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カーボンは新たなコモディティになり得るのか


「Essential and still evolving」: 世界のボランタリーカーボン市場動向レポート2025


要点

  • カーボンクレジットは、気候変動の影響を抑制し、パリ協定で求められるCO2排出量削減を実現するための世界的かつ中核的な取り組みとなっている。
  • 脱炭素化を進める企業にとって、カーボンクレジットは、排出削減の取り組みを補完し、サステナビリティ目標の達成を後押しする柔軟かつ有効な手段である。
  • その一方で、カーボンクレジット価格は上昇しており、2035年までに1トン当たり125米ドルに達すると予想される。

気候変動への対応とCO2排出量の大幅な削減を、企業に求める圧力は高まる一方です。大気中から炭素を除去するには、年間数兆ドル規模の投資が必要であり、その実現にはボランタリーカーボン市場(Voluntary Carbon Markets:VCM)の拡大が不可欠と考えています。

炭素はやがて、新たなコモディティとして位置づけられる可能性があります。そのためには、企業が大規模に炭素除去に取り組むことを可能とする、共通ルールや明確な制度設計、信頼性の高い情報基盤、仲介機能の整備が求められます。

EY Carbon Neutral Hub の最新レポート『Essential and still evolving』は、脱炭素戦略において今後もカーボンクレジットが果たす重要な役割を示すとともに、VCMの将来展望を提示しています。本レポートは、2022年版を踏まえ、供給・需要・価格動向に関する分析をアップデートしたものです。

EYの分析結果から、クレジット取引量の拡大に伴い、比較的低コストなクレジットは早期に枯渇し、すべてのシナリオにおいて2035年に向けてクレジット価格は大きく上昇することが分かりました。

カーボンクレジットと炭素市場の全体像

カーボンクレジットは、ネットゼロに向けた移行を円滑に進めるための重要な手段です。

カーボンオフセットを巡っては多様な用語が用いられていますが、EY Carbon Neutral Hubでは以下のように定義しています。

  • カーボンクレジット:CO₂または同等の温室効果ガス1トン分の排出回避または除去を表す、認証済みかつ譲渡可能な証書
  • 排出回避(Avoidance):通常であれば発生していた排出が、特定のプロジェクトによって防がれたもの
  • 除去(Removal):大気中からCO₂等が回収され、長期的に貯留されたもの

カーボンクレジットはオフセット・プロジェクトによって創出され、クレジットを使用することで、企業活動に伴う排出量と相殺することができます。

 

カーボンクレジットは行動を先送りするための手段ではなく、より迅速かつ実効性のある排出削減を可能にするものです。カーボンクレジットを利用している企業が、利用していない企業より意欲的な排出量削減目標を設定しているというデータも示されています。

 

EYの分析結果から明らかになったのは、信頼性の高いクレジットと社内での積極的な排出削減を組み合わせることで、パリ協定と整合的なシナリオにおいて、社内対策のみに依存した場合と比べ、脱炭素に要するコストを45~65%低減できるということです。

 

一方で、需要の拡大、品質重視の傾向、供給コストの上昇により、カーボンクレジットは今後、入手が難しくなり、価格も上昇していくことが予想されます。

カーボンクレジットの1トン当たりのコスト(米ドル)
$75-125
パリ協定に沿ったシナリオにおけるカーボンクレジットの2035年までの予想価格

市場セグメントごとに価格差はあるものの、全体的な傾向としては、2035年までにクレジット全体の30~50%程度が1トン当たり50米ドルを超える可能性が高いと考えています。

2022~2050年におけるクレジット供給コストの目標/ベース別分布

ボランタリーカーボン市場(VCM)はなお発展途上

世界の大企業の半数以上がネットゼロ目標を掲げており、これがVCMの需要を押し上げています。一方で、カーボンクレジットは依然として十分な社会的信頼を確立しているとは言いにくい状況です。

排出回避と除去の位置づけの違い、自然を活用した取り組みと技術的手法の評価、地域社会への便益配分の在り方など、政策面・考え方の違いが市場の発展を妨げている原因です。これらの問題に対処するためには、クレジットの信頼性に対する懸念への対応として、より明確で実効性のある基準も求められてくることが予想されます。

こうした課題に対応するために、以下に示すような国際的なイニシアチブがさまざまな取り組みを進めています。

  • VCMI(Voluntary Carbon Markets Integrity Initiative):高品質なカーボンクレジットの活用に関する原則と枠組みの策定
  • ICVCM(Integrity Council for the Voluntary Carbon Market):VCM全体の信頼性と有効性の向上
  • GCMU(Global Carbon Market Utility):クレジットの品質と透明性の向上および市場拡大を目的とした共通基盤の構築
  • ISSB(International Sustainability Standards Board):気候関連情報の開示を通じた透明性と比較可能性の向上

こうした国際的なイニシアチブは、欧州連合(EU)のCBAM(Carbon Border Adjustment Mechanism) や各国の炭素税といった制度と相まって、クレジットの供給・取引・利用に対する信頼を高め、需要を後押しすることが期待されています。

国の排出枠が徐々に厳しくなるにつれて、先進国を中心に各国政府が企業に対する規制要件の厳格化を図る見通しです。このような動きはVCMの再構築を促すことになるでしょう。

カーボンクレジット:排出枠の引き締めが炭素除去を加速

長期的には、カーボンクレジットがコンプライアンスを遵守するための手段として幅広く活用されることで、炭素除去や排出回避の取り組みが、小麦と同様にコモディティとして取引され、適切に管理されたグローバル市場へと発展する可能性があります。特に、技術的な排出削減手段が十分に確立されていない、または費用対効果に課題のある分野において、その役割は大きいものと考えられます。今後の課題となるのは、持続可能な成長を目指す企業のニーズに応えながら、炭素をコモディティとして扱っていくことでしょう。

ステークホルダーの圧力と期待が高まることで、求められる排出量削減の規模と範囲が拡大する一方、残された時間は減っていきます。それを受けて、VCMは進化していくはずです。

長期的に見ると、カーボンクレジットは品質が向上し、価格が上昇していくことが予想されますが、短期的にはクレジットの信頼性向上に向けた取り組みは必ずしも順調とは言えません。EYの分析では、規制や基準が地域ごとに異なるため、市場は少なくとも中期的には分断された状態が続くと見込んでいます。これは、企業が市場にどのように関与するか、またクレジットに対してどの程度の価格を許容するかにも影響を及ぼします。

炭素除去技術に基づくクレジットは、ネットゼロに向けた長期的な取り組みを支える重要な手段として、今後一層存在感を高めると考えられます。一方、これまで中心的な役割を果たしてきた排出回避型クレジットは、CO₂多排出産業が化石燃料に依存したアセットやプロセスを段階的に見直していく中で、相対的な重要性が低下する可能性が高いと予想されます。

とはいえ、大幅な排出削減を実現するためには多大なコストが必要であり、特に削減技術が十分に成熟していない産業では、その負担は大きいものとなるはずです。

カーボンクレジット価格が上昇する中では、規制要件の差による不公正な競争を防ぐことが重要となります。VCMが健全で透明性を保ち、実質的な排出削減につながる仕組みとして機能するためには、適切な制度設計と規制が不可欠です。

低炭素化に向けて企業が講じるべき対策

企業はどのように対応すべきか。競争力を維持・強化するためには、炭素市場への主体的な関与が求められます。技術、気候科学、ステークホルダーの期待が急速に変化する中、企業には、リスクを抑制し、機会を捉え、新たな価値を創出するために、カーボンクレジットを組み込んだ明確な脱炭素戦略が必要なります。

これからの数十年間は、これまでの数十年間とは大きく異なるものとなるでしょう。「Essential and still evolving」では、今後の変化に備えるための5つのステップを提唱しています。

変化の時代に備え、持続的に成長するための5つのステップ

サマリー

カーボンクレジットは今後ますます重要性を高め、排出量削減と企業のビジネス革新の双方を加速させることになるでしょう。クレジットや排出量削減コストが上昇する中で、早い段階から戦略的に取り組む企業こそが、不確実性の高い将来において主導的な立場を築くことができるはずです。



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