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EY新日本有限責任監査法人
メディア・エンターテインメントセクター/Blockchain center
公認会計士 光藤 達也
メディア・エンターテインメントセクター/Blockchain centerでは、web3.0に関連した様々なトピックスを不定期で掲載しています。第4回となる今回は、ステーキングに関する、我が国における会計及び監査の動向について紹介いたします。
ブロックチェーンは、特定の機関(中央管理者)に管理されない分散型ネットワークであるため、ネットワークの信頼性を確保するためには各取引(トランザクション)の記録やその記録の不正な書き換えを防ぐ仕組みが必要になります。そこで、ネットワークの参加者間でトランザクションの正当性に関する合意形成する仕組み(コンセンサスアルゴリズム)を構築しています。
代表的なコンセンサスアルゴリズムには、ビットコインで採用されている「PoW(プルーフ・オブ・ワーク)」や、イーサリアムで採用されている「PoS(プルーフ・オブ・ステーク)」があり、PoWとPoSは共通の目的を有する一方で、その仕組みに異なる点があります。
表1:PoWとPoSの目的及び仕組み
| PoW | PoS | |
| 目的 |
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| 仕組み |
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上述のように、PoWとPoSはその仕組みが異なり、特に電力消費に関しては、PoSの電力消費はPoWの0.05%程度とも言われています。そのため、昨今では地球温暖化への影響も考慮され、また2022年9月にイーサリアムがPoWからPoSに移行したこともあり、PoSを採用する暗号資産が増えてきており、現在PoSを採用する暗号資産には、イーサリアム(ETH)のほか、ソラナ(SOL)、カルダノ(ADA)、ポルカドット(DOT)などがあります。
ここで、PoSを採用する代表的な暗号資産であるイーサリアムにおけるPoSの主な仕組みは以下のようになっています。
表2:イーサリアムにおけるPoSの主な仕組み
| バリデータ | 32イーサリアム(ETH)をデポジットしたPoSへの参加者 |
| バリデータの役割 |
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| PoS及び報酬獲得フロー |
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イーサリアムのPoSへの参加方法は、大きく自己運用又は委託運用の2パターンに分けられ、自己運用は自らがバリデータとなる一方で、委託運用は第三者にバリデータとなってもらう方法であり、それぞれの主な特徴は以下のとおりです。
表3:イーサリアムのPoSへの参加方法
| 自己運用※1 | 委託運用 | |
| 報酬面 |
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| 管理面 |
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※1 自己運用は一般的に「ソロステーキング」と呼ばれる
※2 ノードとはブロックチェーンネットワークに接続されたコンピュータ
暗号資産交換業者がイーサリアムのPoSへ参加する場合、必要なETHをどのように確保するか(調達方法)と、どのように参加するか(参加方法)を検討することになり、前者の調達方法については主に以下の方法が考えられ、暗号資産交換業者においては実務上は、ステーキングサービスとして顧客へサービス展開したうえで、【預託型】や【消費貸借型】によることが多いと考えられます。
上記【預託型】及び【消費貸借型】の特徴について、暗号資産交換業者及び顧客(ユーザー)それぞれの観点でまとめると以下のようになります。
表4: 顧客の暗号資産(ETH)をデポジットする【預託型】及び【消費貸借型】の特徴
| 【預託型】 | (暗号資産交換業者)
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(顧客)
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| 【消費貸借型】 | (暗号資産交換業者)
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(顧客)
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一方、後者の参加方法に関しては、バリデータの運用及び管理面などを考慮して、自己運用もしくは委託運用を選択することになります。
以上より、暗号資産交換業者がイーサリアムのPoSへ参加する場合、運用方法及び調達方法によって以下のパターンが考えられます。
ステーキングに関する関連する会計基準等の定めが明確でない部分もあるため、暗号資産交換業者は、取引の実態を捉えたうえで、既存の会計基準等を参考にして、自ら会計方針として定め、重要であれば当該採用している会計方針を注記することが必要になります。なお、暗号資産交換業者において行うステーキングに関しては、会計及び監査上は一般的に主に以下のような点が論点になると考えられます。
預託暗号資産は、暗号資産交換業者が預託者から預かった暗号資産として、実務対応報告第38号「資金決済法における暗号資産の会計処理等に関する当面の取扱い」に従い、適切に処理することが求められます。一方で、借入暗号資産に関しては、実務対応報告第38号において記載がないことから、取引実態等を踏まえて、採用する会計処理の原則及び手続について検討する必要があります。
ステーキングにかかる収益(ステ―キング報酬)は、バリデータとして要求されたタスクが完了したタイミングで報酬の獲得権利が確定するものと考えられますが、当該報酬のブロックチェーンへの付与、及び、当該報酬の自己ウォレットアドレスへの着金といった事象がそれぞれ異なるタイミングで発生するため、収益認識をどの時点で行うかを検討する必要があります。
また預託暗号資産及び借入暗号資産による場合、顧客への報酬支払が発生するため、バリデータにおけるステーキング報酬について、ステーキング報酬から顧客への報酬を控除した額、すなわち純額で収益を計上すべきか否かを検討する必要があります。
(2)で獲得した報酬は、自己保有暗号資産として、預託暗号資産と同様に、実務対応報告第38号「資金決済法における暗号資産の会計処理等に関する当面の取扱い」に従い、適切に処理することが求められます。
暗号資産交換業者は、デポジットしている暗号資産に関しても、自己で保管する他の暗号資産と同様に、秘密鍵管理に関する適切な内部統制を構築及び運用することが求められます。またデポジットしている預託暗号資産は、引き続き分別管理義務を有する預託暗号資産であることから、他の預託暗号資産と同様に分別管理に関する内部統制のもと適切に管理されることが求められます。
加えて、対象となるブロックチェーンネットワーク及びそのPoSの仕組み、ステーキング報酬の計算ロジックの理解等を行い、適切な会計処理を行うことが求められます。
最近では、国内の暗号資産交換業者によるステーキングサービスの展開は増えてきており、暗号資産交換業者の顧客(ユーザー)だけでなく、財務諸表利用者の関心も高まってきていると考えられるため、ステーキングにかかる会計及び監査においても、その取引実体をよく理解し、慎重な検討が求められます。
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