EYメガトレンドについて

生産性の再設計による価値創出の転換


AIとグローバルな変化が生産性の在り方を再定義しつつあり、新たな指標とよりスマートな戦略が求められています。


要点

  • AIとメガトレンドは、企業が価値を創造し、成功を測る方法そのものを変えつつある。
  • 真の生産性向上には、データ、スキル、オペレーティングモデルの見直しが不可欠である。
  • 持続的な成果を実現するには、リーダーは、持続的なイノベーション、ガバナンス、そして人間と機械の協働のバランスを取る必要がある。


EY Japanの視点

AI時代に日本企業に求められる生産性の再定義

本稿が示唆する最も重要な変化は、AIによって生産性の定義そのものが変わることです。これまでの生産性は「より少ない人員や時間で、より多くの業務をこなすこと」が中心でした。しかし、AIが膨大な情報処理やコンテンツ生成を担う時代には、「どれだけ作ったか」ではなく、「どれだけ価値ある意思決定や成果につなげたか」が問われるようになります。 
 
日本企業でも生成AIやAIエージェントの活用が進み、定型業務の自動化は加速しています。一方、多くの企業ではデータやシステムが部門ごとに分断されており、AIを企業全体の価値創出につなげる基盤は十分とは言えません。今後はデータとAIを前提としたオペレーティングモデルの刷新に加え、顧客価値の創出を起点としたビジネスモデルの変革が求められます。
 
特に製品やサービスを通じて顧客接点を持つ日本企業にとって、この変化は大きな成長機会になり得ます。AIを活用して顧客の利用実態や成果を継続的に把握し、製品販売中心のモデルから、成果や体験価値を提供するモデルへ転換できる可能性があります。その結果、人材評価や組織マネジメントにおいても、業務量や工数ではなく、顧客成果への貢献、意思決定の質、イノベーション創出をどのように評価するかが重要な経営アジェンダとなるでしょう。
EY Japanの窓口

本記事は、「EYメガトレンド」シリーズの「Preparing for the human-machine hybrid era」でご紹介しているインサイトの一部です。

生産性の歴史とは、何を測定し、どのように考え、どう管理するかという歴史でもありました。生産性は極めて重要であり、その向上は経済成長をけん引し、生活水準を高めるとともに、企業の収益と投資収益率の向上にも寄与します。

私たちは今、生産性の再編が進む転換点にいます。­── 何が生産性を左右するのか、どのように評価するのか、さらにはその概念自体の意味も変わろうとしています。こうした再編を推し進める主な原動力として人工知能(AI)が脚光を浴びていますが、それだけが原動力ではありません。規制や主権を巡る変化、地政学とサプライチェーンの再構築、エネルギーとコンピューティングの制約、資本とリスクコストの圧力、人口動態の変化と人材への期待、そして気候移行といった要因も絡んでいます。そうした要因を背景に、生産性はもはや「予め設定された標準」ではなく、動的なシステムの特性を有するようになっているとなっています。

今後、生産性は、従来のように単純に「インプット量に対するアウトプット量の比率」だけでは捉えられなくなるかもしれません。これまでは量の拡大を巡る激しい競争が続いてきましたが、機械が無限とも思える量のコンテンツを生成できる時代に入った今、その前提が覆るかもしれません。今後、焦点は品質と創造性へと移り、その原動力として、情報やインサイトやイノベーションを持続的な経済価値へと変換する組織の能力がこれまで以上に重要になっていくでしょう。今後の課題となるのは、生産ライン上ではなく、デジタル・エコシステムの中で生み出される成果をいかに定量化し、インセンティブ化するかという点です。具体的には、意思決定のスピード、自律システムの適応力、そして人間と機械の協働によって生み出される創造性を活用することで生じる成果をどのように評価するかが問われます。

しかし、どれほど変化があっても、生産性の本質は変わりません。人・物・資金・計算能力といった資源を活用し、より高品質かつ迅速で優れた成果を実現することにあります。

ビジネスリーダーにとって、その意味は極めて重大です。AI時代の真の生産性は、段階的な自動化からではなく、組織の運営、意思決定、学習のあり方を再設計することから生まれます。

生産性は、従来の「いかに速く安く業務をこなすか」から、「いかに質を高め、より賢く、レジリエンスを強め、戦略的に業務を遂行するか」という次元へ移っていきます

政府や政策立案者は、ビジネスにおけるAIの台頭を受け、生産性指標の見直しだけでなく、デジタルスキルや分析力、適応力を重視する教育システムへの転換を迫られています。政府はまた、AIが産業戦略、サステナビリティ施策、そして労働力の再構築を支える労働・移民政策の策定に与える影響についても検討する必要があります。

ビジネスと政府の双方において、これからのリーダーとなるのは、AIを単なる技術的変革ではなく人間に関わる変革と捉える人々です。場合によっては、AIがツールから労働力の一部へと進化し、新しい時代のパフォーマンス、目的、進歩の概念を再定義することになるでしょう。そうした未来では、生産性とは、同じことをより多くこなすことではなく、これまでは不可能だったことを構想し、実現することを意味するようになります。

このことは企業や政府のリーダー全般にとって重要であると同時に、最高経営責任者(CEO)、最高財務責任者(CFO)、最高戦略責任者(CSO)、最高執行責任者(COO)、最高人事責任者(CHRO)、そして政府高官や政策立案者にとって、特に重要な意味を持ちます。こうした動きは、生産性最高責任者や最高エージェント責任者といった新たな役割を検討する契機になるかもしれません。

アイスクリームコーンを客に渡すロボットアーム
1

第1章

現代の生産性測定の歴史:鉄鋼からソフトウェアへ

生産性の測定は難しく、その複雑さは増す一方です。

現代の生産性を巡る議論は、20世紀初頭の概念にさかのぼります。フレデリック・テイラーが提唱した「科学的管理法」は、時間・動作研究によって工場作業に革命をもたらし、生産性を「測定可能な機械的効率」と定義しました。テイラーは鉄鋼工場において、作業フローや休憩時間の取り方を再編することで、作業員1人当たりの1日の生産トン数という、純粋に物理的な指標を向上させられることを示しました。

1950年代になると、ロバート・ソローが成長会計によってこの概念を拡張し、労働や資本による成長と、技術革新や効率性による成長とを区別し、後者はのちに「全要素生産性」と呼ばれるようになりました1

しかし、経済がサービスやソフトウェアへと移行するにつれ、測定は一段と難しくなりました。商品を数えるのは容易ですが、使いやすさや検索効率、公共サービスの質を評価するのは容易ではありません。価格ベースの指標は無料のデジタルツールや非市場サービスには適さず、実際の進歩を明確には捉えられません。測定手法が工場のストップウオッチから複雑なデータシステムへと移り変わってきたこと自体が、なぜテクノロジーのインパクトが統計には表れにくいのかを物語っています。ソローが指摘したように、「至るところでコンピューターの時代を目にするが、生産性の統計ではお目にかかれない」のです。研究によれば、IT導入の初期段階では、業務の中断や情報過多によって生産性を低下させたと報告されています2

Ernst & Young LLP、Strategy and Transactions、EY Parthenonの Vice PresidentのGreg Dacoは、次のように述べています。「私たちは、AIがけん引する生産性革命の確固たる最初の確かな兆しを目にしています。それは業績ではなく投資に現れています。企業は、データ・インフラ、ソフトウェア開発、エネルギー、人材へ資本を投入し、将来の成長基盤を整えつつあります。」

「AIは今後10年間で、経済成長を2~4年分押し上げる可能性があります。ただし、それは企業が、堅牢なデータ、信頼性の高いインフラ、十分なエネルギー、スキルを持つ人材といった基盤を整えられた場合に限ります。生産性向上の恩恵を受けるのは、成果を追う前に強固な基盤を築いた企業です」

生成AIによる世界GDPの実質押し上げ幅(2033年まで)
1.5%
1.5%
基本シナリオ
生成AIによる世界GDPの実質押し上げ幅(2033年まで)
3%
3%
楽観シナリオ

労働時間重視から成果重視への転換は、AI時代の生産性の概念を再定義しています。これまで成功は時間当たりの生産性で測られ、たとえば法律専門職では作成した訴訟書類の数、会計専門職では監査した財務諸表の数によって評価されるなど、時間が成果につながるという前提に立っていました。AIのCopilotやAIエージェントが登場した今、時間は潤沢になり、人間の洞察力と正確性が新たな制約となっています。生産性は今や、求められる人間の監督・管理の負荷に対する成果の質やインパクトを反映するものとなっています。より適した公式は次の通りです。生産性=(正確さ×関連性×インパクト)/人間の認知機能、判断に影響を及ぼす情報入力価値のある成果を得るために必要な修正が少ないほど、生産性は高くなります。

 

「真の生産性は、費やした時間ではなく、生み出した価値で測られるものです」と、Ernst & Young LLPの最高技術責任者(CTO)Biren Agnihotriは述べています。

AIの普及拡大によって、生産性をどう測るかという長年の課題はさらに複雑になる可能性が高く、時間や機械だけでなく、アイデアやソフトウェア、組織が成長にどのように貢献しているのかを測定することが、これまで以上に重要になります。
 

研究者や政策立案者は、生産性を複数の観点から再考しています。

  • 生産性の指標を拡張し、AIやロボティクスを単なる裏方のツールではなく、生産に積極的に寄与する存在として位置づけ、人間とエージェントの働きを合わせた単位当たりで創出される価値として捉える3
  • 新たな国際的な政府会計基準において、データ、アルゴリズム、計算能力の価値を生産資産として計上する4
  • AIサービスの価格指標を改善し、生産性向上を過小評価しないようにする(急速に進化するAIがより高速に学習し、より複雑なタスクをこなせるようになっても、そうした性能向上が価格や品質の指標に反映されない場合があるため)5
真の生産性は、費やした時間ではなく、生み出した価値で測られるものです。

ここれらの変化は、単に人の働き方の効率だけでなく、人間とインテリジェント・システムがいかに効果的に協働できるかが生産性に反映される未来を示唆しています。この測定を正しく行うことは、投資や政策の方向性を定め、次の自動化の波によって生じる利益を公正に分配するうえで不可欠となります。

夜のラップランドの、灯りに彩られた高速道路の航空写真
2

第2章

AIによる生産性向上の可能性を理解する

AIによる生産性向上を実現するには、戦略的転換、信頼できるデータ、成果重視の実行が必要です。

AI自体は、ルールベースのシステムから機械学習モデルまで、長年にわたりさまざまな形で利用されてきました。最近のノーベル賞受賞者の研究にもAIの活用が見られ、物理学賞と化学賞はいずれも、AIを活用した研究を基盤に成果を挙げた科学者に授与されました6。しかし、2022年11月の生成AIチャットボットの一般向けリリースは、状況を一変させる転機となりました。記事やプレゼン資料、そして画像や動画に至るまで、内容を理解し、人間が作成したかのようなコンテンツを生成するその能力は、一般の人々や投資家の注目を集め、さまざまな業界にかつてない熱狂と投資を呼び起こしました。

かつてAIをニッチなツールと見なしていた企業も、AIを生産性とイノベーションをけん引する戦略的な推進力として捉え始めました。生成AIが突如、誰でも多用途に活用できるようになったことで、自動化は反復業務にとどまらず、創造的業務や知識労働、コミュニケーション、意思決定支援にまで広がる可能性が示されたのです。

ただし、AI活用によってもたらされる経済的利益については、まだ明確な算定はできていません。 1990年代の情報通信技術(ICT)がもたらしたような経済押し上げ効果が見込まれるとの見方が広がっています。


マーケット・インテリジェンスとアドバイザリー・サービスをグローバルに提供するIDC社は、「人工知能(AI)導入に向けた企業支出は(略)2030年までの間に累計19.9兆米ドルの世界的経済効果を生み、2030年の世界国内総生産(GDP)を3.5%押し上げる」と予測しています7。マイクロソフト社のサティア・ナデラCEOも同様の期待を表明し、AI投資が英国の成長と生産性向上を後押しするとの見方を示しました。「それはもっと早く実現するかもしれません。実現は10年後ではなく、5年後かもしれないと期待しています」8

すでに多くの企業が導入実績を示していますが、私たちはまだ潜在的な恩恵の入り口に立っているにすぎません。AIの変革力は広く認められていますが、生産性向上による本格的な恩恵は、依然として理論の域を出ていません。とはいえ、企業発表におけるAIと生産性に関する言及の分析結果が示すように、AIによる生産性向上はビジネスリーダーにとって大きな関心事となっています。


生産性の次の波は、エージェト型AIによってもたらされます。エージェント型AIとは、複雑なワークフローを自律的に管理し、半自律的な判断を行い、部門を横断してタスクを調整できるシステムです。このような高度なエージェントが広く普及するには、まだ1年半~3年ほどかかるとみられますが、これはEYが提唱する「スーパーフルイド(超流動型)・エンタープライズ」に向けた本格的な第一歩となります。

「企業は、AIが価値を生み出せるかどうかを議論する段階を過ぎ、その価値をどう実現するかという、より難しい課題に直面しています」と、Ernst & Young LLPのPartnerで、EY Global Consulting Supply Chain and Operations LeaderのBrad Newmanは述べています。「サプライチェーンやオペレーションといった領域では、理論上の『完全自動化』から、統合と実行という現実的な課題へと議論が移っています。」

その結果、ベンダーが提示する技術的な可能性と、CEOが公にコミットしようとしている測定可能な成果との間には、大きな実行ギャップが生じています。

AIを活用した変革と生産性向上を実現するには、プロセス順守型の運営から、例外管理とオーケストレーションを基盤とする成果ベースのオペレーティングモデルへと、大々的に転換する必要があります。リーダーは、決められたルールや手順の厳守を全員に徹底させるのではなく、異常が生じたとき、結果が想定を外れたとき、あるいは注意を要する問題が生じたときにのみ介入することに重点を置くべきです。すべてを逐一管理するのではなく、オーケストラの指揮者のように、人、テクノロジー、プロセスを調整し、期待する成果の実現に向けて時間を投じることが求められます。

企業は、AIが価値を生み出せるかどうかを議論する段階を過ぎ、その価値をどう実現するかという、より難しい課題に直面しています。

ビジネスアーキテクチャのそうした変革には、複数年にわたる取り組みが必要です。

Ernst& Young LLPのPartnerで、EY Global Customer Managed Services LeaderのMichael Von der Geestは、このことを端的に表現しています。「大半のビジネスリーダーは、ビジネスモデルを設計できるほどAIを理解しておらず、技術者の大半も、企業がどのように事業を運営しているのかを十分理解していないため、どう実現すべきかを示せません。」

互いにこうした死角があると、組織は、まだ存在しない証拠や事例を探し求めることになります。具体的な成果を示すことの難しさが投資の勢いを鈍らせています。

しかし、この技術が大きな効果を生み出していることを示す証拠はすでに存在します9


多くの企業は、AIによる生産性向上の成否は、アルゴリズムの高度さよりも、その土台となるデータの質にかかっていると認識するようになっています。しかし、多くの企業は依然として、複雑で断片化したシステムに散在するデータを整理・統合し、構造化することに苦戦しています。Newmanはこれを普遍的な問題だとし、「データ面で苦戦している企業もあります。データの品質が1つの課題であり、さらに、そもそも必要なデータが存在するのかという問題もあります」と述べています。企業は「自己修復型データ」ツールへの投資を強めています。これらはAIを用いて不整合を検出し、ギャップを埋め、欠落したデータポイントを生成することで、信頼性の高い自動化の基盤を構築するものです。

 

同時に、自動化とAIの境界が曖昧になってきています。企業は、本当に必要なのは単なるプロセスの自動化ではなく、リアルタイム分析と適応型ロジックによって人間の判断を拡張する「意思決定インテリジェンス」なのだと認識しつつあります。複雑なサプライチェーンにおいては、AIは単にタスクを実行するだけでなく、コスト、リスク、サービスレベルのトレードオフを継続的に最適化することを意味します。

 

この生産性の飛躍的向上は、「フィジカルAI」として知られる領域でとりわけ顕著です。企業は機械やロボティクスに直接インテリジェンスを組み込むことに可能性を見いだしつつあります。こうした新たな未来では、後付けカメラとエッジベースのアルゴリズムによって、ロボットは新たな部品をリアルタイムで認識して適応できるようになり、生産を止めて再プログラミングする必要もありません。工場は、物理的な変更が生じる前に工程順序や速度、エネルギー使用量を最適化するデジタルツインやシミュレーションを基盤に、適応型エコシステムへと進化しつつあります。

 

成果は現場だけにとどまりません。フロントエンド業務も変革が進んでおり、AIによって需要予測、在庫管理、保守対応の即応性が向上しています。空調(HVAC)などの業界では、予測システムによって、顧客が問題に気づく前に潜在的な故障を技術者へ通知できるようになり、ダウンタイムを削減するとともに、従来の製品販売を継続的なサービスモデルへと変えつつあります。こうした「サービス化」への移行は、根本的な変化を意味します。顧客は機械の購入から成果への投資へと移行しつつあり、収益化も単発販売ではなく、継続的なサービス提供を通じたものへと変化しています。

 

シュナイダーエレクトリック社は、こうした移行を体現する企業の一例で、「サービスとしてのエネルギー(energy as a service)」の提供に注力しています。継続的サービスの収益とデジタルソリューションは現在シュナイダーの事業の50%以上を占めており、ハードウェアサイクルに左右されない強固で安定した利益率を実現しています。

業務効率化やサービス販売だけでなく、AIはイノベーションそのものを加速させています。研究開発(R&D)の場では、数十年分の構造化データと非構造化データを学習した生成システムが、かつてないスピードで新たな分子や材料、応用分野を発見しています。リアルタイムの市場センチメントやコンペティティブ・インテリジェンス(競合分析)と組み合わせれば、R&D投資をより効果的に配分できるようになり、製品開発のスピードと成功率の双方を向上させることができます。

しかし、この生産性革命には強固なガバナンスと信頼が不可欠です。インテリジェント・エージェントが意思決定を行い、システムを監視し、相互にやり取りする場面が増えるにつれ、人間による監督と堅牢なアシュアランス体制が欠かせません。リスクマネジメントは、財務統制やコンプライアンスの次元にとどまらず、その対象を広げていかねばなりません。AI活用が前提となる未来の新たな業務のあり方に合わせて、リスクマネジメントを根本から見直す必要があります10。適切なガードレールがなければ、テクノロジーは生産性を向上するどころか、サイバー脅威やシステム全体に及ぶエラーなど、脆弱性をかえって増幅させることになりかねません。

最終的にAIは、単にスピードを向上させるだけでなく、事業効率を高める機会をもたらします。つまり、フィジカル業務とデジタル業務のすべてにインテリジェンスを組み込み、データを意思決定へと転換し、さらには価値創出そのもののあり方を再構築する好機でもあるのです。今後3〜5年の間に、こうした物理的能力と認知能力の融合が、新たな成長フロンティアを切り開くとみられます。そこでは、生産性は労働者1人当たりの生産高ではなく、アルゴリズム当たりのイノベーションによって再定義されるでしょう。

AIの生産性を最大限に引き出すには、企業は実験的取り組みから目的主導型のAI導入へと移行していく必要があります。先行導入企業の事例を見ると、AIは予知保全や品質管理、物流の最適化、R&Dの加速など、定量的に確認できる成果向上につながることが分かります。

しかし、最大の課題は優れたアルゴリズムの開発にあるのではなく、AIをビジネスオペレーションの基盤に組み込むことにあります。企業は、インテリジェント・システムの基盤、高品質で統合されたデータ、相互運用可能なプラットフォーム、そして信頼と透明性を構築する適応型ガバナンスの枠組みへ投資する必要があります。つまり、成果ベースのオペレーティングモデルへ移行しつつ、パフォーマンスや成功を測る指標については成果からアウトプットへとシフトさせるとともに、具体的な結果や提供価値をより重視し、さらにリーダーシップは固定的なプロセスの順守ではなく、例外管理や結果のオーケストレーションに重点を置くようになることを意味します。

生産性の次の波は、エージェント型AIによってもたらされます。エージェント型AIは、複雑なワークフローを自律的に調整し、部門を横断して意思決定を行うことができ、スーパーフルイド(超流動型)・エンタープライズ」の実現を可能にします。そうした継続的に活用されるインテリジェンスを軸にアーキテクチャを再構想する企業は、効率性とレジリエンス力を高められるでしょう。

フィジカルな業務とデジタルな業務の境界線が曖昧になるなか、組織はイノベーションと監督のバランスを取り、AIが人間の判断を代替ではなく拡張するようにしなければなりません。つまるところ、生産性を持続的に高められるかどうかは、技術的野心と戦略的規律を両立させ、データを意思決定へつなげ、インテリジェンスを持続的な競争優位へと変えるリーダーの能力にかかっています。

金色に輝く高層ビルの谷間に立ち、空を見上げる青年
3

第3章

政府や社会にとっての生産性の課題

AIはテコとなる一方で、賢明な政策、エネルギー改革、インクルーシブな労働力戦略を必要とします。

「欧州が生産性を高めることができなければ、私たちはいずれ選択を迫られることになります。新技術のリーダーであること、気候変動責任の模範となること、世界の舞台で自立したプレーヤーでいること ── そのすべてを同時に実現することはできなくなるのです。欧州型の社会モデルを支える財源も確保できなくなります。私たちが掲げる目標も、すべてではないにせよ、一部を縮小せざるを得なくなるでしょう」これは、欧州連合(EU)の競争力に関する報告書の中でマリオ・ドラギ氏が示した見解です11

しかし、そうした懸念はEUに限ったものではありません。英国も同様の懸念を抱いています。また中国は、全要素生産性を高め、質の高い発展を推進するため、イノベーション主導型の発展戦略を実施することで、生産性向上を目指しています12。多くの政府は現在、AI導入を、中長期的な生産性向上と戦略的技術における「産業主権」の確保のためのテコと位置づけています。

エネルギーシステムは、重要な制約要因であると同時に、大きな機会でもあります。現代のAIの学習や運用の多くはデータセンターで行われており、国際エネルギー機関(IEA)は、データセンターとAIによる電力需要がこの10年で大幅に増加すると警告しています。こうした需要増加は送電網、立地選定、クリーン電力の拡充に影響を及ぼします13。一方でAIは、再生可能エネルギーの予測から柔軟な電力需要の調整に至るまで、電力システムを最適化することもできるため、政府はデジタル化の拡大と気候目標の両立を図りやすくなります。

労働市場への影響も一様ではありません。国際通貨基金(IMF)は、認知的作業を中心とするサービス業や産業への依存度が高い先進経済国ほど、生産性向上の恩恵と労働市場の変動リスクの双方に直面する時期が早まると指摘しています。こうした影響の現れ方は、教育水準、性別、年齢によって異なります。政策立案者には、AIの普及に、柔軟なセーフティネットや積極的な労働市場政策を組み合わせ、恩恵が広く共有されるようにすることが求められています。経済協力開発機構(OECD)も、AIは働き方を変革すると指摘しており、的を絞ったスキル戦略がなければ地域格差が拡大する可能性があるとしています14

AIが労働者を補完するのか、それとも代替するのかは、教育と訓練次第です。ユネスコのガイダンスでは、学習者にデジタル能力、批判的思考力、倫理的判断力を身につけさせる人間中心のアプローチの採用と、公平性を確保しながらAIを活用して学習を個別化するシステムの導入を求めています。政府がこうした枠組みを採用すれば、AI活用が進む職場の業務構成の変化に合わせて、教育課程や職業訓練、生涯学習をより適切に調整することができます15

財政制度や規制制度も変化に対応していかなければなりません。IMFは、AIによって所得構造が資本やスーパースター企業に有利に傾く可能性があると指摘しています。そのため、スキル育成や包摂性の向上に資金を振り向けるとともに、資本所得課税の見直しと再分配の強化が必要になることを示唆しています。変化が段階的なシナリオであれ、大きな混乱を伴うシナリオであれ、必要な支援を拡大できる「機動的な」財政政策が求められています。税務専門家はすでに、コンプライアンスやリスク・スコアリング、サービス提供にAIを活用しています。しかし、その利用が広がるにつれ、公的な意思決定におけるガバナンスや透明性、セーフガードのあり方が問われるようになります16,17

政府にとって重要なのは、企業が生産性を高められる環境をどう整備するかです。しかし、新技術の活用には潜在的な負の側面もあります。そのため、最適な戦略は、生産性向上につながるイノベーション促進型の規制や投資を進める一方で、権利保護、エネルギーシステムとネットゼロ達成に向けた道筋との整合性確保、AI集約型経済に対応した税制・社会政策の現代化を支えるセーフガードを組み合わせることです。

AI時代における生産性向上のための行動計画

  • クリーンで相互接続されたデータを軸に再構築する: データをインフラとして扱う。AIを効果的に、かつ責任ある形で機能させるため、高品質で相互運用可能なデータシステムへ投資する。
  • 意思決定インテリジェンスをワークフローに組み込む:AIを単なる付加機能ではなく、意思決定のスピード、正確性、一貫性を高める中核的なケイパビリティとして日常業務に組み込む。
  • 努力だけでなく成果を測定する: 時間や投入量の追跡から、スピード、品質、レジリエンス、新たな収益源(特にサービス型モデル)といった指標を通じて価値を測定する方向へ転換する。
  • 強固なガバナンスを備えたエージェント型システムに投資する: AIエージェントを活用して複雑で部門横断的な業務を調整する。ただし、強固な監督体制、説明責任、倫理的なセーフガードを確実に整備する。
  • AIとデジタルツインで物理オペレーションをデジタル化する: エッジコンピューティングとシミュレーションを組み合わせて、スループット、品質、エネルギー使用量をリアルタイムで最適化する。
  • 人材・ツール・信頼を整合させる:あらゆる階層でデジタルスキルを育成し、相互運用可能なAIツールを中心にプラットフォームを再構築し、AIが人間の判断を代替するのではなく拡張するものとなるようリスク管理を組み込む。
  • 新たに生産性に対する指標を導入する:人間と機械の協働、データとモデルの価値、インテリジェントシステムのアウトプットへの貢献を反映する指標を策定する。

リーダーへの問い
 

CEO:
  • 3年先の競争優位を決定づける成果は何か、そしてAIは四半期ごとにどの程度の変化をもたらすのか。
  • エージェント型システムを安全に、部門横断で大規模に稼働させるには、どのようなオペレーティング・アーキテクチャやデータ、プラットフォーム、ガバナンスが必要か。
  • 信頼や利益率を損なうことなく、製品販売から成果ベースのサービスへどのように移行するか。
CFO:
  • AIプログラムのROIおよび総所有コストの評価枠組みを見直しつつ、データ、モデル、計算資源をどのように資本化し、その資産価値を反映させるか。
  • 自動化が拡大するなか、モデルリスク、サイバーリスク、コンプライアンスエクスポージャーをリスク許容度内にとどめるには、どのような統制が必要か。
  • OPEXからCAPEXへのリバランスやサービス化は、どの領域でのキャッシュフローのレジリエンス向上に寄与するか。
最高戦略責任者(CSO):
  • ベンダーロックインを回避しながら技術や価値の普及を加速させるために、どのようなエコシステム、パートナー、オープンモデル、インフラ構築が不可欠か。
  • どのようなシナリオ(成長、変革、制約、崩壊)が自社のビジネスモデルを最も脅かすのか、またどのようなヘッジがあるのか。
  • 各P&Lにおいて意思決定インテリジェンスを活用できるよう、組織のリスキリングをどのように進めるか。
COO:
  • オペレーションをどう再設計し、人間、デジタル、エージェンティックシステム全体の生産性を測定・管理していくか。
  • プロセス主導型から、ルーチンではなく例外で管理する成果ベースのオペレーティングモデルへ、どのように移行するか。
  • 自律システムから生じる運用・倫理・サイバーセキュリティのリスクを管理する強固なアシュアランスフレームワークをどう構築するか。
CHRO:
  • 学習速度、適応性、創造性など、人とAIの双方の貢献を反映させるために、人材指標をどう見直すか。
  • 固定的なチームではなく、適応的な半自律型のシステムを人間が管理する世界では、どのような役割、スキル、リーダーシップのあり方が新たに必要になるのか。
  • 倫理・透明性・インクルージョンの原則を、AIの導入、人材の変革、企業文化の変革にどのように組み込むか。
政府関係者:
  • スキル、計算資源、クリーンエネルギー政策をどのように組み合わせれば、気候目標を満たしつつ、民間のAI投資を呼び込むことができるのか。
  • データとアルゴリズムを生産資産として認識し、広範な利益を確保するために、統計制度や税制はどのように進化すべきか。
  • 普及を停滞させることなく、権利と競争を保護する最適なガードレールは何か。
執筆者について

サマリー

AI時代の生産性は、労働時間よりも、組織がデータやモデル、判断をどれだけ成果につなげられるかにかかっています。成功するには、AIを「企業の根幹に関わる転換」として捉える必要があります。クリーンなデータを軸に再構築し、ワークフローにインテリジェンスを組み込み、価値をスピード、品質、レジリエンス、新たな収益といった指標で評価することが求められます。今後のアジェンダは、信頼できるデータへの投資、相互運用可能なツールの導入、成果ベースのマネジメント、スキルの育成、リスク統制の組み込みです。これらを適切に実行できれば、業務の迅速化だけでなく、サービスの向上や産業の適応力強化、さらにはAIがもたらす利益の公平な分配が進み、それらが成長を支える原動力となります。

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