英国春季予算案、主要税制の発表を2025年秋季予算に延期

  • 英国の春季予算案が2025年3月26日に発表された。例年、春季予算案では重要な税制改正が発表されていた。
  • 本年の春季予算案では、英国財務相の年間予算(2025年秋予定)を通じてのみ税制改正を実施するという公約通り、重要な税制改正は発表されなかった。
  • ただし、本年の春季予算案では、納税者にとっての税の確実性を高めることに主眼を置いた内容が含まれている。

2025年3月26日、英国の財務相は春季予算案を発表しました。従前の予想通り、春季予算案には、重要な税制改正は含まれていませんでした。しかし、財務相は、春季予算案に関する演説の中で、租税回避に引き続き重点を置くことに言及しました。また、春季予算案の直後に英国の税務当局(英国歳入関税庁:HMRC)が公表したコンサルテーションでは、それらの具体的な措置に関する詳しい情報が含まれているほか、税の確実性をより高める機会についても取り上げられています。加えて、春季予算案それ自体においても、現在検討中の特定の税制分野に関する政府の考え方の概要が示されています。なお、一部で予想されていた英国のデジタルサービス税に関する計画への言及は含まれていません。


税の確実性

大型プロジェクトに対する事前の税の確実性

2024年秋季予算における法人税に関するロードマップの中で、英国の政府は、大型プロジェクトに対して事前に税の確実性を高めるための新たなプロセスについて検討すると発表しました(詳細については2024年10月31日付EY Global Tax Alert「UK Autumn Budget delivers significant tax increases but seeks to plan for the future」および2024年11月15日付EY Japan税務ニュース「英国新政権が秋季予算案を発表、未来を見据え大幅増税へ」をご参照ください)。2025年3月26日に開始されたコンサルテーションでは、「最大級かつ最も革新的な投資プロジェクト」に特化した専用サービスを提供するという提案について意見を募集しています。このサービスは、プロジェクトが計画通りに進行する場合に、税制がどのように適用されるかについて法的な確実性を提供するものとなることが想定されています。コンサルテーションは2025年6月17日まで行われます。

大規模な投資プロジェクトを直接行う事業体は、事前の税の確実性の対象となるものと想定されます。申請時点では英国に拠点を持っていない事業体でも、投資プロジェクトが正式に進行した際に英国に拠点を持つ意向があれば対象となることが想定されます。すでに法人税が課税されているか、将来的に法人税が課税されるようであれば、対象の事業体となるものと想定されます。


研究開発費控除の事前クリアランス

また、政府は、誤りや不正を減らし、企業に確実性を提供し、そして顧客体験を向上させるために、研究開発費控除の事前クリアランスの利用を拡大することについても意見を求めています。コンサルテーションは2025年3月26日に開始され、2025年5月26日まで行われます。

政府は、新しいクリアランス制度を利用できる対象者、利用が義務付けされ得る対象者、申請プロセスのどの段階で制度が適合するか、そして代理人の役割について検討しています。加えて、事前保証システムに関して、明確に定義された特定の請求や企業に焦点を当てたものとする必要があると提案されています。したがって、任意で利用する場合においても、全ての企業が利用できるわけではなく、利用を義務付けられる場合においても、一部の企業のみが義務付けられることが想定されます。

政府は、任意で利用する場合に関して、成長中で高い潜在能力を持つ企業や政府の産業戦略で示されているセクターに焦点を当てることを提案しています。これとは対照的に、利用を義務付ける場合については、セクター、規模、過去のコンプライアンス履歴などの要因に基づき法律で指定した企業に対して適用することを提案しています。


費用分担契約

2024年の法人税ロードマップにおいて、政府は費用分担契約(CCA)における移転価格の取扱いを見直す方針を示しました。CCAとは、知的財産権などの資産を開発する際の費用や便益を分担するための、グループ会社間での契約上の取決めです。

関係者との非公式協議の結果、政府は、現行の法令に基づく事前確認(APA)を通じたCCAの取扱いについて、クリアランスを提供する意向です。政府は、このようなクリアランスを与えるために必要な条件を詳述した最新の実務指針を公表する予定です。政府は、HMRCがAPAを締結するかどうかを決定する要因について、CCAの商業性と、その期間での英国参加者の予想される収益性が要因となる可能性を示唆しています。


その他の税制に関する発表

春季予算案には、以下のような税制に関する政府の見解が、多数含まれています。

  • 居住者性に関する新しい制度が国際的に魅力的なものとなるように、引き続き関係者と協力する。
  • エンタープライズ・マネジメント・インセンティブ制度、エンタープライズ・インベストメント・スキーム、ベンチャーキャピタル・トラスト・スキームなどの税制優遇措置の役割を見直すために、2025年4月に主要な関係者とのラウンドテーブルを開催する。
  • 現金と株式のバランスを適切に取り、貯蓄者により良いリターンをもたらし、個人投資の文化を促進し、政府の「成長ミッション」を支援するような、個人貯蓄口座(ISA)を改革する選択肢を検討する。
  • 2025年春に税制と関税制度を簡素化するための措置をさらに前倒しで導入し、2025年夏にはHMRCが改革ロードマップを公表する。これらの措置を総合的に取ることにより、事務負担を軽減し、企業や個人の納税者が税制や関税の事務に費やす時間を削減する。
  • 政府は、2025年夏にビジネスレート制度(訳注:固定資産税)に関して明確な方向性を示す中間報告書を公表し、さらなる政策の詳細を2025年秋季予算案で発表する。

これとは別に、HMRCは、非上場の有価証券および資本に関する一時的な取引システム(PISCES)、すなわち常時ではなく一時的に未公開会社の株式の流通取引を促進する新しいタイプの株式市場に関連する税務上の諸問題についての解釈を示したテクニカルノートを公表しました。英国財務省(HMT)は、2025年5月にPISCESを実施するための二次的な立法を行う予定です。PISCESでの取引は、2025年後半に開始される見込みです。特定のPISCES株式取引に対する印紙税および印紙税準備金税の免除に関する技術的協議のための法令草案が公表されました。

また、水素を製造するための電気分解に使用される電力代から気候変動税(CCL)のコストを取り除くための最善の立法過程を決定するための意見募集や、CCLのその他の改革に関する意見募集も開始されました。


租税回避の防止に引き続き注力

政府は、以下の4つのコンサルテーションを発表しています。

  1. HMRCが、自動化を推進し税ギャップを縮小するために、第三者データをより活用するための方法:税務行政のためのHMRCの大量のデータ収集権限の下で取得されるデータの質を向上させる機会について(主に銀行、住宅金融組合、加盟店契約会社、およびその他のカード取得サービスプロバイダーを含む金融サービスプロバイダーから)意見を求めています。
  2. 顧客のコンプライアンス違反を助長する税務アドバイザーに対して、HMRCの対抗策を講じる能力を強化する提案
  3. 商品化された租税回避スキームの推進者に対処するための包括的な対抗策のパッケージ
  4. 不正確な申告や通知義務違反に対するHMRCの罰則を簡素化し強化するための方策

また、春季予算案は、情報提供者に新しいHMRCの報奨金制度を設けることに言及しています。この制度は、大企業、富裕層、オフショアの租税回避スキームを含む、重大なコンプライアンス違反を対象として、今年後半に開始される予定です。新制度は、米国とカナダで成功したモデルからヒントを得ており、情報提供者に対して情報提供の結果として徴収できた税金のパーセンテージに連動した報酬を提供するものになることが想定されています。

最後に、政府は、適格所得が2万ポンドを超える個人事業主および家主が2028年4月から所得税確定申告(ITSA)における税務のデジタル化(MTD)の対象となることを確認しました。納税者の期限内納付を促すため、付加価値税(VAT)納税者およびITSA納税者に対する延滞税の罰則は、2025年4月以降、それらの納税者がMTDに参加することに伴い引き上げられます。

お問い合わせ先

EY税理士法人

Ernst & Young Tax Co. (Japan), UK Tax Desk, Tokyo
Richard Johnston EY UK パートナー、EY Japan UK Tax Desk リーダー
Rebecca McKavanagh シニアマネージャー
野々村 昌樹 シニアマネージャー

Ernst & Young LLP (United Kingdom), London
Jo Stobbs パートナー

※所属・役職は記事公開当時のものです