【シリーズ】IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」に関する実務上の論点 第1回:損益計算書の小計と区分

情報センサー2026年2月 IFRS実務講座

【シリーズ】IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」に関する実務上の論点 第2回:経営者が定義した業績指標(MPM)


2024年4月にIFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」が公表され、2027年1月1日以降開始する事業年度から適用が開始されます。
シリーズ第2回の本稿では、IFRS第18号の主なポイントの1つである「経営者が定義した業績指標(MPM)」の概要及び関連する論点の一部について紹介します。


本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 IFRSデスク 公認会計士 辻 康幸

損害保険会社での勤務を経て、当法人に入社。主に飲料・アパレル・化粧品等の消費財企業の監査ほか、サステナビリティに係る開示の保証業務に携わる。
2024年よりIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援業務、研修業務、執筆活動などに従事している。



要点

  • MPMが財務諸表に含められ、また監査対象になることで、財務諸表利用者にとってMPMの透明性が高まることが考えられる。
  • 本稿では、以下の論点を取り扱う:①セグメントに関する指標がMPMに該当するか、②IFRS第18号第24項により純損益に含められる追加的な小計がMPMに該当するか、③複数のMPMが存在する場合/MPMが存在しない場合。

Ⅰ はじめに

国際会計基準審議会(以下、IASB)は2024年4月、IAS第1号「財務諸表の表示」に置き換わる新基準としてIFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」を公表しました。適用開始時期は2027年1月1日以降開始する事業年度からとされています。

本基準は財務諸表の比較可能性と透明性の向上を通じた「投資家との業績報告に係るコミュニケーションの改善」を目的として、新たな要求事項(主に「損益計算書の小計と区分」「経営者が定義した業績指標〈MPM:Management-defined Performance Measures〉」、「集約と分解」等)を設けています。

IFRS実務講座においては、全3回にわたって、IFRS第18号への対応を検討する上で論点となるトピックの中から、より具体的な論点の一部を紹介します。シリーズ第2回となる本稿では、「経営者が定義した業績指標(MPM)」の概要及び関連する論点の一部を扱います(詳細はApplying IFRS:IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」2025年7月更新版を参照)。

なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

シリーズ第1回はこちらから。


Ⅱ 経営者が定義した業績指標(MPM)の概要

IFRS第18号は、経営者が定義した業績指標(以下、MPM)の概念を導入し、MPMの定義を満たすすべての業績指標について、企業に財務諸表利用者に誤解を与えない明瞭で理解可能な方法で名称を付け、財務諸表の単一の注記において以下を含む所定の開示を行うことを求めています。

(a) 経営者がなぜMPMが企業の財務業績に関する有用な情報を提供すると考えているか、その理由の説明を含む、経営者が考えるMPMが伝える企業の財務業績の一側面の記述

(b) MPMがどのように計算されているか

(c) IFRS第18号第118項に列挙される小計(すなわち、IFRS会計基準には規定されていない、又は定義されていないが企業により一般的に使用されており利用者が十分に理解している小計)又はIFRS会計基準に特に定められる合計又は小計のうち最も直接的に比較可能になるものの中の1つに対する調整表

(d) 上記(c)に定められる調整表に開示される調整を要する項目のそれぞれに関する法人所得税及び非支配持分への影響

(e) 企業は上記(d)に定められる法人所得税をどのように算定したかの記述

MPMはIFRS第18号において「企業の財務業績の一側面についての経営者の見方を財務諸表利用者に伝えるために、財務諸表の外での一般とのコミュニケーションにおいて使用されている収益及び費用の小計」と定義されています。

<図1>は、企業がどのようにMPMを識別するのかについて示したものです。

図1 MPMの識別

図1 MPM の識別
出所:Applying IFRS:IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」2025年7月更新版、92ページを基にEY作成

IASBは、MPMの定義を収益及び費用の小計に限定し、IFRS第18号を含むIFRS会計基準に規定される小計はMPMではないと明示的に記載しています。したがって、IFRS会計基準で規定されている合計又は小計を調整した指標(「調整後損益」など)はMPMとなり得ますが、収益及び費用の合計又は小計ではない他の指標(「調整後収益」「フリー・キャッシュ・フロー」「顧客満足度」など)はMPMではありません(<図2>参照)。

図2 MPMと他の業績指標の比較

図2 MPMと他の業績指標の比較
出所:Applying IFRS:IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」2025年7月更新版、93ページを基にEY作成

企業が財務諸表外で一般とのコミュニケーションにおいて小計を使用する場合にのみ、その小計はMPMの定義を満たします。一般とのコミュニケーションには以下が含まれます。

  • 経営者による説明
  • プレスリリース
  • 投資家向けプレゼンテーション

ただし、MPMの定義上、一般とのコミュニケーションには以下は含まれません。

  • 口頭でのコミュニケーション
  • 口頭でのコミュニケーションの原稿
  • ソーシャル・メディアへの投稿

また、IFRS第18号には、企業の一般とのコミュニケーションで財務諸表外において使用される収益及び費用の小計は、企業全体の財務業績の一側面に関する経営者の見方を利用者に伝達するという反証可能な推定が定められています。企業は、合理的かつ裏付け可能な情報を用いて立証できる場合にのみ、小計が企業全体の財務業績の一側面に関する経営者の見方を伝達していないと主張することができます。

企業にMPMに関する開示を要求することにより、MPMが財務諸表に含められ、また監査対象になることで、財務諸表利用者にとってMPMの透明性が高まることになると考えられます。

Ⅲ MPMに関連する論点

以下では、MPMに関連するいくつかの論点を取り上げ、それぞれについて解説します。

1. セグメントに関する指標がMPMに該当するか

企業の業績指標がMPMの定義を満たすためには、業績指標が企業全体の財務業績の一側面に関する経営者の見方を財務諸表利用者に伝えるものでなければならないとされています。

事業セグメントは、IFRS第8号「事業セグメント」において企業の「構成単位」と定義されているため、セグメントに関する指標が企業全体の業績を反映する可能性は低いと考えられます。しかし、IASBは、一般とのコミュニケーションで使用される報告セグメントに関連する小計は、特定の状況では企業全体の業績に関する情報を提供し得るとし、報告セグメントの指標をMPMの定義から除外せずに、指標がMPMになるためには、企業全体の財務業績の一側面について、経営者の見方が反映されなければならないことを明確化しました。

したがって、報告セグメントの指標がMPMの定義を満たす可能性はありますが、IFRS第18号は限定的なガイダンスのみを提供しているため、報告セグメントの指標がMPMに該当するかどうかの評価には判断を適用する必要があります。

報告セグメントの指標が企業全体の財務業績の一側面を表すことを示唆している可能性がある状況には以下があります。

(a)

純損益計算書に、企業の単一の主要な事業活動を含むセグメントに関連する小計が表示されている。

(b)

指標が、すべてのセグメントを合わせた合計を表している。

(c)

企業には1つのセグメントしかない。

(d)

指標が、企業のセグメントの1つにのみ固有のものである。

※ (a)の状況は、IFRS第18号に含まれる例に基づいており、上記(b)から(d)の状況は、IFRS第18号開発時のIASBの議論及び関連するスタッフ・ペーパーに基づいている。

2. IFRS第18号第24項により純損益に含められる追加的な小計がMPMに該当するか

IFRS第18号は、IFRS会計基準で具体的に要求されている小計(売上総損益及び類似の小計、法人所得税前純損益など)をMPMの定義から除外しています。また、IFRS第18号第24項は、純損益計算書が有用な体系化された要約を提供するために追加的な小計が必要な場合、追加的な小計を表示することを企業に求めています。このIFRS第18号第24項により要求される追加的な小計がMPMに含まれるかどうかが問題となります。

ここで、純損益計算書が有用な体系化された要約を提供するために必要と思われる追加的な小計は、IFRS第18号第24項により一般的に要求されているものの、同項において「IFRS会計基準が要求している合計及び小計よりも目立つ表示をしない」とされていることから、そのような追加的な小計はIFRS会計基準により「具体的に」要求されているものではないと考えられます。

したがって、IFRS第18号第24項により純損益に含められる追加的な小計(企業が純損益計算書に追加した事業利益など)は、MPMの定義の他の要件を満たしている場合、MPMの定義を満たすことになります。

3. 複数のMPMが存在する場合/MPMが存在しない場合

多くの企業が財務業績に関するコミュニケーションにおいて代替的な業績指標を使用しています。業績指標の透明性を高めるために、IFRS第18号は、MPMを財務諸表の単一の注記において開示することを要求しています。複数の業績指標がMPMの定義を満たす場合、企業はMPMの定義を満たすすべての業績指標について、財務諸表の単一の注記において所定の事項を開示する必要があります。

一方、IFRS第18号は企業に対してMPMを使用したコミュニケーションを求めているわけではなく、企業がMPMの定義を満たす業績指標を使用している場合に所定の開示を求めています。したがって、MPMの定義を満たす業績指標が存在しない場合には開示は不要となります。

Ⅳ おわりに

IFRS第18号は、ほとんどのIFRS報告企業の財務諸表に影響を及ぼす可能性があることから多くの関心を集めています。適用開始時期が2027年1月1日以降開始する事業年度と近づいてきていることに加え、今回取り上げた「経営者が定義した業績指標(MPM)」をはじめ新たな要求事項に関して、基準の理解及び適用方法の検討、システム対応の必要性の検討、比較情報の作成といった考慮事項が多くあるため、適用の準備を早めに進めることが推奨されます。

Applying IFRS:IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」2025年7月更新版は、本稿で紹介した論点以外にも、IFRS第18号適用上のさまざまな論点の解説が充実しています。情報センサーの本シリーズ第3回では、「キャッシュ・フロー計算書及びその他実務上の論点」を取り扱う予定です。あわせてぜひ、ご一読いただけますと幸いです。


サマリー

IFRS第18号に主軸を置いたシリーズ第2回となる本稿では、主なポイントの1つである「経営者が定義した業績指標(MPM)」の概要及び関連する論点の一部について紹介します。


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