インターネット関連ビジネス 第4回:M&Aの留意点

EY新日本有限責任監査法人 
テクノロジーセクター
公認会計士 木本 勝己/鈴木 将也/渡邉 薫子

1. はじめに

M&Aは事業の多角化や、人的物的資源、顧客・販売網、技術・ノウハウの獲得等を通じて、企業の競争力の維持・強化や企業価値を高めるための重要な経営手法です。

インターネット関連ビジネスを営む企業においてもM&Aは頻繁に行われており、特にサービスラインの拡充や新技術の獲得を目的としたスタートアップ企業のM&Aが多いことが特徴です。こうしたM&Aに関しては、いくつかの重要な留意点があります。

2. 取得時の事業計画の検討

M&Aにおける取得価額は、対象企業の企業価値に基づき決定されます。企業価値の算定方法として代表的なDCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)は、対象企業の事業計画に基づく将来キャッシュ・フローを前提とします。そのため、取得時の事業計画の検討は、企業の取得を適正な価格で行うために不可欠であり、さらに取得後の会計処理を検討する際にも重要な役割を果たします。

(1) 取得原価の配分

企業を取得した場合、取得原価は、識別可能な資産および負債に対して企業結合日の時価を基準に配分し、残余をのれんまたは負ののれんとして計上します(企業結合に関する会計基準第28項及び第98項)。また、譲渡可能な無形資産が含まれる場合には、その資産も識別可能な資産とされます(企業結合に関する会計基準第29項)。なお、「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」において、識別可能な無形資産の例として以下が挙げられています。

「識別可能な無形資産」の例

法律上の権利産業財産権(特許権、実用新案権、商標権、意匠権)、著作権、半導体集積回路配置、商号、営業上の機密事項、植物の新品種等
実態判断により判定ソフトウェア、顧客リスト、特許で保護されていない技術、データベース、研究開発活動の途中段階の成果(最終段階にあるものに限らない。)等

識別可能な資産および負債の時価評価に際しては、実務では観察可能な市場価格がない場合が多く、取得時の事業計画が重要な判断材料となります。また、識別可能な無形資産の識別に関しては、例えば新技術の獲得などM&Aを行う目的・背景も影響し、その時価評価においても取得時の事業計画が重要な判断材料となります。

(2) のれんの償却期間の決定

のれんは、金額に重要性が乏しい場合を除き、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却することとされています(企業結合に関する会計基準第29項)。とりわけ、スタートアップ企業の場合、取得日時点においては赤字、もしくは損益分岐点に近い利益の発生に留まる一方で、将来にわたって成長が見込まれていることから、取得原価に占めるのれんの割合が多いケースも少なくありません。

そのため、のれんの償却期間の決定は重要な論点となりますが、そこでは、取得時に想定した超過収益力の源泉の内容、事業計画に基づき想定する投資の回収期間などを基に決定していくこととなります(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第382項)。また、市場環境や競争環境、企業の競争優位性等と照らして、超過収益力が決定した償却期間に渡って継続するかという検討も必要となります。

(3) 減損の兆候判定

のれん及び識別可能な無形資産についても、他の固定資産と同様に、固定資産の減損に係る会計基準やその適用指針に基づき、減損の兆候がある場合には、減損損失の認識・測定が必要となります。

特に、スタートアップ企業の場合、のれんの金額や償却期間の基礎となる取得時の事業計画が将来の成長を前提としていることが多いため、その計画と比較して事業の進捗が減損の兆候と判断される状況かどうかの判断が重要です。

そのため、事業計画の未達度合いをどの程度で減損の兆候とするかについて、事前に社内で判断基準を策定しておくことが望まれます。なお、未達度合いの把握にあたっては、売上や営業利益といった財務数値だけでなく、事業計画の基礎となる主要なKPIに対する分析も考慮することが考えられます。

なお、個別財務諸表では子会社株式の簿価にのれん相当額が含まれるため、その価値は子会社株式の実質価額の算定にも影響します。このため、のれんの減損兆候の有無は、子会社株式の減損判定においても重要な検討要素となる点に留意が必要です。

(4) 減損損失の認識及び測定

減損損失の認識に係る判定及び認識した場合の減損損失額の算定に利用する使用価値は、将来キャッシュ・フローを基礎としますが、それは企業が策定する中長期計画がベースとなり(固定資産の減損に係る会計基準の適用指針 36項)、通常3~5年程度の期間で策定されるケースが多いです。一方で、スタートアップ企業の場合、のれんの金額の基礎となる取得時の対象企業の事業計画は、より長期の観点での成長を見込んでいるケースが少なくないため、その基礎となる主要なKPIに基づいた、より慎重な検討が必要となります。

3. デューデリジェンスの結果への対応

デューデリジェンスは、M&Aにおける対象企業のリスクや価値を評価する調査であり、買収リスクの低減、適正な買収価格の算定、M&A後の統合プロセスの円滑化を目的に実施されます。各領域で検出された事項は、買収価格を含むM&A取引自体に反映されるものもあれば、M&A後の対応が必要となるものも多くあります。

特に、スタートアップ企業の場合、金融商品取引法に基づく監査が不要であったケースが多く、上場企業として求められる決算財務報告を行うにあたり、以下のような対応が必要となる場合があります。

(1) 決算実務への対応

a. 会計処理の統一
合併による取得の場合は同一企業となるため、子会社となった場合でも同一環境下で行われた同一の性質の取引については、会計処理の統一が求められます(「連結財務諸表原則 第三 一般基準三」)。
なお、子会社の場合には、棚卸資産や有価証券の評価方法や、固定資産の減価償却方法については、必ずしも統一を必要としないものとして示されています(「親子会社間の会計処理の統一に関する監査上の取扱い」)。

b. 決算スケジュールへの対応
上場企業に求められる決算スケジュールへの対応は未経験の会社が多く、M&A前の決算スケジュールの見直し、とりわけ決算早期化への対応が求められるケースが大半です。これに対応するための、人的リソースの確保や効率的な業務フローの構築が求められますが、状況によっては親会社の経理部門が支援するケースも見られます。

(2) 内部統制への対応

スタートアップ企業では、経営者主導で牽制機能が働きにくい組織構造になっているケースや、内部監査部門が未設置、リスク管理体制やITセキュリティ対策が不十分である場合が多く、全社的な内部統制の強化・改善が求められます。

また、成長スピードを重視してきた結果、バックオフィス系のシステム投資、人的投資の確保が追いつかず、業務プロセスに係る統制のデザインが不十分なケースが多いため、内部統制の強化・改善が求められます。


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