EYメガトレンド

信頼を経営資産として捉え直すことで、企業はいかに変化に対応し、成長機会を引き出せるか


信頼は成長、イノベーション、レジリエンスを支える新たな価値基盤です。その準備はできていますか?


要点

  • 不確実性が高まる中、信頼は成長、レジリエンス、競争優位を支える戦略的なレバーとして重要性を増している。
  • 信頼に投資する組織は、変化への適応力、イノベーション創出力、成長力を高め、人材定着、顧客ロイヤルティ、危機からの回復において同業他社を上回る可能性がある。
  • 信頼を構築するには、ガバナンス、テクノロジー、ビジネスモデル、リーダーシップ行動に対する新たなアプローチが求められる。


EY Japanの視点

信頼を実行資本とする経営システムの進化

本稿が提起する「信頼を経営資産として捉える」という問題意識には賛同する一方で、経営者が問うべきは信頼の重要性そのものではなく、環境変化に対応しながら信頼を生み出す経営システムを継続的にアップデートできているかどうかです。
 
信頼は企業経営の根幹であり、顧客や従業員、投資家、社会が経営システムの健全性を評価した結果にほかなりません。
 
近年はAIの普及やサプライチェーンの複雑化、地政学リスクの高まり、情報流通の加速などにより、企業にはこれまで以上の判断・対応スピードが求められています。
 
重要なのはリスクの有無ではなく、変革や危機の局面において①異変を早期に察知できる②判断を滞留させない③組織全体を迅速に動かせる④後から合理的に説明できる―こうした経営システムを実装しているかです。
 
信頼を組織を動かすための実行資本として捉える必要性が一層増していくでしょう。
EY Japanの窓口

本記事は、「EYメガトレンド」シリーズの最新版「New frontiers: The resources of tomorrow」でご紹介しているインサイトの一部です。

そう遠くない未来、今後10年以内のある4月第1週、火曜日の朝です。アマラは、自身が勤める米系多国籍食品・飲料企業のグローバル本社に足を踏み入れました。7階にある会議室に向かいながら、今日までの日々を振り返ります。

5年前、CEOは、新設された幹部職である「最高信頼設計責任者(Chief Trust Architect)」として彼女を迎え入れました。データプライバシー、サイバーセキュリティ、コンプライアンスなどの領域を監督していた2020年代の最高信頼責任者(Chief Trust Officer)とは異なり、その任務はより多岐にわたり、かつ戦略的なものでした。彼女は、信頼を戦略的資産として捉え、その投資を主導する役割を担います。彼女の指揮の下、会社は信頼を管理・測定・育成・収益化し、不確実な環境における主要な価値創出要因へと高めていきます。

これが時宜を得た対応であることが後に判明します。変化が非線形かつ加速度的に進み、変動性が高く、リスクや影響が相互に連鎖する「NAVIワールド」の中で、業界はほどなく相次ぐ衝撃に見舞われました。加速する気候変動に伴う異常気象によって、複数の作物が不作となりました。食料を巡る暴動が発生しました。サプライチェーンも混乱しました。難民が国境を越えて押し寄せました。長引くインフレでただでさえあえいでいる消費者を、食品価格の2桁台の値上げが襲いました。扇動的な発言をするCEOを映したディープフェイク動画が拡散しました。消費者と政治家は、怒りを多国籍食品・飲料メーカーにぶつけました。過去数十年間に大手たばこメーカーと大手製薬会社がたどってきた道筋をなぞるように、大手食品メーカーの評判は急落します。

競合他社に対する信頼が急激に低下する中、自らが勤める会社は、信頼向上に投資をしてきたおかげで、比較的安定を維持していました。全サプライヤーをブロックチェーン上で管理するという決断により、サプライチェーン全体の透明性が確保され、不足やボトルネックを事前に把握できるようになりました。電子透かし技術は、ディープフェイクの拡散を未然に防ぐのに役立ちました。また、リアルタイムのモニタリングやリスクアセスメント、さらには戦略シミュレーションといったリスク管理機能の高度化により、リーダーシップチームのレジリエンスと俊敏性が高まりました。

この役職を引き受けるに当たり、アマラはCEOに1つだけ約束を求めました。それは、リーダーシップチームからの情報の完全な透明性を確保することでした。危機に見舞われた際、この方針は極めて大きな価値を発揮しました。他の多くの企業とは異なり、アマラの会社は、良い情報も悪い情報も、不都合な事実も隠さず公開していました。その姿勢が、不確実性が高まる時期において、かえって会社の信頼を高めたのです。株価も堅調に推移し、ネガティブなニュースが出ても、投資家との間で築いた「信頼に基づく評価プレミアム」によって速やかに回復しました。

会社は、この激動の時期を乗り切っただけではありません。競合他社より積極的に、自信を持って人工知能(AI)に投資しました。ここでも、信頼第一のアプローチが功を奏し、導入の迅速化につながりました。

 

こうした取り組みの全てが、この日へとつながっていました。直近四半期の決算説明会が行われる朝です。会社はこの説明会で、アマラによるもう一つのイノベーションである「信頼指数」を一般に公開することを発表する予定でした。この指数は、さまざまな情報源から得たデータを組み合わせて数年前に策定されたもので、会社に対する信頼がどのように変化しているかをリアルタイムで把握し、信頼投資のROIを測定できるようになっていました。今四半期から、信頼指数は社内向けの指標にとどまらず、会社は毎回の決算説明会でその最新情報を報告することになります。

 

未来の「トラストエコノミー」へようこそ。

A worker inspects a rough diamond in a workshop in India. Photographer: Dhiraj Singh/Bloomberg
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第1章

トラストエコノミー

信頼を確保することのハードルが上がり、その価値は高まっています。信頼を課題ではなく、経営資産として捉え直すことができるでしょうか。

この数十年にわたり、テクノロジーは無形資源の価値を高めてきました。過去の産業革命での重要な天然資源を巡る争奪戦がそうだったように、バーチャル資産が競争優位性と市場支配力を強化したのです。

  1. データエコノミー:こうした無形資源を巡る変化の第一波は、データでした。IT革命により、データは希少な資産から豊富に存在する資産へと変わりました。デジタル化が膨大なデータを生み出し、インターネットによってその多くに誰もがアクセスできるようになりました。「データは新たな石油である」という言葉は、広く繰り返される常とう句となりました。データエコノミーで成功を収めたのは、この資源から大規模に価値を引き出した企業です。そのためには、データを生み出し、理解し、収益化する力が必要でした。今後、信頼についても同じ能力がますます求められます。
  2. アテンションエコノミー:Web 2.0時代には、アテンション(関心)が主な無形資源かつバリュードライバーとなりました。ユーザーの関心を引き、その行動に影響を与える力が極めて重要な価値創出要因となったため、企業はエンゲージメントを中心に据えた製品・サービスやビジネスモデルを構築してきました。
  3. トラストエコノミー:今まさに次の大きな転換点を迎えています。これからは、信頼が新たな無形資源となり、競争優位と成長を左右するようになるでしょう。近年、信頼は低下傾向にあります。皮肉なことに、その一因は、トラストエコノミーに先行したアテンションエコノミーにあります。「アテンションマーチャント(人々の関心・注意を商品として利益を得る企業)」であるソーシャルメディアは、アルゴリズムを最適化してユーザー「エンゲージメント」を最大限に高めました。一方でその過程で分断を深め、誤情報・デマの拡散を招くことが少なくありませんでした。

「AIを活用して成功を収めるための要素は、主に4つあります。データ、信頼、価値、そして普及です」とEY Global Chief Innovation OfficerのJoe Depaは指摘します。「特にデータは大きな要で、データなくして、AIは成り立ちません。信頼も同じく基盤となる要素です。データをどのように信頼し、AIをどのように信頼するのかが問われます。信頼がなければ、データの有用性が損なわれ、価値獲得と普及が進みません」

実際、信頼の低下が、データと関心・注意(アテンション)という別の無形資源の価値を損ねているのです。信頼低下を招く大きな要因の一つは、データプライバシーとデータの不正利用に対する懸念です。その結果、消費者はデータ共有に慎重になり、自らの行動を誘導しようとする働きかけに対しても疑念を抱きやすくなっています1。

トラストエコノミーに移行したからといって、信頼を低下させるあらゆる側面が根本的に変わるわけではありません。それは、信頼への需要と価値が今後さらに高まることを意味します。アテンションエコノミーの隆盛と時を同じくして、興味・関心の持続期間が短縮したのと同様2、トラストエコノミーは信頼低下を背景に台頭していくことになるでしょう。トラストエコノミーで生き残り、成長を遂げるのは、自社の組織・ブランド・製品やサービスに対する信頼低下の影響を抑えられる企業です。つまり、信頼を課題から、測定・追跡・投資・拡大・大規模な収益化が可能な資産へと変えられる企業です。

特にデータは極めて重要な基盤であり、データなくして、AIは成り立ちません。信頼も同様に重要です。何をもってデータを信頼でき、何をもってAIを信頼できるのか。

信頼喪失はすでにリーダーの足かせとなっており、企業に実害を及ぼしています。EYの調査によると、信頼は消費者が製品やサービスを利用するかどうかを決める最大の要因であり、企業ブランドや家族・友人などの推薦といった他の5項目を上回ってトップでした3。雑誌「The Economist」の分析によると、企業は信頼を損ねると、企業価値の30%を失います4。


信頼低下が拡大する環境では、現状維持という選択肢はありません。リーダーには2つの選択肢があります。今すぐ行動し、信頼を競争優位につながる戦略的資産として捉え直すか、あるいは「従来通りのやり方」を続け、信頼を確保することのハードルが高まり続ける環境の中で、自社の組織や製品・サービスへの信頼が損なわれていくのを見過ごすかです。

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第2章

信頼低下は今の時代の最大の課題

世界の多くの地域で、制度・機関やテクノロジー、社会に対する信頼の低下が進んでいます。

信頼は近年、いくつかの領域で低下傾向にあります。これは「テクノロジーに対する信頼」「社会的信頼」「制度・機関に対する信頼」の3つに大きく分けることができます。

テクノロジーに対する信頼

テクノロジーに対する信頼は、2016年の米大統領選と英国のEU離脱国民投票時に生じたデータ侵害を受けて「テックラッシュ(巨大IT企業に対する社会的反発や規制強化の動き)」が広まった2010年代後半から低下し始めました。テクノロジーは、2016年にはエデルマン・トラストバロメーターの対象となる国の90%で最も信頼されているセクターでしたが、2024年時点では、50%に低下しています5。

次世代テクノロジーの登場とともに、テクノロジーに対する信頼は一段と低下しかねません。一方、気がかりなのは、テクノロジー産業に対する信頼と、AIに対する信頼では26ポイントのギャップがあることです6。

「現在は、テクノロジーの導入がかつてない速度で進んでおり、それが不安感を生んでいます」とEY Global Accounts Committee Assurance LeadのJeanne Boilletは述べています。「人は、自分の理解できないことに恐怖を覚えます。変化が起きていることは分かっていても、それが自分にどのような意味を持つかを理解できないのです。このギャップを埋めるには、企業が透明性を確保しながら『責任あるAI』の原則を実践する必要があります。同時に、個々人が、スポーツや楽器を習うときのように、新たなテクノロジーに慣れることも不可欠です」

実際、AIは、失業への不安に加え、プライバシー、社会的不平等、誤情報・デマへの懸念を新たに生んでいます7。EYの調査によると、こうした問題に対する認識には、経営幹部と消費者の間で大きなギャップがあります。


こうした懸念は、AIが事務業務だけでなく、創造的活動や起業活動にも影響を及ぼす可能性にまで広がっています。「AIは、ソーシャルメディアとは異なる形で、人間の権利と機会を損ねるおそれがあります」と指摘するのは、エディンバラ大学でBaillie Gifford Chair in the Ethics of Data and Artificial Intelligenceを務めるShannon Vallor氏です。「ソーシャルメディアはクリエーターエコノミーを生み、起業家精神を引き出しました。AIは、何十年もの年月を費やして得てきたスキル・知識や事業で生計を立てる人間の能力を脅かすおそれがあります。最悪の場合、許諾もクレジット表記もないまま他者の創作物を取り込み、それを収益化し、さらには代替してしまう可能性もあります。こうしたこと全てが、不信感と不安感を高めています」

AIが進化し続けることで、新たな課題が生じるおそれもあります。その1つが、新しいモデルほど信頼性が低下する可能性です。AIモデルの訓練に使用するデータセットのサイズが6カ月ごとに倍増しているため8、それがデータの質の低下への懸念を招いています9。

 

「最新AIモデルの機能を高めるには、大量のデータが必要です」とEY Global Responsible AI Leader, AssuranceのCathy Cobeyは言います。「ただ残念ながら、データの質を管理する体制を緩めなければ、それだけ大量のデータを入手できない場合もあります。全てのデータを精査し、手作業で処理し、十分なコンテンツモデレーションを行うだけの時間が、そもそも足りないのです。その結果、AIモデルがフェイクデータや疑わしいデータで訓練され、モデル自体の信頼性を低下させるリスクが高まります」

その一方で、AIがソーシャルメディアを根本的に変えることは間違いありません10。これまでのように人と人のつながりを生むのではなく、AIは今後、人と、AIエージェントやアバターなど合成ペルソナの間の社会的つながりを徐々に実現していくことになるでしょう。

「人間はすでに、AIを親友や仲間として利用しています」とVallor氏は語ります。「将来的には、AIツールを心のケアや心の支えに利用する人が増えるかもしれません。そうなれば、私たちがまだ十分に理解していない形で、信頼が損なわれることになります。相手の物事の捉え方に異議を唱えず、反論もせず、自らの要求を差し挟むこともないAIボットに、人々が膨大な時間をかけて悩みを打ち明けるようになると、社会的な相互依存に慣れなくなります。その結果、実際に他者の助けを必要とする場面で、深刻な問題に直面することになります。テクノロジーへの過度の依存は最終的に、対人での信頼関係を壊しかねません」

社会的信頼

マサチューセッツ大学アマースト校Institute for Digital Public Infrastructureのディレクターで、「Mistrust: Why Losing Faith in Institutions Provides the Tools to Transform Them」の著者でもあるEthan Zuckerman氏は、少なくとも米国では、政府と社会制度に対する信頼が長期間にわたって低下していると指摘します。

「社会的信頼は数十年にわたり低下してきました」とZuckerman氏。「ニクソン政権以降、メディアは権力に対してあまり従順でなくなり、国民も表面的な説明では納得しなくなりました。2001年9月11日の同時多発テロ事件とイラク戦争の後にも、同じように信頼が低下し始めました。現在、『政府のやることは常に、または大半の場合、正しい』と考える米国民は15%しかいません。ある程度の不信感を持つことは健全で、民主主義と経済が機能するには、懐疑的な見方が不可欠です。しかし、不信感が社会をまひさせ、むしばむ事態になることは避けなければなりません」

こうした信頼低下は近年加速していますが、その要因の一つがテクノロジートレンドです。分断を深刻化させる「フィルターバブル」の形成に、ソーシャルメディアは能動的役割を果たしてきました。分断は、米国の政治情勢という文脈で大きな注目を集めてきましたが、分析の結果によると、分断はグローバルな問題であり、深刻化しています。


AIは誤情報・デマの生成を産業化する可能性があります11。「AIは大きな善の力である一方で、負の側面も持ち合わせています」とEY Americas Responsible AI LeaderのSinclair Schullerは話します。「それは、誤情報・デマ問題をまったく新たな次元へと押し上げ、ソーシャルメディア時代に見られたあらゆる事態をはるかに上回る規模になる可能性があります」

制度・機関に対する信頼

政府、企業、メディア、教育機関、科学・学術界、NGO、国際組織を含めた幅広い制度・機関に対する信頼が、多くの国で低下しています。

制度・機関に対する信頼度は、国・地域により著しく異なります。一部例外を除き、制度・機関に対する信頼度は低所得国で最も高く、ほとんどの高所得国では最も低い傾向にあります12。こうした中、ビジネスリーダーにとって明るい材料は、ビジネスに対する信頼は(相対的には)維持されているという点です。多くの国で、企業は引き続き最も信頼できる制度・機関です13。

ところが、最新のエデルマン・トラストバロメーターによると、企業に対する信頼度と「自分の雇用主」に対する信頼度は低下していました14。低下幅はさほど大きくないものの、特に「自分の雇用主」に対する信頼度が低下するのは、この調査が開始されてから26年で初めてであり、警告のサインと捉えるべきかもしれません15。

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第3章

信頼に投資する

トラストエコノミーで成長するには、ガバナンス、テクノロジー、ビジネスモデル、リーダーシップ行動に焦点を当てる必要があります。

前章で詳しく説明した信頼低下という課題は、極めて大きく、かつ複雑な問題です。分断や誤情報・デマといった問題は、個々の組織だけで解決できる範囲を大きく超えています。政策当局、規制当局、産業界が協働して取り組む必要があるでしょう。各組織は、自らに直接影響を及ぼすもの、自らが影響を与えたり変えたりできるものに焦点を当てなければなりません。多くの場合、それは主要なステークホルダー(顧客、従業員、投資家)が、自社の組織、ブランド、テクノロジーに対して抱く信頼に働きかけることを意味します。

次に、主要なステークホルダーが組織を信頼できると感じる要因を特定しましょう。複数の調査報告書に度々登場する共通のテーマとして、信頼の柱を構成する3つの要素があります。

  • コンピテンス:人は、役割を効果的に果たす能力があり、言ったことを実行する組織やリーダーを信頼します。
  • インテグリティ:人は、行動が誠実で公正だと感じられる組織やリーダーを信頼します。
  • 他者への配慮:人は、自らの利益だけでなく、他者のウェルビーイングにも配慮していることを示す組織を信頼します。

この3つの柱の相対的な重要度は、企業やセクターによって変わる可能性があります。消費者は、航空会社についてはコンピテンスを重視し、他者への配慮の重要度を相対的に低く見るかもしれません。一方、教育機関では、学校や教師が金銭的利益ではなく、生徒のウェルビーイングを重視していると感じられることが、信頼を左右する可能性があります。

よく用いられる「信頼の方程式」では、これらの要素を「信頼(Trust)=(信ぴょう性〈Credibility〉+信頼性〈Reliability〉+親密性〈Intimacy〉)÷自己中心性〈Self-Orientation〉」と表します。信ぴょう性と信頼性を高めることで、組織はコンピテンスとインテグリティを示すことができます。親密性を高め、自己中心性を抑えることで、他者への配慮とステークホルダー重視の姿勢を示すことができます。

この3つの柱を強化するには、企業とリーダーが4つの領域、すなわち「人間と心理」「ポリシーとプロセス」「利益のメカニズム」「プロトコルとプラットフォーム」に取り組む必要があります。

人間と心理:人間性という要素

「人類にとって望ましいのは、相互に信頼し合う状態です」とErnst & Young LLP(米国)でDirector of Behavioral Science & Insightsを務める社会心理学者のHeidi Grantは言います。「人は、信頼されたいと思うと同時に、他者を信頼したいと思い、助けてほしいと思うと同時に、他者を助けたいと思うものなのです」

実際、人間は生来、相手を信頼する傾向にあり、人類の歴史を振り返っても、それが進化上の利点であることを示唆する証拠が、神経科学16、行動科学、進化心理学17など複数の分野の研究で得られています。

信頼は人間の根源的な感情であり、非人間的なポリシーやプロトコルはある程度までしか通用しません。信頼の構築で最も重要なのは、人間的な要素です。組織は、行動科学などの分野から学びを得ることで、信頼の心理学を理解できます。

コンピテンス、インテグリティ、他者への配慮を示すことで、信頼構築につながる行動がいくつかあります。

  • 透明性。信頼では、印象が大きくものをいいます。「人間の行動は本来あいまいなもので、複数の解釈をすることができます」とGrantは述べています。「残念ながら、人間の脳は、あいまいなものをネガティブに解釈し、最悪の事態を想定するようにできています。そのため、信頼できる存在になるだけでなく、信頼できると思ってもらうことも重要です。つまり、透明性を高めることは、インテグリティや他者への配慮といった資質を示すことにつながります」

  • 弱さの受容と親密性。企業、特にリーダーにとって、鍵を握る要素は弱さを受け入れる姿勢です。ミスを認める医師ほど、医療過誤で訴えられにくい傾向があります。それは、弱さを見せることが信頼を築くためですが、企業の法務担当者は一般に、ミスを認めることに慎重です18。

    ビジネスリーダーは、自信のある態度を示し、常に全ての答えを持ち合わせているように振る舞うことが求められます。そのため、従業員を不安にさせたくないという思いから率直な説明を避けたり、全てを完全に把握できるまでは公の場で発言しない方がよいと考えたりすることがあります。

    しかし、リーダーは不利な情報や結果に対する人間の反応を示す行動科学の知見から、一定の示唆と安心を見いだすことができるかもしれません。「私たちは、人間はマイナスの結果を寛大に受け止めることはできないと考えがちです」とGrantは述べています。「しかし、行動科学者が言うところの『手続き的公正』に関する調査によれば、不公平な形でなければ、マイナスの結果そのものは受け入れられる場合があります。従って、ステークホルダーが決定を好まないのではないかと過度に心配する必要はありません。それよりも、決定がどのように下されたかを透明にし、公正な方法で行われたことを示すのが重要です」

  • 包摂性(インクルーシビティ)。透明性を高める方法として見過ごされがちなのが、消費者をプロセスに参加させることです。「多くの企業は、テクノロジーを活用して顧客と関わる方法を考えるとき、まずソーシャルメディア・プラットフォームやインフルエンサーを思い浮かべます」とZuckerman氏は指摘します。「しかし、技術的なアプローチとしては、オープンソースソフトウェアの方が有益です。人々が自ら参加できるプロジェクトを好むことは、LinuxやWikipediaが実証しています。企業やブランドは、真の参加型プロジェクトをどのように立ち上げ、それを活用して包摂性と信頼を構築できるでしょうか」

  • 説明責任。「信頼を損なう出来事が起きた後は、直ちに謝罪し、責任を引き受けることが極めて重要です」と述べるのは、南カリフォルニア大学のProfessor of Management and Organizationで、「How Trust Works: The Science of How Relationships Are Built, Broken and Repaired」の著者でもあるPeter Kim氏です。「ただし、私の研究からは、もう一つ重要な軸が明らかになっています。人々がその出来事を、コンピテンスの問題と受け止めるのか、インテグリティの問題と受け止めるのかという点です。人々は概して、コンピテンスの問題には寛容です。しかし、インテグリティの問題だと消費者が感じる事案に対して企業が謝罪をすると、それが裏目に出るおそれがあります。その謝罪は、自分たちが不誠実であったと認めたと解釈され、容易には許してもらえません。企業にとっての重要なポイントは、コンピテンスの問題がインテグリティの欠如と誤解された場合は、その誤解を解くことが不可欠だということです」とKim氏。「その際には、調査機関、規制当局、監査人、許認可機関など、独立した第三者による評価が役立つかもしれません」

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利益のメカニズム:ビジネスモデル

ソーシャルメディアが信頼の低下を招いている現状は、そのビジネスモデルを考えると当然の帰結です。彼らは、自らのプラットフォームにユーザーを囲い込み、行動データを集めることで利益を上げるため、そのビジネスモデルはユーザーエンゲージメントを最大限高めるよう設計されています。ユーザーエンゲージメントの最大化を目的にアルゴリズムを自由に走らせると、スクリーン依存や誤情報・デマ、分断の加速に収束することを、残念ながら目の当たりにしてきました。インセンティブとビジネスモデルは、組織の行動と結果を左右します。リーダーは、AIなどの新たなテクノロジーを前提に、どのようなビジネスモデルを構築するかを慎重に考える必要があります。

 

一方、AIはソーシャルメディアに見られるゆがんだインセンティブの一部を回避できる可能性があり、これは明るい材料です。ソーシャルメディアがユーザーエンゲージメントを収益源とするビジネスだとすれば、AIは正確で信頼性の高いインサイトや実行によって価値を生み出すビジネスだと言えます。ソーシャルメディアはクリック数と「いいね」をできるだけ増やすことで利益を上げてきましたが、AIは生産性、創造性、そして新たな成長源を最大化することで利益を生み出すことになるでしょう。AI時代において、誤情報・デマやスクリーン依存はビジネスにとって間違いなくマイナスになるはずです。

 

だからと言って、リーダーは安心していいわけではありません。AIのビジネスモデルは、ソーシャルメディア特有の信頼問題を回避できるかもしれません。しかし同時に、新たな信頼リスクを生む可能性もあります。例えば、Vallor氏が先に指摘したように、AIへの過度の依存が、場合によっては対人信頼関係を壊しかねません。

 

企業が、ビジネスモデルを根本的に再構築し得るAIの本来の可能性を活用し始める今こそ、信頼に関わる潜在的な問題を意図的に洗い出し、対処する必要があります。

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ポリシーとプロセス:ガバナンス体制とリスク管理

信頼は構築に時間がかかりますが、あっという間に失われる可能性があります。

 

「信頼は、引き金となる出来事を受けて、急激に低下することが少なくありません」とZuckerman氏。「米国ではマネージドケア(管理医療)とHMO(会員制医療組織)の台頭を受け、医療制度に対する信頼が大きく変化しました。選択肢を制限するアプローチであり、多くの人に、患者のウェルビーイングより利益が優先されていると見なされるようになったのです。銀行への信頼は、2007年から2008年の金融危機後に急激に低下しています。信頼は簡単に崩れ、そしてなかなか取り戻すことができません」

 

ビジネスリーダーへの影響は、たった一度の失態によって信頼が失墜する可能性があることです。そのため、強固なガバナンス体制とリスク管理は、信頼を維持し、高めていく上で不可欠な安全策です。

 

ガバナンスの強化には少なくとも、規制コンプライアンスの確保が必要です。ただし、期待や基準が高まる中で、コンプライアンス要件そのものも常に変化しています。例えば、税の透明性に関する規制の変化により、多くの企業で新たなコンプライアンス要件が生じています。

 

しかし、信頼を構築するには、ガバナンスをコンプライアンスの枠にとどめず、会社が何を重視するのかを明確に示し、それを実行に移すためのポリシーと統制を整備する必要があります。AIを例にすると、「責任あるAI」に沿った理念を明確に伝え、ガバナンス体制を構築することは、AIシステムへの信頼を築く上で不可欠な土台となります。

 

技術プラットフォームが、自らの掲げる理念に従ったものであると確認する上で、社内外の独立監査は重要です。Nathanael Fast氏(南カリフォルニア大学マーシャル・スクール・オブ・ビジネス准教授兼Director of the Neely Center for Ethical Leadership and Decision Making)とMaya Cratsley氏(博士課程院生)は共著論文で、AIシステムが特に「開発者バイアス」を生みやすく、開発者は自身の製品やサービスの性能が劣っていても、その信頼性と公平性を過度に楽観する傾向にあるとの証拠を示しました19。

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不確実な世界に備えるために、リスクをどう捉え直せばよいのか

「EYグローバル・リスク・トランスフォーメーション調査2025」では、リスクストラテジストがディスラプションをより早期に捉え、変化により早く適応し、より的確に対応するために何をしているのかを明らかにしています。

「AIの評価では、『開発者バイアス』が問題になり得ます。なぜなら、AIシステムに最も詳しいのは開発者自身だと考えられ、その性能やベンチマーク上の評価について、開発者の説明に頼りがちになるからです」とNathanael Fast氏は述べます。「一方、私たちの研究は、AIシステムの性能を評価する際には、独立した第三者を活用することが重要であると示唆しています」。その実現には、独立した第三者によるAIシステムの評価と監査が役に立ちます(PDF)。

 

最後に、リスク管理とエンタープライズレジリエンスへの投資は、信頼の危機を引き起こすおそれのあるリスクの防止策となります。今日の複雑なNAVIワールドでは、不確実性と変動性が高まる中、戦略に沿ったリスク管理で、戦略的目標を達成する確率を高める必要があります。そのためには、リスク部門が事業運営に関与し、主要な戦略的決定に参加することが不可欠です。

 

プロトコルとプラットフォーム:テクノロジーを活用する

テクノロジーは、透明性、包摂性、一貫性といった行動を可能にし、それを外部に示す上で重要な役割を果たします。事例をいくつか紹介します。

 

ブロックチェーンと分散型台帳技術:「信頼に依存しない信頼」を実現

ブロックチェーンは、透明性とセキュリティをそのアーキテクチャの根幹としているため、トラストエコノミーを支える基盤技術です。

残高を確認するために、信頼できる第三者や仲介者に頼る必要はありません。この技術自体が第三者の役割を果たし、ただ一つの真実(SVOT)を提供します。

「ブロックチェーンでは、信頼する必要はありません。検証できるからです」と話すのは、ステーブルコインへのアクセスをより広く開放するモバイルファーストのプラットフォーム、Celoの共同創業者兼CEOであるMarek Olszewski氏です。「分散型台帳は完全に透明で、改ざんはできません。取引が台帳に記録されているかどうかを確認すれば、ベンダーが支払いを受け取ったことを検証できます。残高を確認するために、信頼できる第三者や仲介者に頼る必要はありません。この技術自体が第三者の役割を果たし、ただ一つの真実(SVOT)を提供します」

ビジネス界ではすでに、信頼構築を目的とした分散型台帳技術の導入が進められています。コンテナ物流大手Maerskのプラットフォーム「TradeLens」により、国際海運の透明性とセキュリティが向上しています20。世界有数のダイヤモンド企業DeBeersのプラットフォーム「Tracr」は、同社がサプライチェーンから紛争ダイヤモンドを排除するのに一役買っています21。不動産セクターでは、不動産テック系スタートアップ企業のPropyが、ブロックチェーンを利用してスマートコントラクトによる不動産売買の合理化を実現し、セキュリティを高め、不正行為のリスクを軽減しています22。

説明可能なAI:透明性を通じてAIへの不安に対応する

AIへの不安が高まる原因の一つは、高度なAIモデルの意思決定プロセスを説明しにくいという「ブラックボックス」問題です。こうしたAIモデルが、労働者や市民の生活に大きな影響を及ぼす決定や行動を担う場面が増えるほど、その判断がどのようになされたのかについて、透明性を求める声は高まるでしょう。

ディープラーニングモデルがあまりに複雑で25、人間のように「思考」するわけではないため、この問題の解決は簡単ではありません。AIモデルが特定の結論に至るまでの正確なロジックは、その開発者にとっても、いまだに大部分が不透明です。

説明可能なAI(XAI)は、この問題への対処を目的とした取り組みです。Grandview Researchの推計によると、世界のXAI市場は2024年の78億米ドルから、CAGR(年平均成長率)18%で2030年までに210億米ドルに達する見通しです26。XAI分野では、巨大テック企業の多くに加え、H2O.ai(AIの出力結果を説明する包括的な説明可能性ツールキットを開発)やFiddler AI(信頼性・透明性・理解可能性を備えたAIソリューションの構築を支援する「AI Observability」プラットフォームを開発)をはじめ、多くのスタートアップ企業がソリューションの研究開発を進めています2728。

「Wand OSの一部として、AIエージェント向けのコントロールパネルを作りました」と、Wand AIのCEOであるRotem Alaluf氏は説明します。「これは、ハイレベルな意思決定から、生成した各トークンやメッセージまで、エージェントのあらゆる行動を完全に可視化するツールです。信頼構築にこうした透明性は欠かせません。エージェントがなぜその決定を下したのかを、マクロとミクロ、両方のレベルで知ることができ、その理由が人間の論理に沿ったものであれば、エージェント型ワークフォースとAIシステム全体への信頼が増していくはずです」

エモーションAI:共感と親しみやすさで信頼を構築する

アフェクティブコンピューティングとも呼ばれるエモーションAIとは、文章、表情、声の抑揚などの入力情報から人間の感情シグナルを検知・解釈し、適切に応答するAIモデルやインターフェースを指します。例えば、顧客の声からいら立ちの高まりを検知して適切に対応するカスタマーサービス向けチャットボット、運転者の疲労の兆候を検知する車載センサー、学生の退屈や混乱を検知して授業内容を変える教育ソフトなどです。エモーションAIは、より共感的でパーソナライズされた人間と機械のやり取りを可能にし、信頼構築につながります。

「AIに対する信頼を構築するには、IQとEQ(感情指数)のバランスを取る必要があります」とInflection AIのCEOであるSean White氏は言います。「業界のほとんどは、モデルの推論と問題解決の純粋な知能を高めることに注力していますが、エモーショナルインテリジェンス(感情知能)も同様に重要だと私たちは考えています。だからこそ私たちは、IQとEQを兼ね備え、人々を支えることができる、魅力的で共感力があり、文脈を理解する会話型AIエージェント『Pi』を開発しました。また、バージョンが変わってもPiの人格は一貫しています。この予測可能性こそが、長期的な信頼を築く上で不可欠です」

これは、信頼の構築の一翼を担うことができるテクノロジーの一部にすぎません。他にも、誤情報・デマを検出する認証技術(電子透かしなど)から、プライバシーとデータセキュリティを保護しながら検証を可能にするゼロ知識証明まで、さまざまなテクノロジーがあります。テクノロジーは、仮に不信感を高める一因となったとしても、同時に、そのソリューションの一部になることもできるのです。

「トラストスタック」

先に挙げた4つの領域は、「トラストスタック」として捉えることができます。基盤となるのは、ガバナンス体制とリスク管理です。その上に、信頼を構築するテクノロジーと、それらのテクノロジーが可能にするビジネスモデルが重なります。最上位に位置するのがリーダーシップ行動です。これは、トップが組織の姿勢を示すと同時に、組織が外部ステークホルダーとどう向き合うかを形づくります。

トラストスタックの図


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サマリー

NAVIワールドでは、信頼はますます希少になり、その価値は一段と高まっています。この希少な資源に投資するに当たっては、トラストスタックの全ての層(リーダーシップ行動、ビジネスモデル、テクノロジー、ガバナンス・リスク管理・コンプライアンスに関するポリシー)に信頼を最重視する姿勢を浸透させる必要があります。そうすることで、不確実性が高まる世界において、自社のレジリエンスと競争優位を高めることができます。

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