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要点
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人口が減少すれば面的に広がるインフラの維持管理は非効率になる(面的なインフラの密度が下がる)――であるならば、複数のインフラをまとめて管理すれば、効率的ではないか? 複合インフラ管理は人口減少時代においては自然な流れで生まれた発想であると言えます。
水道事業・下水道事業は、上下水道局として一体の組織になっている場合が一般的ではあるものの、後述のとおり、公物管理や会計区分が分かれており、経営という観点からは従来一体で運営されていないことが多いです。一方で、上下水道事業の経営改革策として、近年、上下水道事業の一体的な管理による効率化が期待されています。
令和6年度より、水道整備・管理行政の一部が厚生労働省から国土交通省に移管されました。また、同年能登半島地震では、上下水道に甚大な被害が発生したことから、早期復旧を可能とする上下水道一体となった災害復旧手法の構築、重要施設に係る上下水道管路の一体的な耐震化が推進されています1。
このような背景もあり、政府は、「質の高いウォーターPPP(水の官民連携)」を推進するとともに、その一環として、「上下水道一体でのウォーターPPP」を推進しています2。
また、従来、複数事業をまとめて一括発注する手法として「バンドリング」がありました。国土交通省は、既存の行政区域にこだわらず、複数・多分野のインフラを「群」として捉え効率的・効果的にマネジメントする「地域インフラ群再生戦略マネジメント(通称:群マネ)を進めており、より広範な領域をまとめる流れになってきています。
上下水道事業は、面的なインフラである管路を有しています。今後の人口減少によって、上下水道事業の利用者(=料金収入)が減少しても、維持すべき管路延長はほとんど減りません。その結果、管路延長あたりの収入と維持管理に必要なコストのギャップが拡大し、維持管理の効率性は構造的に低下すると考えられます。上下水道事業だけで維持管理するのではなく、道路やガス、電気などの各インフラ事業の枠を超え、複数インフラを一体的に管理することで面的なインフラ密度を向上させて効率的な維持管理を行う「複合インフラ管理」の活用が期待されていると言えます。
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図 従来のインフラ管理から複合インフラ管理への転換イメージ
上下水道の維持管理業務を一括委託とした事例としては、石川県かほく市の事例があり、上下一体による点検業務の効率化や緊急時にそれぞれの事業間で人員融通することなど、平時・緊急時の効果が生じているとされています。
また、上下水道事業と他インフラ事業を一体的に民間委託した事例としては、新潟県妙高市の事例があり、上下水道事業の維持管理と公営ガスの事業譲渡による一体的な維持管理が進められています3。
直近においては、神奈川県葉山町の下水道事業における浄化センターを対象としたコンセッション及び下水道管路を対象としたウォーターPPPレベル3.5において、任意事業として他分野連携の実施について触れられています。事業者選定基準上も高い配点(100点中14点)となっており、同町が下水道事業を中心に他分野連携が発展することに期待を寄せていることが伺えます4。
一方で、その導入効果としては限定的であると考えられ、コスト縮減効果などについて触れられている先行事例は多くありません。
図 日本における複合インフラ管理の事例
海外に目を向けると、ドイツでは、シュタットベルケがあります。シュタットベルケとは、ドイツにおける公共出資による株式会社のことです。シュタットベルケでは、電力・ガス、上下水道・熱供給などの黒字事業と、地域交通・公衆浴場などの赤字事業などを一体的に担っており、まさに複合インフラ管理を進めている海外事例であると言えます。シュタットベルケでは、一括調達や工事部門・危機管理部門の一体化といった複合インフラ管理体制が確立されているとともに、地域インフラを担う人材育成・専門の経営人材等の体制も確立されており、持続可能なインフラを実現する工夫が取り込まれています。
自治体はシュタットベルケへ出資するとともに、監査役として参画します。他方、シュタットベルケの執行役は民間人材が担っており、経営の専門家として登用された人材が事業計画の立案から事業・予算の執行を担います。自治体の首長や議員代表が監査役を担い、年間の決算承認や事業計画の承認の他、KPIに基づいて執行役の選解任を実行します。このように、シュタットベルケの所有と執行は分離していることが特徴です。
もちろん、日本とドイツでは法律が異なっており、シュタットベルケを日本でそのまま活用はできません。例えば、ドイツでは50%超出資子会社との間でも損益相殺が可能であり、事業リスクの分散や税務メリットがあります。一方で、日本では100%出資子会社との間でのみ損益相殺が可能となっており、他の出資者を募ることができず、グループとしての出資戦略が硬直化すると考えられます。
図 シュタットベルケの概要
日本では、各インフラで公物管理法が定められています。例えば、下水道事業は、下水道法第三条で「公共下水道の設置、改築、修繕、維持その他の管理は、市町村が行うものとする。」と、市町村が管理者となることが明確に記載されています(都道府県が管理する流域下水道もあります)。「このインフラを管理するのはこの団体」と制度で定められている以上、複数のインフラをまとめて管理することは、根本的に実現しにくい制度になっているのが現状です。
さらには各インフラの会計区分(おサイフ)がバラバラであることも課題です。水道事業は地方公営企業法に基づき、原則として独立採算(住民からの利用料金のみで事業運営すること)で運営されています。下水道事業も地方公営企業法にのっとっているものの、法令上、任意的であり、下水道使用料としての収入の他に、一般会計5からの繰入金や国からの交付金などによる収入があります。
他方、道路や公園などのインフラは一般会計のみで成り立っており、自治体の中では福祉や教育等の行政サービスとおサイフが一緒と言えます。そのため、自治体の中では「道路や公園等のインフラ維持管理と福祉・教育等への投資」が比較されることとなり、長期的投資の意思決定は難しく、政治的な要素でインフラへの投資が左右されやすくもなっています。
図 上下水道事業における公物管理法
水道事業では、水道法改正(令和元年施行)により、適切な資産管理が推進され、ヒト・モノ・カネのアセットマネジメント(限られたお金と人で、水道を将来まで使えるように“いつ・何を・どれだけ直すか”を決める考え方。以下、AMという)が制度として一体的に進められています6。
一方、下水道事業では、モノのみを対象としたストックマネジメントは進んでいるものの、地方公営企業法の財務適用、一般会計からの繰入金や国からの交付金があることにより、ヒト・カネを含めた一体的な管理が制度上難しくなっています。
道路事業においても、橋梁(きょうりょう)に対して5年に1度の点検を義務づけるなど、モノに対しての管理は進んでいますが、一般会計であることから、ヒト・カネを含めた一体的な管理が制度上難しくなっています。
また、上下水道事業や道路事業等では、資産状況を紙媒体で管理している自治体もいまだ見られます。そのため、現状では共通的なデジタルソリューションの活用などにも至っていません。
各インフラの資産管理の状況が異なっている現状やDX以前のデジタル化に遅れが見られる現状では、複合インフラ管理としての全体最適が成立しにくいと言えます。
自治体職員の減少もさることながら、多くの自治体では、一般行政職の他に土木職や機械職、電気職等の専門職が採用されており、専門領域が分かれています。他方、民間事業者においても、従来、自治体からは設計・施工・維持管理が個別に発注されていたことも影響し、単一分野に特化した企業や人材が多い傾向にあると考えられます。
複数分野を一体でマネジメントするには、分野横断的な知見・スキルが必要と考えられますが、現場の人員構成と訓練体系が追いついておらず、“人材の壁”は制度の壁と相互作用し、現場での複合化を足止めしていると考えられます。
上下水道や道路などのAMは、法制度・会計区分・点検義務の違いにより、分野間でデータ構造も成熟度もそろっていないため、「ヒト・モノ・カネを横断で最適化するAM(全体最適)」が、構造的に成立しにくいのが現状です。これを実務から動かす最も有効な方法が、デジタルによる統合データ基盤の整備と考えられます。
デジタルソリューションを活用し、「何かのついで」にインフラ維持管理情報を一体的に収集することや、データ管理の一元化、デジタルデータに基づく分析は、それぞれ実装されてきており、これらを複合インフラ管理としてつなぎ合わせることでさらなる効率化が期待されます。
デジタルソリューションの活用により、各インフラ間のAM成熟度の差を時間とともに縮め続ける仕組みが実装されることで、結果として、壁を越えた全体最適の土台を整える戦略となります。
図 複合インフラ管理による効率化に向けたデジタルソリューションによるアプローチ
また、少ない人材で効率的にインフラ管理を進めるためには、「人材の多能工化(さまざまな領域に対応できるマルチスキルを持った人材)」が有効と考えられます。
石川県かほく市の事例では、水道事業・下水道事業・農業集落排水事業を一体での包括的民間委託を発注した結果、「作業員のマルチスキル化」効果があったとされており7、水道・下水道・農集排の3事業に求められる人材・技術が類似していることが一体管理する背景としてあげられています。
「PPPで複数年一括発注することによって、民間事業者による創意工夫が生まれる」とはよく言われますが、「民間に任せたことで多能工化が進んだ」ことはまさにPPPによる効能と言えるでしょう。
また、地域インフラを支え続けていくためには、上下水道業界の担い手不足を解決する必要があります。地域に根付いて長期的に従事する地域インフラの担い手が必要であり、PPPによる長期契約であれば、民間事業者も地域人材を雇用しやすく、地域に根付いた地域インフラの担い手を確保しやすくなると考えられます。
上下水道や道路などのインフラを統合することは制度的に難しい。であるならば、疑似的にまとめあげる“箱”を作ってしまえばいいではないか――自治体と地域事業者が共同出資する地域インフラマネジメント会社(日本版シュタットベルケ)が、制度の壁を動かす最適解ではないかと、私たちは考えています。
日本版シュタットベルケは、自治体と地域事業者等が共同で設立する地域インフラマネジメント会社であり、上下水道や道路など分野別に分断された維持管理を外部の法人格で一体的に担う仕組みを想定しています。官民双方から出資するとともに、人材を派遣し、地域インフラマネジメント会社でも地域の人材を雇用することで、地域のインフラ管理人材を育成確保することにつながります。
自治体は横断的な維持管理のメニューと性能規定を定義し、民間は複数年・複合分野の安定事業で技術投資・デジタルソリューションの活用と多能工化を進める。“デジタルソリューションの活用とPPPによる多能工化を外部法人でまとめあげる”ことで、制度の壁を外側から動かすことができると考えます。
図 地域インフラマネジメント会社(日本版シュタットベルケ)のイメージ
人口減少と財源縮減が進むこれからの時代、地域インフラを従来の縦割りのまま維持していくことは、ますます困難になるでしょう。だからこそ、上下水道や道路、電力・ガスといった複数分野を一体で捉える複合インフラ管理は、地域の持続可能性を支える“次の当たり前”になるはずです。その実装を後押しするのが、デジタルによるデータ統合と、PPPによる多能工化です。これらは単なる効率化策ではなく、外部法人による統合的な運営を可能にする日本版シュタットベルケへのスイッチでもあります。
複合インフラ管理や日本版シュタットベルケは夢物語ではなく、実現がもうすぐそこまで見えてきている経営改革策です。今後、自治体と民間が力を合わせ、複合インフラ管理が地域課題解決の新たな基盤として根付くことができるように期待しています。
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今後の人口減少に対して、面的に広がるインフラを一体的に管理することは自然な流れであり、「複合インフラ管理」の重要性は今後増すと考えられます。
現状では制度の壁等があるものの、デジタルツールを活用した老朽化対策や、官民が連携して人材を確保しさまざまな領域に対応できるように人材育成していくことで、その先の“日本版シュタットベルケ”による解決が期待されます。
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