The Humber Bridge, UK was built in 1981 and at the time was the worlds largest single-span suspension bridge

エージェント型AIはどのようにインフラのインテリジェンスレイヤーを創造するのか


エージェント型AIは、インテリジェンスレイヤーとしてサイロ化されたデータをつなぎ、意思決定に活用可能なインサイトを提供し、人間の判断をより的確なものとします。


要点

  • インフラ業界では近年、デジタルイノベーションが大きく進展してきましたが、効率性の向上は、より広範なエコシステム全体に波及するまでには至っていません。
  • エージェント型AIは、インテリジェンスレイヤーとして機能することで、分散しているシステムを連携させ、より幅広いインサイトを提供しインフラ業界を変革する可能性を秘めています。
  • エージェント型AIに人間のより高度な判断を組み合わせることで、インフラプロジェクトのデリバリーを加速させられる可能性があります。勝者となるのは、この変化の方向性を定義する側に立つ組織です。



EY Japanの視点

インフラ業界においては、建設労働人口の減少や建設費用の上昇により多くの開発プロジェクトが延期・中止に追い込まれるなど、生産性の向上は喫緊の課題となっています。しかし、重層的なサプライチェーンと多様なプレイヤーで構成されるインフラ業界全体の生産性向上を実現させることは容易ではありません。また、インフラプロジェクトには、公的機関、発注者、金融機関、設計者、施工者、運用者など、多くのステークホルダーが関与しており、サイロ化された情報を前提とした調整や意思決定に多大な時間とコストを要しています。

エージェント型AIは、こうした課題に対する有力な解決策として注目されており、サイロ化された情報を横断的に活用する「インテリジェンスレイヤー」として、新たな価値創出の可能性を示しています。

業界全体の生産性向上を真に実現するためには、各ステークホルダーがAIを個別に導入するだけでなく、データ基盤やガバナンスの整備を進めるとともに、業界横断での連携が不可欠になるでしょう。


EY Japanの窓口

安部 里史
EY Japan 公共・社会インフラセクター 監査サービス クライアント・アンド・インダストリー・リーダー EY新日本有限責任監査法人 パートナー



EY Japanの視点

エージェント型AIの活用による次の10年の競争優位づくりを

インフラ業界では、DXの進展に伴い、データは豊富にあるのに意思決定に生かしきれないという共通課題に直面しています。

EYの最新レポートでは、専門AIエージェントが設計・調達・工程・コストなど各サイロを横断して情報を統合する「インテリジェンスレイヤー」が、分断による年間数千億ドル規模の価値損失を解消する鍵になると指摘しています。

重要なのは、既存のサイロや組織境界を壊すのではなく、その上位層としてつなぎ、人間の判断を代替せず連携・調整の負担をエージェントに移す点です。これにより意思決定のスピードと質が高まります。

深刻な担い手不足と生産性向上が急務な日本の建設・インフラ業界にとっても、既存システムを生かしながら対象を絞って段階的に導入できるこのアプローチは、着実な投資対効果を生む現実的な一手となるでしょう。ガバナンス整備と並行した導入こそが、今後10年の競争優位を左右します。


EY Japanの窓口

中田 博之
EY Japan インフラストラクチャーセクター コンサルティングリーダー EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 公共・社会インフラセクター パートナー

共同執筆者
安田 景
EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 公共・社会インフラセクター ディレクター


近年、インフラ分野全体で技術革新が大きく進展しています。現在では、インフラ資産のライフサイクルの各段階にデジタルアプリケーションが数多く導入されており、新たなシステムは、ステークホルダーがこれらの資産をより適切に監視・管理できるよう設計されています。しかし、インフラのデジタル化が進んでいるにもかかわらず、インフラ業界全体の効率性向上には結び付いていません。

実際、それぞれの改善効果が積み重なっていないのが現状です。個別には問題なく機能する多数のデジタルツールが、相互に連携できていないためです。新たなセンサー、工程管理エンジン、コンピュータービジョンシステムが追加されるたびに、すでにデータで飽和した環境に、さらにデータが加わっています。

その結果、生産性は横ばいとなり、停滞することさえあります。ある領域に特有のデータが過剰に存在しても、多くの場合、適切なステークホルダーには伝達されておらず、主要プロジェクトに対する監督機能を損なっています。組織やデータのサイロ間の摩擦は積み重なり、その厳しい現実を統計は如実に物語っています。

Construction Industry Institute(CII)の業界ベンチマークによると、直接的な手戻りコストは、総建設コストの平均約5%を占めます 1 。一方、より広範な業界ベンチマークでは、手戻り全体のコストは一般的に10–15%の範囲に位置付けられています。2030年までに年間最大7兆米ドルの投資が見込まれるグローバルなインフラパイプライン2,3 にこれを当てはめると、対処可能な価値損失は毎年数千億米ドル規模に上ります。通常、理由は同様で、機能、組織、システム間のインターフェースにおけるにおける連携不足がその原因となっています。

インフラのデジタル化における大きなテーマの一つは、各ツールが調和して連携できるよう、サイロを解消することでした。しかし、サイロが存在することには合理的な理由もあります。サイロは多くの場合、知的財産を保護し、専門職としての説明責任を明確にし、ビジネス上および組織上の境界を反映しています。こうしたサイロを解消することは現実的ではありません。これほどの規模と複雑性を持つインフラ業界において、課題はサイロをなくすことではなく、サイロをまたいでより効果的に連携・調整することなのです。

ここで有効となるのがエージェント型AIです。EYの新しいレポート『インテリジェンスレイヤー:インフラ業界の分断されたデータを統合するエージェント型AI』では、エージェント型AIがどのようにサイロ化されたデータやシステムを横断して、データポイントを意味のある形でつなぎ合わせ、より良い意思決定を支援し、人間の判断を高めることができるかを考察しています。

インテリジェンスレイヤー:インフラ業界の分断されたデータを統合するエージェント型AI

エージェント型AIによるインフラプロジェクトデリバリーの変革についてご覧ください。

 Queensferry Crossing Bridge at sunset
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第1章

エージェント型AIがもたらす機会

エージェント型AIは、サイロ内にあるデータをつなぎ、人間の判断を高める「インテリジェンスレイヤー」を構築します。

次のようなインフラシステムを想像してみてください。インフラプロジェクトのリーダー層は、インフラプロジェクトの変化の兆しが現れた時点でその全体的な影響を把握できます。インフラ資産のオーナーはポートフォリオへの影響をより早期に理解し、その運用者はインフラ資産のライフサイクル全体にわたってパフォーマンスを追跡できます。また、投資家、規制当局、インフラサービスを提供するデリバリーチームは、リスク、影響、機会をより包括的に捉えた上で対応できます。このようなシステムでは、インテリジェンスは計画、資金調達、設計、デリバリー、運用などの領域の境界でも滞ることはありません。領域を横断して機能し続けます。

これが重要なのは、インフラ領域のガバナンスが、人間による連携・調整のみではますます困難になっているためです。データ量は増加し、相互依存関係は増大しています。また、意思決定の影響は、ビジネス、技術、運用、公共性に関わる各領域に同時に及ぶようになっています。

エージェント型AIは、インフラ領域が依拠するシステム、機能、組織内の境界の上に横断的に重なるインテリジェンスレイヤーを構築し、分断された情報を整合させ、判断と意思決定を担う人間に意思決定に活用可能なインテリジェンスを届けることができます。これにより、各システム・機能・組織の垣根を取り除くことなく、インフラサービスの効率的かつ革新的な提供を可能にします。システム全体で見れば、これはリスクの早期可視化、より迅速で十分な情報に基づく意思決定、資本規律の強化、運用のレジリエンス向上、そして組織、機能、ライフサイクル段階のそれぞれにおける連携不足によって失われる価値を低減することにつながります。

エージェント型AIとは?それは本質的に、さまざまな専門AIエージェントが複数のソースから得た情報を基に相互に推論する、目的指向型のシステムです。これは従来型の自動化ではありません。自動化とは、あらかじめ定義されたタスクを継続的に処理するようにプログラムされたテクノロジーを指すためです。また、データ標準化や既存システム全体の刷新を意味するものでもありません。

そうではなく、エージェント型AIは、「インテリジェンスレイヤー」によってインフラエコシステムを強化します。このレイヤーは、多数の専門AIエージェントで構成されており、各サイロにアクセスし、必要なデータを抽出して、適切なユーザーに届けます。例えば、工程管理を担うAIエージェントはクリティカルパスを能動的に再計算し、遅延の原因となりうる要素や、それがプロジェクト全体に与える影響を分析した上でスケジュールを最適化します。安全管理を担うAIエージェントはリスクを評価し、軽減策を提示します。原価管理を担うAIエージェントはプロジェクトの進捗と遅延を継続的に監視し、それらが収益性や財務面に与える影響を分析します。これらすべて、さらにはその他の情報も、各エージェント間を連携・調整する統括AIエージェントに集約されます。その結果、従来のように組織や機能ごとのサイロを解消する必要はありません。

重要なのは、エージェント型AIが人間のエンドユーザーに役立つように設計されているという点です。インテリジェンスレイヤーは、一般的なインフラプロジェクトで生み出される膨大なデータを統合・整理し、経営層やプロジェクト責任者などの主要な意思決定者に対して必要な判断材料と優先順位を提示します。これにより、工程遅延やその他の問題がプロジェクト全体にもたらす影響を直ちに特定し、適切な対応策を迅速に策定することが可能になります。その上で、人間は統合AIエージェントを活用し、プロジェクトを成功裏に完了へと導きます。

それに対して、エージェント型AIは、「インテリジェンスレイヤー」によってインフラエコシステム全体を強化します。このレイヤーは、多数の専門AIエージェントで構成されており、それぞれが各組織やシステムのサイロにアクセスして必要なデータを抽出し、その情報を適切な利用者に届けます。

Aerial view of the airport in twilight
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第2章

インフラの未来を創るエージェント型AIの活用

エージェント型AIを現実のものとするために、インフラ業界が取るべきアクション

エージェント型AIが真価を発揮するには、エージェントが組織内の垣根を超え、本来は分離されたまま運用されることを前提に設計された複数の情報源を、横断しながら推論できる環境が必要です。その実現には、データの利用や責任範囲、アクセス権限などを適切に管理するガバナンスの枠組みが重要となります。

エージェント型AIのガバナンスフレームワークを成功させるには、次の5つの要素を適切に整備する必要があります。すなわち、説明責任と法的責任、透明性と説明可能性、データ主権と商業上の機密保持、人間による適切な監督、システム全体の安全性・復元力です。

これらはいずれも多面的で複雑であり、エージェント型AIを安全かつ効果的に活用するためには、高度なガバナンスが求められます。

しかし、インテリジェンスレイヤーは、その価値の創出をもたらすために、組織の運営モデルやシステムを直ちに全面的に見直す必要はありません。エージェント型AIはさまざまなプロジェクト、プログラム、ポートフォリオに横断的に機能するため、その効果や成果は、エージェント型AIを活用する組織のデータ品質やガバナンスの成熟度に大きく左右されます。

インテリジェンスレイヤーの必要性は戦略的な観点から明らかですが、その導入アプローチは現実的かつ実践的でなければなりません。多くの組織にとっての課題は、いきなり完全なエージェント型AI環境を直ちに構築することではありません。むしろ、どのように次の一歩を踏み出し、価値を創出しながら信頼を築き、時間の経過とともに将来の導入に向けた準備を段階的に進めていくかという点にあります。

エージェント型AIから最大の価値を引き出す企業は、その場限りの実証実験を繰り返す企業ではありません。インテリジェンスを将来にわたってビジネス全体でどのように機能させるべきかについて明確なビジョンを描き、その方向性に沿って投資、ガバナンス、テクノロジーに関する意思決定を一貫して整合させる企業こそ、最終的に競争優位を獲得することになるでしょう。
 

そのため、効果的な統合は段階的に進むことになります。この成熟度モデルでは、これを3つの段階で示しています。まず散在するデータや情報をつなげる「統合されたインサイト」の段階から始まり、次に複数のエージェント型AIが連携して意思決定を支援する「連携型インテリジェンス」に進み、そして最終的に状況の変化に応じてAIが自律的に適応・調整を行う「適応型インテリジェンス」に到達する3つのステージが示されています。これらのステップと並行して、関与するエージェント型AIの役割も段階的に進化していきます。最初は情報を提供し、次に提案を行い、その後、人の承認を得た上でアクションを実行します。最終的には人間の監査・監督の枠組みの下、より自律的に行動するようになります。

 

連携という考え方に基づき、業界横断で取り組むべきアクションもあります。これらの取り組みは発注者、投資家、事業者、サプライヤーなど、すべてのステークホルダーグループに共通するものであり、エージェント型AIへの関心を実装・展開へと結びつけるための具体的なアクションプランとなります。

  • 明確な長期的ビジョンを設定する
  • エージェント対応を前提としたシステム設計を行う
  • データを戦略的アセットとして扱う
  • 既存のワークフローを活かした形で導入する
  • データ連携だけでなく、データの意味そのものを組織横断で統一するための基盤整備に投資する
  • ガバナンスを並行して構築する
  • AI専門人材・組織能力への投資を行う

これらのアクションは、役割や職位にかかわらず、すべてのステークホルダーが実行すべきものです。

インテリジェンスレイヤーという構想は戦略的に極めて重要ですが、その導入プロセスは現実的でなければなりません。多くの組織にとっての課題は、最初から完全なエージェント型AI環境を構築することではありません。むしろ、どのように次の一歩を踏み出し、価値を創出しながら信頼を築き、時間の経過とともに将来の導入に向けた準備を段階的に進めていくかという点にあります。

さらに、エージェントによる連携・調整が、安全かつ大規模に価値をもたらすための条件を整えるには、ステークホルダーグループごとに、自らの役割に対する責任を果たす必要があります。

  • 政府および規制当局:安全性が重視されるインフラ分野向けにAIを活用した意思決定のガイダンスを策定します。
  • アセットオーナーおよび投資家:測定可能なKPIを設定した限定領域でインテリジェンスレイヤーを試験導入します。
  • 設計者およびコンサルタント:設計データを、人とエージェント型AIの双方が利用しやすい形式で整備します。
  • 請負事業者およびデリバリー組織:第1フェーズでは、既存の工程、原価、進捗管理システムを基盤としてエージェントを導入します。
  • 運用者:資産ライフサイクル全体の情報を検索可能な形式で保持するよう、標準化された引き継ぎ要件を定義します。
  • テクノロジープロバイダー:特にOpenUSDおよびIFCをはじめとするオープン標準を採用し、異なるシステムやデータモデル間の意味の違いを理解・変換しながら連携を可能にする機能への投資を進めます。
  • 教育・研究機関:エンジニアリングおよび建設管理のプログラムにエージェント型AIのガバナンスを組み込みます。

プロジェクトのリーダー層にとって、当面の優先事項は、あらゆる問題を一度に解決することではありません。まずは最も大きい摩擦や非効率が生じている調整・連携上の課題を特定し、その領域で価値を実証した上で、そこから段階的に展開していくことが重要です。ただし、そのような短期的で実践的なアプローチは、より明確で長期的なビジョンと整合的に進められるべきです。すなわち、システム、データ、意思決定プロセスを、将来的なエージェント型AI導入に対応可能な形で、設計段階から整備していく必要があります。その結果、インテリジェンスレイヤーは、構想段階から実際の業務基盤へと進化し、個別のユースケースから持続的な競争優位性の源泉へと昇華していくことになるでしょう。

今や問題は、この変化が訪れるかどうかではありません。問われているのは、リーダー層とその企業が自らこの変化を形づくる側に立つのか、それとも受動的に変化に適応する側に回るのか、ということです。完璧な情報や確実性を待ち続ける企業は、気づいたときには市場や業界の方向性がすでに他者によって決められていることになるでしょう。


サマリー

インフラ業界では近年、デジタルイノベーションが大きく進展してきましたが、求められる効率性はまだ実現されていません。エージェント型AIが、サイロ化されたデータをつなぎ、意思決定者により幅広いインサイトを提供するインテリジェンスレイヤーを構築する能力は、インフラプロジェクトのデリバリーを加速する新たなアプローチをもたらします。今問われているのは、組織がこの変化を形づくる側に立つのか、それとも受動的に適応する側に回るのかです。



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