税務部門における継続的な予算削減と、過去10年間にわたる税の透明性に対する要求の高まりが相まって、コンプライアンスの取り組みは複雑化しています。2024年EYタックス・アンド・ファイナンス・オペレート(TFO)調査によると、調査史上初めて、コスト圧力が税務・財務部門の最大の懸念事項となっています。これは、過去10年間にわたる累積的な予算削減と最近のインフレが要因です。
「税務部門は多くの場合、増え続ける業務範囲に対応するために必要なリソースを見つけるのに苦労しています」と、EY Global Tax and Finance Operate LeaderであるDave Helmerは述べています。「また、税の透明性の向上に伴う報告とコンプライアンスの要求の高まりに対応するには、十分なITサポートとデータ処理能力が不可欠です。多くの企業は日常業務をコソーシングすることで、自社の社員が最も重要な問題に集中できるようにしています」
二重課税とグローバル・ミニマム課税
グローバルな税制改革による二重課税への懸念は、企業の事業運営のあり方を根本的に変えつつあります。10年前に始まった税の透明性に関するイニシアチブは、BEPSプロジェクトの第2の柱の下で新たなプロジェクトへと変貌を遂げました。本プロジェクトでは、売上高が7億5,000万ユーロ以上の国際企業を対象に、少なくとも15%のグローバル・ミニマム課税を導入することで、ほとんどの国・地域が合意しています。全世界で50を超える国・地域が、これらのルールを導入するさまざまな段階にあり、その多くは早ければ2024年に導入が始まっています。
EY移転価格動向調査では、回答者の圧倒的多数が、第2の柱で求められているグローバル・ミニマム課税により、中程度または重大な二重課税のリスクに直面していることが分かりました。
二重課税、より広範な税制や法制の変更、事業の不安定性に関する懸念が、多くの重要な面で、組織内の移転価格(TP)の変更を促しています。企業は、第2の柱のルールに準拠した計算の予測可能性を⾼めるため、移転価格に関する確実性をさらに求めるようになっています。これは、税務当局が提供する事前確認制度(APA)や係争解決プログラムへの関心が急速に高まっていることからも明らかです。この積極的なアプローチにより、移転価格係争と第2の柱の実施の両方において、より確実性を高めることができます。
経営幹部や移転価格の専門家は、データ、特に標準的な移転価格データが、係争における確実性と第2の柱の計算の予測可能性を支えていることを認識しています。グローバル・ミニマム課税とCbCRの開示が義務付けられる税制環境への移行により、企業は税務当局からの係争関連の要請や第2の柱の計算の急増に対応するために、社内データを標準化せざるを得なくなります。
グローバル企業についても、EUおよびオーストラリアではCbCRの開⽰が義務化されたことにより、新たな税の透明性の時代に向けて準備を進めています。CbCRの開示は税の透明性を向上しますが、外部ユーザーが誤解するリスクも高めます。
また、新たな開示要件によって影響を受ける企業には新たな検討事項が生じます。主な懸念事項の1つは、CbCR公開情報について、それと相違のあるCbCR非公開情報や、税務戦略、サステナビリティ、統合報告書における税務開示情報と調整する必要があることです。EYの移転価格動向調査によると、96%の企業が、報告書の開示の準備には「ある程度」または「多大な」追加作業が必要であると回答しています。2024年10月に発表されたEYのTFO調査によると、CbCRの開示が情報テクノロジーシステムに新たな負担を生み出しています。CbCRに対応するために、約34%の企業が、ソースシステムのデータに「大幅」な調整が必要だと回答しており、また、47%が「中程度」の調整が必要だと回答しています。
自主的な開示
一部の国・地域で開示の義務化が迫っている中、EYのTFO調査では、回答者の約56%が、企業が世界全体で支払っている税金の総額について自主的に開示する予定であると回答しており、2023年の38%から増加しています。