EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
人手不足の深刻化、業務量の増大、事業環境の不確実性の高まり──企業を取り巻く環境は、かつてないほど複雑になっています。こうした状況に対応するため、多くの企業がRPA(ロボティックプロセスオートメーション)をはじめとする自動化技術を導入し、定型業務の効率化を進めてきました。実際、入力作業や転記作業などでは一定の成果が上がり、短期的な生産性向上を実感した企業も少なくありません。
一方で、時間の経過とともに「自動化の効果が思うように広がらない」、「RPAの運用負荷が増えている」といった課題が顕在化しています。自動化の対象が限定的であるがゆえに、業務全体に与えるインパクトが限定され、結果として効率化の積み上げが頭打ちになっている背景があります。
その根本原因は、業務構造やプロセスにあります。現実の業務は、複数のシステムや部門をまたぎ、例外処理や判断を伴うケースが多く存在します。さらに、日本企業では紙帳票や押印、法規制による目視確認などが依然として残っており、単純な自動化では対応しきれない事情もあります。RPAはこうした制約の中で「できる所を自動化する」手段として使われてきましたが、その結果、局所的な自動化プロセスが点在し、全体最適につながらない状態を生み出しました。管理者が不在・不明となった「野良RPA」が残存している場合、意図しない誤作動リスクも生じます。
なぜRPAブーム時代から自動化が思うように広がらなかったのか──それは、業務全体を俯瞰する視点が不十分なまま、部分最適な効率化を積み上げてきたことが一因と言えます。今企業に求められているのは、個々の作業を置き換える発想から、業務プロセス全体をどう進化させるかという視点への転換です。そこで今あらためて注目されているのが、ハイパーオートメーションです。
ハイパーオートメーションとは、複数の自動化ツールやデジタル技術を組み合わせ、業務プロセス全体をEnd to Endで自動化・自律化するアプローチです。適応可能なデジタル技術には、RPA、AIのほか、OCR(文字認識技術)、ワークフロー、BPMS(Business Process Management System)といった技術要素やソリューションも含まれます。特徴は、単一ツールによる効率化ではなく、業務成果を起点に技術をオーケストレーションする点にあります。技術要素をカタログ的に理解することよりも、それぞれが担う役割と意味を明確にすることが重要です。
例えば、RPAやOCRによるデータ入力や照合作業の自動化から始まり、AIによる判断支援や予測、レポート作成などの領域まで、幅広い活動を一連の流れとしてつなげることができます。個々の業務ステップを自動化するだけでなく、前後プロセスがシームレスに連携することで、業務は開始から終了まで自律的に動くようになります。こうした取り組みから、工数削減だけでなく、ミス防止、判断品質の均質化、スピード向上、プロセスの可視化と改善高度化などの期待効果があります(図1)。
つまりハイパーオートメーションは、単なる部分最適ではなく、業務全体を捉えた包括的な効率化と変革を目指す概念として捉えられます。さらに、オートメーションは段階的に進化します。単純な作業の自動化から始まり、判断支援、複数業務の連携、自律的な実行、さらには継続的な改善へと発展していきます。ハイパーオートメーションは、こうした進化の延長線上で、業務全体を対象にしています。これは単なる効率化に限定されるものではなく、業務の構造や流れを必要に応じて変革していく取り組みでもあります。
図1:ハイパーオートメーションの具体例と期待効果
ハイパーオートメーションの中核になるのが、AIとRPAが協働するモデルです。AIのみ、もしくはRPA単体のいずれのケースでも、業務全体を自律的に動かすことはできません。実行するRPAだけでは不十分であり、思考するAIだけでも業務は回らない――このギャップを埋めるのが、両者の協働です。AIとRPAの協働モデルの本来の目的は、単純に手作業を置き換えることよりも、人の能力や業務を拡張することにあります。
AIは大量のデータを分析し、パターンを見いだし、判断や予測を行うことができます。つまり、AI(生成AI)は、画像認識(目)や自然言語処理(脳)、さらには予測分析を通じて判断や洞察を引き出すための「頭脳」の役割を果たします。そこで、判断結果を業務システムに反映し、実際の処理として実行するためには「手足」が必要です。
RPAは、人がキーボードや画面を使いシステム上で行ってきた操作を代替する「身体性」を持つものと捉えることができ、すなわち「手足」の役割を担います。RPAは人の操作を忠実に再現することができ、反復作業に適していますが、ルール化された範囲を超える柔軟な判断はできません。
オートメーションは、「実行→思考→学習」という段階を経て進化しています。AIとRPAがそれぞれ単独で進化するのではなく、「思考する」AIと「身体性」を持つRPAが段階的に結び付きながら、より広い領域へと自動化される範囲が拡張されています。ハイパーオートメーションが位置する「学習」フェーズでは、AIがデータを分析して判断し、RPAがその結果をもとに業務を実行します。その実行結果は再びデータとして蓄積され、次の判断に生かされます。この循環が回り始めると、業務は単なる自動化から、自ら改善される自律的な仕組みへと進化します(図2)。
これが、ハイパーオートメーションの動作原理です。業務全体を1つの流れとして捉えることで、人に近い業務の遂行が可能になります。エージェントAI技術の進化により、今後より一層、自動化の範囲が広がり、自律化レベルを上げていくことができるでしょう。
図2:オートメーションの発展段階
ハイパーオートメーションは、既にさまざまな業界で具体的な成果を生み出しています。
米国のある州政府機関では、申請処理や審査業務にAIと自動化技術を組み合わせ、ワークフローを自動化し、処理時間を大幅に短縮しました。新たに立ち上げたポータルサイトへの入力情報は、バックエンド処理に自動的に引き継がれ、市民の操作から、オフラインによる職員の対応業務までを一気通貫でデジタルワークフロー化しました。その結果、職員は多大な工数を要していた定型処理から解放され、住民対応や制度改善などの付加価値の高い業務に注力できるようになりました。住民にとっても、行政手続きが長い待ち時間を要する「面倒で避けたいもの」から、スムーズで安心できる体験へと一変しました。
また、自動車業界の販売プロセスにおいて、AIとRPAを活用してボトルネックを特定し、商談から成約までの意思決定スピードを加速させ、在庫回転率の改善につなげた事例もあります。ここでは、新たなプラットフォームで営業フォローアップとステータス更新を自動化し、次のアクションを提示する仕組みが導入されました。どのタイミングで、どのような行動が成約を遅らせているかを特定し、営業フォローが抜け落ちる、もしくは遅延するポイントが明確になりました。AIが問題点を洗い出し、RPAが確実に・漏れなく処理を実行し、担当者が判断と顧客対応に集中するプロセスが定着した結果、「売れるまで待つ」のではなく、「売れる流れを止めない」販売プロセスへと転換させた好例です。
日本企業においても、ファイナンス業務の標準化とデータ構造化を進め、自動化を取り入れ、決算業務を迅速化する取り組みをEYが支援した変革事例もあります。ある製造大手企業では、分散していたデータ環境を統合、手作業による集計プロセスを削減し、データを「探す」「作る」作業を自動化しました。その結果、データの手動入力・処理に伴うエラーが減少し、財務データの正確性が向上。さらに、継続的に改善・拡張できる自動化基盤を組み込み、「デジタルファースト」文化を組織全体に浸透させています。
これらの事例に共通するのは、単なる工数削減にとどまらず、効率化とは一線を画す価値、すなわち業務・データの可視化や業務の標準化、データ活用の高度化といった複合的な価値が生まれている点です。また、生成AIやエージェントAI等のテクノロジーの進展に伴い、今後は定型業務中心の業務効率化だけでなく、非定型業務まで、自動化の範囲がさらに拡大していくでしょう。
ハイパーオートメーションを成功させるためには、ツール導入を起点とするのではなく、構想を起点に考えることが重要です。まず業務全体を俯瞰し、価値創出の機会を捉え、どこに阻害要因が存在するのかを明らかにする必要があります。その上で、業務プロセスそのものを再定義し、人とデジタルツールの役割分担を設計します。
規制や紙文化、例外処理といった制約は、排除すべき障害ではなく、前提条件として設計に織り込むべき要素です。これらを考慮せずに自動化を進めると、現場に定着せず、短期的な成果にとどまりかねません。業界や企業特有の制約を理解した上で構想されるハイパーオートメーションこそが、持続的な価値を生み出す基盤になります。
人の役割は、機械的な作業から判断・創造・調整といった付加価値領域へとシフトしていきます。定型作業はデジタルワーカーが担うようになり、人は例外対応や意思決定、新たなプロセス設計など、より高度な業務へ集中できるようになります。
組織においても、ハイパーオートメーションに適応するための新たな役割と体制が求められます。まず、従来の部門単位の業務改善にとどまらず、プロセス横断で最適化を検討する「全体設計」の能力が必要です。業務・IT・データの専門人材が協働する体制や、変革を推進するCoE(センター・オブ・エクセレンス)などの専任組織を整備することで、自動化の取り組みを継続的に進化させることができます。また、現場の業務部門のユーザーは、新たな自動化ツールを駆使し、改善提案やデジタル活用の担い手としての役割が拡大します。
さらに、組織文化も重要な要素です。「人とデジタルが共に働くこと」を前提にしたマインドセットを醸成することで、自律的な改善が続く循環が生まれます。業務が自動化されるほど、データが蓄積され、それを活用した改善や新しい働き方が可能になります。つまり、ハイパーオートメーションは「効率化のための手段」ではなく、人と組織の能力そのものを拡張し、企業競争力を高めるための変革の土台となるのです。
ハイパーオートメーションを推進する本質は、ツール導入ではなく、企業が「考え、活動し、学習し」続ける自律的な業務基盤を構築することにあります。そのためには、構想から運用まで一貫したアプローチで設計し、組織全体で推進していくことが不可欠です。EYでは、構想・計画、業務、開発・運用の3つの視点から、体系的に推進するアプローチを推奨しています(図3)。
まず「構想・計画」では、ビジョンや構想の策定、期待値コントロールが重要になります。どの領域でどのような業務価値を創出するか、投資と成果の関係性をどう描くかを明確にし、経営層や関係者の合意形成を図ることが出発点です。また、効果測定の指標やロードマップを早期に設定することで、取り組み全体の軸が定まり、後続の業務選定や開発方針が揺らぐことを防ぎます。
「業務」では、どの業務を自動化対象とし、どのように設計していくかが問われます。業務の棚卸しや標準化を通じて対象プロセスを明確にし、ユーザー部門との連携体制を固めることが欠かせません。また、ハイパーオートメーションは複数業務の連携が前提となるため、対象範囲の優先順位付けと全体設計が重要です。
「開発・運用」では、実際の実装と継続運用の基盤づくりが中心になります。開発プロセスの標準化や保守体制の整備は、取り組みをスケールさせるために必須となります。小さな自動化の積み上げでは、必ずしも全社最適に直結しません。再利用可能な部品化やガバナンスの確立に取り組むことで、品質を確保しながらスピード感のある拡張が可能になります。
EYは、企業が描く未来像を起点としたハイパーオートメーションの構想策定と実行により、新たな価値創造を目指す業務変革を強力に支援します。
図3:ハイパーオートメーションの推進アプローチ
ハイパーオートメーションはAIの「頭脳」とRPAが持つ「身体性」を統合し、業務をEnd to Endで自律的に進化させるアプローチです。効率化を超えて人と組織の役割を再定義し、自動化から自律化へと進化させ、持続的な競争力を生む業務変革を推進することができます。
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