解説します。

2.2.1 リサイクルに関する要件(第6条~第7条)

PPWRでは7つの持続可能性要件(懸念物質の使用規制、リサイクル可能な包装、プラスチック包装におけるリサイクル材含有割合、プラスチック包装におけるバイオベース材、堆肥化可能な包装、包装の最小化、リユース可能な包装)を定め、当該要件を満たさない包装の上市を禁止しています。各要件への適合は、製造事業者が技術文書で実証し、自己の責任で保証・宣誓する必要があります(2.2.3を参照)。本記事では持続可能性要件のうち、リサイクルに関する要件(リサイクル可能な包装、リサイクル材の利用)について見ていきます。

まず、2030年1月1日以降、すべての包装*はリサイクル可能でなければならず、2028年1月1日までに委任規則で定められるリサイクル設計基準に準拠する必要があります。また、 2035年1月1日以降は、包装が「大規模にリサイクル可能」であることも求められます。ここでいう「大規模にリサイクル可能」とは、他の廃棄物のリサイクル可能性に影響を与えることなく、特定の廃棄物の流れに分別され、大規模にリサイクル可能であることを意味します。この大規模リサイクルに関する方法論は2030年1月1日までに実施規則で詳述される予定です。

製造者は、上述の委任規則および実施規則に従って、包装のリサイクル可能性を評価する必要があり、リサイクル可能性の等級がA、BまたはCに分類されない包装は、2030年以降EU市場で流通することが認められなくなります。さらに、リサイクル等級がCに該当する包装も2038年以降はEU市場で流通することはできなくなります。

*軽量木材、コルク、繊維、ゴム、セラミック、磁器、ワックスでできた販売用包装材、医薬品包装、医療機器、診断機器、乳児用粉ミルク用包装材、危険物輸送用包装等は適用除外

次に、原料中に含めるべき素材としてのリサイクル材の利用についてはプラスチック包装**が対象となっており、2030年、2040年以降で下記のとおり定められた割合以上のリサイクル材を含める必要があります。

包装の種類

包装に含まれるリサイクル材は、EU域内で収集されたもの、またはEUと同等の基準で第三国で収集されたものを使用することが義務付けられており、利用可能なリサイクル技術に関する委任規則、リサイクル材の割合等を計算する実施規則、第三国におけるリサイクル技術の同等性の判断に係る実施規則を2026年末までに規定する予定となっています。

**医薬品包装、医療機器、堆肥化可能なプラスチック包装、乳児用飲料・食品の包装、危険物、包装単位全体の総重量の5%未満であるプラスチック部品等は適用除外

2.2.2 ラベルおよび環境主張に関する要件(第12条~第14条)

PPWRでは、消費者による分別の促進および廃棄物回収率とリサイクル率の向上に向け、一部の例外を除いてすべての包装について統一ラベルおよび表示要件が導入されます。

2028年8月12日(または関連実施規則施行から24カ月後の遅い方)以降に市場に出す包装(eコマース用包装含む)には、材質を示す統一ラベル(ピクトグラム)を貼り付ける必要があり、消費者の誤認や混乱を招く表示は禁止されます。さらに堆肥化可能な包装はその旨の表示、リユース可能な包装や懸念物質を含む包装はデジタルマーク(QRコード等)による情報提供等も義務付けられます。

統一ラベルやその表示要件および形式に関する仕様、デジタル技術による材料構成の識別方法論等は2026年8月12日までに実施規則で規定される予定で、自主的にリサイクル材の割合やバイオベースプラスチックの割合を表示する場合も当該実施規則に従う必要があります。移行措置として、ラベルに関する規則の施行前に製造または輸入された包装は、施行から3年間は販売可能とされています。

また、包装について環境主張を行うためには、包装がPPWRで定められた最低基準を上回っており、かつその主張が包装のどの範囲についてのものか(「ふたのみ」等)明示する必要があります。さらに、主張の裏付けとして技術文書を作成・保管しておく必要があります(2.2.3を参照)。

2.2.3 包装の適合性に関する要件(第35条~第39条)

製造業者は、包装が要件に適合しているかどうかをPPWRの付属書で定められた下記手順に従って評価し、EU適合宣誓書を作成・継続的に更新する必要があります。EU適合宣誓書を作成することにより、製造業者は包装の適合性に対する法的責任を負うことになります。

包装の適合性に関する要件

2.2.4 拡大生産者責任(EPR)に関する要件(第45条~第47条)

PPWRにおいて、企業は拡大生産者責任(EPR)の下で、包装材の分別回収やリサイクル費用のほかに、情報提供やラベリングに係る費用等の負担が求められます。EPRとは、「製品に対する、物理的/財政的な生産者責任を製品のライフサイクルの使用済み段階まで拡大すること」と定義されており、EUでは包装以外にも、バッテリー、ELV(廃車)、電気・電子機器等の分野でEPR制度が適用されています。

PPWRでは生産者(EU加盟国において包装・包装された製品を最初にEU市場で利用できるようにする製造業者、輸入業者、流通業者)、または生産者から指名された許可代理人は、生産者登録簿への登録、毎年(または四半期)の報告(市場投入量・回収量・リサイクル量等)および各種費用(廃棄物の分別回収・輸送・措置、情報提供、データ収集、廃棄物収集用容器へのラベリング、廃棄物の組成分析調査等)の負担が義務付けられています。

生産者登録簿への登録と報告形式(データの詳細度や、情報提出の対象となる包装の種類や材料カテゴリーを含む)は2026年2月12日までに実施規則で規定予定であり、登録簿は実施規則施行の1年半後までに設置される想定です(最速でも2027年8月ごろから登録開始の可能性)。

2.3 タイムライン

PPWRにおいては条項ごとに施行期日が異なっており、リサイクルやラベル、EPRに関する条項のタイムラインは下記のとおりです。上市が禁止されるリサイクル可能性の等級やラベル貼り付け対象は段階的に規定されていきます。また、関連する委任規則および実施規則の制定タイミングにも注視する必要があります。

タイムライン

3. 企業に対する影響

これまで見てきたように、企業は包装の削減、材料の見直し・転換、ラベリング、新たな物流やリユースシステムの導入など循環型のシステムへの変革が求められることになります。

PPWRにおいては、包装や包装された製品をEU加盟国内で最初に市場に流通・販売させた企業が「製造者」とみなされるため、EU域内に現地法人を有し、その現地法人が当該加盟国において初めて包装や包装された製品を販売する場合やオンライン販売により直接EU消費者に販売する場合には、日本企業でもPPWRに準拠した包装に切り替え(包装メーカーの場合は準拠した材料の調達も含め)、適合性評価を実施し、技術文書およびEU適合宣言を作成する必要があります(ただし、EPRに関する要件については、生産者が第三国に設立されている際、代わりにEU域内で拡大生産者責任を履行する「認定代理人」の指名が加盟国によって義務付けられる可能性があります。その場合は認可代理人が事業者の代わりにEPRスキームへの登録や規則の順守などの責任を負うことになります)。

また、包装や包装された製品をEUに輸出しているのみの場合は、輸出先のEU域内にある企業が「製造者」とみなされますが、その「製造者」が製品の適合性を示すために必要な情報(リサイクル可能性やリユース可能性、含有物質等)や書類を提供する法的義務があります。

PPWRは、要件を順守しないことでEU市場からの締め出しや短期的なコスト増加、ブランドイメージの損失などのリスクをもたらす一方で、環境負荷の少ない包装のイノベーションや新たな市場拡大、サプライチェーン最適化、早期対応による競争優位の獲得等の機会を提供します。


4. EY支援の特徴

PPWRは要件が多岐にわたり、しかも具体的な要求事項を定める委任規則や実施規則の多くが採択されるのは2026年~2030年になるとされています。一番早い実施規則が2026年に迫る一方、その対応には包装設計やサプライヤーの見直しなど時間を要するため、企業はできる限り早い段階から準備を進めることが推奨されます。EYでは、規制内容の把握、影響分析から始め、包装設計やサプライチェーンの見直しや内部体制整備、継続改善まで包括的なご支援を実施します。

PPWRへの対応支援ステップ

5. まとめ

PPWRは、包装製造業者だけでなく包装された製品の製造業者も対象となり、包装が製品の品質を保つだけでなくブランドのアイデンティティーを強化する役割も果たしていることをふまえると、多くの業界に影響を及ぼす仕組みとなることが予想されます。

EYでは、サーキュラーエコノミーの専門家による知見と洞察を生かした、法的要件の理解、影響度分析、包装設計やサプライチェーンの見直し、内部体制整備等のご支援を提供します。ご不明点やお困りのことがございましたら、お気軽にご相談ください。


参考文献
Packaging and Packaging Waste Regulation 2025/40 (PPWR), European Union, 2025
eur-lex.europa.eu/eli/reg/2025/40/oj/eng(2025年6月24日アクセス)



【共同執筆者】

竹子 清楓(Sayaka Takeshi)
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部(気候変動・サステナビリティ・サービス)シニアコンサルタント

2023年にEY新日本有限責任監査法人に入社し、気候変動・脱炭素、生物多様性、循環経済分野におけるサステナビリティ開示支援や動向調査など幅広い業務に従事。
入社前は、外資系テクノロジー企業・コンサルティングファームにてシステム導入案件やBPRの経験を有す。


サマリー 

2025年2月に発効したEUの包装および包装廃棄物規則(PPWR)において、事業者は包装の削減や材料の見直し、ラベリング、新たな物流・リユースシステムの導入が求められます。EYは、プロフェッショナルによる影響分析や包装設計、サプライチェーンの見直し、内部体制整備、継続的改善まで包括的な支援を提供します。


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