EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 IFRSデスク 公認会計士 小田 勇樹
当法人入社後、主として総合化学メーカーの会計監査及び内部統制監査に従事。2025年よりIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援業務、研修・セミナー講師、執筆活動等を実施している。
要点
IFRS会計基準に準拠して財務諸表を作成している企業は、新たに公表された基準書やガイダンスを確認して、その影響を調査し、会計処理及び表示・開示を検討する必要があります。本稿では、2026年3月期から適用される基準書等の内容を紹介するとともに、最近の社会・経済状況を踏まえ、財務諸表への影響について解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。
2026年3月期より、原則適用となる会計基準は<表1>のとおりです。
表1 2026年3月期に適用される新基準書の一覧
No. | 基準名 | 発行日 |
1 | 交換可能性の欠如(IAS第21号「外国為替レート変動の影響」の改訂) | 2025年1月1日 |
本改訂は、通貨が交換可能かどうかを企業がどのように評価すべきか、交換可能性が欠如している場合に直物為替レートをどのように決定すべきかを規定し、通貨が交換可能でないことの影響を財務諸表の利用者が理解できるように特定の開示を要求しています。
改訂された背景として、比較的まれではあるものの、政府が外為規制を課した結果、通貨の交換が禁止されるか、又は外貨取引量が制限された場合に、交換可能性の欠如が生じる可能性があります。一方で、通貨の交換可能性が欠如した場合、適切な為替レートの決定が困難であったことから、ある通貨が他の通貨に交換可能であるかどうか、また交換可能でない場合に使用すべき為替レートの決定方法について、多様な見解がありました。こうした背景のもと、国際会計基準審議会(以下、IASB)はある通貨が他の通貨に交換可能であるかどうか、また交換可能でない場合の会計処理を明確にするため、当該要求事項がIAS第21号に追加されました。
具体的には、(1)通貨が交換可能であるかどうかの評価、(2)交換可能性が欠如している場合の直物為替レートを決定するといった2段階アプローチにより、交換可能性の評価方法の明確化、及び交換可能性が欠如している場合の為替レートの決定方法が明確化されました。また、(3)通貨が交換可能でない場合の開示規程が定められました。
ある通貨が他の通貨と交換可能である状況とは、企業が通常の事務処理上の遅延を許容する期間内に、強制力のある権利及び義務を生じさせる交換取引が成立する市場又は交換メカニズムを通じて他の通貨を取得できる場合を指します。
ある通貨が他の通貨に交換可能でない場合、企業は測定日における直物為替レートを見積もることが要求されます。企業が直物為替レートを見積もる目的は、測定日において現行の経済状況の下で市場参加者間の秩序ある交換取引が成立するレートを反映することにあります。また、直物為替レートの具体的な見積方法は示されていませんが、調整なしの観察可能な為替レート又は他の見積技法を用いることができます。
ある通貨が他の通貨に交換可能でないことから、企業が直物為替レートを見積もる場合、当該交換可能でない状況が企業の財務業績、財政状態及びキャッシュ・フローにどのように影響するか、あるいは影響すると見込まれるかについて、財務諸表の利用者が理解できるようにするための情報を開示する必要があります。具体的には、下記に関する情報を開示するよう求められています。
社会が気候変動に与える影響を減らすための取組みは、かつてないほど大きなものになっています。また同時に、企業が明確なコミットメントを報告することに対する利害関係者からの期待も前例のないほど高まっており、これは予見可能な将来にわたって続くと考えられます。
IFRS会計基準には気候関連事項に関する単一の明確な基準が存在しないものの、気候リスク及びその他の気候関連事項は、さまざまな分野の会計処理に影響を及ぼす可能性があります。
また、2025年11月に「財務諸表における不確実性に関する開示-設例」がIASBより公表されました。これは、財務諸表における気候関連及びその他の不確実性に関する報告を改善することを目的としており、特に、一般目的財務報告書内の情報の一貫性や、財務諸表における気候関連リスク及びその他の不確実性に関する十分な情報について、利害関係者の懸念に対応するものです。
気候関連事項に関する会計上の留意点及び開示例については、「Applying IFRS:つながる財務報告:気候変動の会計処理(2025年5月)」、不確実性に関する開示の解説については「IFRS Developments:不確実性に関する開示」にて、詳細を解説していますので、ご一読ください。
直近の数年間で経済環境は大きく変化しており、当該変化が財務諸表に及ぼす影響を確認することも重要です。以下では、①インフレ及びハイパーインフレーション、②関税に関して考慮すべき事項を例示します。
① インフレ及びハイパーインフレーション
インフレ率の大幅な上昇によりハイパーインフレーションに該当する場合には、IAS第29号「超インフレ経済下における財務報告」の適用を検討する必要があります。ハイパーインフレーションに該当する可能性がある国に子会社等がある場合は、IAS第29号の適用とその影響を慎重に検討する必要があります。IAS第29号の適用には重大な判断が必要であり、グループ内の子会社に適用する場合、その影響には非定型で複雑な会計処理が伴う場合があります。
IFRS会計基準の目的に照らしてハイパーインフレーションであると考えられる国のインフレーション・データと、現在ハイパーインフレーションではないものの監視すべき国については「IFRS Developments:超インフレ経済(2025年11月更新)」にて、詳細を解説しています。ご一読ください。
また、特定の資産及び負債の測定について、インフレによって将来の予想コストが上昇した場合、これらのコストが関連している引当金(資産除去債務など)の金額が増加する可能性があり、増加するコストを顧客に転嫁できず収益性が悪化する場合は、当該事業に係る減損リスクが高まることになります。
さらに、金利やインフレの影響を強く受けるような業種では売掛金の予想信用損失の増加により引当金が増加することが想定されます。
② 関税
2025年から導入されている米国の追加関税等の措置は、米国の貿易相手国に対して影響を及ぼしています。そのため、IFRS会計基準に従った財務報告にも影響が及ぶ可能性があると考えられます。
企業は、具体的な事実関係に基づき、現行の通商政策や関税が会計及び財務報告に与える影響を検討し、財務諸表においてこれらの影響を適切に認識及び開示する必要があります。例えば、関税は、資産の減損、棚卸資産の評価、引当金、繰延税金資産などさまざまな領域に影響を与え得ると想定されます。
関税に関連する特定の会計及び財務報告に係る考慮すべき事項については、「IFRS Developments:関税のIFRS会計基準への影響」にて、詳細を解説しています。
本稿で紹介した基準改訂に関連する取引がある場合には、その影響を慎重に検討し、必要な会計処理や開示を行うための準備が必要になります。また、直近の数年間で社会・経済環境が激しく変化していることを踏まえ、こうした変化に応じた対応に漏れがないか、改めて確認することも求められます。
IFRS会計基準に準拠して財務諸表を作成している企業は、新たに公表された基準書等を確認して、その影響を調査し、会計処理及び表示・開示を検討する必要があります。本稿では、2026年3月期から適用される基準書等の内容を紹介するとともに、最近の社会・経済状況に鑑みた財務諸表への影響について解説します。
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