AIエージェント時代に求められる統制と実行基盤とは――ハイパーオートメーションとERPの新たな考慮点

AIエージェント時代に求められる統制と実行基盤とは――ハイパーオートメーションとERPの新たな考慮点


AIエージェント時代における業務設計とリスク管理に向けて、企業がどのように自動化とシステムの役割を再設計すべきかを明らかにします。


共同執筆者

テクノロジーコンサルティング/インテリジェンスユニット マネージャー
柏木 成美

※所属・役職は記事公開当時のものです。



要点

  • AIエージェントは、「業務の入り口」を変え、業務の実行形態を「対話型」へ移行させる。 
  • 基幹システム(ERP/SaaS)が単純に置き換えられることはなく、「統制基盤」としてその重要性が増す。 
  • ハイパーオートメーションは、AIエージェントだけでは不完全な統制機能を補完する。

はじめに

生成AIの進化に伴い、AIエージェントが業務システムの新たな利用形態として注目されています。従来の業務自動化は、RPAやワークフロー、システム連携基盤などを組み合わせたハイパーオートメーションによって発展してきました。近年はこれらにAIが組み込まれ、業務判断や複数システムの操作をAIエージェントが担うケースが増えています。

一方で、AIエージェントの普及は既存システムの役割を不要にするものではありません。むしろ、ERPをはじめとする基幹システムが担ってきたデータ管理、権限制御、承認プロセス、監査証跡といった機能は、AIエージェントが安全かつ適切に業務を遂行するための基盤としての重要性が高まっていると考えられます。

本稿では、技術開発が進むAIエージェントと従来の自動化手法との違いを整理した上で、SaaSアプリケーションやERPとの関係性を考察します。また、実運用で顕在化しつつある課題とその対応策を提示し、AIエージェント時代に求められる業務プロセス管理の方向性を示します。

第1章 従来の自動化とAIエージェントの違い

業務自動化の代表例であるRPAは、あらかじめ定義された手順に従って処理を実行する仕組みです。対象業務や分岐条件が明確な場合に高い効果を発揮します。また、ハイパーオートメーションでは、RPAに加えてワークフロー、プロセスマイニング、意思決定支援、システム連携などを組み合わせ、業務プロセス全体の最適化を目指します。

さらに、複数のSaaSアプリケーションを利用する環境などでは、複数アプリケーションの利用を支援する仕組みとしてDAP(Digital Adoption Platform)が活用されるようになりました。DAPは、ユーザーに画面上の操作手順や入力方法を案内し、操作負荷を軽減することができます。

これらに対し、AIエージェントは「手順を実行する」のではなく、「目標を達成するために手順を組み立てる」特徴があります。ユーザーが自然言語で指示を与えると、AIエージェントは必要なツールやAPIを選択しながら複数ステップの処理を進めます。ただし、AIエージェントがすべて自律的に動作し、一連の業務フローが完結するわけではありません。実際の業務では、利用可能なツール、権限、業務ルール、承認プロセスなどの制約の中で動作します。

つまり、従来の自動化が「定義された手順の自動実行」であるのに対し、AIエージェントは定義された制約の中で、「目標達成のための手順を動的に構成する実行主体」と捉えることができます。

第2章 AIエージェントはSaaSやERPをどう変えるのか

AIエージェントの普及によって最も大きく変わるのは、ユーザーとシステムの接点です。従来はユーザーが各SaaSアプリケーションや業務システムに個別にアクセスし、画面操作を通じて業務を実行していました。しかしAIエージェント環境では、ユーザーは対話形式で依頼をかけ、実際の処理はエージェントが複数システムを横断して実行することが可能になります。

例えば、

  • CRMへの顧客情報登録 
  • ERPへの受注登録 
  • 問い合わせ管理システムへのチケット起票 

といった処理を、ユーザーは個別の画面を操作することなく実行できるようになります。

図1:従来およびAIエージェント導入後の業務イメージ

図1:従来およびAIエージェント導入後の業務イメージ

一方で、業務システムが担う役割そのものがなくなるわけではありません。依然として、

  • データ管理 
  • トランザクション処理 
  • 権限制御 
  • 承認ワークフロー 
  • 監査ログ 

といった機能は各システム側が担います。

つまり、AIエージェントは既存システムを置き換えるというよりも、「業務の入り口」を変える技術と考えるべきでしょう。今後の重要な論点は、ユーザーとの接点をAIエージェントが担い、業務統制やデータ管理をERPやSaaSが担うという役割分担をどのように設計するかにあると言えます。

第3章 AIエージェントの運用で顕在化する課題とは

AIエージェントの実運用が始まるにつれ、従来の自動化では大きくならなかった課題も顕在化しつつあります。

主な課題として、以下が挙げられます。

  • 権限を越えた更新・削除処理の実行 
  • 判断基準が曖昧なまま行われる業務判断 
  • 実行内容や判断根拠の追跡困難性 

これらは単なるAIモデルの性能の問題ではなく、業務統制やシステム設計の問題として捉えるべきです。

こうした課題は、実運用時のインシデントや、実証実験の過程で明らかになっており、以下のような事例が報告されています。

ケース1:削除系操作に対する確認と権限制御

米国のSaaS事業者Pocket Autosでは、AIコーディング支援ツールを使用していた際、AIエージェントが権限制御不十分なAPIを実行してしまった結果、十分な確認を取ることなしに、本番データベースとバックアップのデータがおよそ数秒間のうちに削除されたインシデントが報告されています(2026年4月)1。ここで注視すべきなのは、破壊的操作に対する承認手順、権限分離、バックアップ運用、停止条件の設計が不可欠であるという点です。

ケース2:価格判断や対人応答を含む業務における制約の設計

Anthropic社が実施した実証実験「Project Vend」では、在庫、価格、顧客対応を含む小規模店舗運営をAIエージェントに任せた場合、限界があることが報告されています(2025年6月)2。このプロジェクトでは、価格上限・下限、例外的な値引き条件、対人応答のルール、収益性評価の基準などを明示しないと、対話能力だけでは安定した業務運用に結び付かないことが検証されました。

これらの事例が示すように、AIエージェントの実運用では、権限制御、確認手順、記録、例外処理、復旧方法といった統制が不十分な場合、重大リスクにつながることが現実的になっています。したがって、AIエージェントの導入検討時には、機能面の検証に加えて、一定のリスクを前提にどのような統制と対応策を組み込むかを、業務単位で設計することが重要です。そこで、以下のようにAIエージェントが稼働する前後で、統制を取るためのプロセスを設計することが推奨されます。

1)事前統制:実行前に処理範囲と停止条件を設計する

AIエージェントが利用できるツール、実行できる操作、対象データ、承認が必要な処理を明確に定めます。特に、更新・削除・送信・承認など影響の大きい処理では、誰の権限で実行するのか、どの条件で停止するのか、失敗時にどのように戻すのかを設計しておく必要があります。また、例外ケースで自動継続させるのか、人へ引き渡すのかといった責任分界点も事前に定義しておくことが重要です。

2)事後統制:実行内容を記録し、事後に確認可能にする

AIエージェントがいつ、どの指示に基づき、どのツールを使い、どのデータに対して何を実行したかを追跡できることが重要です。そのためには、プロンプトや入力値だけでなく、実行された操作、参照したデータ、判断理由、結果、エラー内容を記録する仕組みが求められます。これにより、誤作動時の原因分析、監査対応、再実行判断、継続改善が可能になります。

これらの対応策は、AIエージェントが複数システムをまたいで処理を行う場合に特に重要です。実際の運用では、通常処理は自動化し、高リスクを伴う処理や判断が分かれるケースでは、人の承認や確認を挟む「Human-in-the-loop」を組み込むことが、有効な補完策となり得ます。こうした統制の観点を踏まえ、統制設計を前提とした業務プロセスの再設計を行うことが、安定したAIエージェント運用の前提条件となると考えられます。

図2:AIエージェント運用上の課題と対応策

図2:AIエージェント運用上の課題と対応策

第4章 AIエージェントとハイパーオートメーションの融合が、安全性を高める

急速に進化するAIエージェント技術において、単に対話インターフェースを高度化するのではなく、業務実行を支える制御機構そのものが強化される傾向が見られます。また、AIエージェントの登場によって、ハイパーオートメーションが不要になるわけではありません。むしろ、AIエージェントを安全に運用するためには、

  • 業務フローの明示化 
  • 承認ルートの定義 
  • 例外処理の設計 
  • システム連携の管理 

といった従来のハイパーオートメーションの考え方が引き継がれることが重要です。

AIエージェントは、自然言語入力から意図を解釈し、状況に応じて手順を動的に構成し、複数ツールを選択しながら処理を進めます。この点は、あらかじめ手順を固定する従来型の自動化とは性質が異なります。

AIエージェント時代の業務基盤では、単にAIモデルの性能向上だけでなく、業務実行を統制する仕組みが重要になります。AIエージェントは状況に応じて処理手順を動的に生成するため、取り入れるべき新たな仕組みとして、以下の4つが挙げられます。

表1:AIエージェントを活用する業務基盤に必要な仕組み

仕組み内容
文脈管理顧客、案件、製品、担当者などの関係性を維持しながら業務を実行する。知識グラフ、共通メモリなどを用いて、エージェントが参照する情報の意味的なつながりを保つよう設計する。
ガードレール許可された権限や業務ルールの範囲内でAIエージェントを稼働させる。モデル単体の性能とは別に、実行時に制御すべき閾値(しきいち)を事前に設定する。
可観測性エージェントの判断や実行内容を追跡し、分析する。単発の応答品質ではなく、複数ステップにわたる処理全体の成功率、失敗時の原因、コスト、遅延を継続的に評価する。
Human-in-the-loopリスクを伴う更新処理、対外的な責任、例外判断などは、人による確認・承認ステップを組み込む。

上記を実装することで、AIエージェントは単なる対話ツールではなく、統制された業務実行主体として活用できるようになります。特に、AIエージェントにすべてを任せるのではなく、自動化と人の判断をどのように組み合わせるかが、新たな業務基盤設計の要点となります。

今後の方向性は、「ハイパーオートメーションかAIエージェントか」という二者択一ではなく、ハイパーオートメーションを業務フローや承認経路を明示する統制基盤として活用し、その上に対話能力を持つAIエージェントを組み合わせていくことが現実的なアプローチになると考えられます。

第5章 AIエージェント基盤に見られる設計パターン

現在、登場しているAIエージェント関連のプラットフォームを見ると、実装方法には違いがあるものの、いくつかの共通した設計パターンが見られます。

まず、顧客、案件、製品、担当者などの関係性を統合的に管理する共通データ層が整備され始めています。単なるデータ連携ではなく、情報同士の関係性を保持することで、エージェントが文脈を踏まえた検索、判断、更新を行えるようにするアプローチが広がっています。

また、ガードレールや可観測性を備えた実行制御の機能も強化されています。入力・出力・ツール利用を制御し、実行内容や判断過程を追跡可能にすることで、業務運用に必要な統制を確保しようとする動きが見られます。

さらに、既存の業務システムや権限体系と連携したエージェントの実行基盤がリリースされています。メール、文書、業務データ、ワークフローなどへのアクセスを既存の権限制御と結び付けながら提供することで、統制された環境でエージェントを運用する考え方が広がっています。

これらに共通するのは、AIエージェントを単なる対話機能ではなく、文脈管理、接続性、実行制御、可観測性を備えた業務実行基盤として位置付けている点です。今後のAIエージェント基盤の競争軸は、対話性能そのものではなく、こうした業務基盤としての成熟度に移っていくことが考えられます。


  1. ”'Rogue' AI agent went haywire at tech company. The CEO is still 'bullish' on the technology,” abcNews, abcnews.com/GMA/News/rogue-ai-agent-haywire-tech-company-ceo-bullish/story?id=132473181(2026年6月30日アクセス)
  2. ”Project Vend: Can Claude run a small shop? (And why does that matter?),” Anthropic, anthropic.com/research/project-vend-1(2026年6月30日アクセス)




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サマリー 

AIエージェントは業務の入り口と実行方法を大きく変える一方で、業務基盤そのものを代替することはできません。今後は、ERPやハイパーオートメーションを活用した統制と実行基盤の再設計が、企業競争力を向上させ、リスクを低減する鍵となるでしょう。



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