英国歳入関税庁、費用分担契約の税の確実性向上に向けユニラテラルAPAを導入

  • 2025年3月26日の英国春季予算案に併せ、英国歳入関税庁(HMRC)は、納税者が費用分担契約(CCA)の認識に関して確実性を得るための手段として、英国の事前確認制度(APA)を通じ、ユニラテラル事前確認(ユニラテラル APA)を申請できるようになると発表した。
  • HMRCは現在、ユニラテラルAPAに必要な条件および重要な前提条件を詳述した実務指針を策定中であり、2025年晩春までの公表を予定している。
  • この施策は、英国政府が2024年秋季予算案発表の際に表明した、「CCAの移転価格税制上の取り扱いを見直す」としたコミットメントを具体化するものである。


エクゼクティブサマリー

2025年3月26日、英国政府は(財務省を通じて)、大規模投資プロジェクトに対し、事前に税の確実性を提供するプロセスの開発に関する正式なコンサルテーションを開始しました。この協議は12週間実施され、2025年6月17日に終了する予定です。

コンサルテーション文書の第5章では、現行の法令下でのAPAを通じた、CCAの税務上の取り扱いに関する事前合意のプロセスを開始することが発表されました。APAに関連するプロセスや条件の詳細は、実務指針によって最終化され、HMRCは2025年晩春までの公表を見込んでいます。関係者との非公式協議において、HMRCはすでに見解の方向性を示唆しており、実務指針の最終決定前に先立ち、利害関係者とのさらなる協議を検討しているようです。

近年、無形資産の共同開発に関するCCAの税務上の取り扱いについて、HMRCと納税者との間で見解の相違が生じています。具体的には、一部のケースにおいて、HMRCの主張は、英国のCCA参加企業が参加者としての要件を満たしておらず、その結果、当該参加企業によるCCAへの支払いは損金算入が認められず、関連資産に対する権利も有しないというものでした。このような背景の下、これらの取り決めに関する税務上および会計上の取り扱いに不確実性が生じていました。

これに対応し、また2024年秋季予算案で表明された「納税者の税の確実性向上のために、CCAの移転価格税制上の取り扱いを見直す」という英国政府のコミットメントに基づき、HMRCはユニラテラルAPAを通じた、CCAの税務上の取り扱いに関する事前合意のプロセスを表明しました。重要な点として、HMRCは将来期間のみならず、遡及期間(現在調査中の期間を含む)にも、APAプログラムを適用してCCAを検討する姿勢を示しているということです。


費用分担契約(CCA)とは?

CCAとは、グループ会社間での契約上の取り決めで、知的財産などの共有資産の開発に関連する費用や便益の分担を円滑にするものです。

CCAの取り扱いに関するガイダンスは、経済協力開発機構(OECD)移転価格ガイドライン(OECDガイドライン)の第8章に記載されています。また、国内税法にCCAに関する特定の規則を設けている場合もあり、特に米国財務省規則26 CFR セクション1.482-7が代表的です。

近年、一部のCCAについてはHMRCと納税者の間で見解の相違が生じており、HMRCは、英国企業がOECDガイドライン第8章に規定される適格なCCA参加者としての条件を満たしていないと判断するケースがありました。これらの事例において、HMRCは、税務上、英国法人はCCAの参加者として認められるべきではなく、資産開発の費用を分担しておらず、そこから生じる便益を享受する権利も有しないものとして取り扱うべきだと主張してきました。このような状況では、関係する他国の税務当局がHMRCと異なる見解を示す場合、二重課税のリスクが発生します。

英国政府は、CCAをめぐるOECDガイドラインの複雑性とさまざまな解釈を認識し、対内投資の保護、税の確実性の向上、二重課税の解消が困難となる可能性があると認識している技術的な分野への対処を目的としたアプローチを模索してきました。


APA申請

CCAの取り扱いについて一層の確実性を提供するため、HMRCはユニラテラルAPAを通じて事前合意を提供する意向です。このような合意により、HMRCと納税者の間でCCAの取り決めの取り扱いと認識に関する共通の枠組みが確立され、移転価格調整に伴う二重課税のリスクを軽減することを目指しています。この種のユニラテラルAPAは、取引の価格設定ではなくCCAの適格性の認識を主眼とするため、通常のAPA交渉よりも手続きが大幅に短縮されると期待されます。

HMRCは、CCAに関するユニラテラルAPAを締結するために必要な条件を詳述した最新の実務指針を2025年春季に公表する予定です。承認にあたっての重要な考慮事項には、CCAの商業的合理性および契約期間中の英国参加者の予想収益性が含まれます。

英国政府は、税務申告書がすでに提出されている期間についても、CCAの取り扱いについて明確性を提供することの重要性を認識しています。そのため、CCAに関するAPAは遡及的な適用も合意される可能性があり、企業は現行の取り決めの納税義務に関する既存の潜在的不確実性に対処することができます。これは現在HMRCにより税務調査が行われているCCAに対しても適用される可能性があります。


このような状況は企業にとって何を意味するのか

HMRCによるCCAの取り扱いが明確化される見通しとなったことで、企業が英国で費用分担型の無形資産の開発を検討する後押しとなる可能性があります。すでにCCAを締結している、または検討中の企業には、CCAの税務上の取り扱いに関する確実性を得るために、ユニラテラルAPAの申請の検討が推奨されます。また、現在調査対象となっているCCAを有する企業には、調査の早期解決、将来および過去の期間のCCAの課税について確実性を得るために、ユニラテラルAPAの申請を検討することが推奨されます。

なお、納税者はAPAに関する実務指針の今後の変更を引き続き注視する必要があります。これによりAPAの下でCCAに期待できる税務上の取り扱いが明確になることも考えられます。

CCA向けのAPAの段取り自体は今回のコンサルテーションの手続きの一部ではありませんが、提案されている措置が税の確実性向上に向けてどのように調整できるかについてフィードバックを提供する機会はまだあります。CCAを通じて英国への投資を検討している企業は、CCAの課税に関して英国納税者に確実性の向上を提供するHMRCのアプローチについて、HMRCに自らの見解を提案することが可能です。

お問い合わせ先

EY税理士法人

Ernst & Young Tax Co. (Japan), UK Tax Desk, Tokyo
Richard Johnston EY UK パートナー、EY Japan UK Tax Desk リーダー
Rebecca McKavanagh シニアマネージャー
野々村 昌樹 シニアマネージャー

Ernst & Young LLP (United Kingdom), London
平井 恵理子 パートナー
相澤 州平 シニアマネージャー
伊藤 伸彦 シニアマネージャー
Jo Stobbs パートナー

※所属・役職は記事公開当時のものです