EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY-Parthenonは、EYにおけるブランドの一つであり、このブランドのもとで世界中の多くのEYメンバーファームが戦略コンサルティングサービスを提供しています。
要点
隣り合う二つの自治体が、下水道維持管理を「一緒に」発注する。言葉にすればシンプルですが、上下水道の世界では、実に大きな一歩です。大阪狭山市と河内長野市は、両市が個別に実施してきた包括的民間委託について、次期10年間(令和8年4月〜令和18年3月)を2市共同のウォーターPPP更新実施型として共同発注しました。同業務は、2市が管理する処理場・管路等を対象に、統括管理から日常・計画的維持管理、調査、計画策定、実施設計、改築工事までを含み、2市連携での効率化とサービス向上を狙っています。
このニュース が示しているのは、「広域連携は机上の理想」ではなく、「現場で動き始めた改革」であるという事実です。
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市町村経営を原則としてきた水道事業、市町村経営(都道府県)を法律上定めている下水道事業は、基礎自治体1,741団体(2024年10月1日現在)をベースとするため、各上下水道事業体は他のインフラ(電力・ガス等)と比較して小規模事業体が多い特徴があります。そのため、自治体間の連携(広域連携)を行うことで、スケールメリットが創出されると期待されています。
例えば、簡易水道事業と末端給水事業を日本全体で一つの水道事業と見た場合、コストが平準化されることが想定されます。末端給水事業と簡易水道事業の給水原価の全国平均を比較すると、末端給水事業は169.2円/㎥に対して簡易水道事業は264.9円/㎥と約1.6倍です。内訳を見ると、簡易水道事業の方が、減価償却費や支払利息、公費負担分(長期前受金戻入)が多く、高コストになっています。これを、一つの水道事業として試算してみると、給水原価は169.4円/㎥と末端給水事業のみの場合と0.2円/㎥しか変わらず、簡易水道事業の高コストが解消されると想定されます。
超マクロで見た場合、広域連携は合理的――直感的にもスケールメリットの拡大が期待されるにもかかわらず、現場では自治体同士の広域連携は進んでいるとは言えない状況です。
図1 末端給水事業と簡易水道事業を統合した場合の給水原価(試算)
広域連携は“合理的”のはずなのに、現場では思うように進んでいない、なぜなのか。その答えは、各自治体が置かれた状況の違いと「合意形成の壁」にあります。
香川県広域水道企業団は、香川県と(直島町を除く)8市8町で構成され、2017年に設立、2018年4月に事業開始した「県内一水道」の枠組みです。 ただし、いきなり全てを統一したわけではありません。旧事業体ごとの格差(料金・財務・施設水準等)を踏まえ、区分経理や業務統一を段階的に進め、料金統一は後段に置く設計が示されています。
ここに、広域連携の“現実”があります。水道で事業統合を行うと料金統一が論点化し、値上げになる自治体・値下げになる自治体が生まれ、調整に時間がかかったり、調整できず実現しなかったりするのです。
そのため、大阪府域では、料金統一を直ちに伴わない「経営の一体化」という形で広域化を進めてきました。大阪広域水道企業団は2010年に設立許可を受け、2011年4月から用水供給事業及び工業用水道事業を開始しました。 その後、2017年4月には「経営の一体化」の形で市町村水道事業の承継(四條畷市・太子町・千早赤阪村 等)を実現しています。「経営主体は同一だが、事業認可や料金体系は異なる」という設計が、合意形成の現実解になった事例と言えます。
一方で、下水道事業では水道事業ほど「事業統合」が一般化しているとは言い難いです。国は下水道の広域化・共同化を有効手法として位置づけ、計画策定・実施マニュアルも整備してきました。しかし、実態としては、処理区統合・汚泥共同処理・共同委託等「共同化メニュー」から積み上げるアプローチが中心になりやすい状況です。
これらの背景には、上下水道事業を開始したタイミング、老朽化度合い、更新量、将来人口(=将来料金収入)、収支、借入、料金制度など、自治体ごとの経営状況が千差万別で、「課題の多様化・複雑化」が進んでいることがあります。
また、地域内で比較的人口規模が大きい自治体(中核となる自治体)からすると、周辺の小規模自治体との広域連携は「大きい自治体が小さい自治体を支援するだけ」と捉えられ、広域連携のメリットが見いだしにくいと捉えられることもあります。そのため、隣り合う自治体同士でさえも、足並みをそろえることが難しいのが現状です。
国は上下水道の「複数自治体による事業運営の一体化」を打ち出し、今後は少なくとも10万人程度の人口規模を一つの目安とするべきとするなど、一定の事業規模を確保することが執行能力や官民連携の効果向上には必要であるとの方針 を示しています。
つまり、「広域連携を進める追い風」はますます増しているのに、現場では「進め方」が難しい——ここが広域連携の現在地であると言えます。
前述のとおり、日本では自治体同士の広域連携(特に事業統合や経営の一体化)を「進めにくい構造」を抱えています。ここで海外に目を向けると、フランスでは、法制度によって上下水道事業の広域化が強く進められてきました。
フランスでは、従来、上下水道事業の権限は①コミューン、②事務組合、③広域連合体のいずれかが実施されていました。2015年8月に成立したノートル法は、上下水道事業の権限を、原則として、広域連合体に2020年1月までに移譲することを義務化されました。その結果、水道事業者数は約12,000事業あったものが約8,000事業まで約3割減少することとなりました(その後、ノートル法による広域化義務の期限延長等の試行錯誤などはあります)。
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重要なのは、フランスの制度をそのまま輸入することではありません。強制力の有無にかかわらず、人口減少と老朽化を前にすると「自治体の論理を超えた広域化」が必要になる点は日仏で共通していたわけです。ただし、日本は、フランスのような強制力で一気に進めるのではなく、地域の合意形成に耐える“設計”が求められている、だからこそ、次章のように「間接的に広域化を実装する」仕組みが、現実の突破口になっていくのではないかと考えられます。
図2 フランスにおける法改正(2015年)による広域連携の義務化
では、日本で“現実的に動く方法”は何なのか。その答えが、近年増加してきた「官民連携を活用した間接的な広域連携」というアプローチです。
冒頭の大阪狭山市・河内長野市の2市共同によるウォーターPPPは、その代表例であると言えます。自治体の事業を統合するのではなく「発注と運用を束ねる」ことで、まずスケールメリットを取りに行く考え方です。
図3 大阪狭山市・河内長野市による2市共同ウォーターPPPの発注スキーム概要
もう一つ注目すべき潮流が、自治体の事務を補完する「広域補完組織(官民出資会社等)」という発想です。例えば、秋田県では、県・市町村の事務を補完する官民出資会社を設立し、効率的な事業マネジメントを実現するスキームが示されています。秋田県及び県内の全25自治体と民間企業が出資する官民出資会社として、2023年11月に「株式会社ONE・AQITA」が設立されました(都道府県内全自治体が出資する下水道保全の官民出資会社は全国初と位置づけ)。
このアプローチは、「第二市役所」的に発注者側の高度業務(計画策定、発注・監督補助、台帳/AM支援、人材育成)を横断的に支えることで、自治体の人材不足や技術力不足を補完し、広域化・共同化を前に進める装置として機能することが期待されます。
図4 秋田県・県内市町村・民間企業による広域的補完組織(官民出資会社)のスキーム概要
人口減少時代だからこそ、上下水道事業を広域化し、効率化を進める――直感的には合理的である広域連携の問題は、「理想を実装に変える道のり」にあると言えます。
料金・資産・借入・人材・組織文化が異なる自治体同士が、いきなり統合に踏み出すのは難しい。だからこそ、共同発注(ウォーターPPP等)や広域補完組織といった「階段」を上る道のりが、現場で受け入れられ始めています。
強制力で動かすのではなく、地域ごとの最適解として合意形成に耐える形で広域連携を進めていく。自治体と民間が役割を組み替えながら、持続可能な運営体制をつくる。階段を駆け上がる足音が、いま各地で聞こえ始めています。
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自治体の抱える課題は多様化・複雑化しており、隣り合う自治体同士でも足並みをそろえた広域連携は難しいのが現状です。一方、官民連携事業を活用した広域連携などに取り組む余地はあると考えられ、各地域に合った広域連携の在り方を考える必要があると言えます。
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