EYメガトレンド

移住インフラが次なる競争優位となり得る理由


人口動態、テクノロジー、気候変動が複雑に絡まり合う中で、移住インフラ(外国人の受け入れ・共生の制度・基盤)は国家と経済のレジリエンスを左右する重要な基盤になりつつあります。


要点

  • 労働力不足が加速している。先進国における高齢化に加えて、住宅供給や資格・学歴等の認定、社会統合といった移住受け入れ体制が需要に追いついていない現状が重なっている。
  • 企業と政府には、移住システムをインフラと位置づけ、高速道路や電力網と同じ水準で社会統合の受け入れ能力を高めることが求められる。
  • 早期に取り組むことで、ビジネスリーダーや政策当局は人材を確保し成長を維持して、将来的に勝敗を決定づける「人口の崖(人口減少と高齢化がもたらす労働力不足の急激な深刻化)」を回避できる。


EY Japanの視点

外国人との共生に向けた体制の構築・見直しが、企業や地域社会において求められています

世界では経済的・地政学的要因や気候変動などの影響により、自国を離れ海外へ移り住むことを希望する人が多くいます。一方、少子高齢化で世界の先頭を行く日本は人材不足という課題に直面するなど、国や企業の競争力と地域社会を維持するために、外国人の受け入れの必要性が高まっています。しかし、選挙の争点となるなど、外国人を受け入れることに対して不安に感じる声も上がっています。
 
受け入れる日本企業や地域と、訪れる外国人の双方にとってウィン・ウィンとなるよう、円滑な外国人受け入れ体制の構築が急務であると考えられます。政府は2027年から新たに「育成就労」制度を導入するなどの取り組みを進めていますが、この問題は政府だけが対応すればよいわけではありません。各企業や地域社会においても、外国人との共生に向けた体制の構築・見直しが求められます。
EY Japanの窓口

本記事は、「EYメガトレンド」シリーズの最新版「New frontiers: The resources of tomorrow」でご紹介しているインサイトの一部です。 

移住を、政治的な争点ではなく経済インフラとして位置づける国や企業が、今後ますます優位に立つようになります。人口動態の逆風とAIによるディスラプション(破壊的変化)が重なる中、今後はグローバル人材を誘致・活用・定着させる能力が、組織の成長を大きく左右することになるでしょう。それが最も顕著に見られるのが、人工知能(AI)経済の基盤を構築している産業です。

2023年には、SamsungとTSMC両社が米国に構える数十億ドル規模の半導体工場の生産に遅れが生じました。その理由は、資金・技術・需要不足ではなく、熟練労働者を十分に確保できなかったことです1  。両社はその後、施設の整備を進めてきましたが、同様の労働力不足が現在ではテクノロジーインフラセクターの制約要因となっています。

アナリストの推計によると、2025年までにあと30万人の労働者が必要となり、世界全体のデータセンター運営者の58%が現在の欠員を埋められなくなります2。労働力へのアクセスがAIインフラの新たな「競争の最前線」となったのです。

しかしながら、こうした短期的な労働力不足は、全体像の一部にすぎません。テクノロジーは、より深い戦略的緊張ももたらしています。AIの発展に伴い、現在は労働者需要が加速しているものの、自動化とリモートワークによって、将来的にはその需要が減少方向に向かうからです。人口減少の補完を自動化に頼る日本・韓国・中国ではロボティクスが急速な進歩を続けています。リモートワークが世界的に定着し、週1日程度の頻度で行われるようになったことで、国境を超えた業務委託が可能となり、物理的な移住が不要になるケースも出てきています3。

人口減少の補完を自動化に頼る日本・韓国・中国ではロボティクスが急速な進歩を続けています。

そのため経営幹部は、グローバル人材パイプラインに今投資をするのか、それともAIとロボティクスによって人材需要が減少するのを待つのかという重要な決断を迫られています。しかし、これは二者択一の問題ではありません。自動化がどう進展するかにかかわらず、移住インフラは、労働力不足への一時的な対策の対象ではなく、競争優位性を生み出す恒久的な経済インフラであり、不透明な未来における選択肢を広げるものです。

自動化が浸透していくセクター・職種・スピードは誰にも分かりませんが、移住システムが成熟した国は、実態を踏まえた人材の流入が調整できるでしょう。自動化が加速した場合には、引き続き労働者の現場対応が必要なセクターの人員を維持しつつ受け入れ数を抑えればよく、自動化が期待外れに終わったり、計画より時間がかかったりした場合には、すでに構築した制度を活用して早急に受け入れを拡大すればよいのです。移住インフラが不足する国は、現在の恒久的な労働力不足か、将来多大なコストを要する危機対応システムの構築か、いずれかの制約に直面します。インフラは、依然として仕事の未来の予測がつかない中で柔軟性を維持するための備えなのです。

労働力不足に苦しむのはテクノロジーセクターだけではありません。世界保健機関(WHO)の予測によると、ヘルスケアセクターでは2020年代末までに医療従事者が世界全体で1,100万人不足する見通しです4。複数の国・地域で自動車整備士、農場の季節労働者、高齢者介護従事者の不足が報じられるようになり、ボトルネックが生じて、バリューチェーン全体に波及しています5。このように労働力不足はセクター固有の問題ではなく、構造的な問題となってきました。

同時に、世界規模での移動を求める圧力も高まり続けています。出生国以外で暮らす人は現在、3億400万人です。紛争・迫害・環境災害で避難を余儀なくされた人も1億2,300万人に上ります6。サハラ以南のアフリカでは労働年齢人口が2024年の8億8,300万人から急増して2050年までに16億人に達する見込みです。これは、世界の労働年齢人口全体の4分の1近くにあたります7。

供給はあるものの、需要が圧倒的に大きいのです。しかも、需要と供給を結ぶ制度に大きな負担がかかり、壊れつつあります。

こうした数字の裏には、何百万人もの人々による個々の意思決定が存在します。例えば、ビザ取得に要する期間と、家族と離れて暮らすことの影響を思い悩むケニア人の看護師。年老いた両親が暮らす母国を何年も離れるのに、見合う金額を仕送りできるかどうか計算する必要があったエルサルバドル人の建設作業員。教師の資格が移住先でも通用するか、それとも皿洗いの仕事をして再スタートを切るかを考える必要があるシリア人の教師。

これらは独立した個別の問題ではありません。人口動態、テクノロジー、地政学、サステナビリティといった要素が相まって、移住インフラは、将来の競争優位を決定付ける重要な要素になっているのです。AIと先進製造業の拡大で専門的なスキルの需要が急激に高まる中、高齢化が進む国・地域では労働力が減少しています。一方、地政学的緊張の高まりで合法的な移住の手段が狭まる中、出生率が高く、平均年齢が低い地域では気候変動による避難者の増加が加速しています。サステナビリティ対応を求める圧力を受け、水、エネルギー、住宅供給システムに負担をかけずに、急激な人口増加を吸収できる地域が少なくなりました。テクノロジーが国内の人口動態では埋めることのできない労働力不足を生み出し、気候変動が移住圧力を生み、地政学が移住を規制し、サステナビリティ対応に伴う制約によって避難者の定住先が決まるなど、各要素が互いに影響を及ぼしながら増幅し合っているのです。

こうした傾向を象徴するのが、「NAVIワールド」と呼ばれる環境です。NAVIとは、変化が非線形に広がり、加速し、不安定化し、相互に連鎖する世界を指します。そこでは、1つの事象が甚大な連鎖的波及を生み(Nonlinear)、変化が年単位ではなく月・週単位で進行し(Accelerated)、予想外の変化が常態化します(Volatile)。さらに、ある事象の影響が下流に連鎖し、想定外の結果をもたらすことも少なくありません(Interconnected)。このNAVIの影響が移住インフラを不可欠な存在にしています。受け身の政策は永続的な危機をもたらすのに対して、先を見越したインフラはレジリエンスを生むのです。

2030年代から2040年代にかけて人口動態の変化が高まる見通しであることから、適切な移住者受け入れ体制を確立していない国は今後、恒久的に競争上不利な立場に立たされることになるでしょう。


移住を新たな視点で捉える

もし移住を、高速道路や電力網、学校教育と同様に、運用面の規律、長期的な計画、多様なステークホルダーの連携をもって捉えるとしたらどうでしょうか?

ビザ申請処理、資格・学歴等の認定、住宅供給、社会統合の仕組みといった移住インフラの整備状況によって、その国が人口動態の変化を経済的な強みに変えられるかどうかが決まります。このインフラを構築するには、官民と市民社会が一致協力して行動することが不可欠です。社会がどのように新規移住者を受け入れ、また、新規移住者が活躍するためには、それぞれが独自の役割を担っており、いずれも単独で成功を収めることはできません。

多くの企業は移住問題を政府の政策と位置づけ、ビザの制限で人材計画に支障が生じたときだけ重視するという、従来の姿勢を維持しています。一方、インフラからの考え方では移住を人材戦略と位置づけ、独自のパイプラインの構築、住宅供給能力への投資、移住消費者向けの設計を行います。米国のテクノロジー企業をはじめとした一部セクターは、こうした関係を以前から把握し、熟練労働者の移住手段の拡充を積極的に主張してきました。

政府に関しては、主に政治サイクルと政権を誰が握っているかに応じて、規制と自由化の間を揺れ動くのが従来のアプローチです。歴史的に見ても、英国による1950年代のカリブ海諸国での移民募集、ドイツの「ガストアルバイター」プログラム、UAEの建設労働者プログラムなど、各国政府は労働力需要に応じて移民政策を柔軟に変えてきました。一方、こうしたプログラムはセクター固有かつ期間限定の対応であり、往々にして、社会統合は任意あるいは一時的なものとして扱われていました。インフラのアプローチでは、交通当局が予測交通量を基に高速道路容量を計画するのと同様に、何年も前から能力構築の計画を立て、住宅供給・資格認定制度や社会統合サービスの整備状況を確認し、それに合わせて移民受け入れ目標を設定します。

市民社会においては、危機への対応は、変動のある助成金を原資とする人道支援を介して行うのが従来のモデルです。インフラモデルでは、市民社会組織を、語学研修、資格認定の案内、文化的統合に必要な資金を継続的に調達する、移住者とそれを受け入れる地域社会との重要な架け橋と位置づけます。

問題は人が移動するかどうかではなく、どこに移動するか、そして移住者を受け入れる体制が整っているかどうかです。

ランサローテ島ラ・ヘリアのブドウ畑(スペイン・カナリア諸島)
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第1章

集団移住(マスマイグレーション)

人口動態、地政学、気候変動、テクノロジーの相互作用によって、移住は今後10年間の労働市場において重要な構成要素になっていきます。

これら4つのグローバルな要素は労働市場の構造を変え、移住を人道問題や政治問題であるだけではなく、戦略的な経済要因にしつつあります。

 

現実を突きつけるデータ

集団移住が不可避となったきっかけは人口動態の変化です。2034年までに、アフリカでは15歳から24歳の若年層が2024年より1億3,800万人増えると予想されています8。この若年層が、移住の主たる対象グループとなり、世界の労働市場に入っていくのです。南アジアでは、年間1,800万人から2,000万人が労働年齢に達する一方、その3分の1から半数しか職を得ることができません9。その原因は構造的な雇用不足であり、今後数十年にわたり、国外への人口流出圧力が続くことになるでしょう。

 

一方、OECDの高齢者扶養率(労働年齢人口に対する65歳以上の人口の割合)は2060年までに52%に達し、イタリア、日本、ポーランド、韓国、スペインに至ってはこの数字が75%を超える見通しです10。Ernst & Young LLPのPrincipal, People Advisory Services Taxである Maureen Floodは指摘しています。「データによると、欧州では今後数十年間で、1.5人の労働者が1人の年金生活者を支えることになります。高齢者が定年退職後もパートタイムで働き続けたとしても、これは極めて大きな変化です。これだけでは若い人材と新たな考え方の必要性を実感できないとしても、数字は私たちに現実を突きつけているのです」

データによると、欧州では今後数十年間で、1.5人の労働者が1人の年金生活者を支えることになります。高齢者が定年退職後もパートタイムで働き続けたとしても、これは極めて大きな変化です。

米国は2030年までに人口動態の転換点を迎え、ベビーブーム世代全員が65歳を超えます11。


欧州連合(EU)では2024年に死亡者数が出生者数を上回り、人口増加分はすべて移住によるものでした12。移住に頼る傾向は今後強まる一方でしょう。ほとんどの先進国で移住は労働力を拡大させる唯一の源泉として、経済的メリットをもたらす存在から、経済的に不可欠な存在となりつつあります。2030年代にかけて人口減少が加速することになる中国も、移民なしには、自動化に大きく依存せざるを得なくなるでしょう13。

避難民に対する選択的規制

避難民が世界的に急増しています。2024年末までに避難を余儀なくされた人は世界全体で1億2,300万人に上り、過去15年間で200%増えています14。内訳は母国での紛争、迫害、暴力、人権侵害、治安悪化から逃れる難民、亡命希望者、国内避難民などでした。その71%の受け入れ先は低・中所得国です15。国際システムの変動性が高まっており、構造的な圧力により今後数十年にわたり、大量の避難民の発生が続くことになるでしょう。

亡命希望者と経済移民には別個の法的枠組みと政策的配慮が適用されますが、いずれも不安定な地政学的情勢と政策の変更に起因するケースが増え、また、労働市場とインフラ計画に影響を及ぼしてもいます。

一方、先進諸国では、より保護主義的な政策に移行した政府も多く、移住政策の分断が進んでいます16。特に米国では2025年9月に劇的な政策転換が行われました。トランプ大統領がH-1Bビザの申請に10万米ドルの手数料を課して、実質的にほとんどの雇用主をH-1Bビザ制度から締め出したのです17。その数カ月前には、より柔軟な制度運用を行うために、バイデン政権がH-1B近代化(modernization)に関する最終規則を発表したばかりでした。

こうした変動性が示すように、企業は予測が困難な状況での人材計画の策定を余儀なくされています。その大きな原因は多くの場合、経済のファンダメンタルズではなく、ポピュリスト的な世論です。急激な移民流入は、社会統合が遅れている場合には特に、反発や突然の政策転換を引き起こしかねません。EUでは、「2024 Pact on Migration and Asylum(2024年移民および亡命に関する協定)」案が僅差で可決されました。これは、亡命者を保護する責任を加盟国間でより均等に分担することを目的としたものです。ただし、協定施行の先行きは相変わらず不透明です。ポーランドが参加を拒否しているほか、他国への移送を主張する最前線にある国と、移民の受け入れを増やすのではなく、資金の拠出を望むその他の加盟国の間で意見に大きな隔たりがあるのです18。

こうした状況を受け、新たな傾向が生まれつつあります。人道的移民や低スキル職への就労を目的とした移住に対する管理を厳格化する一方、需要の高いスキルを持つ人や富裕層の移住を自由化するという受け入れ方です。ドイツでは市民権改革と就労ビザ申請手続きの迅速化に関する法案が可決され19、EUブルーカードの対象が拡大され20、湾岸協力理事会(GCC)諸国はプレミアムレジデンシー(プレミアム居住権)を導入しました21。スキルや富の有無で移住者の待遇が階層化されるようになり、今後は格差が広がる一方となるでしょう。

加速要因

気候変動に起因する移動のきっかけとなるのは、洪水、サイクロン、山火事など突発的に発生する災害と、海面上昇、砂漠化、度重なる干ばつなど緩慢に進行する変化の両方です。こうしたプロセスはすでに、移動のあり方を変えつつあり、今後はそのスピードが徐々に増していく可能性が高いと考えられます。突発的に発生する気候・気象災害で避難を余儀なくされた人は2016年の2,400万人22から2024年には過去最多の4,580万人に達しました23。気候変動の長期的影響は、移住パターンにも及んでおり、こうした傾向は長期的に続くことになるでしょう。世界銀行の予測によると、気候変動の影響で国内避難する人は2050年までに最大2億1,600万人に上る見通しです24。


その一方で、急成長している地域ほど、気候変動の影響を強く受けている地域であることから、国内のインフラ整備という課題ももたらしています。例えば、アフリカでは都市部の人口が2050年までに現在の倍近くの14億人に達し、3人に2人が都市部に住むことになる見込みです25。こうした都市は、インフラがすでにほぼフル稼働状態にある中で、増加する国内の気候変動避難者を受け入れなければならないという二重の圧力を受けると同時に、国外に向かう経済移民の出発地としての役割も担っています。こうした需要が重なり、脆弱な住宅供給・交通・雇用システムを圧迫しており、都市には、避難者・移住者のどちらもきちんと受け入れる能力がほとんど残されていません。

世界銀行が発表した適応資金ギャップ(adaptation finance gap)によると、現在の流入額は、年間1,870億米ドルから3,590億米ドルとされる必要額を1桁下回っています26。そのため、こうした都市部が今後、受け入れ能力の構築に苦慮するのは確実で、その結果、インフラ整備が進んだ国への移住圧力が高まることになりそうです。

相反する要素への対応

テクノロジーは急激な労働力需要の増加と、働き方の長期的かつ構造的な変化の両方をもたらし、移住の構造を世界的に変えつつあります。これらの圧力が同時に作用して、労働市場、そして政府の移住者受け入れを難しくする状況を生んでいるのです。

一方では、テクノロジーを活用する産業が、国内労働市場の供給が追いつかないほどの速さで拡大しています。AI・半導体・クリーンエネルギーブームで、専門スキルを持つ人材が求められますが、ほとんどの先進国では十分な規模で専門人材を育成できていません。米国だけでも、製造拡大計画の達成には2030年までに6万7,000人の半導体人材が必要で、不足分を自国の新卒者だけで補うことはできません27。また、クリーンエネルギーへの移行で雇用が2030年までに1,800万人分純増する可能性がありますが、その職務に就くのに必要な教育と訓練を受けた労働者を十分に確保できるのかは不透明です28。

その一方で、自動化とテクノロジーを活用したリモートワークにより、やがて特定の職務の需要が減っていく可能性があり、どの職種がどの程度のスピードで拡大または縮小するのかが不透明になっています。こうした長期的なシフトに、足元の労働力不足が重なり、経営者(雇用主)と政策当局が将来必要となる労働力の確保計画を立てることを難しくしているのです。

現時点で、「ビジネスニーズを満たす上で必要なグローバル人材を見つけるのは容易」と回答した経営者(雇用主)は全体の52%にとどまっています。供給不足はすでに顕在化していますが、インフラのプロジェクトを、自動化が成熟するまで10年間先送りすることはできません。

今後10年間で、移住労働者の需要はスキルとセクターによって二極化することになるでしょう。各国が引き続き中・高スキル労働者の争奪戦を繰り広げる一方、一部の低スキル移住労働者は自動化が進む分野で需要が減退するかもしれません29。ただ、中核インフラの構築、医療提供、複雑なサービスでは今後も労働者が現場で対面対応する必要があります30。リモート人材と現地に定住する人材、両方の手段を明確に確立する国は非常に大きな価値を得られるはずです。

構造調整

移住は、高所得地域の慢性的な労働力不足と、低所得地域で高まる都市化圧力をつなぐ、構造調整メカニズムです。この調整の成否は、受け入れ能力により決まります。つまり、インフラの整備状況で、その国が移住圧力を経済上の強みに変えられるかどうかが分かれるのです。

対称形でモダンなケーブルステイ橋
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第2章

制約要因となるインフラ整備状況

住宅供給不足、資格認定の障壁、政策の変更が、国・地域が切実に必要とする労働者を受け入れることを制度上妨げているのです。

あらゆるインフラと同様、移住の受け入れ能力の拡大にも、数年規模での計画的な投資、連携、取り組みが必要です。

例えば米国では、住宅開発において計画策定から入居まで平均で2年かかります31。資格・学歴等の認定の枠組みや認可・免許取得のファストトラック制度の構築には通常、協議と導入に数年が必要です。さらに、ケベック州とフランス間の看護師免許に関する協定においては、成立までに3年以上を要しました32。語学研修、ジョブマッチング、文化の橋渡しといった社会統合サービスも、効果的な規模拡大には数年かかります。社会統合を可能にする信頼と受容という社会的インフラについては、成熟するまでに何世代も要する可能性があります。

ボトルネックは需給面というよりも、受け入れインフラにあります。

こうした取り組みに即時に着手する国は、人口動態の変化に伴う人材ニーズがピークに達する今後20年間で、能力を大幅に拡充できるでしょう。

受け入れ能力の課題

物理インフラは、政策や労働力需要と同様、移住を阻む障壁となっています。移住の急増を抜きにしても、トロント、ドバイ、ロンドン、ベルリンなど主要な受け入れ側の都市は住宅の供給不足に悩まされているのです。都市インフラは急速な人口増加を前提として設計されておらず、また建設を今すぐ加速させなければ、インフラ拡充を迅速に推進することはできません。

カナダでは新設住宅1戸あたりの居住者数が、それまでの平均1.9人から2023年には5.1人に増加し33、オーストラリアでは2023年に移住者3.2人につき一戸、2024年には2.1人につき一戸の住宅を建設するのが限界の状況であり34、ドイツでは2030年までに250万戸以上の住居が新たに必要になると予測されています35。一方、建設期間は平均で18~24カ月に及ぶため、移住の急増と住宅供給能力の間のタイムラグが生じています。

人々はこうした数字を踏まえて選択を行い、一部屋に4人が寝る家族もあれば、住まいが見つからず、賃金がすべて家賃に消えてしまい、社会統合の余地もないため、移住しないこと決める熟練労働者もいます。インフラの整備状況は単なる数字上の問題ではありません。労働力不足を補うために招かれた家族が、十分な住環境、学校施設、サービスを備えた地域社会で生活基盤を築けるのか、それとも到着して、既存の住民がすでに直面しているのと同じインフラ不足を実感するかという、実質的な問題です。

こうした圧力は新規移住者を制限するだけでなく、家賃の値上がり、学校の生徒数の過剰増加、病院の混雑、少ない資源をめぐる争奪戦が起きると予想されることに対する政府への不満の高まりなど、既存の住民も苦しめることを認識しておかなければなりません。

まず住宅供給能力とサービス提供能力が拡大されてからでなくては、都市が移住者を受け入れることはできません。建設を今すぐ加速させなければ、こうしたギャップが遠い将来まで残ることになります。労働市場のニーズが高まり、人道的要請があるとはいえ、受け入れ能力が移住の流れを妨げているのです。

計画的な住宅インフラ整備で何が実現できるかの好例となる都市が2つあります。ウィーンでは、多様な所得者層が共存する公営住宅モデルを導入して、住民の約60%が公的補助を受けた住宅に住み、他地域で見られる家賃・住宅価格の高騰を防ぐことに成功しました36。一方、シンガポールの労働者向け住宅は官民の連携で開発され、規制の対象となっていますが、住民の38%が外国人労働者です37。

資格・学歴等の認定というボトルネック

OECD諸国では高度な教育を受けた移住者の3分の1が、学歴・資格に見合わない仕事に就いており、この数字は韓国が73%、カナダが57%に上ります38。これはスキルのミスマッチではなく、制度上の不備です。いずれのケースでも、何年にもわたり訓練・研修を重ねてきた努力が、資格の認定を受けられないことで無駄となり、家族はわずかな収入で暮らさざるを得ません。また受け入れ側の国にとっても、切実に必要とする人材を無駄遣いすることになります。外科医がUberの運転手をし、エンジニアが棚の商品を補充し、教師が小売店で働いているのです。

WHOの予測によると、2030年までに医療従事者が1,100万人不足する見通しです39。それにもかかわらず、国外で研修を受けた何千人もの医療従事者は、資格・学歴等の認定作業に数カ月から数年かかるため、医療行為ができません。

資格認定の合理化は公平性の確保のためだけでなく、経済のためにも必要なのです。

その合理化を推進するための制度は存在もしています。ドイツでは「職業資格の認定に関する法律(Anerkennungsgesetz)」の下、2012年以降、38万3,000件を超える外国人の資格認定申請を処理しており、この手続きに要する日数は通常3カ月以内です40。カナダでは民間の支援を受ける難民の1年目の就労率が男性で90%に上り、政府の支援を受ける難民のそれを17ポイント上回っています41。こうした制度を計画的に設計すれば、効果を発揮するのです。

政策の変更と連携の不備

長期的な経済ニーズと短期的な政治サイクルの不整合が変動性を生みます。ビザに関する規則が選挙のたびに変わるようでは、企業は長期的な人材戦略を立てることができません。政治サイクルは2年から4年続くことが多い一方、インフラが利益を生むまでには数年、場合によっては数十年以上かかります。移住政策は、このジレンマに陥っているのです。移住政策は選挙ごとに評価される一方、その効果は何世代にもわたり徐々に表れてきます。Ernst and Young LLPのEY Chief EconomistであるGregory Dacoは次のように述べています。「移住者の急激な流入があれば常に、ポピュリスト的な反発が起きる傾向にあります。急激な流入は一般的に迅速な社会統合の妨げとなり、そしてそれが『外国人が自分たちの仕事を奪っている』という間違った風潮につながりかねません。こうした風潮や選挙の影響がすぐになくなるとは思えません」

このような傾向は、調査の結果からも裏付けられています。突然の、あるいは突出した移住者の流入は、反移民政党の支持拡大と相関関係にあることが少なくありません。複数の調査の結果によると、EUによる移動の自由化後のスイス国境地域や2015年に難民危機が起きたときのギリシャ島しょ部のように、国境自由化や難民急増に伴い、その影響を受ける地域では極右政党の支持率が1.5~6ポイント上昇する場合があります42。移住者の数だけでなく、増加のスピード、可視性、入国の集中も反発を招く要因のようです。

 

定住が社会統合の実現より早く進み、語学研修の不足、不適切なジョブマッチング、世帯向けサービスの不備といった問題が生じると、ひずみが顕在化します。そして、それが移住者の需要を当初けん引していた経済のファンダメンタルズを無視した、政治的反発や規制的な政策を招くのです。

 

しかし、有望な解決策がいくつかあります。カナダ、フィンランド、ポルトガルなどでは、平等な権利と機会を保証する、包括的な社会統合政策が効果を発揮しています43。テクノロジーもまた、成功を加速します。エストニアのデジタル統合の取り組みと、ドイツの11言語に対応した専門資格向けのポータルは、新たな制度の案内を合理化しました44。課題は克服できるのです。必要なのは、政治サイクルに左右されずに連携と継続的な取り組みを行う姿勢です。


生産への貢献と社会の理解・納得の維持におけるバランスの確保

これは単なる人の移動の問題ではありません。社会の理解・納得を維持しながら、生産への貢献を確保する必要があるのです。高速道路や電力網と同様、移住インフラの整備には多様な主体をまたぐ連携と調整が必要です。具体的には、政府(ビザ政策、資格認定の枠組み)、州・地域レベルの主体(住宅供給、医療体制)、地方自治体(区割り、学校施設、交通)、民間セクター(労働者向け住宅、人材パイプライン)、市民社会(社会統合サービス、文化の橋渡し)、出身国をまたぐ統合的な連携・調整が挙げられます。単一の組織だけでは実現できません。

EY International Location Advisory Services leaderのFabrice Reynauldは警鐘を鳴らします。「投資を後押しする多国間政策を整備できれば、各大陸は成長し、安定を維持することができます。一方実現できなければ、移住は数百万人ではなく数億人規模に膨れ上がる可能性があります」

移住インフラ構築の経済的メリット

移住インフラを構築する国は長期的な優位性を築けるのに対して、構築しない国は損失が複利的に増大します。以下では、その影響として考えられる事例を4つ紹介します。

  1. 速やかな生産性向上。最近の取り組みで恩恵を得ているのがスペインです。2023年には移住者が新規雇用の64%を占め、国内経済成長の半分を生み出し、GDPを3%引き上げました。これはユーロ圏の平均の4倍近くにあたります45。資格・学歴等が認定され、社会統合が成功すれば、働き盛りの移住者は直ちに生産性向上に貢献するのです。

  2. 財政の持続可能性。労働年齢の移住者は、高齢化で圧迫されている年金制度と医療制度の維持を助けます。1980年以降にカナダへの移住が認められた人たちは財政にプラスの影響を及ぼしており、特に経済的理由により移住を希望する主申請者は、他の移住者やカナダ生まれの市民より大きな貢献をしてきました46。

  3. イノベーションの加速。米国において、移住者やその子孫が設立した企業は2025年時点でFortune 500企業の46%、10億ドル規模の米国スタートアップ企業の44%を占めています47。

  4. 対応しない場合のコスト。日本では労働年齢人口が2000年から2018年の間に1,100万人強減少し、自動化の進展にもかかわらず、成長が停滞しています48。移住インフラを整備していない国・地域は経済の低迷、財政負担、競争力低下に直面しているのです。

最終的に重要なのは移住自体ではなく、計画的に整備された移住インフラが可能にするダイナミズム、財政の安定性、競争優位性です。

うねうねと続く未舗装路を走るオフロード車
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第3章

自動化が進展する未来において、移住インフラが不可欠な理由

自動化社会が到来しても、移住インフラが不可欠であることに変わりはありません。不透明な未来に備えるための柔軟性をもたらし、人口動態ギャップを埋める存在なのです。

自動化は労働市場に変革をもたらすことになるでしょうが、それにより人間が不要になるわけではありません。ただ、増える職務と、減るか消滅する職務の構図が変わることになるでしょう。例えば、AIがより多くの認知的作業を処理するようになるにつれ、サービス業、医療、熟練技能職など、人間の判断を必要とする職種では速いペースで賃金が上昇する可能性がある一方、一部のホワイトカラー職は「コモディティ化」するかもしれません49。

だからこそ、移住インフラの重要性は、低下するのではなく高まっているのです。各国は、代替が難しいAIエンジニアから高齢者介護専門家まで、幅広いスキルにわたる労働者を誘致する制度を必要としています。

自動化は普遍的なものではなく、選択的

テクノロジーが、何らかの職種を消滅させることはめったにありません。その職種の構造を変えるだけです。例えば、医療は今後も人間中心の職種であり続けるでしょう。高齢者介護では、テクノロジーでは大規模に代替することができない、現場での対面対応や感情知能、文化的能力も求められます。日本は介護ロボティクス分野をけん引していますが、2040年にかけて介護人材が大量に不足する見通しです50。

同じ傾向は、建設、熟練技能職、物流、サービス業にも見られます51。知識労働でさえ、AIが拡大しても、完全に取って替わられることはないでしょう。生産量拡大に伴い、労働者あたりの生産性を向上させ、人員の総数を減らすことはないからです52。

NAVIワールドでは、こうした均一ではない進展が長期的な人材計画の策定を本質的に難しくしているのです。移住インフラを構築することで、各国はこうした変化に取り残されず、適切に対応できるでしょう。

不透明な未来において、インフラが選択肢をもたらす

自動化が、どのセクターのどの仕事に、どの程度のスピードで変革をもたらすのかを予測することはできません。こうした不透明感により、移住インフラがもたらす構造的柔軟性の必要性は高まる一方です。

 

選択肢が与えられることには、流入の増減が可能になる以上の意味があります。状況の変化に合わせて、人材確保ルート、資格認定制度、定住支援体制を再構築できるようになるのです。インフラが充実した国は、人材補強の対象を深刻な労働力不足に直面するセクターにシフトさせ、国内の人材供給がひっ迫したときに資格・学歴等の認定作業を加速させることや、新たな産業の台頭を受けて、的を絞った人材確保ルートを開拓することもできます。

 

移住インフラが不足する国では、短期的な労働力不足が長引いたり、人口動態の変化がピークに達したときに危機対応システムの構築を余儀なくされたりするかもしれません。移住インフラは、仕事の未来が予測困難である中、国・地域に戦略的柔軟性をもたらすのです。

 

人口動態格差の解消が必要

今後数十年間で自動化が完全に成熟するとしても、それまでの移行期間においては、移住を受け入れなければ深刻なギャップが生じます。

 

ベビーブーム世代は現在、引退期を迎えています。米国では、欧州ほどではないものの、高齢者扶養率が急速に上昇しています。東アジアではさらに深刻な「人口の崖」に直面しており、日本・韓国・中国では過去に例を見ないスピードで高齢化が進んでいます。これらは、出生率が低下し始めた数十年前から変わらない、人口動態の現実です。


問題は理論上のタイミングではなく、複数の時間軸が重なっていることです。インフラの構築に数年かかり、資格認定制度と社会統合の仕組みづくりにはさらに長い時間が必要で、社会的インフラに至っては何世代も要します。一方、自動化で労働力不足を緩和するには、10年間に及ぶセクターごとの高度化が必要です。

OECDは、AIが生産性を向上させる一方で、「労働力不足の代替や解決策とはなり得ない」と警告しています。また、高齢化社会は「雇用不足から労働力不足への転換」に直面しており、政策対応が取られなければ、1人あたりの成長率が鈍化する見通しだとしています53。日本を対象としたIMFの調査によると、高齢化が実質生産量に与える影響の一部が自動化で相殺される可能性があるものの、人口動態の変化に伴う財政負担を完全に取り除くことはできません54。

技術的解決策のみに依存する国は、自動化が成熟するまでの間、何年にもわたる労働力不足と低成長に悩まされるおそれがありますが、移住インフラによって、そのギャップを即時に解消する効果が期待できます。このインフラがなければ、技術的解決策が出現するまで経済が低迷することになります。しかも、その解決策が不完全であるかもしれないのです。

インフラ整備の価値は時間の経過とともに高まる

移住の仕組みを今構築すれば、それがもたらすメリットは数十年にわたり複利的に増大していきます。資格・学歴等の認定の枠組みは、一度確立すると、活用されていない人材を掘り起こし続け、人材パイプラインが拡大し、厚みも増していきます。熟練の移住者の受け入れにより、AI企業自体を含め、イノベーションエコシステムと起業活動が大幅に強化されるのです55。

 

グローバル人材を確保する企業独自のチャネルは、長期的な競争優位性の源泉となっています。また、政府が予測可能な人材確保ルートを入念に設計することで、人口動態・テクノロジー・地政学的ショックに対する労働市場のレジリエンスが高まります。

 

未来を制するのは、人材を大規模に受け入れる能力を構築した政府や企業です。すでに顕在化した労働力不足を、技術革新に依存して解決しようとする政府や企業が成果を収めることはないでしょう。

田畑を横切る十字路
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第4章

移住インフラに向けた戦略的アクション

移住インフラを構築するには、官民と市民社会が一致協力して行動することが不可欠です。

今後数十年において、移住インフラの構築が成長を左右するとしたら、重要となるのはそれをどのように構築するかです。以下では、成熟した制度の構築にあたり、企業、政府、市民社会がそれぞれ優先すべきインパクトの大きい課題を紹介していきます。

 

企業が取るべき3つの戦略的対応

企業はもはや移住問題を、政府だけが責任を負う対外政策の課題と位置づけることはできません。EY Law LLPのEY Americas Immigration LeaderであるGeorge Reisは次のように述べています。「移住は常に検討課題だったとはいえ、優先順位は高くありませんでした。ところが今では、企業の意思決定におけるその優先順位が上がっています。経営幹部レベルで話題となっているのです」人口動態の変化によりスキル不足が深刻化するにつれ、先を見越して人材パイプラインづくりや職場統合の取り組み、地域社会に対する支援体制の整備などで移住インフラを構築する企業は、非常に大きな優位性を持ち続けることができる一方、そうした状況を意に介さない企業は、国内の労働力供給に制約を受け、また、政策の変更やコスト上昇の影響を強く受けるようになるでしょう。

移住は常に検討課題だったとはいえ、優先順位は高くありませんでした。ところが今では、企業の意思決定におけるその優先順位が上がっています。

移住インフラが持つ価値を得るには、経営層全員が一致協力してリーダーシップを発揮し、かつ、おのおのが独自の役割を果たす必要があります。

CEO

長期的競争力を構築・維持する責任者として、移住が戦略・成長・レジリエンスをどのように支えるのかについて、その方向性を定めます。

  • 移住を企業戦略の中核的要素と位置づけ、労働力の移動をイノベーション、市場拡大、レジリエンスの向上につなげる
  • グローバル人材パイプラインを強化し、制約のある国内労働市場への依存を軽減できる協働関係と投資を模索する
  • 政府や市民社会と連携して、スキルへの予測可能で長期的なアクセスを実現する移住政策の策定と移住インフラの構築を推進する

CHRO

移住者受け入れ戦略を人材ケイパビリティと俊敏性の確保につなげ、グローバル人材を効果的に採用・育成・統合します。

  • 供給の多い人材市場で直接採用するルートを開拓するとともに、教育機関と協働して入社前のアップスキリングを実施する
  • 育成や資格・学歴等の認定のプロセスを合理化し、外国籍従業員の生産性向上を促進する
  • グローバル人材の語学研修、住宅問題の解決、文化への適応に対応した社会統合プログラムを策定する

COO

移住によって労働力構成やプロジェクト遂行のあり方が変化する中、組織の効率的な事業拡大を実現します。

  • 労働者向け住宅、資格認定、立地の選定など、移住への配慮を業務計画に組み込む
  • さまざまな移住の受け入れ・自動化シナリオの下で、労働力不足、賃金動向、プロジェクトのスケジュールが財務に与える影響を評価する
  • テクノロジーを活用して、あらゆる拠点で移住関連のプロセスを簡素化し、人材の迅速な適応を後押しする

CRO(最高リスク管理責任者)

移住者がもたらすダイナミクスを全社的リスク、レジリエンス、シナリオプランニングに反映させます。

  • 移民関連リスク(政策の不安定性、サプライチェーンの混乱、社会的許可に関わる課題を含む)を把握・整理する
  • 移住の受け入れシナリオを事業の継続、地政学的リスク、危機対応計画に組み込む
  • 規制当局、社会、人口動態の動向をモニタリングし、移住者に関連する新たなリスクと機会を予想する

CMO

移住に伴い顧客の基盤、選好、需要パターンが変わる中で、組織の存在価値の維持を実現します。

  • 移住に伴う顧客の人口動態と選好の変化を継続的にモニタリングし、その変化に合わせてキャンペーンに変更を加えるとともに、短期的な機会を捉える、あるいはリスクを軽減する
  • 移住に伴う主要市場の長期的な構成とニーズの変化に合わせて、ブランドポジショニングと製品ポートフォリオを進化させる
  • データに基づくインサイトを活用し、移住の動向に伴い生まれた新たな顧客セグメントにアピールするキャンペーン、協働関係、製品を考案して成長の扉を開く

政府が取り組むべき、5つの優先課題

移住を経済上の強みにするには、政府が現在のようにゲートキーパー役だけを果たすのではなく、「制度設計者」の役割を担い、企業や市民社会を巻き込んだ連携型のエコシステムを構築することが求められます。

  1. 移民政策とインフラ計画との連動。まず取り組むのは、AIを活用した労働市場モデリングを行い、将来必要となるニーズを予測して、その予測結果を住宅供給、交通、教育計画に反映させることです。インフラ整備状況を確認し、それに合わせて移住者受け入れ目標を設定すれば、流入を持続可能で、政治的に正当化できるレベルに抑えることができます。官民共同出資モデルにより、公共投資と労働力拡大を同時に実現するとともに、予測分析によってボトルネックを事前に把握することが可能です。EY Global Government & Infrastructure LeaderのCatherine Fridayは次のように指摘しています。「シンガポールなどの国々が現在、10~20年といった長期的な時間軸で、長期的な労働力需給の予測と、それに基づいた移住政策の策定を行っているのに対して、米国、英国、オーストラリアなどは2、3年先しか見ていません」将来必要となる能力から逆算してプランニングすることで、移住者の受け入れを受け身の政策から、国の競争力を支える基盤へと変えることができるのです。

  2. 資格・学歴等の認定のスピードアップ。認定がボトルネックとなり、生産性向上と社会統合の阻害要因になっています。規制当局、専門機関、経営者(雇用主)と連携して認定制度を刷新すれば、年単位だった申請処理時間を月単位に短縮し、すでに入国しているものの活用されていない人材を掘り起こすことができます。

  3. 社会統合インフラの構築と、地方・国、経営者(雇用主)、NGO、地域社会のリーダー間の連携。政府(政策と資金調達)、企業(就労機会の提供と職場統合)、市民社会組織(地域社会レベルの支援)が集結する、包括的な移住者受け入れエコシステムを取りまとめ、移住が社会構造を変えている現状を認識して、地方と国、両方のレベルで実効性のある社会統合計画を策定します。経営者(雇用主)、NGO、地域社会のリーダーと協働して、移住者だけでなく、移住者に寄り添い適応に取り組む住民や機関も支援します。EY Global Infrastructure LeaderのShane MacSweeneyは次のように述べています。「各国政府は、人口動態や移住をめぐる変化が10年単位で起きる環境において、数十年にわたって使われるインフラを整備しようとしています」物理的なシステムに欠ける俊敏性を提供できるのがデジタルツールです。データに基づいて社会統合計画を策定し、これを一致協力して実施する政府であれば、社会的信頼の向上や、移住継続に不可欠である社会の理解・納得の維持といった大きな成果を上げることができるでしょう。

  4. 経済ニーズに応じた、選択的な受け入れルートを優先する取り組み。現在の政治情勢を踏まえると、直ちにすべての移住ルートを拡大することは困難ですが、明確な経済目標に沿った選択的な受け入れルートを整備することで、支援を集め、成果を示すことができます。リアルタイムの労働市場データを活用することで、深刻な労働力不足に直面するセクターを優先して、状況の変化に応じて受け入れルートを調整することが可能です。

  5. 地域内連携の確立。労働力不足と避難者問題を単独で解決できる国はありません。移動に関する地域協定、資格・学歴等の相互認定、社会統合基準の共有に関する合意を成立させれば、摩擦を軽減し、より大規模で柔軟性の高い人材プールを構築することができます。

市民社会が直面する3つの重要課題

市民社会組織は人と人のつながりを提供して、移住の仕組みが現場で機能する環境を整えます。信頼を醸成し、地域社会の絆を強め、国境を超えて連携することで、移住が新規移住者だけでなく、移住者を受け入れる社会にもメリットをもたらす仕組みづくりを手助けしているのです。

  1. 社会統合インフラの拡大。市民社会組織は移住システム同士をつなぐ役割を担っていますが、依然として資金不足や細分化といった課題を抱えています。デジタル語学研修、オンライン法律相談、AI等を活用した資格認定手続きの支援といったサービスの提供にテクノロジーを活用することで規模を拡大して、より低コストで、より多くの人に手を差し伸べることができます。

  2. エビデンスとつながりによって構築する社会の理解・納得。社会の信頼を築くには、経験の共有と確かなデータが必要です。市民社会は、労働人口の拡大、生産の迅速化、自国民の失業は最小限にとどまることなど、移住者がもたらす幅広い経済的利益を発信しながら、移住者と受け入れ側の地域社会をつなぐプログラムを立ち上げることで、社会の理解・納得を強化できます。

  3. 持続的な対応に向けた、グローバル連携。市民社会組織は、地域レベルの体験を世界的な学びにつなげるという独自の立場にあります。国境を越えて連携し、有効なモデル、データ、ツールを共有することで、取り組みの効果を高めることができます。また、複数の主体が資金を持ち寄ったり、公的資金と民間資金を組み合わせたりすることで単発的な成功事例を、広く展開可能な仕組みへと発展させることができます。


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サマリー

住宅、学校施設、スキル、帰属意識といった社会統合インフラの構築には時間がかかります。取り組みにいち早く着手した国は、未来への備えを整えることができるのに対して、先送りした国は将来、労働力不足に直面することになるでしょう。

移住は早急に管理すべき事案でも、抵抗すべき脅威でもありません。構築すべきインフラなのです。企業や国が今、受け入れ能力にどのような投資をするか。それが将来の競争優位を決めることになるでしょう。



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