EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
Section 1
AI時代にリーダーが持つべき視点について、バリオス氏はAIを「仕事を奪う存在(競争)」ではなく、「共に価値を創る存在(共創)」として捉えることだと指摘しています。
「AIは人の仕事を奪うのではないか」といった不安に象徴されるように、AIを競争相手として捉える発想は可能性を狭めるリスクがあります。一方で、AIとの共創を前提とする視点を持つと、可能性は広がります。「AIと人間はどのように役割分担を行うのか」「どのように新たな価値を創出するのか」といった建設的な問いが生まれるのです。
AI時代のリーダーには、テクノロジーを脅威として捉えるのではなく、組織の価値創造を拡張するパートナーとして位置付ける視点が求められます。AIと人間の強みをどのように組み合わせるかという発想が、今後のリーダーシップにおいて重要な要素です。
AI活用が進む中で重要となるのが、AIと人間の役割分担の設計です。
「AIの優位性を生かすことができるタスクとしては、プロセス推進、プロセス効率化、ドラフト作成、自動化、分析、翻訳などが挙げられます。一方、意思決定や責任の所在、ピープルリーダーシップ、レガシーなどのAIには代替不可能な領域をリーダーが担い続けることが共創につながります」(バリオス氏)
マイクロソフト社の企業文化の一つである「Leadership principles(リーダーシップ原則)」にも、重要な3つの要素が示されています。
中でも「Create clarity(明確にする)」が鍵を握ります。AI時代においては、自身や組織の役割、さらには自社のビジネスモデルがどのように変化するのかを明確に言語化しなければなりません。暗黙の了解では組織は動いていかないのです。これを組織全体で共有することがリーダーに求められる重要な役割です。
マイクロソフト社が描く未来の企業像が「フロンティア組織」という概念です。多くの企業がAIを使っている中で、重要なのは「使うか、使わないか」ではなく、「どのように使うか」です。フロンティア組織のAI活用にはいくつかのポイントがあります。同社では、AI活用をIT部門に限定するのではなく、法務、人事、財務などあらゆる部門に広げるとともに、AIによるカスタマイズ機能を活用し、新たな価値創出を意図的に引き出すことで、組織全体の変革を推進しています。
また、特定のビジネスプロセスを自律的に実行するAIエージェントの導入も進んでおり、すでに多くのエージェントが各部門の業務プロセスの中で稼働しています。
そして増加しているAI投資については、AI投資を単なる「IT投資」ではなく、「人材や組織への投資」として捉えている点が、フロンティア組織の特徴であるとバリオス氏は強調しました。
フロンティア組織を実現する上で、リーダーは以下の3つの道筋を示すことが重要な課題となります。
これらを統合的に示すことが、AI時代に組織変革をけん引するリーダーシップの中核となります。
最後に、バリオス氏はAI時代における人材育成や社員の役割変化について、重要となるのは「IQ(知能指数)」ではなく「EQ(感情知能指数)」や「新しい時代の賢さ」となるだろうと語ります。
AI活用により、意思決定スピードの向上や人材レバレッジの拡張、知識の民主化などさまざまなメリットがもたらされました。そんなAI活用の前後で、企業の人材選定の基準は変化しているのではないでしょうか。つまり、組織における人材の「賢さ」や「スマートさ」の定義そのものも変化していく可能性があります。こうした変化を前提に、企業にはAI時代にふさわしいリーダーシップの在り方を再考することが求められているのです。
Section 2
EYは、2020年以降、働き方の再考をテーマとした「Work Reimagined Survey」を毎年実施しています。本セッションでは、2025年8月に29の国と地域、19セクターで実施した最新の調査結果(調査対象:従業員約1万5,000人、経営者1,500人)を基に、AI導入がもたらす新しい労働力モデルと人材戦略を解説しました。
調査によると、グローバルでは従業員の88%が日常的にAIを利用しており、中央値で週あたり約8時間の業務時間削減が確認されています。一方で、活用内容は検索や要約、文章のドラフト作成といった基本的なタスクにとどまっており、意思決定支援やメンタリング、詳細なリサーチ分析など、複雑で高度な業務への活用は限定的です。
また、複数のAIツールを組み合わせ、週あたり14時間以上の効率化を実現している層は全体の約5%にとどまります。これらの結果から、AI活用は依然として初期段階にあると言えるでしょう。
日本においては、初期的なAI活用はグローバルと比較しても同水準であるものの、高度な業務への適用や組織全体でのスケール展開には遅れが見られました。
AI導入後に業務負荷が増加したとする従業員の回答も半数以上に上るなど、特に日本において経営者と現場とのギャップが顕在化しています。過去12カ月を振り返ってみると、むしろ業務負荷が高まったという回答がグローバル・日本ともに半数以上です。これはAIを活用することによってビジネスが高速回転しており、その結果による負荷と言えるかもしれません。いずれにしても、AI活用によるポジティブな変化については、まだまだ伸びしろがあると言えるでしょう。
一方でリスク認識としては、セキュリティや安全性、スキル低下への懸念が共通して挙げられ、従業員はプライバシー、経営者はチーム連携の低下を課題として認識している点が特徴的でした。
調査結果を基に、AI活用による時間節約に寄与する要因となる要素を3つに整理しました。
この3つを総合した指標「AI優位性」が高いほど、AIによる業務時間の削減効果が大きくなる傾向が確認されています。構成要素の内訳を見ると、最も大きいのはスキルセット(49%)であり、AIツールそのものの影響は26%にとどまっています。
「AI による価値創造においては、学習時間の提供や学習意欲の喚起、AI活用に向けたインセンティブ支援といった人材面での取り組みが、AIツールそのもの以上に重要だと言えます」(水野)
AIに関する学習時間と業務効率化には、明らかに有意な関係が見られます。
AI活用による節約時間の中央値は週あたり8時間ですが、以下の学習時間で比較した場合、約5倍の差が生じています。
しかし一方で、学習時間が増えるほど離職意向が高まる傾向も見られます。特に40時間を超える層では、報酬よりも「最新のテクノロジーやAIに関わる機会」を重視する傾向が確認されています。
「AI学習への投資と同時に従業員のリテンションを考慮し、 自社で働き続ける価値(Employee Value Proposition)を再設計する必要があるでしょう」(水野)
一方で、人材の流動性の観点から見ると、「12カ月以内に離職する可能性」については、グローバル、日本ともに過去最少となっています。これは想定よりも低い数字ですが、AIに仕事を奪われるのではないかという不安から、今の仕事にしがみつこうというマインドセット(いわゆる「ジョブハギング」)の影響かもしれないと分析します。
“組織文化”、“トータルリワード”、“能力開発”の3要素で構成される「人材健全性」と「AI優位性」についても調査結果を分析しました。すると、両者がともに高い企業では、単なる業務時間の削減だけではなく、仕事のパフォーマンス向上や意思決定の迅速化、従業員の活力やウェルビーイングの向上といった複合的な効果をより強く実感していることが確認されたのです。
「AI活用の価値を最大化するためには、人材マネジメント全体の見直しが不可欠です。企業はAI時代において従業員にどのような価値を提供していくのかを改めて定義し、その実現に向けて制度や仕組みを再構築する必要があります。このような取り組みが、人材優位性の強化につながると考えています」(水野)
人材戦略のモダナイゼーションについての取り組みは、「従業員価値提案(EVP)」と「従業員体験(EX)」の見直しから始めるべきです。このAIの時代に企業が従業員に、どのような価値をどのように提供していくのかを再設計することが人材優位性を高めることにつながるということです。
AI技術の進展に伴い、人材戦略の在り方にも大きな転換が求められています。AIは従来の業務を補助するツールから、自律的にタスクを設定し実行する「ワークフォース」へと進化しつつあります。AIが組織の“仲間”として機能する時代においては、AIを適切に採用・配置・評価し、人材とともに成果創出につなげる新たなマネジメントの枠組みが必要です。
最後に、水野はAI時代における人材戦略について次のように総括しました。
「人事部門には、人材だけではなくAIも含めた組織設計・要員管理を担う役割が新たに求められるようになります。すなわち、AIを人材マネジメントと同様の視点で管理し、人間とAIの双方の能力を最大化する仕組みを構築する必要があるのです。AI時代における人材戦略は、従業員への価値をどのように提供するか、AIも含めたマネジメントをどのように両立するかといった2つの問いが出発点になると言えるでしょう」(水野)
Section 3
最後に、日本におけるAI活用の現状と課題について、バリオス氏と水野によるトークセッションが行われました。
日本のAI導入状況について、バリオス氏は「グローバルと比較すると、日本は必ずしも先行しているとは言えない」と指摘します。マイクロソフト社が発表したAI導入ランキングでは、日本はトップ30に入っておらず、シンガポールやデンマークなどの比較的小さな国々が積極的に導入を進めている状況※であること、またその背景として、慎重な意思決定やプライバシーへの懸念、他社の動向を見極めてから導入する傾向など、日本特有の意思決定スタイルが挙げられました。
一方で、「ツールセット」「スキルセット」「マインドセット」で言えば、「ツールセット」へのアクセスは広がっており、課題は「スキルセット」と「マインドセット」にあると指摘します。特に、AIを競争相手ではなく共創パートナーとして捉える意識転換が、日本企業においては依然として不十分であると述べました。
こうした日本の保守的な部分が打破できない課題に対して、水野は講演でも紹介した「学習」の重要性を強調し、グローバルと日本との「学習」の差について、バリオス氏に問いました。
これに対し、バリオス氏は「日本は“学習”面でも、グローバルとの差がある」と述べ、日本マイクロソフトではAI活用を“AI筋トレ”と位置付けていると述べました。
「筋トレのように、日常的にAIを使いこなす文化づくりを推進しています。現在、マイクロソフトは200以上もの国で事業を展開していますが、日本マイクロソフトは『AI筋トレ』ユーザーの中で少なくともトップ3を目指したいと考えています。学習することで、AIパワーを最大限活用できるようになりたいのです」(バリオス氏)
一方で、AIを導入しているにもかかわらず、業務負荷が増加するケースについても議論が及びました。バリオス氏はその要因について、「業務の再設計が行われていないため」であり、日本マイクロソフトでも同じ課題が見えてきていると指摘します。
業務の再設計がされなければ、AIは仕事を減らすのではなく増やしてしまう可能性があることから、それが人事に求められる急務の一つであると述べました。
「これは世界的な話ですが、『ファイナンシャルアナリスト』『アカウンタント』などの従来のジョブディスクリプションはこの10年ほとんど更新されておらず、AI時代に適合していないケースが多くあります。今まさに、 AIエージェントの時代が到来している中で、業務の再設計を行わない限り未来ある組織を作ることは難しいでしょう」(バリオス氏)
水野はAIを組み込んだ形での業務の再設計の重要性について言及し、それは人事が主導権を握るべきであると述べました。
そして「このAI時代に、自身の人事部長としての役割で変わったことはあるか?」との問いに対し、バリオス氏は「たくさんある」と答え、「AIによるビジネス環境の変化が加速する中で、マイクロソフトも従来の年次計画では対応しきれず、四半期、さらにはより短いサイクルでの判断力、意思決定が求められている」と述べました。
「マイクロソフトでは、人事部門のヘッドカウントは維持しながらも、人事プロセスの再設計を担っています。皆で切磋琢磨して、前を向いて新しい未来を作っていくというのは非常に大きなポイントになると思います」(バリオス氏)
バリオス氏は、AIでは代替できない領域として「直感」「洞察」「判断力」などを挙げ、特に組織のナラティブを構築するプロセスは人間の役割であると強調。水野は、AIを前提とし、人間固有の能力で新しく仕事の形を作る「共創」こそが、今後のリーダーシップの中核になると総括しました。
※Global AI Adoption in 2025—A Widening Digital Divide,Microsoft,
microsoft.com/en-us/corporate-responsibility/topics/AI-Economy-Institute/reports/Global-AI-Adoption-2025/(2026年3月5日アクセス)
AI時代における本質的な課題は「テクノロジーの導入」ではなく、「人材とAIをどう設計するか」にあります。リーダーが変革の方向性を明確に言語化し、人材への価値提供を再設計することが不可欠です。AIと人間の強みを統合できるかどうかが、今後の競争優位を左右する鍵となります。
EYとMicrosoftはアライアンスパートナーを組んでおり、本セミナーにはクリスチャン バリオス氏が登壇者として参加しました。
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ニュースリリース
EY調査、人材戦略の不備でAI活用による生産性向上効果を最大40%失っていることが判明
EYは、最新の働き方に関する調査「EY 2025 Work Reimagined Survey(EY働き方再考に関するグローバル意識調査2025)」 の結果を発表しました。
EYの最新の見解
従業員の間に不安や抵抗感が残る中、AIは価値創出へ前進できるのか?
EY 2025 Work Reimagined surveyの結果から、AI導入を変革的な成果につなげるには、テクノロジーと人材の両面が不可欠であることが明らかになりました。
場所に縛られない働き方の増加は未来の人材の在り方をどう塗り替えるか?
仕事の在り方は、キャリア、リワード(報酬)、働く場所などにおいて従来の価値観とは異なるものへと変化しています。人材の優位性について詳しくは、EY 2024 Work Reimagined Surveyをご覧ください。
関連イベント・セミナー
AI導入を価値創造につなげるには ー 成否を分ける人材戦略のモダナイゼーション~Work Reimagined in Japan
EYが毎年実施している働き方に関する意識調査「Work Reimagined Survey 」の結果を基に、AI導入による生産性・意思決定スピードの向上といった創出価値を最大化するために組織に求められる質的な変容、そして未来の働き方を再構築する人材戦略の新しい在り方を紹介します。共同開催の日本マイクロソフト株式会社からは、AIをめぐる最新のトレンドや企業動向に加え、働き方の具体的な進化や生産性向上のポイントなど、最前線の情報もあわせて紹介します。