赤い光に包まれた天体観測ドームの中にいる天文学者

なぜAIは税務リスクや税務係争の管理を容易にすると期待されているのか


企業は、AIツールが税務調査の管理や係争解決の改善に一層役立つと予想しています。


要点

  • 税務部門の約70%が、税務係争に特化した生成AIツールを少なくとも1つ開発または導入している。
  • デジタルサービス税は、将来の税務係争における最大の懸念事項として浮上している。
  • 税務リスクと税務係争の管理において、強固なガバナンスは、優れたテクノロジーと並んで重要な役割を果たす。



EY Japanの視点 

AIが税務リスク管理において、その効率性と正確性の向上に資するものであることは疑いようがありません。わが国の税務当局も、デジタル技術の積極的な活用を図る「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション(DX)」を推進し、課税事務の高度化に取り組んでいます。

しかしながら、複雑・高度化する経済社会のもとで、AIが企業の求める正確な成果物を常に提供してくれるわけではありません。

企業の行う経済取引をどのように評価しAIと連携させ、また、検証する作業は依然として、必要と考えます。


EY Japanの窓口

原口 太一
EY Japan タックス・ポリシー・アンド・コントラバーシーリーダー EY税理士法人 EY審理戦略室 室長 パートナー



2025年EY税務リスクと税務係争に関する調査

税務係争は大きな転換点を迎えています。件数と解決までの期間の両面で継続的に増大しているため、企業と税務当局の双方が、負担の軽減を期待して生成AIを含むテクノロジーの導入を急いでいます。この流れは、もはや後戻りできない段階に差しかかっているかもしれません。

 

EYが1,934人の税務担当幹部を対象に実施した2025年EY税務リスクと税務係争に関する調査によると、回答者の87%が、生成AIにより税務調査や係争解決プロセスが効率化され、時間短縮と精度向上が図られることで、将来の係争管理が改善されると予測しています。10人中約7人が、税務係争管理に特化した生成AIツールを少なくとも1つはすでに開発済みであるか、生成AIを他の主要プロセスに統合中であると回答しています。これらのツールは、関税の影響で毎日のように変化する新しい環境に対応する上で、ますます必要不可欠かつ強力な存在となりつつあります。

 

テクノロジーの導入が急速に進む中、税務係争の将来像はより明確になっています。税務調査において、数年あるいは数十年も前の税務ポジションを文書化し、正当化するという従来の対応は、リアルタイムのやり取りへと移行しつつあります。これにより、全体的な正確性が向上し、税務係争の要因が減少するか、少なくとも解決に要する時間が短縮される可能性があります。

 

EY Global Vice Chair - TaxであるMarna Rickerは、次のように述べています。「これは、企業と税務当局の双方が一貫して掲げてきた目標です。つまり、正しい結論にたどりつくことです。データに基づく対話が大幅に増えれば、意見の相違は減少します。まず事実を出発点として、そこに税務上の技術的ルールや政策を重ねていくことができるのです」

 

生成AIやその他の税務テクノロジーの急速な統合は、税務係争の要因が減る兆しを見せていないものの(実際、係争の件数と解決に要する時間の両面で新たな争点がほぼ毎日浮上しています)、係争が解決されてきた従来のパラダイムが恒久的に変化しつつあることを示しています。生成AIの統合が加速する中で、データの収集、クレンジング、報告、分析といったデータ管理が鍵であることが明確になっています。調査によれば、生成AIツールをすでに開発し、より広範に統合している企業は、税務係争管理に対する満足度が高いと報告されています。これは、世界中のほぼ全ての税務当局で見られる「デジタル化」の波において重要な要素です。

生成AIは税務係争を改善させる
87%
の回答者は、生成AIが将来の税務係争管理を改善させ、税務調査および係争解決プロセスをより効率的かつ正確にすると答えています。

もちろん、税務テクノロジーだけでは、企業や税務当局が次の段階に移行することはできません。まず、企業は、生成AIや類似ツールを完全かつ効果的に統合するに当たって、多くの障壁に直面していると述べています。その障壁は、人材や予算の確保からユースケースの開発まで、多岐にわたります。例えば、企業は税務当局と効果的に連携するために確固たる税務ガバナンスが必要で、当局はリアルタイムでの税務執行を実現するため、独自のテクノロジー統合を推進しています。また、調査によれば、一部では一定の進展が見られるものの、ほとんどの企業はプロセス改善の余地が依然として大きいことが明らかになりました。

将来あるべき姿を認識することは、あくまで第一歩にすぎません。企業は今、それを実現するための一連のステップを踏む必要があり、これには、テクノロジーへの継続的な投資と統合が含まれます。また、継続的に税務係争に対する全体的なアプローチを変革し、自信を持って強い立場で当局と向き合える体制を整えることも必要です。

EY Global Tax Controversy LeaderであるLuis Coronadoは、次のように述べています。「テクノロジーは税務係争におけるゲームチェンジャーです。しかし、ゲームに勝つためには適切な装備だけでは不十分で、適切なトレーニングを受けた適切なチーム、そして適切な戦略とビジョンも必要です」

ビーチで日の出を眺める男性
1

第1章

生成AIはどのように税務係争を変革しているのか

税務係争のリーダーたちは生成AIを積極的に取り入れており、税務部門における導入が急速に進んでいることを示しています。

税務リスクと税務係争に関する調査では、税務部門における生成AIの導入が着実に進んでいることが分かりました。回答者の39%が、税務リスクまたは税務係争に特化したパイロット版やツールを少なくとも1つ構築し、さらに30%が他の主要プロセスへの生成AI統合を開始しているという事実は、2025年EYタックス・アンド・ファイナンス・オペレート(TFO)調査と一致する劇的な進展を示しています。同調査でも、各部門が生成AIの導入を着実に進めていることが明らかになっています。

回答者は、一般的に生成AIを主に以下の3つの目的で使用中または使用予定としています。

  • 大量の外部の税務情報(特に新規および提案されている法律)の分析および要約
  • 大量の社内で生成された税務情報(意見書、メモ、議事録など)の分析および要約
  • 税務当局と共有するデータの一貫性向上

多くの回答者は、新たな税務リスクの特定と管理の改善、裏付けとなる証拠や文書のリアルタイム生成、当局からの照会への回答作成の自動化または部分自動化など、その他の業務にも生成AIを活用しています。また、回答者の4分の1強は、予測分析の実施に税務テクノロジー(生成AIとは限らない)を活用していると回答しています。

税務係争管理に特化した生成AIツール
~70%
の回答者が、税務リスクまたは税務係争に特化したパイロット版やツールを少なくとも1つ構築したか、あるいは統合中であると回答しています。

EY Americas Tax Innovation LeaderであるDaren Campbellは、導入の初期段階ではパイロットプロジェクトを検討すべきだと話しています。

また、「私が目にするパイロット版や初期のユースケースのほとんどは、分類、文書の要約および重要な要素の抽出に関連しています」とし、税務係争に関しては、「通知の追跡や、AIを使用して通知から重要な要素を抽出するユースケースがあります」とも述べています。

税務当局はどのように生成AIを統合しているのか

税務当局もAIの導入を進めています。経済協力開発機構(OECD)の税務行政に関する報告書によると、2024年時点で38の加盟国のうち29カ国が、税務行政の一部として何らかの形でAIを利用しています。そのうち79%は主に脱税や不正の検出で、その他の国は行政機関の幹部向けバーチャルアシスタントから納税者向けの顧客サービス向上まで、幅広い目的でAIを利用しています1。ユースケースとしては、ギリシャでの固定資産税の課税対象となる未申告のプールを地図データの分析によって特定する取り組みや、シンガポールでの法人税や所得税に関するさまざまな質問に対応する高度なチャットボットの導入など、多岐にわたります。

税務当局が大量のデータや高度なテクノロジーを扱うのに慣れるにつれ、このようなアプリケーションの導入が急速に進んでいます。2018年から2022年の間に、AIおよび機械学習(ML)技術を組み込んだツールを利用する当局の数は34%増加し、さらに8%が導入を計画していました。2

現在、税務当局は、生成AIを活用して税務申告書のレビュー、文書監査、納税者向けガイダンスの提供などの業務を自動化するソリューションの調査と開発を開始しています。例えば、コロンビアの税務当局であるDireccion de Impuestos y Aduanas Nacionales(DIAN)は、納税者ごとにパーソナライズされたメッセージを生成AIで作成し、コンプライアンスの向上と脱税の減少を図っています。フランスでは、固定資産税の不正対策に生成AIが活用されています。日本では、さまざまな情報源からデータを分析し、申告を行わない可能性の高い納税者を特定するために生成AIを活用しており、この情報を用いてより効率的な税務調査を実施しています。

満足度の向上

調査によると、すでにこのテクノロジーを統合している企業の税務部門は、その成果に満足していることが分かっています。何らかの形でAIを活用している回答者の約91%が、税務係争管理について「やや満足」または「非常に満足」としており、これは回答者全体の平均を9ポイント上回る結果となっています。

税務部門はテクノロジーを統合しています
91%
の何らかの形でAIを活用している回答者が、税務係争管理に「やや満足」または「非常に満足」としています。

さらに、税務係争に生成AIをすでに統合している企業は、統合していない企業(31%)よりも「非常に満足」していると回答する割合がはるかに高い(46%)傾向が見られました。すでに生成AIを他の主要なプロセス、ツールまたはプラットフォームに統合している企業のうち、92%が「生成AIを組み込んで、単一で統合されたエンドツーエンドの税務リスクおよび係争管理プラットフォームを構築する企業は、将来的に税務係争管理において最も大きな成功を収めるでしょう」という見解に「そう思う」または「非常にそう思う」と回答しています。

Coronadoは「その可能性を誰もが認識しており、先行して取り組んでいる企業はすでに成果を実感し始めています。これにより、さらなるイノベーションが後押しされる好循環が生まれ、将来の税務係争において税務部門が自信を持って業務を遂行できる基盤が整います」と述べています。

回答者は、さらなる統合に向けて多くの課題に直面しており、最大の障壁として44%がテクノロジーを活用できる人材の確保を挙げています。予算の確保や、生成AIのユースケースに関する知見やアイデアの不足も障害となっています。

「生成AIとAIエージェントの統合は、継続的に進めていくプロセスとなるでしょう。幸いなことに、こうした取り組みは、ほぼ即座に成果を生み出す可能性があります」とCampbellは述べています。

景色を楽しんでいる若い女性
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第2章

新たな要因が浮上しつつある税務係争

第2の柱のグローバル・ミニマム課税、デジタル課税、移転価格に関する懸念が、現在の業務にさらに負荷をかけている一方で、多くの企業は対応の準備が整っていません。

もちろん、生成AIによって税務係争がなくなるわけではありません。むしろ、法律や規制の急速かつ絶え間ない変更により、税務係争の要因はこれまで以上に増加しています。しかし、税務部門が既存の係争を管理するためのテクノロジーを開発する中で、生成AIはリスク管理と準備不足のギャップを補う有用なツールとして台頭しつつあります。

調査の回答者は、近年と同様に、今後3年間においても、税務政策と税務行政における国際的な協力が税務係争の増加要因となると予測しています。また、係争の解決には、これまで以上に時間を要する可能性があります。

第2の柱およびデジタルサービス税への懸念が高まる

政策面では、OECDの税源浸食と利益移転(BEPS)プロジェクトに基づき、より多くの国・地域が税制改革法案を制定することで、将来の係争が増加すると見込まれています。これらの変更の多くは国ごとに実施されていますが、関連する争点に対応する準備が「十分整っている」とした回答者は約半数にとどまっています。

具体的には:

  • 92%が、BEPSの第2の柱であるグローバル・ミニマム課税の各国での導入が「ある程度または大幅に」税務係争の件数を増加させると回答しています。
  • 91%が、多国籍企業(MNE)が物理的な拠点の有無にかかわらず、顧客が所在する国・地域に一部の利益を再配分することについて各国の合意が得られない場合、「ある程度または大幅に」税務係争の件数が増加すると回答しています。
  • 90%が、移転価格に関する勧告が「ある程度または大幅に」税務係争の件数を増加させると回答しています。増加する業務量を管理する準備が「十分整っている」と回答したのはわずか49%でした。

税務部門では、2026年に初回提出が予定されているグローバル税源浸食防止(GloBE)情報申告書(特定の国・地域でトップアップ課税が発生するかどうかなどを計算)の準備が進む中で、グローバル・ミニマム課税に対する懸念が広がっています。


今後3年間における最も重要な税務リスク要因としてデジタル課税が調査史上初めて挙げられたという事実は、BEPS1.0における新たな課税権であるAmount Aについて、一部の税務担当幹部は合意に至るかどうか懐疑的であることを示唆しています。Amount Aは、世界最大かつ最も収益性の高い多国籍企業の利益の一部を、物理的な存在の有無にかかわらず、顧客やユーザーが所在する市場の国・地域に再配分するものです。合意に至らない場合、企業のデジタル活動をめぐる新たな税務係争が生じる可能性があります。これは、プライベートエクイティと並んで、あらゆるセクターの中で進行中の税務係争を最も多く抱えていると報告されているテクノロジー、メディア、通信セクターにとって悪い知らせかもしれません。このセクターの回答者の12%が、100件を超える税務調査が進行中としています。

定型的な移転価格の配分を簡素化することを目的としたAmount Bに関連する税務係争の予測については、移転価格に関する係争の管理が回答者にとって長年の最重要課題である点を踏まえると(移転価格は今回もリスク要因のトップ5に含まれます)、それほど驚くべきことではありません。しかし、十分な準備が整っていると回答した企業がわずか50%にとどまっている事実は、AIを含むより多くのテクノロジーを導入できる余地が依然として大きいことを示唆しています。例えば、49%が各税務当局の個別ニーズに合わせて移転価格文書を調整する予定であると回答していますが、この業務はAIエージェントによって簡素化できる可能性があります。

生成AIは企業がデータにアクセスし、管理する際に役立つため、BEPS関連リスクを低減するための解決策を提供できるかについて、現在詳しく検討されています。第2の柱の動向を追うだけでなく、1つまたは複数カ国の税務当局の特定の要求により適切に対応するために、移転価格に関する証拠や文書の収集プロセスを個別に調整する際にも生成AIが有用となる可能性があります。また、企業が移転価格に関する同時文書や証拠の収集方法を拡充および改善する上でも役立つかもしれません。

税の透明性向上は、税務係争の増加を意味する

現在、税務係争は、主に税務調査や情報要求、移転価格調整の増加、政府間の連携強化によって引き起こされています。回答者の約99%が少なくとも1件の税務係争が進行中であるとし、69%が11件から99件の係争を抱えているとしています。

税の透明性の向上により、税務行政上の2つの動きが、こうした業務負荷をさらに増やす可能性があります。具体的には以下の通りです。

  • 92%が、異なる国・地域の税務当局間の情報交換により、税務係争の件数が「ある程度」または「大幅に」増加すると回答しています。

  • 92%が、一部の国・地域が国別報告書として知られる企業開示情報を一般に公開することを決定した場合、税務係争の件数が「ある程度」または「大幅に」増加すると考えています。

税務当局間の情報交換は、当局間の広範な協力関係の強化と並行して拡大しており、このことが、回答者の3分の1が今後3年間で当局の部門間の連携が強化されると予想している背景にあると考えられます。これらの取り組みの多くは、二重課税の削減や、第2の柱のコンプライアンスにおける納税者にとっての確実性の向上、申告負担の軽減を目的としていますが、執行面での協力も拡大しています。世界各国の税務当局における金融口座情報の自動交換を可能にする共通報告基準(CRS)は、飛躍的に拡大し、現在では120以上の国・地域が参加しています。これとは別に、2004年に国境を越えた租税回避対策として設立されたOECDの税務長官会議(FTA)の「情報共有と協働のための合同国際タスクフォース」(JITSIC)には、現在30を超える税務当局が参加しています。

国別報告書(CbCR)の公開は、比較的新しい動きです。世界最大の多国籍企業は、最初のBEPSプロジェクトの一環として2016年以降、国別の税務・財務情報をより多くの国に提供することが義務付けられてきました。この報告書により、税務当局は企業の事業展開の地理的分布や、税務活動と経済活動の関連性について、より多くの情報を得ることができます。データの多くは商業的に機密性の高いものであるため、当局にはデータの機密保持義務が課されていました。

この1年で、欧州連合(EU)とオーストラリアは、企業にこれらの報告書の公開を義務付ける法律を制定しました。EU指令に基づき、多国籍企業は、27のEU加盟国および税務上「非協力的」と指定された全ての国・地域について、支払った所得税や、国別の収益、売上、従業員数の内訳、その他の税務関連情報を公開しなければなりません。

現在、多国籍企業は、これらの報告書が誤って解釈され、税務リスクとレプテーションリスクの両方が生じることを懸念していますが、ここでも生成AIが有用となる可能性があります。多国籍企業は、正確かつ一貫性のあるデータを報告し、自社が公開している他の情報と整合性が確保できているかどうかについて、これまで以上に注力しています。生成AIを活用することで、自社のデジタルフットプリントを迅速に分析し、公開情報と財務諸表を比較することが容易になり、こうした取り組みを強化できます。また、生成AIは、潜在的な税還付請求に関連する文書作成にも役立つ可能性があります。

電子インボイスと税制優遇措置

税制優遇措置に関連する税務リスクは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック時の経済刺激策として実施された政策の余波である可能性があります。電子インボイスの拡大に伴い、特に付加価値税(VAT)を中心とした間接税の徴収は強化される見通しです。

間接税
28%
の回答者が、VAT、GSTおよびその他の間接税は、今後3年間で最も重要な税務リスクの要因となると述べています。

欧州委員会による「デジタル時代のVAT(ViDA)」提案を受け、電子インボイスは、納税者と当局のリアルタイムなやり取りが増える中、税務係争を含む税務行政の将来像を最もよく示すものとなる可能性があります。政府にとってのメリットとしては、パターンを検知し、将来の傾向(犯罪行為など)を予測し、不正行為を減らすことが挙げられます。納税者にとっては、正確性と業務効率の向上、リードタイムの短縮によるコンプライアンスの効率化が挙げられ、プロセスの効率化は双方にメリットをもたらします。

税務当局の最終的な目標は、製品の生産段階を起点とするサプライチェーン全体を対象とした高度な電子データベース(電子文書を活用してリスク評価、調査対象の選定、税の徴収を段階的に自動化)を構築し、審査や調査を完全に自動化できる体制を整えることです。3

しかし、より多くの国・地域がこの基準を採用するにつれ、煩雑な規則や規制、絶えず変更される導入スケジュールへの対応は、一層複雑になっています(効果的な対策としては、導入時の特定手続きの免除、消費者向け電子レシートと所得税控除の連動、無料のウェブ/モバイル発行ツールを用いた事前入力済みVAT申告書の提供などが挙げられます)。大規模な多国籍企業にとって、新たな電子インボイス要件を既存のITプラットフォームに統合することは、大きな課題となっています。また、納税者は、税務当局の解釈が自身の立場と相反し、前払い税額の計算や納付を求める申告について説明を求められる場合、当局がどのような解釈でその結論に至ったのかを逆算して検証せざるを得ない状況にあります。

ここでも、生成AIのデータ検索や分類能力は解決策を提供し、納税者に合わせたサービスの個別化を可能にします。

深い谷底を見下ろしている氷壁を登るクライマー
3

第3章

税務ガバナンスへの新たなアプローチ

企業は、急速な変化に対応できるガバナンス体制の構築を出発点として、税務係争管理に対して総合的なアプローチを取る必要があります。

テクノロジーの進展によって新たな局面を迎えた税務係争の環境では、新しいアプローチや戦略が求められます。係争の増加が見込まれる中、調査によると、全体的に企業は依然として将来への備えが十分ではなく、多くの企業が事後的な対応にとどまっており、自社の税務係争管理に「非常に満足」していると回答した企業はわずか31%でした。不満の主な理由としては、現地で発生した係争について税務・財務の現地担当者による効果的な管理または上層部への報告の不備、「税務当局の大企業納税者に対する姿勢」、新しく制定される、あるいは進化する税法の量や複雑さが挙げられています。

さらに、進行中の税務調査や係争について「完全に把握している」と回答したのはわずか9%で、過去の調査の約25%から大幅に減少しています(なお、49%は「十分に」把握していると回答しています)。注目すべき点として、税務係争の状況を完全に把握している企業は、グローバルな調査・係争追跡テクノロジーまたはプラットフォームを用いて管理している割合(34%)が、完全に把握していない企業(25%)を上回っています。また、このような企業は、完全に把握していない企業(28%)と比較して、自社の税務係争管理に非常に満足している割合も高い傾向にあります(67%)。

回答者の大半は、より積極的なアプローチを取りたいと述べています。91%が、今後3年間でグローバルな税務ガバナンスへの注力を「ある程度または大幅に」強化する見込みです。

より良い税務ガバナンスは、税務係争管理の改善につながる

当局は税務ガバナンスがグループの税務状況を示す重要な指標であると考えているため、将来の係争に備える上で強固な税務ガバナンスが不可欠となります。

堅固な税務ガバナンスの中核は、説明責任、透明性、予防、倫理的行動を重視する文化を築くことにあります。テクノロジー、プロセス、文書化はいずれも重要な役割を果たしますが、これらは全体的な税務方針や日々の業務の両方を担当する人々が使用するツールにすぎません。

考慮事項が絶えず変化するダイナミックな税務環境では、多くの体制が変化のペースに追いついていない可能性があります。こうした体制は繰り返し更新が求められ、その結果、リスクが散在し持続可能性が損なわれる場合があります。生成AIの活用は、税務環境の変化を把握するだけでなく、税務ガバナンス体制の更新プロセスを効率化することで、納税者が急速な変化に対応する上で役立ちます。最も効果的な現代ガバナンスモデルは、個別のタスクと、それらのタスクをどのように捉え、実行すべきかを示す包括的な原則を組み合わせたものです。こうしたモデルは高い柔軟性を備えており、新たな状況が生じても適切な意思決定に導くよう設計されています。

準備不足の解消に向けて

調査によると、売上高が1,000億米ドルを超える最大手企業の約9割は、税務リスクを評価するための主要な税務ガバナンス活動(税務リスク「委員会」の設置など)を1つ実施していると回答しています。しかし、ガバナンス活動を全て実施している企業はほとんどありません。

また、より小規模な企業も、これらの活動の少なくとも1つを実施している割合が高くなっています。例えば、売上高が100億米ドルから999億米ドルの企業では、10社中7社以上が少なくとも1つの活動を実施しています。一方で、全ての活動を実施している企業はありません。この結果は、強固な税務ガバナンスの実施が遅れていることを示唆しています。

これらの活動のうち1つ以上を体系的なアプローチを用いて実施している回答者は、税務係争の全体的な管理に対する満足度がより高い傾向にあります。また、これらの活動を実施していない回答者の約3分の2は、実施すれば結果が「大幅に改善する」と認めています。

代替的な係争解決

社内の税務ガバナンス強化に加え、多くの企業にとって、税務当局との信頼関係を築くことがこれまで以上に重要となります。これには、より高い確実性を提供する事前申告制度の活用や、二重課税が発生した際の管理に役立つ申告後の支援の活用が含まれます。調査によると、回答者は、これらの既存制度の運用方法に不満を抱いており、それらを効果的に活用している企業はほぼありません。こうした状況を踏まえると、生成AIが有用な手段となり得ることが示唆されます。

申告前に納税者と国税当局が行う移転価格税制に関する事前確認(APA)は、その一例です。しかし、時間がかかりすぎる、コストが高すぎる、希望する市場で利用できないなどの理由から、確保が難しいとされています。その結果、明確なAPA戦略を有していると回答したのは、わずか25%にとどまっています。大量のデータを分析し、提案する能力を持つ生成AIは、将来的には適正価格を決定するための独立企業間価格分析を支援できるようになる可能性があります。

また、回答者はOECDが管理する相互協議(MAP)についても一定の不満を示しています。MAPは、国境を越えた意見の相違により二重課税が生じた場合に、申告後の対応を支援します。場所やタイミングを問わず、可能な限りMAPを利用している回答者は、利用していない回答者(80%)と比較して、係争管理全体にやや高い満足度(85%)を示しています。しかし、48%が少なくとも1つの国・地域からMAPへのアクセスを拒否されたと回答したほか、46%がMAPは複雑すぎる、または期間が長すぎて利用を検討できないと回答しています。

大きな洞窟の中にいる2人の探検家
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第4章

企業が次にすべきこと

税務係争がリアルタイムのコンプライアンスへと移行する中、生成AIと強固なガバナンスが未来を再定義しつつあります。

税務係争は、今まさに大きな転換期を迎えています。数年、あるいは何十年も前の税務ポジションに関する係争を解決する時代は終わりを迎えつつあり、リアルタイムでのコンプライアンスへと移行しています。間接税の領域ではすでにこの変化が進んでおり、所得税についても、税務透明性の高まりが関係者を同様の方向へと後押ししています。

テクノロジーの中でも特に生成AIやAIエージェントは、納税者と税務当局の双方にとって重要性を増しています。しかし、あらゆるツールと同様に、その有用性は使用者次第です。特に税務リスクおよび税務係争管理に注力する税務部門は、将来の環境で成功を収めるため、アプローチを積極的に見直し、変革していく必要があります。企業が今すぐ取り組むべき4つの事項は以下の通りです。

生成AIと税務テクノロジーを採用および統合する

税務部門は、2022年に生成AIの機能が広く利用可能になって以来、企業の中でもいち早くその活用を進めてきました。これは、税務部門がグループ全体のデータの集約拠点であるためです。生成AIツールはすでに税務部門の業務を変革しつつあり、特にデータサイエンティストが絶え間ない係争管理の課題を解決するためのユースケースに注力するにつれ、さらなる革新がもたらされると予想されます。生成AIを活用して共通の事実やデータを確立することができれば、係争解決の正確性と効率性が向上します。また、生成AIは、ますます求められているリアルタイムのコンプライアンスにも貢献します。企業はこの流れから取り残されるわけにはいきません。

税務係争の把握度を高める

税務係争全体の把握度を高めることは長年の目標でしたが、各国レベルでの第2の柱のグローバル・ミニマム課税ルールの導入拡大や、一方的に課されるデジタルサービス税は管理が必要な新たなリスクになり得るという懸念から、この目標達成はより緊急性を帯びてきています。調査結果では明確に示されており、全ての税務係争に対する把握度が高い税務部門は、より満足のいく結果を得ています。

税務ガバナンスを強化する

強固で適応性のある税務ガバナンスは、リスクに応じて納税者をランク付けする当局に対して信頼性を示すと同時に、係争が発生した際に企業が自信を持って対応できる体制を整えます。これは、税務係争環境において影響力を高める生成AIを補完し、その管理を支える「人間の関与(ヒューマン・イン・ザ・ループ)」という要素です。優れた税務ガバナンスの主要な7つの要素を導入する際には、企業はこれら7つの活動を全て実施すべきですが、1つしか実施していない企業が多いのが現状です。

代替的な係争解決制度を活用し、可能な限り確実性を追求する

APA、MAP、その他の代替的な係争解決制度に対する不満は、本調査およびEY移転価格調査でこれまで繰り返し示されてきました。しかし、より強固な税務ガバナンスと生成AIを組み合わせて、これらの制度の適用要件をより効率的または容易に満たせる可能性があります。今後の税務係争の環境においては、得られる確実性は全て追求することが重要となります。


サマリー

2025年の税務リスクと税務係争に関する調査によると、税務部門は、リスクおよび係争の管理が改善されることを期待してAIツールに投資しています。これは、第2の柱のグローバル・ミニマム課税や移転価格に関する継続的な懸念に加え、デジタルサービス税が新たに最大の懸念事項として浮上するなど、税務係争の要因が多様化している中で特に顕著です。また、税務ガバナンスの強化は、将来の成功に向けた重要なステップとなります。

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