「シニア人材活用」の進化形──先進事例が物語る企業風土とマインドの重要性

「シニア人材活用」の進化形──先進事例が物語る企業風土とマインドの重要性


サントリー65歳定年制に学ぶ、生涯現役時代のシニア人材活用(2026年7月6日開催)

近い将来の「70歳就業確保」の義務化も視野に入れ、多くの企業で今、「シニア人材活用」への取り組みが加速しつつあります。

育成・配置・処遇など、人事機能を横断した検討が求められる難度の高い課題に対し、どのようにして有効な打ち手を講じるべきか。「65歳定年制」の早期導入で先鞭(せんべん)を付けたサントリーホールディングス株式会社(以下、サントリー)などの先進事例を参考に、シニア人材活用の課題と方向性について考えます。


要点

  • 多くの企業で「60歳定年+5年再雇用」が定着する中、「65歳定年」「70歳就業確保」の到来に向け、シニア人材活用のための変革が動き始めている。
  • 「65歳定年」で10年以上の経験を積んだサントリーの事例では、「キャリアオーナーシップ」「生涯 イチチャレンジャー」を軸にさらなる改革が進んでいる。
  • シニア人材活用の課題と施策は企業ごとに異なる。先進企業やEYの支援事例からも、要因分析とともに企業カルチャー醸成にも努める取り組みが、生涯現役時代の競争力を左右することがわかる。


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70歳定年時代へ向けて変容する「少子高齢化」日本の状況

少子高齢化に伴い、企業雇用者の引退年齢も後ろ倒しの傾向にありますが、多くの企業における標準形は「60歳定年+5年再雇用」のまま。今後のシニア人材活用に向けた定年制度の形は模索段階にあります。


およそ「20年ごとに5歳」のペースで上がる引退年齢

企業におけるシニア人材活用のあり方について、先行事例を交えて学ぶ今回のセミナー。ファシリテーターを務めたEYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ピープル・コンサルティングの川本文人はオープニングでまず、「日本における少子高齢化、シニア人材活用の概況」からセッションを始めました。

 

日本の総人口は2010年頃を境に減少傾向に転じる一方、65歳以上の高齢者および75歳以上の後期高齢者は逆に増加傾向にあります。

 

「この間、企業で働く人々の引退年齢も後ろ倒しが進み、およそ20年ごとに5歳のペースで上がっています。直近では2000年に努力義務とされた65歳までの雇用確保が、2025年に完全義務化されました。70歳までの就業確保はすでに2021年に努力義務化され、将来は義務化に至るものと予測されています」(川本)

引退年齢も、「20年ごとに5歳」のペースで後ろ倒し

現況では、「60歳定年+5年再雇用」としているのが大方の企業に見られる標準形。再雇用時の処遇については、定年前と業務内容が変わらない場合でも、3〜4割の年収減が一般的です。

「こうした流れを踏まえると、65歳定年は早晩どの企業にも訪れる現実と思われますが、これをいち早く2013年に導入し、シニア人材活用を実践されてきたのがサントリーです」。川本は、そこに今後多くの企業が取り組むことの先例があるとして、次の事例紹介セッションへと話をつなぎました。


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サントリー事例に学ぶ「キャリアオーナーシップ」に基づくシニア人材活用

2013年にいち早く「65歳定年制」を取り入れたサントリーでは、約1万人の国内人材を対象にシニア人材活用の多彩な取り組みを実践。「キャリアオーナーシップ」「生涯 イチチャレンジャー」を旗印に、成果を上げています。


生涯プレーヤーとして自ら選択したキャリアで成長を続ける制度

シニア人材活用の取り組み事例を紹介したのは、サントリーホールディングス株式会社 人財戦略本部 キャリア推進センター長の藤巻恒氏です。サントリーの人材マネジメントの土台となっているのが、「人」を大切にする風土であり、「やってみなはれ」に象徴されるチャレンジスピリットだといいます。その基本には「すべての社員の活躍」があるとして、藤巻氏は次のように述べました。

「大きく二つの考え方が全員活躍を支えています。一つは、自身のキャリアを自ら考え続ける『キャリアオーナーシップ』。自分が決めた将来像の実現に向けて努力を続けることで、仕事人生を充実したものにしていただきます。もう一つは、『生涯 イチチャレンジャー』。ビジネスパーソンの基本はプレーヤー(実務者)であると認識し、実務を担う人間として年齢を問わずに学び続け、成長し続けることが期待されています」(藤巻氏)

「すべての社員の活躍」 の考え方
サントリーホールディングス株式会社 講演資料より

こうした考え方を反映し、シニア人材活用のあり方にもここ20年余りで変化が訪れました。サントリーでも2012年までは「60歳定年+5年再雇用」の制度を敷き、ポストオフ(役職定年)後は後進育成や技術伝承を担うことが役割だったといいます。しかし、当該社員の意欲の高さと高齢者雇用の社会的責任に鑑み、2013年に他社に先駆け「65歳定年制」を導入。60歳以上をエキスパート職と位置づけました。そのうえで、10年後の2024年には「生涯 イチチャレンジャー」の思想にのっとり、さらに早い段階からプレーヤーとして自己実現を果たせるよう、ポストオフ後は全員が「EX(エキスパート)等級」となる仕組みへとシフトしました。

「これは役職定年前の職位に関わらず、すべての人が実務で成果を上げることにこだわるための制度です。そこで大事なポイントとなるのが、キャリアオーナーシップの考え方です。人生100年時代の働き方として、これまでのように組織から与えられたキャリアを歩むのではなく、自分自身の価値観や強みを軸に『ありたい姿』に向けて学び続け、挑戦を続ける人材を支援する方針を打ち出しました」(藤巻氏)


シニア人材が自身の価値観に立ち、多様なキャリアを選択できる環境づくり

活躍するシニア人材を支えるため、サントリーでは「内的キャリア」「外的キャリア」の2方向から支援策を実施しています。内的キャリアとは、自己効力感や他者受容感、やりがい、働きがいといった外からは見えないもの。外的キャリアは、部署・経歴・役職等の外から見えるものを指します。これらを醸成するため、全員受講の「キャリアワークショップ」や「キャリアビジョン準備セミナー」を実施。加えて、すべての営業所に人事担当者が出向いて面談やセミナーを行う「キャリアオーナーシップキャラバン」を展開しています。

そのうえで、多様なキャリアの歩み方を本人が主体的に選択できるよう、社内外それぞれに活躍の場を求められる仕組みを整えました。ポストオフの3年前の時点から自身の方向性を考える機会を提供し、自ら社内・社外を選択する意思表示の場を設けています。社内を選択した場合は「EX等級」として活躍、社外の場合は他社に出向するなどして価値を発揮する、という流れです。

社外を選択する場合、マネジメント経験や専門性のある人が、人材不足に悩む中小企業に活躍の場を求め、オファーを受けて転籍する事例もあり、また反対にサントリーへの帰任を希望して戻るケースもあります。

サントリーホールディングス株式会社 人財戦略本部 キャリア推進センター長 藤巻 恒 氏
サントリーホールディングス株式会社 人財戦略本部 キャリア推進センター長 藤巻 恒 氏

多彩なサポート制度でシニア人材活用を促進

では、具体的にどのようなシニア人材の活躍シーンがあるのでしょうか。藤巻氏は、以下の3パターンに分けて事例を紹介しました。

  1. グループ内における貢献
  2. グループにとどまらない社会への貢献
  3. 早期の意識啓発、学びの機会提供
     

1. グループ内における貢献

シニア人材活用の具体例として、若手や管理職の相談役となる「TOO(となりの・おせっかい・おじさん・おばさん)」制度や、経験を生かして現場を支援する「GP(グローイングパートナー)」制度を展開。世代を超えた組織運営や実務支援に活用されています。

2. グループにとどまらない社会への貢献

「生涯 イチチャレンジャー」の一環として自治体や民間企業に出向する機会も設けています。自治体出向では内閣府の「地方創生人材支援制度」などを利用。行政業務に「攻め」の仕事運びを持ち込むことで、ふるさと納税による税収額拡大に大きく貢献した事例もあります。また、民間企業への出向では、PDCAなど各種マネジメント手法の導入により、中小企業の経営強化に力を発揮しています。

3. 早期の意識啓発、学びの機会提供

全社員を対象に20代から50代の各段階で「キャリアワークショップ/キャリア面談」を実施。入社3年次・10年次・43歳・46〜53歳・58歳の時点において、一人ひとりが「ありたい姿」を描き、それに向けて「すべきこと」を意識できるよう啓発しています。また、グループ横断の人材育成プログラム「サントリー大学」内に「100年キャリア学部」を新設し、40歳以上を主な対象に、マインドセットやスキルセットを更新できるプログラムを提供しています。


「自己決定」によって自ら生き方を選び取ることが重要

以上を踏まえ、セミナーは藤巻氏と川本による対話セッションへ。「65歳定年制導入によって生じた課題」や「シニア人材にあえて実務者としての役割を求める理由」について問われた藤巻氏は、次のように答えて事例紹介を終えました。

「組織の視点から見た課題は、先輩であるシニアに過度な遠慮をしてしまう風潮をいかに払拭するか。そのような空気があると、意欲に満ちたシニアの『火』が消えてしまうからです。TOOやGPのような仕組みで、常に役割を設けることを意識しています。また、個人の視点で言えば、肩書きなどの外的キャリアにとらわれがちな感覚から、自分自身の価値観や、そこから生じる『あるべき自分』へいかにして目を向けるか。シニア人材がそうした気づきを自ら得られるような仕掛けが必要です」(藤巻氏)

「実務者としての貢献についても、大事なことは自己決定です。自身の価値観に照らしてみて、どうしてもマネジメントを追求したいと考えるなら、社外に出て管理職に就く生き方もあり得ます。もちろん、その経験を経てプレーヤーに戻る道もある。要は、組織として多様なキャリアの選択肢を提供することが重要なのだと思います」(藤巻氏)

左から川本 文人、藤巻 恒 氏

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企業事例から考える「生涯現役時代」におけるシニア人材活用の方向性

シニア人材活用に取り組む企業へのEYの支援事例から、課題の種類と要因により「活躍人材」をつくり出す施策はさまざまに異なること、また企業カルチャーの醸成がその下地となることがわかりました。


「能力」と「意欲」を軸に考える、活躍するシニア人材像とは

最後のセッションでは、EYの支援事例をもとに、シニア人材活用の方向性と今後の展開について考察しました。事例紹介に先立ち川本は、「能力」と「意欲」を両軸に、50歳以上のシニア人材を4タイプに分類する考え方を紹介。能力・意欲ともに十分な「活躍人材」をロールモデルとして、能力はあっても意欲の足りない「疲れた職人」と、その逆の「アンマッチ」、どちらも不十分な「ぶら下がり人材」をいかにして「活躍人材」へと引き上げるかが大きな課題となる、と述べました。

内部の人員状況可視化では、雇用形態を問わない50歳以上の社員を「シニア人材」と定義。 各種人事データを活用し、「意欲」と「能力」を基に4つのタイプに分類

対策としては、役職定年や評価制度の再検討といったハード面(仕組みの見直し)および、マインドセットやリスキリングを含むソフト面(意識・スキルの変革)の両面からのアプローチに加え、「ぶら下がり人材」を社外へ出す“代謝”も合わせて検討することで、講じる打ち手がさまざまに変わることを示唆しました。紹介した支援事例は以下の2件です。

商社A社の事例

独自のカルチャーを重視する風土から、外部人材の採用には一定のリスクを抱えるA社。全体の4割を占め、今後も比率が高まる傾向にある50歳以上のシニア人材を実務の中核として活用していく必要性が高まっていました。

しかし、能力と意欲の両面から見ると、「活躍人材」は全体の3分の1程度。5割弱のシニア人材は能力を十分に発揮できておらず、4割弱が仕事への意欲が低い状態にあることが明らかになりました。

意欲低下の背景には、「年齢による一律の役職退任」「再雇用時の一律の報酬減」「再雇用者への評価・フィードバックの不十分さ」といったハード面での課題がありました。一方で能力発揮を妨げる要因としては、「上司・同僚とのコミュニケーション不足」「活躍機会の不足」「キャリア開発マインド不足」などのソフト面の要因が挙げられました。これらに対して、A社では以下のような施策を講じました。

  1. 再雇用制度の見直し:定年前の等級によらず、役割の大きさで処遇を設定
  2. 組織向けマインドセット変革:対シニア人材・組織全体のコミュニケーション活性化
  3. シニア人材向けポジション拡充:シニアに対するジョブマッチング精度の向上
  4. 本人向けマインドセット変革:キャリアプランセミナーの拡充
  5. 社外転出支援:転職支援プログラム、パフォーマンスが期待に満たない人材への改善プログラムを実施

建設業B社の事例

深刻な人手不足に直面し、人材獲得競争が激化する建設業界においては、既存人材の長期的な活躍が重要課題となっています。B社でもすでに65歳定年・70歳までの再雇用を実施しているものの、堅調な建設ニーズに応えるためには現場人材の確保が急務であり、戦力としてのシニア人材活用が不可欠でした。

シニア人材の活躍状況としては、能力を発揮できないシニア人材が4割に上る一方で、9割以上のシニア人材に意欲が見られ、「活躍人材」は約6割。ただし、ポストオフ後や65歳以上の再雇用者には、意欲が低下している傾向も見られました。

能力発揮を妨げる大きな要因は、「シニア人材に対する成長機会の不足」。特に対策を要する役職退任者、再雇用者では、「役割・目標設定の不明瞭さ」「再雇用時の一律の報酬減」「再雇用者に対する評価運用の不徹底」などが要因と見られます。これらを踏まえ、B社に対しては以下の施策を検討しました。

  1. 評価制度の見直し:ポストオフ後も、技能伝承やマネジメント支援への貢献を目標として設定できるよう見直し
  2. 再雇用制度の見直し:再雇用者に対する役割等級制度の導入
  3. リスキリングの実施:選択型研修の拡充、社外講座受講支援の導入
  4. 社外転出支援:能力開発支援

以上を踏まえて川本は、「どちらの事例もシニア人材活用の必要性では一致しているが、その活躍度に応じて有効な打ち手は変わるため、分析結果を踏まえた施策の検討が必要」と指摘しました。

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シニア人材活用の成否を左右する3つの企業カルチャー

次に川本は「今後の展望」について見解を提示。2030年代前半に予想される70歳就業確保の義務化に向けて、「60歳定年+5年再雇用」の企業が取り得る選択肢は複数ある中で、総合的なバランスを考慮すれば「65歳定年+5年再雇用」が現実的との見方を示しました。

一方、ソフト面では「カルチャー醸成」の重要性を指摘。以下の3つを整えることが今後のCHRO(最高人事責任者)/人事部長の主たる役割になると解説しました。

ラーニングカルチャー

継続的な学習習慣は、社員が長く活躍し続けるための必須要素です。働く期間が長くなるほど、知識・スキルが生かされる場面も変わってくるため、学ぶ姿勢そのものを評価するカルチャーが重要です。

パフォーマンスカルチャー

シニア人材活用が適切に機能しなければ、「ぶら下がり人材」が滞留する可能性があります。今後は雇用形態や年齢によらず、役割の大きさとその達成度合いを軸に公正に評価・処遇する文化醸成が求められます。

インクルーシブカルチャー

育児・介護・健康などの生活状況に加え、能力や意欲、年齢等の多様性を受容し、それぞれの「違い」を生かすカルチャーが、労働力確保やイノベーション推進の重要な基盤となり、組織の活力を高めます。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ピープル・コンサルティング アソシエートパートナー 川本 文人
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ピープル・コンサルティング アソシエートパートナー 川本 文人

このような環境で活躍するシニアとはどのような人材なのか。川本からの最後の問いに対し、藤巻氏は「内的キャリア、すなわち自分自身の価値観や働きがいを、自らの言葉で語ることのできる人だと思います」と答え、セッションを締めくくりました。


サマリー 

シニア人材が長期にわたり意欲と能力を発揮し、活躍できる環境を整えることは、多くの企業にとって重要な経営課題となっています。シニア人材活用に向けた有効策は、各企業の年齢構成やシニア人材の活躍状況、課題の要因によって大きく異なります。先進企業や支援事例から得られる示唆も踏まえ、自社の事情に即した制度設計とカルチャー醸成を進めることが重要です。


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サントリー65歳定年制に学ぶ、生涯現役時代のシニア人材活用 | EY Japan
(配信期間:2027年7月5日まで)


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少子高齢化に伴い、最重要社会課題の1つとなっている「シニア人材活用」。多くの企業に先駆けて2013年に65歳定年制を導入したサントリーホールディングスの取り組みから、現在のシニア人材活用における課題とその解決法を考察します。また、将来的な70歳就業確保義務化を見据えた今後の活用の方向性を、EYにおける支援事例を交えながら、展望します。

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