ROIC経営時代のITマネジメントとは~AI時代のROIC経営におけるIT投資の捉え方~ #4

ROIC経営時代のITマネジメントとは~AI時代のROIC経営におけるIT投資の捉え方~ #4


AIはIT投資の中でも特に注目される一大トレンドである一方、経営成果の創出までには高いハードルが存在する。従来のIT・DXと生成AIの違いからハードルが存在する理由を考察、ハードルを越えて確かな経営成果につなげるべく、CEOがAIやIT投資にどのように関わるべきかを考察する。


要点

  • 生成AIを中心にAIへの関心と投資が急速に高まっており、AIは企業価値や成長期待を左右する重要な経営テーマになっている。
  • 生成AIは効率化にとどまらず、業務機能そのものを代替・拡張するが、それ故に成果創出の難易度も高まる。
  • 投資の成果がより強く求められるROIC経営時代には、CEOはIT投資をIT部門任せにせず、AIの成果創出に向け自らがAIを前提とした事業、組織、資本配分の再設計を行うべきである。

1. IT・DX化とは一線を画すAIのインパクト

生成AIを中心に、AIを巡るニュースを目にしない日はないだろう。投資家だけでなく、大手企業によるAI企業への買収・出資も相次ぎ、多額の資金がAI領域に流れ込んでいる。企業利用に加え、個人でも複数の生成AIサービス利用が広がり、AIサービスへの支出が生活費の多くを占める状態に陥る人もしょうじるなど、AIは今や企業や一部の技術者やIT部門だけの関心事ではなく、社会のさまざまなステークホルダーが注目する一大トレンドとなっている。

 

実際、Stanford HAIの「2025 AI Index Report」でも、2024年の生成AIに対する世界の民間投資は339億米ドルと、2023年比で18.7%拡大したとされている。 (出所:“The 2025 AI Index Report,” The Stanford Institute for Human-Centered AI, hai.stanford.edu/ai-index/2025-ai-index-report)

 

また、EYの調査でも、PBRの高い企業はAI・データ分析、顧客接点のデジタル化、SCM最適化など、ビジネス成果に直結するIT・デジタル投資を重視する傾向が見られる。AIを含むIT・デジタル投資は、将来成長や企業価値を説明するうえで、投資家の関心を引き付けやすいテーマと言えよう。

IT・デジタル投資の重点領域
出所:EYストラテジー・アンド・コンサルティングによるアンケート実施結果を基に作成

AIのインパクトが大きいことは間違いない。

これまでのIT化やDXも、生産性向上に大きく貢献してきた。ERPやRPAなどは、業務プロセスを標準化し、処理スピードを高め、人員やコストを最適化する手段として活用されてきた。しかし、それらの多くは、あくまでも「業務を効率化するための手段」であった。

これに対し、生成AIやAIエージェントがもたらす効果は、効率化にとどまらない。文章作成、要約、分析、顧客対応、開発、意思決定支援など、人が担ってきた「知的作業や業務機能そのものを代替・拡張する手段」として、AIは活用され始めている。

この違いを象徴するのが、OpenAIのSam Altman氏の言説である。2024年に同氏は、AIにより「一人10億ドル企業」が起こり得ると述べたことが報じられている。 2026年現在、こうした主張は決して誇大妄想や机上の空論にとどまらない。実際、Cartaの調査によれば、米国の新規スタートアップに占めるソロ創業者の割合は、2019年の23.7%から2025年上期には36.3%へ上昇している。(出所:“Solo Founders Report 2025,” Carta, carta.com/data/solo-founders-report/)

2. AIのもたらす影響は、むしろ成果創出の難易度を高める

ただし、従来のITに比べてAIのもたらす影響が大きいことは、そのまま経営成果の創出が容易になることを意味しない。むしろ、影響が大きくなるほど、成果につなげる難易度は高まるとさえ言える。これは単に「生成AIを使いこなす」という技術的な問題ではない。

そもそも、これまでのIT投資でも、導入だけで経営成果が出るわけではなかった。業務プロセスや業務体制を見直し、人員配置やコスト構造改革まで踏み込まなければ、「ITによる生産性向上」は「PL/BSに表れる経営成果」にはつながりにくかった。IT導入による生産性向上そのものは、個々の従業員や業務の時短・効率化にとどまりやすい。そうした効果を踏まえて、業務や組織の変革まで行わなければ、経営成果の創出には結び付きにくい。これは、いわゆる生産性のパラドックスとしても広く知られている。

もっとも、従来のIT化における変革の対象は、多くの場合「事業部単位」であった。事業部ごとに業務を標準化し、重複業務を整理し、人員やコストを削減することで、一定の成果を創出できた。つまり、従来のIT化は多くの場合、既存の事業や組織の枠組みの内側で、業務効率やコスト構造を改善する取り組みだった。

これに対し、生成AIでは考えるべき範囲がより広くなる。AIが業務機能そのものを代替し得る以上、経営成果を創出するためには、「どの機能を人が担い、どの機能をAIに委ねるのか」を全社横断で見直す必要がある。

言い換えれば、生成AIを経営成果につなげるためには、生成AIありきで、全社の組織役割、機能配置、意思決定プロセスを再設計する必要がある。

この再設計を行わないままAIを導入すると、現場では時短効果が出ても、組織全体のコスト構造は変わらない事態を招く。

生成AI導入は組織の役割定義、統廃合まで踏み込まなければ、「PL/BSに表れる経営成果」にはつながらないのだ。

実際、MIT NANDAの調査でも、多くの生成AIパイロットが「単なる時短」にとどまり、PLでの測定可能なインパクトを出せていないとされている。 (出所:”The GenAI Divide: State of AI in Business 2025”, MIT NANDA)

ここで主張したいことは、「AIの効果が実は小さいから期待すべきでない」という話ではない。むしろAIの効果は大きい。だからこそ、「ただ使う」だけでは不十分なのだ。AIにおける生産性のパラドックスの本質は、AIそのものを使いこなせていないことではなく、AIを前提に組織の在り方を作り替えられていないことにある。

3. 生成AI×ROIC経営時代の今こそ、CEOがIT投資を統括すべきだ

どの機能を社内に残し、どの機能をAIに置き換えるのか。どのような組織を作り、そのためにどの程度の投資をどこに張るのか。生成AI導入に伴うこれらの論点は、単なるシステム導入や業務効率化のテーマではない。事業ポートフォリオ、組織設計、資本配分そのものに関わる経営テーマである。

従来のIT投資であれば、IT部門が中心となり、業務プロセスの見直しやコスト削減を進めることで、成果につなげられる余地があった。もちろん経営の関与は必要だったが、主な変革対象が業務プロセスや事業部単位のオペレーションであれば、IT部門や事業部門が中心となって改善を進めることも可能だった。


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しかし、AI投資では検討すべき範囲が大きく広がる。どの機能をAIに委ね、どの組織を統合・再編し、どの領域に人材や資本を再配分するかまで判断しなければならない。これは全社の機能配置を見直す取り組みであり、明らかにIT部門が単独で担える範囲を超えている。

加えて、生成AIがもたらす影響はPLだけにとどまらない点にも注意が必要だ。業務効率化による人件費や外注費の削減、売上拡大といったPLへの影響に加え、組織のリーン化、重複機能の統合、保有すべきシステム・人材・資産の見直しを通じて、BSや投下資本の在り方にも影響を及ぼす。

ROIC経営の下では、限られた資本をどこに投じ、どれだけ効率的に利益や将来キャッシュフローへ転換できるかが強く問われる。その意味で、生成AI導入を経営成果につなげられないことの損失は、単に「投資した分の回収が遅れる」という話にとどまらない。本来であれば組織をリーンにし、資本効率を高め、市場に対して成長性や経営変革力を示せたはずの機会を逃すことにもつながる。

だからこそ、生成AI投資は、IT部門や一部の事業部門だけに任せるべきテーマではない。生成AI×ROIC経営の時代においては、ITをどう使うかではなく、AIを前提に自社の事業と組織をどう再設計するかが問われている。

そして、全社の事業ポートフォリオ、組織設計、機能配置を一体で判断できるのはCEOである。

IT投資はもはや技術導入や投資の一部検討事項にとどまるものではなく、自社の競争力と資本効率を左右する経営の中核テーマであり、CEOが自ら向き合うべき課題なのである。





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サマリー 

AIは従来のIT・DX化とは一線を画す規模の効果をもたらすが、それ故にかえって経営成果の創出は難しい。

投資の効果創出を強く求められるROIC経営時代にはAI投資を着実に経営成果につなげるべく、CEOはIT投資をIT部門が主導するテーマとせず、自らが技術のもたらす変化を見極め、事業ポートフォリオや資本配分と合わせて検討する経営テーマとして位置付ける必要がある。


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