湖を背景に水晶玉で遊ぶ手のクローズアップ

10年間にわたる透明性の時代は税務をどのように一変させたのか

新たな規制と先進テクノロジーにより、税の透明性が標準化され、グローバルな税制と企業の実務に革命的な変化がもたらされました。


要点
  • グローバルな税の透明性への要請の高まりは、国際的な税務慣⾏を再定義し、抜本的な構造的変化をもたらした。
  • 企業は、高度なデータ要求とその精査に直⾯しており、コンプライアンス基準を満たすためには、データ管理とテクノロジーの統合が必要となっている。
  • ⽣成AIとデジタル税務管理の統合は、より⾼い精度と効率性を実現するために、税務部⾨とIT部⾨の連携が必要となっている。


EY Japanの視点

日本企業は10年間にわたる税の透明性への対応の遅れを取り戻せるのでしょうか

英国、オーストラリア、シンガポール、マレーシアなどの国々は、プロセスと説明責任に基づいて納税者を格付けし、認定する税務ガバナンスプログラムを導⼊していますが、日本においても、「税務に関するコーポレートガバナンス」の一貫として、リスク・ベース・アプローチが導入され、実際に評価結果が通知されています。

国税庁によりますと、「税務に関するコーポレートガバナンス」の評価ポイントとして、企業(グループ)としての税務に対する取組方針を明確化するため、税務方針やタックスポリシー等の公表状況を確認する、とされています*。

グローバル企業の税務部門は「税の透明性」への要請の高まりを自らの機会と捉え、経営層および事業への貢献を高めています。

一方、多くの日本企業は、いまだ義務とされた範囲への対応に終始し、この10年間に失った企業における税務部門の位置付けを取り戻すには至っていません。このままでは税務オペレーションもAIやロボティクスによる税務マネジメントに置き換えられてしまうことでしょう。

日本企業の税務部門にとって、この10年に失った、グローバル課税と持続的成長における立ち位置の明確化が求められています。

* 国税庁「税務に関するコーポレートガバナンスの確認項目の評価ポイント」、www.nta.go.jp/law/jimu-unei/sonota/160614/pdf/02.pdf(2025年3月26日アクセス)


EY Japanの窓口

大堀 秀樹
EY税理士法人 ビジネス・タックス・サービス ディレクター

今世紀初頭における税の透明性の欠如は、世界経済に非常に暗い見通しを提示しました。ニュース報道では、銀⾏の秘密保持やグローバル企業による広範な租税回避に関する疑惑が⾶び交い、世界の指導者たちは⾦融危機に際しての経済回復を⽀えるための税収の補充に苦慮しました。

「今、世界では⼀部の企業が賢い税務アドバイザーを従え、合法的な税制や低税率さえも回避しています」と、2012年にスイスのダボスで開催された世界経済フォーラムにおいて、当時の英国⾸相でG8議⻑を務めていたDavid Cameron⽒は、世界の指導者、経済界の要⼈、⾮政府組織(NGO)の聴衆に語りかけました。「私たちはゲームのルールを定め、それを実行に移す覚悟が必要です。それには適正な企業、適正な税金、適正なルールの想定が前提となります」

Cameron⽒の演説は、税務コンプライアンスに関する「より真剣な議論」を呼びかけるものでした。これを受けて、世界で最も裕福な国々は、租税政策は常に主権国家の専権事項であるという⻑年の考えを覆し、国際的な税制の抜本的な改⾰に共同で乗り出しました。


Cameron⽒の演説から10年以上がたち、現在のG7(2014年にロシアはグループから除外)がG20の後押しを得て団結して⽰した決意は、世界の多くの政府に受け⼊れられ、その結果、わずか20年前には経営幹部や税務部⾨に想像もできなかったような⼀連の政策が打ち出されました。最大の変化として挙げられるのは、経済協力開発機構(OECD)が税源浸食と利益移転(BEPS)プロジェクトを通じて主導する、税の透明性の向上と、それを実現するための新しいルールの整備です。

「それは劇的な変化でした」と、EY Americas International Tax and Transactions Services LeaderであるJose Murilloは述べています。「すぐに新しいルールにどのように準拠するのかという疑問や、税務情報の本質や機密性に関する幅広い議論が交わされました」

私たちはゲームのルールを定め、それを実行に移す覚悟が必要です。

税の透明性を高める動きが、税務部門の革新を促進しています。その中で得られた教訓の1つとして挙げられるのは、税務部⾨がテクノロジーの活⽤、特に⽣成AIのユースケース開発においてリードすることの必要性です。これにより、税務担当役員は経営幹部へと昇格し、サステナビリティからレピュテーションリスクに至るまで、企業が自主的に公開し、税務当局と共有すべき財務情報の急増を含め幅広い事項について助言を行うようになりました。また、企業が新たな規制への準拠に努め、EUやオーストラリアなど一部の国・地域で公開が求められる開示事項の準備を進める中、強固な税務ガバナンスの重要性が強調されました。ようやく企業はこれらのコンプライアンス業務が自社組織にとって隠れたメリットをもたらすことを学び始めています。企業が収集し構造化するデータは、組織に飛躍的な新しい価値をもたらす多大な洞察力を秘めています。

「グローバル企業に関連する税務問題は、今や公の場で大きく取り上げられるようになっており、クライアントは政府、非政府組織、投資家から税に関する透明性を求める声の高まりに直面しています」と、EY International Tax and Transactions Services LeaderであるCraig Hillierは述べています。「そのため、企業は、正確な財務・税務データにリアルタイムでアクセスできるようにするとともに、そのデータが一般に開示された際に、自社の事業のストーリーがどう伝わるかをより深く理解する必要があります」

その結果、税務部門はバックオフィス機能から、経営幹部に幅広いビジネス上の意思決定について助言できる情報省のような存在へと変貌を遂げつつあります。特に企業と税務当局が業務に生成AIの統合を始めている中においては顕著であり、多くの国・地域で新たに導入されているグローバル・ミニマム課税への準拠も、重要な検討事項となっています。

会議室で立って窓越しに見ている実業家の背面図。 会議室で立って窓越しに見ている実業家の背面図。
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第1章

グローバルな税の透明性が財政に与える影響

政府はより多くの税収を確保する一方で、税務部門はさらなる情報提供の要求に対応しています。

政府の視点から見ると、税の透明性の向上は財政的な成功を導いています。

行政面では、OECDの税の透明性および税務目的の情報交換に関するグローバルフォーラムが重要な役割を果たしています。2009年以降、自主的開示制度や類似のイニシアチブ、オフショア税務調査により、約1,260億ユーロの追加の歳入(税金、利息、罰金)が特定されており、その中には発展途上国による410億ユーロを超える金額も含まれています1

国際協力により、国境を越えた情報交換は、現代の税務当局の実務において不可欠な要素となっています。OECDによると、2022年には130を超える国・地域が要請に応じた情報交換および国別報告書やルーリングの交換も行っていると報告しています。OECDは、100を超える国・地域が、納税者が居住国・地域外に保有する⾦融⼝座の情報について、⾃動的な年次交換を開始したと述べています。

税務情報の交換
税務情報の交換を行っている国・地域の数

2022年だけでも、総額12兆ユーロを超える金融資産を保有する1億2,300万以上の金融口座に関する情報2が、国際基準に基づいて自動的に交換されました。同時に、OECDがタックスヘイブンと呼んでいる国際金融センターでよく利用されている預金が大幅に減少しており3、これは不透明な金融慣行からの転換を示しています。こうした取り組みにより、非課税のオフショア資産の割合は大幅に減少し、世界的な税収増加に貢献していることから、税の透明性向上における有効性が浮き彫りになっています。

「多くの成果が得られた一方で、進化する金融市場の慣行によって成果が徐々に損なわれることがないように、私たちは引き続き取り組みを進めていきます」と、OECDの税の透明性および税務目的の情報交換に関するグローバルフォーラムの議長を務めるGaël Perraud氏は、同グループの2023年の報告書に記しています。

税の透明性への取り組み
世界全体で回収された金額。そのうち約410億ユーロが特に発展途上国に恩恵をもたらし、新興国にとってこれらの措置の重要性を強調しています。

デジタル記録のリアルタイムでの提出に対する期待の高まりを含め、税務当局のデジタル化は税務部門のコンプライアンスへの取り組みに圧力をかけています。 例えばメキシコでは、政府が個人の税務申告書全体を事前に入力し、当局は企業の税務申告データの約70%に直接アクセスしています4。税務当局によるデジタル化による透明性の確保は、政府が納税者の活動をリアルタイムで把握することを意味しています。

⼀部の政府は、プロセスと説明責任に基づいて納税者を格付けする税務ガバナンスプログラムを導⼊しています。これらのプログラムは、納税者と税務当局の間の信頼を構築し、介入の回数の減少や、罰金の軽減につながります。英国、オーストラリア、シンガポール、マレーシアなどの国々は、こうしたイニシアチブの最前線にあり、時には大規模な納税者に対してこれらを義務化しています。同プログラムが発展するにつれて、より多くの納税者が参加の利点を認識し、確実性を⾼め、税務調査の回数を減らすことを求めるようになります。このような、よりオープンで協力的な税務関係への移行は、重要な傾向であり、今後も続くと考えられます。

税の透明性に関するグローバルな連携は、特に個人に対する税務執行において、よりグローバルな協力関係の構築にも役立っており、米国の外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)やEUの共通報告基準(CRS)など、10年前に始まった各国のイニシアチブがさらに広がっていることを示しています。この傾向により、納税者は、他の政府と交換されるルーリングという形で税の確実性を確保するか、関連会社間取引に関する2国間または多国間の事前確認制度や国際コンプライアンス保証プログラムを通じて多国間の確実性を求めるか、という選択を事実上迫られています。2024年EY移転価格動向調査によると、後者は近年利用が高まっています。

「この10年間で、税に関する透明性と情報交換の増加により、かつては手の届かなかった情報を税務当局に提供することが可能となり、事実上、銀行の秘密保持は終わりを告げ、納税者と税務当局の関係は根本的に再構築されました」と、OECD租税政策・税務行政センター局長であるManal Corwin氏は述べています。「その結果、これまでコンプライアンスを順守してこなかった納税者は自主的に納税義務を順守するよう一層の圧力を受ける一方で、コンプライアンスを順守してきた納税者は、より公平かつ公正な方法で扱われているという安心感を得ています」

これまでコンプライアンスを順守してこなかった納税者は自主的に納税義務を順守するよう一層の圧力を受ける一方で、コンプライアンスを順守してきた納税者は、より公平かつ公正な方法で扱われているという安心感を得ています。

さらにCorwin氏は、各国政府が税務に関して迅速に行動し、効果的に協力する能力を十分に発揮しており、そのような協力がグローバル化した経済における効果的な税務執行に不可欠であると認識していると述べています。これにより、国境を越えた経済活動の要求に対して、国内の行政能力を強化し適応させるための継続的な協力の基盤が築かれました。

ガラス、アルミニウム、PVC業界の労働者 ガラス、アルミニウム、PVC業界の労働者
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第2章

税務部門における透明性の課題

税務チームは、第2の柱、BEPS、CbCR、ESGからのデータ要求を受け、その対応に苦慮しています。

10年間における税の透明性の時代は、企業や税務部門にさまざま影響を及ぼしました。

現在、税務部⾨は、主に過去の税務申告情報を照合するバックオフィス機能から、特に政府が税務政策を⽤いて企業⾏動に影響を与える傾向にあることを踏まえ、税務問題が広範な事業戦略に与える影響について経営幹部に助⾔するなど、重要な役割を果たすよう変貌を遂げています。また、新しいテクノロジーへの投資を通じて、規制の変更と税務調査官の能⼒向上に対応しながら、新たなコンプライアンス義務や⾼まる税務リスクに対処しています。多くの場合、これはさまざまな開⽰要件を満たすために、必要に応じてデータを集約したり分割したりすることを意味します。

「グローバル企業のコンプライアンスコストは急増しています。これは社内コミュニケーションの改善やテクノロジーのアップグレードにつながる可能性はありますが、非効率的な方法です」と、EY Global Government and Risk Tax LeaderであるChris Sangerは述べています。「最終的に、BEPSの成功を評価する際には、政府と企業の双方に課される機会費用と管理負担も考慮しなければなりません」

既存の米国のFATCAプログラムと、その国際版であるCRSは、主に外国銀行口座を持つ個人富裕層に影響を与えるものであったため、グローバル企業はまず、BEPSプロジェクトの行動13への準拠に注力しました。いわゆる国別報告書(CbCR)は、グローバル企業に対して、事業を展開する各国・地域ごとの収入金額、税引前当期利益の額、納付税額、発生税額、従業員の数、資本金の額、利益剰余金の額、有形資産の額を初めて年次で報告することを義務付けるものです。その目的は、税務当局に対して移転価格やその他のBEPS関連のハイレベルなリスクを評価するための十分な情報を提供することで、透明性を向上させることでした。

各国政府は、移転価格が、税率の高い国・地域から、低い税率の国・地域へ利益を移転するのに利用されていると考えていましたが、BEPSプロジェクトは政府に対してより詳細な移転価格の情報を要求するよう促すものでした。これらの詳細は、いわゆるマスターファイルに記され、そこに全世界の所得配分や経済活動なども含む、組織のグローバルな事業運営と移転価格ポリシーの概要が記載されています。また、現地国の事業体と他の国・地域の関連企業との特定の取引に焦点を当てた、より詳細ないわゆるローカルファイルも必要となっています。

「税務当局は初めて、世界中の所得と税金がどのように分配されているかについて、完全な透明性を確保することになります」と、EY Global Transfer Pricing LeaderであるTracee Fultzは述べています。

税務当局は初めて、世界中の所得と税金がどのように分配されているかについて、完全な透明性を確保することになります。

これらの新たな透明性の要件を満たす中で、⼀貫性の課題が浮上しました。これは、インターネットによって促進された瞬時のコミュニケーションやソーシャルメディアの時代に特に有用であり、法人課税に関するメディア報道の共有方法に大きな変化をもたらし、金融界における企業の責任や説明責任に対する見方を再形成しました。

「税務は日常的な課題となっています」と、EY Global Tax Controversy LeaderであるLuis Coronadoは述べています。「税務の課題が新聞の一面を飾っているため、今では母でさえ私が何で生計を立てているのかを知るようになりました」

ある国・地域での企業の行動や言動は、グローバルな規範との整合性を取る必要があると、EY Global International Tax and Transactions Services Controversy LeaderであるJoel Cooperは述べています。

「今日では、誰もがすべてを知っていると想定しなければなりません」とCooperは言います。「テクノロジーと分析ツールの進歩に伴い、人々はすべての情報にアクセスできる可能性があることを理解した上で、税務業務を整備することが極めて重要です。これは、過去に情報が隠されていたということではなく、現在では透明性がかつてないほど求められていることを示しています」

税務は日常的な課題となっています。税務の課題が新聞の一面を飾っているため、今では母でさえ私が何で生計を立てているのかを知るようになりました。

税務部門における継続的な予算削減と、過去10年間にわたる税の透明性に対する要求の高まりが相まって、コンプライアンスの取り組みは複雑化しています。2024年EYタックス・アンド・ファイナンス・オペレート(TFO)調査によると、調査史上初めて、コスト圧力が税務・財務部門の最大の懸念事項となっています。これは、過去10年間にわたる累積的な予算削減と最近のインフレが要因です。

「税務部門は多くの場合、増え続ける業務範囲に対応するために必要なリソースを見つけるのに苦労しています」と、EY Global Tax and Finance Operate LeaderであるDave Helmerは述べています。「また、税の透明性の向上に伴う報告とコンプライアンスの要求の高まりに対応するには、十分なITサポートとデータ処理能力が不可欠です。多くの企業は日常業務をコソーシングすることで、自社の社員が最も重要な問題に集中できるようにしています」

二重課税とグローバル・ミニマム課税

グローバルな税制改革による二重課税への懸念は、企業の事業運営のあり方を根本的に変えつつあります。10年前に始まった税の透明性に関するイニシアチブは、BEPSプロジェクトの第2の柱の下で新たなプロジェクトへと変貌を遂げました。本プロジェクトでは、売上高が7億5,000万ユーロ以上の国際企業を対象に、少なくとも15%のグローバル・ミニマム課税を導入することで、ほとんどの国・地域が合意しています。全世界で50を超える国・地域が、これらのルールを導入するさまざまな段階にあり、その多くは早ければ2024年に導入が始まっています。

EY移転価格動向調査では、回答者の圧倒的多数が、第2の柱で求められているグローバル・ミニマム課税により、中程度または重大な二重課税のリスクに直面していることが分かりました。

二重課税、より広範な税制や法制の変更、事業の不安定性に関する懸念が、多くの重要な面で、組織内の移転価格(TP)の変更を促しています。企業は、第2の柱のルールに準拠した計算の予測可能性を⾼めるため、移転価格に関する確実性をさらに求めるようになっています。これは、税務当局が提供する事前確認制度(APA)や係争解決プログラムへの関心が急速に高まっていることからも明らかです。この積極的なアプローチにより、移転価格係争と第2の柱の実施の両方において、より確実性を高めることができます。

経営幹部や移転価格の専門家は、データ、特に標準的な移転価格データが、係争における確実性と第2の柱の計算の予測可能性を支えていることを認識しています。グローバル・ミニマム課税とCbCRの開示が義務付けられる税制環境への移行により、企業は税務当局からの係争関連の要請や第2の柱の計算の急増に対応するために、社内データを標準化せざるを得なくなります。

グローバル企業についても、EUおよびオーストラリアではCbCRの開⽰が義務化されたことにより、新たな税の透明性の時代に向けて準備を進めています。CbCRの開示は税の透明性を向上しますが、外部ユーザーが誤解するリスクも高めます。

また、新たな開示要件によって影響を受ける企業には新たな検討事項が生じます。主な懸念事項の1つは、CbCR公開情報について、それと相違のあるCbCR非公開情報や、税務戦略、サステナビリティ、統合報告書における税務開示情報と調整する必要があることです。EYの移転価格動向調査によると、96%の企業が、報告書の開示の準備には「ある程度」または「多大な」追加作業が必要であると回答しています。2024年10月に発表されたEYのTFO調査によると、CbCRの開示が情報テクノロジーシステムに新たな負担を生み出しています。CbCRに対応するために、約34%の企業が、ソースシステムのデータに「大幅」な調整が必要だと回答しており、また、47%が「中程度」の調整が必要だと回答しています。

自主的な開示

一部の国・地域で開示の義務化が迫っている中、EYのTFO調査では、回答者の約56%が、企業が世界全体で支払っている税金の総額について自主的に開示する予定であると回答しており、2023年の38%から増加しています。

税務部門は多くの場合、増え続ける業務範囲に対応するために必要なリソースを見つけるのに苦労しています。

「CbCRの本来の受領者である税務当局は、CbCRデータを分析するための専門知識を有していますが、税務の専門家ではない人々は、そうした情報に内在するニュアンスや背景を完全に理解することは難しいでしょう」と、EY Global International Tax Services Policy Leaderであり、かつてOECDの租税条約・移転価格・金融取引部門を率い、10年以上前にOECDのBEPS行動13におけるCbCR制度策定を担当したMarlies De Ruiterは述べています。

さらに、グローバル企業は、社内のCbCRプロセスを更新して全社的な協⼒体制を築くことにより、複雑なCbCRデータをサポートし、幅広いステークホルダーに説明することができます。税務部門は、新たな報告要件にとどまらず、透明性の確保や外部ステークホルダーのエンゲージメント強化といった、企業グループ全体に及ぶ⽬標に貢献することができます。

しかし、実際には運用上の課題が山積しています。透明性に関するイニシアチブや報告要件は、対応が難しく複雑な状況を生み出しています。これらの課題を効果的に管理するためには、データとテクノロジーのニーズ、自主的なコンプライアンスの動向、BEPSの影響を理解することが不可欠です。

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第3章

税の透明性の向上がもたらす広範な影響

倫理からより広範な社会・環境目標に至るまで、すべてがより複雑になっています。

税の透明性がもたらす波及効果は、税務慣行をガバナンスモデルに統合し、コンプライアンス、インテグリティ、地域社会へのポジティブな影響を強調する環境・社会・ガバナンス(ESG)アジェンダなど、他の企業目標にも広がっています。

税務はサステナビリティの重要テーマであるため、環境税や税務ガバナンスの詳細などに関する開示が必要となります。例えば、EUの企業サステナビリティ報告指令(CSRD)には新しい報告要件が含まれています。税務に関する開示は、顧客や従業員などより幅広い対象者に向けて、戦略、ガバナンス、数値データなどを網羅するよう進化しています。ネットゼロ排出量達成のような長期的なコミットメントとは異なり、企業の税金に関する「フットプリント」は、ステークホルダーにすぐに見えるようになり、一部のESG格付け機関では指標としても用いられています。

「法律に基づく義務に関してのみ税務報告を行う企業もあれば、法律上の義務を超えて、徴収され納付した税金が事業を展開する地域社会にどのように貢献しているかを開示する企業もあります」と、EY Global Tax Accounting and Risk Advisory Services LeaderであるBrian Foleyは述べています。「規制当局や税務当局は一般的に透明性の向上を支持しており、ESGイニシアチブに賛同する関係者も同様です。結局のところ、透明性の向上の価値は、規制、コンプライアンス、サステナビリティといった観点や目的によって異なります」

規制要件がより明確で⽐較的複雑でない場合、税務当局は、政府が企業や海外投資を誘致するのにも役⽴つ「公正な」税制を適用できると、Coronadoは述べています。また、BEPS第2の柱の実施と、グローバルな15%の最低法人税率に向けた動きにより、税率の観点からの租税競争が減少し、納税者は効率的な税務管理とコンプライアンスコストの削減方法を重視し始めると述べています。

さらにCoronadoは、政府が企業を信頼できる納税者として評価することで、税務調査への対応や複雑な報告要件を満たすために費やす時間を削減できると提案しています。効率性の向上、さらなる確実性、そしてうまくいけばコンプライアンスコストの削減は、多くの企業にとって魅力的なものとなるでしょう。また、コーポレートシチズンシップのレベルが向上するという利点もあることから、投資家、メディア、そして一般市民はこれを歓迎するだろうと述べています。

最終的に、BEPSの成功を評価する際には、政府と企業にかかる機会費用と管理負担も考慮する必要があります。

迷路のように複雑なルール

グローバル企業は現在、倫理的な⾏動とコンプライアンスの順守に努めていますが、迷路のように複雑なルールに直⾯し、その取り組みが複雑化したり、予期せぬ結果を⽣み出したりしています。例えば、グローバル・ミニマム課税の導⼊は、グローバル企業が特定の税制上の優遇措置によって恩恵を受けることを制限する可能性があります。

異なる地域の税収の対GDP比を詳しく見てみると、新たな議論が生まれます。一部の発展途上国では、この比率はOECD諸国よりも低くなっていますが、法人税収の対GDP比は2倍にもなっています。問題は、グローバル企業が税⾦を回避していることではなく、個⼈所得税や付加価値税の徴収不⾜にあり、おそらく中産階級が⼗分に存在しないことが原因であることを⽰唆しているとCooperは述べています。

また、「企業の透明性やグローバル企業への課税ばかりに注⽬していると、個⼈課税の重要な側⾯を⾒落としてしまう可能性があります」とも述べています。「企業に過剰な負担を強いると、経済への貢献が減るリスクがあります。今、私たちは税に関するより幅広い課題を効率的に理解し、対処するために、視野を広げる時に来ているのかもしれません」

実際、一部の政策立案者も同様の考えを持っています。G20の一部のメンバーは、気候変動を阻止するイニシアチブの財源確保のために、株式含み益を含む億万長者の資産に対して2%の課税を提案しましたが、このような個人への課税には複雑な問題が伴います。法人税は各国での利益に基づいて配分されますが、個人への課税では、居住地、財産所有権、資産がどこで形成されたかを特定する必要があります。

一方、税の透明性が高まるにつれ、正確な税務申告書を作成する上でデータの重要度が増しますが、そのデータを解釈する能力が限られていることが、デジタル税務管理における重大な課題となっています。従来、税務部門は数値を受け取り、それを解釈して納税額を算出していました。現在、税務部⾨が要求される時間内に納税額を算出するための必要な情報が圧倒的に不⾜しています。政府は税額の決定を行うために報告書やデジタル提出書類に大きく依拠することになりますが、それらが常に正確であるとは限りません。

ブラジルでは、納税者やアドバイザーは多くの場合、政府の解釈を理解するために、提示された結果を分析し精査する必要があるとCoronadoは述べています。これには、納税者が自らの立場を主張できるよう、ITソリューションが正確な税務解釈に沿ったものであることを確認するチェックアンドバランスの仕組みが必要です。IT、財務、法律顧問が結集し、今日のビジネス取引の複雑さを反映した包括的かつ正確な税務申告を行うためには、より協調的な戦略が必要です。

 

オフィスの廊下の手すりにもたれかかりながら目をそらす思慮深いビジネスマン
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第4章

10年間にわたる税の透明性の時代から学んだ教訓

AIと先進テクノロジーは、税の透明性を変革し詳細な洞察を提供するとともに、グローバルな税務管理を改善します。

税の透明性を求める各国政府による前例のない行動により、何万ものグローバル企業が青写真なしで税務コンプライアンスと税務業務へのアプローチを再構築することを余儀なくされました。今、企業はその経験から得た重要な教訓を生かし、さらなる変化に備えています。

まず第1に、企業は税務報告要件に対応するために、一元的に収集・管理されたデータソースを備えた堅固なデータ管理戦略が必要です。政府はデータのより思慮深い利用者となりつつあり、その需要は増加の一途をたどっています。特に、所得税への適応を目標に、幅広いリアルタイムの申告に移行していく中で、その傾向は顕著です。税務データに対する要求は、すでに電子インボイス、CbCR、TPファイルなど多岐にわたる情報源をカバーしており、各国政府は現在、その情報をかつてない速さで共有しています。BEPS第2の柱の影響を受ける企業は、グローバル・ミニマム課税の計算のために、数十もの新しいデータポイントを扱うというさらなる課題に直面しています。

間もなく、政府の電子インボイスと同様に、情報が税務当局にシームレスに流れるようになることが予想されます。これにより、紙の税務申告書が一夜にしてなくなるわけではありませんが、自動的な情報共有が増え、税務管理が根本的に変化することになります。しかし、依然として多くの企業では、税務申告書を手作業で作成・提出しています。税務会計チームは記録管理を改善し、構造化データ要件を満たし、さまざまな財務事項についてより精緻な情報を収集する必要があります。将来的に、データが直接税務当局に送られるようになると、企業はデータの検証を⾏う必要性が⽣じ、税務コンプライアンスへのアプローチは⼤きく変化することになります。

この傾向は、生成AIのユースケースが増え、政府がデータ収集の改善に生成AIの活用を進めるにつれ、さらに重要性を増します。その良い面として挙げられるのは、有用なデータがあれば、企業は税金が自社業務にどのような影響を与えているかについての洞察を得て、収益を改善できるということです。また、企業が⽣成AIを⾃社の業務に統合し、税務の専⾨家をより⾼度な業務に専念させ、経営幹部にさらに多くの価値をもたらすことができます。

第2に、透明性を1つのツールと考えることが重要です。過去10年間、企業は新しい報告要件への対処することに焦点を当ててきました。しかし、企業は税務に関する透明性の向上が、投資家やその他のステークホルダーとの良好な関係構築につながることに気づき始めています。これは、企業のサステナビリティ目標やその他の地域社会に基づいたイニシアチブを達成する上で特に顕著であり、開示の強化は税務当局との関係改善にもつながります。多くの税務当局は、誠実な透明性を評価し、税務係争における確実性を高めるコンプライアンス保証プログラムを提供しています。

第3に、一貫性を保つことが重要です。企業の税務データは、その企業が公にしている内容と一致する必要があります。ソーシャルメディアやオンライン報告により、現在利用可能なデータの量は膨大なものとなっています。データの急増の中心にあるのが企業であり、これらの豊富なデータは、事業運営や個人の活動に関する洞察を提供します。データへのアクセスは国によって異なりますが、包括的な分析の必要性は計り知れません。今後、生成AIやその他のテクノロジーが進歩するにつれ、この情報を詳細に分析し、企業活動に関する詳細なスナップショットやクロスチェックを提供する高度なツールが登場することが期待されます。一貫性の欠如は脆弱性やリスクへとつながります。

最後に、この透明性の高い時代に対応するためには、優れたガバナンスが必須となります。強固でありながら柔軟なガバナンスの枠組みは、税やESGの透明性に対するアプローチも含め、組織のコアバリューを支えることが可能です。より優れたデータとデータ管理を確保し、生成AIとの倫理的な統合を監督することも不可欠です。そして、これまで以上に多くの情報を有する税務当局と積極的に協力する誠実な取り組みと同様に、当局が認める強固なガバナンス体制は、全体として税務リスクと係争を軽減することができます。


サマリー

10年にわたる税の透明性に関するイニシアチブにより、グローバルな税制は変革を遂げ、政府にとっては多大な財政的利益をもたらしましたが、企業にとっては新たなコンプライアンス上の課題が生じました。企業がコンプライアンスを順守するには、増大するデータ要求に応え、先進テクノロジーを活用する必要があります。AIとデジタル税務管理は透明性と正確性を向上させ、強固な倫理的ガバナンスおよび税務部門とIT部門間のシームレスな連携の必要性を浮き彫りにします。

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