企業価値はどう再定義されるのか インパクト可視化×データサイエンスが描く次世代価値創造ストーリー

企業価値はどう再定義されるのか インパクト可視化×データサイエンスが描く次世代価値創造ストーリー


社会貢献は本当に利益の流出につながるのでしょうか。社会的価値とは企業価値を内包する概念であり、両者の向上を目指すことがサステナビリティ経営の本質となります。社会的価値を見える化し、ESGと企業価値をどうつなげればいいのか。その手法のポイントについて解説します。


共同執筆者

EY Climate Change and Sustainability Services
シニアマネージャー
廣島 梨香

※所属・役職は記事公開時のものです



要点

  • 米国市場では企業価値評価における無形資産に対する評価が9割を占めているのに対して、日本市場で無形資産への評価は3割にとどまっている。
  • 企業価値に占める無形資産の重要性が高まる中、財務に現れない社会的・環境的価値を「インパクト可視化」で見える化することが注目されています。これにより、ESG活動が企業の持続可能な成長と価値向上に直結しやすくなります。日本企業はこの手法を活用し、投資家に分かりやすい価値創造のストーリーを示すことが求められています。
  • 可視化したインパクトを企業価値と結び付けて捉える上で、データサイエンスを活用した2つの手法がある。「今、市場で評価されている要素」を知るためには「PBRモデル」を、「自社の独自戦略が将来価値を生む」ことを因果分析し証明するには「ロジックモデル×DCF法」を活用する。


企業の成長にとって無形資産は不可欠ですが、日米間には今も大きな開きがあります。2020年段階で、米国市場(S&P500)は企業価値評価における無形資産が9割を占めているのに対し、日本市場(日経225)では無形資産が3割にとどまっているのが現状です。米国では1990年代からハイテクなどの成長企業が輩出され、技術革新におけるデジタル化・クラウド化により無形資産の割合が高まった一方、日本では依然として無形資産の割合は低いままなのです。

企業価値における無形資産の評価

投資家は企業価値を見るとき、無形資産にも注目します。この無形資産の中でも、財務会計上に表れない価値を「インパクト価値」と呼び、消費者、人財、環境、社会へのインパクトなどさまざまなステークホルダーに提供される価値となります。このインパクト価値を高めることが、日本企業にとって企業価値を向上させることにつながるのです。

企業価値向上において重要な無形資産価値とインパクト価値の関係

このインパクト価値を測定するのが、「インパクト加重会計」すなわち「インパクト可視化」です。その特徴は、見えない価値を見える化することにあります。もともと米国ハーバードビジネススクールの教授によって立ち上げられた手法で、従来の財務会計だと見えない非財務価値を金銭換算するものです。ビジネスを通じた経済活動による経済インパクトは財務諸表に反映されますが、環境、社会(地域コミュニティに対する影響)、人的資本(採用や育成、ダイバーシティ)など社内外のステークホルダーへのインパクトが金銭換算されるものになります。社会貢献すればコスト増加だと思っていたものが、実際にはポジティブなインパクトを生み出していることが定量的に可視化されれば、より適切な投資家・経営判断に生かされます。

サステナビリティ経営には
欠かせない「インパクト可視化」

この無形資産と企業価値をつなげるためには、「価値につながる形」でESGを設計していくことが必要不可欠です。

例えば、現在のESGの現状をどう評価すればいいでしょうか。実際のESGの効果は中長期で発現するため、経営における優先順位は高くならないことが多く、「サステナ関連部門が作った施策」になりがち。各事業部への落とし込みも弱くなります。結果として、企業価値につながる動きにならないのです。また、非財務データ統合と分析力も不足し、データによる実証ができないという悩みもあります。

本来、ESGを生かすには自社の価値ドライバーとESGを因果でつなぎ、優先すべきESG項目を選定することが重要です。非財務データも整備し、因果実証できる状態を作ることが欠かせません。それには、SSBJ(サステナビリティ基準委員会)に沿ったデータ整備が必須であり、投資家に企業価値ストーリーとして伝えることが必要になります。

ただし、今はその理想と現実にギャップがあります。そのための解決手段として、企業の価値仮説を作り、ESGの中で「事業価値に最も効く項目」を特定し、機関投資家向けに価値創造ストーリーを作る必要があるのです。そのとき、システム思考を基本とし、見えない価値を見える化するインパクト可視化が有効となるのです。

企業がサステナビリティ経営を行うためには、その判断材料としてインパクト可視化は欠かせません。インパクト可視化の本格化はこれから。サステナビリティやESGは企業価値につながりづらいと思われがちですが、インパクトの可視化によって企業価値はもっと向上するようになるのです。

「PBRモデル」は投資家への説明向き、経営戦略の観点からは「ロジックモデル×DCF法」

一方で、可視化したインパクトを企業価値と結び付けて捉える方法としては、大きく2つのアプローチがあります。1つは「PBRモデル」であり、市場での評価構造を解明し、IRの訴求ポイントを特定する手法です。もう1つは「ロジックモデル×DCF法」で、社会的インパクトをキャッシュフローに換算し、投資の経済合理性を証明する手法です。

価値創造サイクルと価値の可視化手法

マーケットアプローチである「PBRモデル」は、統計的にESGのKPIとPBRの関係性を分析しますが、原因と結果だけを使い、評価の中身がブラックボックスであるため、市場での評価にゆだねられるのが特徴です。一方、理論アプローチの「ロジックモデル×DCF法」は、企業活動から生まれた社会的インパクトが自社のキャッシュフローとして還ってくる、そのキャッシュフローが最終的な企業価値につながるとするのが特徴です。

「今、市場で評価されている要素」を知るためには「PBRモデル」を、「自社の独自戦略が将来価値を生む」ことを因果分析し証明するには「ロジックモデル×DCF法」を活用することで、IRストーリーを強固なものにします。これは先進的なアプローチの1つであり、投資家への説明ほか、概念的なパーパス経営を可視化、定量化するのに役立ちます。


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また、「PBRモデル」は統計学と機械学習による「市場評価構造」の解明に役立ちますが、これにも2つの手法があります。1つは「線形モデル」で、投資家との対話を重視し、PBR向上に寄与するKPIの特定にメリットがあります。もう1つが「非線形モデル」で、事業戦略策定を重視し、PBR向上のための閾値(しきいち)、収穫逓減を把握できるメリットがあります。

市場評価のメカニズムを正しく把握するには、単純な比例関係(線形)だけでなく、投資の限界効用(非線形)を捉えることが重要です。これらを併用することで、IRストーリーの構築と経営資源配分の両面への効果が期待できるのです。

他方、「ロジックモデル× DCF法」は、サステナビリティ経営の「経済合理性」を立証する役割を果たします。とくに活動のサイクルを可視化することが重要で、企業活動から社会的インパクト、自社への価値の還流から企業価値向上に至るまでのロジックモデルをつくり、定量化していきます。その結果、DCF法を用いて企業価値を可視化することができます。ここでは社会的インパクトの算出で終わるのではなく、社会課題解決と利益成長が二律背反ではないことを、DCF法という財務の共通言語で証明することが重要です。

「社会的価値」とは「企業価値」を内包する上位概念であり、両者の向上を目指すことがサステナビリティ経営の本質です。つまり、「社会貢献≠利益の流出」なのです。社会的価値を大きくする投資は、設計次第で“自社に取り込める企業価値”を拡張します。企業への価値還流の因果をコントロールした上での投資家との対話が重要となってくるのです。

パーパス経営を理念にとどめず、その効果をいかに生み出し、定量化するのか。投資家だけでなく、あらゆるステークホルダーに示すためにも、価値創造のプロセスを可視化させ、データを蓄積する必要があります。EYではパーパス経営の中身を整理し、その定量化のためにロジックモデルをつくる一気通貫したサポートを行っています。




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サマリー 

今、ESGには理想と現実のギャップがあります。その解決手段として、企業の価値仮説を作り、ESGの中で「事業価値に最も効く項目」を特定、機関投資家向けに価値創造ストーリーを作る必要があり、それにはシステム思考を基本とし、見えない価値を見える化するインパクト可視化が有効となります。パーパス経営を理念にとどめず、その効果をいかに生み出し、定量化するのか。それには価値創造のプロセスを可視化させ、データを蓄積する必要があります。そのためにも社会的価値を可視化する社内体制を構築することが重要になっています。



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