【関西エリアの取り組み】インバウンドを起点に構築する関西「観光」エコシステムとは

【EY関西エリアの取り組み】
インバウンドを起点に構築する関西「観光」エコシステムとは


「訪日外国人6,000万人」も射程に入りインバウンド拡大が追い風の中、2030年の大阪IR開業へ向けた関西圏観光ビジネスの行方が注目されています。東京を始点とするゴールデンルート終着地としての大阪・京都から、瀬戸内まで含む広域回遊の中心エリアとしての関西へ。

これからの関西観光経済圏のあり方を、阪急阪神ホールディングス株式会社の動きとともに見ていきます。



要点

  • インバウンド拡大を背景に、いかにして大阪・京都から周辺地への広域回遊を促し、滞在長期化と消費拡大を実現するかが大きな課題。
  • エクスペディションクルーズや和食と相撲の体験施設など、インバウンドに特化した体験型ツーリズムが注目を集めている。
  • 観光・エンタメビジネスのこれからを象徴するキーワードは「セレンディピティ」。偶発性を備えたイマーシブな希少体験を演出する仕掛けが必要。


大阪・京都から瀬戸内へ、関西に築く広域回遊圏

平林 知高 EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジックインパクト パートナー
平林 知高
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ストラテジックインパクト パートナー

岩崎:
国の観光行政を方向付ける新しい「観光立国推進基本計画(第5次)」が、2026年3月27日に閣議決定されました。そこに示されたように、拡大するインバウンド市場を背景として、「消費額拡大」「地方誘客促進」「観光と交通・まちづくりとの連携強化」などの方針が強化されるものとみられます。また、訪日客の多様化と「量から質へ」の転換も加速していくでしょう。特に関西では、昨年(2025年)の大阪・関西万博を踏まえ、2030年の大阪IR(統合型リゾート)開業へと続く変革期にあって、都市全体での価値創造のあり方が問われている状況です。
 

平林:
そうですね。周知のように、2025年の訪日外国人客数は全国で約4,268万人1、消費額は約9.5兆円2で、いずれも過去最高となりました。関西圏のインバウンドも大幅に拡大し、消費額も約2.4兆円と前年比で25%増加しており、万博効果も含めて好調な状況でした。
 

岩崎:
そうした追い風を受ける中、好調のインバウンドを足掛かりに関西圏の価値をさらに高めるにはどうするか。本日は、交通・不動産・エンターテインメントなど広範囲にわたる取り組みを展開されている阪急阪神ホールディングス様のお考えを伺いながら、意見交換ができればと思います。
 

鞍掛氏:
大阪は今、「アジアNo.1の国際観光文化都市」を旗印に掲げ、2030年までにインバウンドで来客2,000万人、消費額4兆円を目標にしています。そのスプリングボードになるのが、大阪・関西万博であり、大阪IRの開業です。当社グループもこの機を逃さず、観光・インバウンド市場における展開に向け、グループ連携を強化する体制で臨んでいるところです。
 

平林:
関西ではやはり、大阪・京都の人気が突出していますし、そのことでオーバーツーリズムの問題も取り沙汰されています。インバウンド観光の起点は関西空港になると思いますが、そこからどう周辺地に分散し、滞在延期につなげ、広域回遊を促すかが、重要になってくると思います。
 

鞍掛氏:
おっしゃるとおりです。今は東京から入って大阪・京都に抜けるルートが主流ですが、IR開業後は、ぜひとも大阪スタートを定番化したい。梅田を中心とするエリアは当社グループの拠点ですから、インバウンドの受け皿となる基盤づくりについて、都市交通、不動産、エンタメ、旅行といった阪急阪神ホールディングスのグループ会社はもちろん、百貨店運営のエイチ・ツー・オー リテイリングなども含めたオール阪急阪神の団結が求められるところです。
 

岩崎:
まさにそのようなことを目的として、御社ではこの4月1日付で「観光・インバウンド推進室」を発足させたわけですね。
 

鞍掛氏:
はい。インバウンド市場における継続的な新規事業の開発、そしてグループ連携の促進を目的とする組織です。これまでのグループ開発室事業開発部の機能の一部を発展的に改組して立ち上げました。今後の成長が見込める富裕層市場や自治体向けのB to G領域への展開も含めて、観光・インバウンド推進室が中心となってグループ内の情報を集約し、成長事業を生み出す体制を整えます。
 

平林:
そうした総合力を駆使して、関空や梅田エリアの機能強化を果たしつつ、そこから周辺地への動線を構築していくことになりますか。
 

鞍掛氏:
はい。大阪を出発して関西全域、そして瀬戸内海へとつないでいくツーリズムの形成を目指していきます。
 

平林:
御社のビジネスの一丁目一番地、すなわち沿線エリアを中心とする事業にとらわれず、あらゆるビジネスチャンスを求めて新たな人流を生み出そうと。
 

鞍掛氏:
大阪IRの予想来場者数は年間で約2,000万人、このうち600万人が海外からのお客様と見込まれています3。こうしたインバウンド拡大に応じた沿線エリアの機能強化はもちろんおろそかにいたしませんが、いかに広げるかが最大の課題。大阪・京都を旅の終着地ではなく出発地として、関西・瀬戸内エリアで1週間くらいは滞在してもらえるようにできればと考えています。
 

平林:
一方で足元の関空を見れば、国際線にまだ余力があります。24時間体制のインバウンド受け入れが加速したとき、飲食・遊興のさまざまな施設の夜の営業時間帯をどうするかも課題ではないでしょうか。
 

鞍掛氏:
確かにそれはありますね。難波あたりではだいぶ充実してきましたが、東京・六本木のようにはいきません。
 

平林:
集客が見込めるアセットがあるのに、眠った時間帯があるのはもったいない気がします。それとは裏腹に、営業時間内でも意外にすいているときがある。例えば、来店しなくてもアプリを使って空席状況を見てブッキングできる仕組みを取れ入れるなど、稼働率を上げる工夫も必要でしょう。実際、そこに目を付けたスタートアップも出てきています。そうした新しいアイデアを持つ企業と連携し、柔軟かつ迅速にビジネスを展開するチャンスでもあります。
 

 

インバウンド向けエクスペディション観光の仕掛け

鞍掛 斉也 氏 阪急阪神ホールディングス株式会社
鞍掛 斉也 氏
阪急阪神ホールディングス株式会社
観光・インバウンド推進室観光・インバウンド事業開発部長 兼 観光・インバウンド推進室観光・インバウンド事業推進部長
(前グループ開発室 事業開発部 インバウンド・観光開発担当部長)

岩崎:
瀬戸内エリアへの展開というお話ですが、具体的にはどのような取り組みを進めていかれますか。

鞍掛氏:
インバウンド富裕層向けのクルーズ計画が始まっています。ポナンというフランスのクルーズ会社が所有するラグジュアリー船をチャーターし、神戸港を起点に瀬戸内海など西日本の景勝地を巡るツアーを販売する予定です。2027年春の実現に向けて、寄港地やアクティビティを調整しているところです。

岩崎:
ポナン社というと、大自然の中を探検するエクスペディションクルーズや秘境クルーズなどのラグジュアリーな船旅で知られていますね。

鞍掛氏:
はい。このツアーでも、エクスペディション(探検)は大きなテーマです。瀬戸内海に浮かぶ無数の島々で出会う自然や食、文化、そしてアートは外国人にとって魅力的な観光資源であると思いますし、寄港地でのさまざまな交流と体験を売りにしたいと考えています。

岩崎:
航路は瀬戸内エリアが中心ですか。

鞍掛氏:
瀬戸内は必ず含まれますが、九州各地や韓国の釜山を巡るコースや、紀伊の勝浦、焼津などを経由して横浜に至るもの、また逆に横浜港から神戸港に向かうルートなどを計画しています。

平林:
大阪・京都から視点をずらす意味でも、神戸が起点となるのはとてもいいですね。最近、あるOTA(Online Travel Agent)の方から聞いたのですが、世界のラグジュアリークルーズ市場というのは必ずしもわれわれがイメージするような「世界一周もの」ばかりでなく、途中の寄港地から寄港地までの区間乗船(セクター・クルーズ)というのも一般化しているそうですね。その寄港地までは飛行機で行ったりするフライ&クルーズも主流となっており、そうなると料金は割安になるため、若い人たちにも人気が出ていると。

鞍掛氏:
それはいいですね。今までは外国人向けに販売するクルーズ商品は日本にあまりなかったようですが、そうした新しい発想で市場を広げていけるように思います。例えば、島々の小さな漁港に客船からボートで乗りつけるような体験は、外国人にとって魅力的に映ると思われますし、観光による地域の活性化にもつながります。

岩崎:
陸上のエクスペディションとしては、「THE SUMO HALL日楽座」という体験型観光施設が人気を博していると伺いました。難波に続いて、東京・銀座に2号店を開業されたとか。

鞍掛氏:
銀座店は2026年1月から。大阪の方は「なんばパークス」で2024年5月のオープンです。「EDO Spirit ─Sumo & Culture Experience─」をコンセプトに、相撲と和食をテーマにした体験型レストランとしてインバウンド向けに提供したところ、ご好評をいただきまして。

平林:
初めからインバウンドをターゲットにされたわけですね。見て、食べて、学んで、実際に土俵ステージの上で相撲体験もできて、全編にわたって英語でアナウンス。完璧なまでにインバウンド対応に寄り切っていて圧巻です。往々にして、日本のビジネスは振り切り方が中途半端になりがちですから。

岩崎:
社内からの発案で実現されたビジネスなのですよね。

鞍掛氏:
グループ会社の阪神コンテンツリンクが手掛けました。音楽事業や広告メディア事業を行う会社ですが、コロナ禍前から計画していて、ビルボードライブや阪神甲子園球場のイベント運営などを通じて培ったショービジネスのノウハウを生かしたようです。おかげさまで、国内外から「出張巡業」の引き合いもいただけていると聞いています。

THE SUMO HALL日楽座
THE SUMO HALL日楽座

「セレンディピティ」が変える観光エンタメビジネスの未来

岩崎 亜希 EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 公共・社会インフラセクター ディレクター
岩崎 亜希
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
公共・社会インフラセクター ディレクター

平林:
そうしたお話を伺いますと、まさに体験重視・偶発性重視のライブツーリズム、あるいはセレンディピティツーリズムの波が来ているのを感じます。生成AIの高度化によって、最適な旅の計画を半ば自動的に組み立てられる時代になりました。それはそれで便利ではありますが、いわば「効率化された旅行」への反動が来ているのだと思います。

岩崎:
セレンディピティ(serendipity)というのは、思いがけずに素晴らしいものに出会ったり、予想もしなかった展開を経験したりすることですね。そんな偶発的体験を織り込んだツーリズムが注目されていると。

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平林:
そうですね。旅行に限らず、音楽でもスポーツでもそうですが、きちんと設計されたプログラムに参加して想定内の体験を楽しむというのでなく、その場限り、その時間だけの特別の出来事を満喫することに価値を置く。コロナ禍以降、この流れが加速しました。非日常的体験という言い方もできますが、例えば、旅先でバスを待つ間にたまたま言葉を交わした地元の人と意気投合し、勢いでその人たちの酒宴に招かれ旅程を変えるとか。そういった偶発性こそが、旅の楽しみ、醍醐味ともいえます。

岩崎:
先ほどのクルーズや日楽座も、あらかじめ設定された一定のシナリオがありながらも、その場のお客様の反応や発案によって千差万別の展開が広がりそうです。

平林:
不確定要素を織り込んだ旅やエンタメの商品化。つまり、箱をつくって人を集めるだけでなく、そこに新たなコミュニティーが生まれるきっかけづくりでビジネスを回す。いわば、イマーシブ性の高い体験型エンタメビジネス。これはハードよりもソフトが重要で、今後そうした方向が主流になっていくと思いますが、いかがでしょう。

「セレンディピティ・ツーリズムの再評価」の未来予測

「セレンディピティ・ツーリズムの再評価」の未来予測

「セレンディピティ・ツーリズムの再評価」に向けたビジネスチャンス

「セレンディピティ・ツーリズムの再評価」に向けたビジネスチャンス

鞍掛氏:
おっしゃるとおりだと思います。当社グループでいえば、甲子園があり、宝塚があり、梅田芸術劇場もありますので、コンテンツやエンタメの仕掛けをどうしていくかの議論は常に行われています。デジタル技術を使った新しい空間演出や、室内ゴルフのような空間の新しい使い方など、いろいろな展開が考えられますね。

平林:
政府の目標では2030年までにインバウンドで6,000万人、その消費額15兆円の達成が掲げられています。半面、最近の傾向では外国人旅行者がショッピングに使うお金は減りつつあります。あまりモノを買わなくなっている。となると、コンテンツなどの体験消費を増やすか、滞在日数を増やすしかありません。

鞍掛氏:
であれば、なおさら大阪や京都といった地点滞在ではなく、広範囲にわたる行程と滞在を可能にするストーリー性というものが重要になってきます。実は今、広島・尾道の「Azumi Setoda」という、築140年の豪商邸宅を改修したホテルを取得する話が進んでおりまして。そうしたスモールラグジュアリーの要素を取り入れた地域の観光拠点づくりを実証実験的に進めつつ、そこにひも付く偶発性や地域との出会いを織り込んだライブ型の滞在体験を徐々に拡充して、大阪からの回遊ルートを開いていこうと検討を重ねています。

Azumi Setoda 外観
Azumi Setoda 外観
Azumi Setoda(東屋)
Azumi Setoda(東屋)

岩崎:
Azumi Setodaというのは、あのアマンリゾートを創設したエイドリアン・ゼッカ氏が立ち上げたAzumiブランドのホテル第1号ですね。数年前に開業して話題になりました。

平林:
かつては製塩や海運業で栄えたという、しまなみ海道沿いの小さな町にあるのですよね。旧邸宅を生かした伝統的なたたずまいと、新しく建てた銭湯付き宿泊施設の取り合わせがまた絶妙です。

岩崎:
そういう物語を感じさせる施設やコンテンツが、その時間、その場所でしか味わえない特別感や没入感、予定調和のないライブ感といったものを形づくるわけですね。

鞍掛氏:
そう思います。新たな観光拠点とそれらを結ぶトランスポーテーションの整備、ホテルなどの開発と活用、さらにはその土地ならではの文化や人との出会いを織り込んだ体験価値の演出など。どれもが欠けてはならない要素として、パッケージでの仕組みづくりを展開していきたいと思います。

平林:
インバウンドを核とする関西エコシステムの新しい夜明けに期待しています。ありがとうございました。

  1. 観光庁「訪日外国人旅行者数・出国日本人数」(https://www.mlit.go.jp/kankocho/tokei_hakusyo/shutsunyukokushasu.html)
  2. 観光庁「インバウンド消費動向調査2025年暦年の調査結果(確報)の概要」(https://www.mlit.go.jp/kankocho/news02_00071.html)
  3. 大阪府「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画について(概要)」(https://www.pref.osaka.lg.jp/documents/11241/2025_9_12kuikiseibikeikaku_gaiyou_1.pdf)




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サマリー 

来訪ハードルの低いデジタルノマドや海外起業家の招致から始め、中長期滞在に向けた環境整備を進めながら規模を広げ、外資系企業の誘致や駐在員・エグゼクティブ層の長期滞在・定住へ。関西圏において、高度外国人材が集い、働き、暮らす国際交流都市への道筋は、着実に切り開かれ始めていることが感じられました。



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