EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 IFRSデスク 公認会計士 北出 旭彦
当法人入社後、大阪事務所にて主として製薬業、海運業、小売業、製造業などの会計監査および内部統制監査に携わる。2019年よりIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援業務、テクニカルコンサルテーション、執筆活動、研修講師などに従事している。シニアマネージャー。
※所属・役職は記事公開時のものです
要点
国際会計基準審議会(以下、IASB)は2024年4月、IAS第1号「財務諸表の表示」に置き換わる新基準書としてIFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」を公表しました。適用開始時期は2027年1月1日以降開始する事業年度からとされています。
本基準は財務諸表の比較可能性と透明性の向上を通じた「投資家との業績報告に係るコミュニケーションの改善」を目的として、新たな要求事項(主に「損益計算書の小計と区分」「経営者が定義した業績指標〈MPM:Management-defined Performance Measures〉」「集約と分解」等)を設けています。
IFRS実務講座においては、全3回にわたって、IFRS第18号への対応を検討する上で論点となるトピックの中から、より具体的な論点の一部を紹介します。第3回となる本稿では、「連結キャッシュ・フロー計算書」「1株当たり利益」「経過措置」の概要及び関連する論点の一部を扱います(詳細はApplying IFRS:IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」2025年7月更新版を参照)。
なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。
シリーズ各回の記事はこちらからご覧いただけます。
第1回:損益計算書の小計と区分
第2回:経営者が定義した業績指標(MPM)
第3回:キャッシュ・フロー計算書及びその他の論点
IFRS第18号の公表と同時にIAS第7号「キャッシュ・フロー計算書」の改訂も公表されており、主に以下の2点について変更がなされています。
現行IAS第7号では、間接法を採用する場合の営業キャッシュ・フローの出発点に明確な規定がなく、その結果各社さまざまな出発点を採用することにつながり、比較可能性が損なわれる状況が見られました。このため、改訂IAS第7号では出発点についての定めを設けて、営業利益を出発点とすることが明確に定められました。これにより、比較可能性が担保されることにつながります。
日本では、間接法を採用する多くのIFRS適用会社は、税引前当期利益か当期利益のいずれかを営業キャッシュ・フローの出発点としています。このため、今回の改訂は多くのIFRS適用会社にとって対応が必要となるものと言えます。
現行IAS第7号では、利息及び配当金の受取及び支払について、企業が営業・投資・財務のいずれに分類するかを選択できました。この選択肢が企業間の分類のバラツキを生み、比較可能性を損なっていました。そのため、改訂IAS第7号では分類の選択を廃止し、企業間で分類が統一されることとなります。改訂前後の分類は<表1>の通りです。
表1 キャッシュ・フロー計算書における利息及び配当金の分類
なお、特定の主要な事業活動を有する企業に関するキャッシュ・フローの分類は、損益計算書における関連する収益及び費用の分類に影響されることとなります。
本シリーズ第1回(情報センサー2026年1月掲載)で解説した通り、IFRS第18号では損益計算書に「営業区分」「投資区分」「財務区分」の3つの新たな区分が設けられました。一方、キャッシュ・フロー計算書においても同様の名称の区分が以前から存在しますが、定義は異なる点に注意が必要です。
まず、IAS第7号のそれぞれの区分の定義は<表2>の通りです。
表2 キャッシュ・フロー計算書における区分
営業活動 | 企業の主たる収益獲得活動及びその他の活動のうち、投資活動でも財務活動でもないものをいう。 |
投資活動 | 長期性資産及び現金同等物に含まれない他の投資の取得及び処分ならびにIAS第7号第34A項から第34D項に記述する利息及び配当の受取をいう。 |
財務活動 | 当該企業の拠出資本及び借入の規模と構成に変動をもたらす活動をいう。 |
一方で、IFRS第18号における損益計算書の各区分に分類される収益及び費用は<表3>の通りです。
表3 損益計算書における区分
営業区分 |
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投資区分 |
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財務区分 |
|
このように同じ「営業」「投資」「財務」を名称に用いているものの、意味は異なります。そのため、損益計算書とキャッシュ・フロー計算書で取扱いが異なる場合が考えられます。
例として、事業活動で使用する有形固定資産の取得取引を挙げます。有形固定資産の取得に係る支出は、キャッシュ・フロー計算書ではIAS第7号に従い、「投資活動」に区分されます。この分類は、将来のリターンを生み出す長期性資産に対して行った投資を識別することを目的としているからです。
一方で、損益計算書ではIFRS第18号に従い、このような事業用資産から生じる減価償却費や売却損益は、営業区分に分類されることとなります。このように、それぞれの財務諸表及び区分の目的の違いから、同じ名称の区分でも結果が異なることがあります。
改訂IAS第33号「1株当たり利益」では、親会社の株主に帰属する金額を用いる追加的な分子として使用できる項目を、以下のいずれかに限定しています。
現行基準においても、親会社の株主に帰属する当期利益(及び継続事業からの当期利益)以外の利益指標を分子とした1株当たり利益を開示することは認められていましたが、改訂IAS第33号では、その範囲を上記のいずれかに限定することになりました。また、追加的な1株当たり利益を使用する場合、損益計算書での表示は認められず、注記において開示することのみが認められます。
例えば、ある企業が財務諸表外の公表資料において、重要な業績評価指標として「1株当たり収益(収益合計÷発行済株式数)」を用いていたとします。しかし、この収益合計は、IFRS第18号で特定される合計又は小計に該当せず、MPMにも位置付けられません。そのため、この指標を財務諸表において追加的な1株当たり利益として開示することは認められません。したがって、こうした指標を投資家向けに提供する場合には、財務諸表外の資料(決算説明資料など)に限定する必要があります。
IFRS第18号はIAS第1号に置き換わり、2027年1月1日以降開始する事業年度から適用されます。早期適用は認められ、日本においても既に早期適用事例が確認されています。IFRS第18号を適用する際は、本稿で紹介したIAS第7号をはじめとして同時に改訂が公表されたその他のIFRS会計基準書も合わせて適用する必要があります。
通常、新たなIFRS会計基準書もしくは基準書の改訂を適用する場合、IAS第8号第28項(f)に従い、報告年度及び表示される過年度のそれぞれに関する、影響される財務諸表の各科目に関する調整、基本的及び希薄化後1株当たり利益への影響を開示することが必要となりますが、IFRS第18号では当該注記を求めないこととされました。その代わり、初めてIFRS第18号を適用する場合、比較年度に限定して、損益計算書の各科目に関して、IFRS第18号に従い表示した修正再表示後の金額とIAS第1号を適用して過去に表示した金額との調整表を開示する必要があります。これは、報告年度にも同じ調整表の開示を求めると、当該情報の作成のために旧システムを維持する必要が生じる可能性があり、そのような実務上の負担を軽減することを意図しています。
全3回にわたって、IFRS第18号適用における論点を解説しました。上述の通り、2027年1月1日以降開始する事業年度から適用されますが、システム対応や情報収集プロセスの見直しが必要な可能性もあるため、まだ十分な検討を行えていない場合は、早期に適用準備への対応を開始することが推奨されます。
Applying IFRS:IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」2025年7月更新版は、本シリーズで紹介した論点以外にも、IFRS第18号適用上のさまざまな論点の解説が充実しています。本稿にあわせてぜひ、ご一読いただけますと幸いです。
※ 図表はすべて、”IFRS 18 Presentation and Disclosure in Financial Statements”、IFRS Foundation、ifrs.org/content/dam/ifrs/publications/amendments/english/2024/effect-analysis-ifrs18-april2024.pdf(2026年3月24日アクセス)を基にEY作成
2024年4月にIFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」が公表され、2027年1月1日以降開始する事業年度から適用が開始されます。シリーズ第3回の本稿では、連結キャッシュ・フロー計算書の表示、1株当たり利益の開示、経過措置に関して実務上の論点も交えて解説します。
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