サーキュラーエコノミーの新指標 GCP v1.0が企業にもたらす3つの効果(実務編)

ISSBの生物多様性、生態系及び生態系サービスの開示基準導入と、自然関連開示の義務化の可能性を見据えて、企業が今できるTNFD開示


ISSBの自然関連開示基準導入によって、SSBJの適用が求められる日本企業においては、自然関連の義務開示が求められる可能性があることを考慮すると、任意開示の段階でTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)に基づく開示を開始することが準備の第一歩となり得ます。


要点

  • TNFDを活用したISSB の生物多様性、生態系及び生態系サービスの基準(2026年10月〈COP17〉に公開草案が発表される予定)は、いずれSSBJ基準に導入され、自然関連情報の義務開示が求められる可能性がある。
  • 国際動向や開示規制動向、投資家からの要望に応える報告体制を整えるため、日本企業はまず任意開示であるうちに、TNFDを用いた開示から始めることが望ましい。

1. 国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が生物多様性、生態系、及び生態系サービス(BEES)の国際基準開発を進めることを決定

1.1. ISSBの生物多様性、生態系、及び生態系サービス(BEES)基準開発が持つ意義

投資家から企業に対する「生物多様性、生態系、及び生態系サービス(以下BEESと略す)」の情報開示の需要が増加しており、これに応えるため、国際サステナビリティ基準審議会(以下ISSBと略す)は、BEES関連のリスクと機会に関する国際的な開示基準を開発することを決定しました。これを受けて、いずれSSBJ基準にもBEES関連の基準が導入されると想定され、将来的には対象企業に対する自然関連情報の開示の義務化が考えられます。すでに自然関連財務情報開示タスクフォースの提言に沿った任意開示を行う企業は世界中で増加していますが、情報収集、準備、分析には時間もかかるため、早期の準備が必要となります。

本記事では、ISSBのBEES基準の特徴や開発状況と、これからさらに需要が高まるBEES関連の情報開示について解説します。

1.2. 「生物多様性、生態系、及び生態系サービス(BEES)」と「自然(Nature)」の関連性、および開示が企業に求められる背景

企業のビジネス活動は、自然資本に大きく依存、影響しており、The Taskforce on Nature-related Financial Disclosures(以下TNFDと略す)においてはこの自然資本との関わりを分析することで、ビジネスにおけるリスクと機会を把握し、開示することを推奨しています。この自然資本に強靭性を与え、持続可能性をもって供給可能にしているのが生物多様性、生態系、及び生態系サービス(BEES)となります。つまり、ビジネス活動が必要とする自然資本はBEESが基盤となって成立するため、BEESとビジネス活動との関係性(依存・影響)を正しく分析、理解することができれば、自然関連のリスクを回避することができ、同時にビジネス機会も獲得できることになります。当然、企業の自然関連のリスクと機会は、企業のビジネス全体の見通しにも影響を与えることから、投資家の投資判断にとって重要な情報ともなります。

TNFDに沿って分析をすることは企業とBEESとの関係性を分析していることを意味し、そのように自然関連情報の任意開示を開始すると表明した組織は、2025年11月7日の時点ですでに733となっています。これはBEES関連の分析を通して自然関連情報開示を実施、検討する組織が増加していることを表しています。

2. 国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)のBEES基準の解説

2.1. ISSBのBEES基準の現時点での内容の想定

ISSBのBEES基準の内容について、2025年11月6日に開催されたISSBの会議で下記が決定されました。

  • サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項(以下IFRS S1と略す)の要件を基にする予定
  • ISSBのBEES基準の開発にTNFDフレームワークを活用する予定
  • ISSBは、TNFDフレームワークが、すでにBEES関連の課題をカバーしているIFRS S1に基づいていることを確認
  • ISSBのBEES基準を補足する教育的資料には、必要に応じてTNFDの推奨事項やLEAP(Locate, Evaluate, Assess, Prepare)アプローチを活用する予定

また、ISSB ChairのEmmanuel Faber氏は、企業に対してIFRS S1への準拠と将来のISSBのBEES基準への準備のために、TNFDフレームワークを引き続き使用することを推奨すると発言しています。

2.2. ISSBのBEES基準の開発のタイムライン

ISSBのBEES基準は、下記のようなタイムラインで開発されてきており、今後の予定も発表されています。

  • 2024年4月 :ISSBがBEESに関する研究プロジェクトを作業計画として追加
  • 2025年10月 : BEESに関する研究プロジェクトスタッフの報告を基に議論し、ISSBはISSB BEES基準の作成方針としてTNFDフレームワークを活用し、IFRS S1をベースとすることで11人中10人のISSBメンバーの賛同を獲得し、その旨合意(1名欠席)
  • 2026年10月 :COP17に向けてISSBはISSB BEES基準公開草案を準備する予定

2.3. ISSBのBEES基準開発に伴うTNFDの動向

TNFDは、ISSBがBEES関連の基準の開発を進める中で、技術的な支援を継続することを示しています。2025年11月7日のISSBの発表を踏まえ、TNFDは追加のセクターガイダンスの開発を含むすべての技術的作業を2026年のQ3までに完了する予定です。その後はTNFDに関する作業を一時的に停止し、ISSBへの技術的な支援に注力する予定です。

加えて、TNFDは2025年11月7日の記事にて、IFRS S1やTNFDフレームワークに準拠した開示が、ISSB基準に基づく現在及び将来の法律で義務的に要求される開示に備えるのにも役立つことを示唆しております。つまり、TNFDの開示提言やLEAPアプローチは、BEES関連の国際基準にも大きく影響を与え、任意開示の域にとどまらない形で活用されていくと考えられます。

3. ISSBのBEES基準に対する日本のサステナビリティ基準委員会(SSBJ)の言及

3.1. サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の概要

サステナビリティ基準委員会(以下SSBJと略す)は、ISSBが設立されたことを受け、日本におけるサステナビリティ開示基準を開発することを主目的として設立されました。日本基準を、包括的なグローバル・ベースラインとされるIFRSサステナビリティ開示基準の内容と整合性のあるものとすることが、SSBJの方針となっています。

3.2. SSBJ基準の導入時期

SSBJ基準は、サステナビリティ開示ユニバーサル基準「サステナビリティ開示基準の適用」、サステナビリティ開示テーマ別基準第1号「一般開示基準」、サステナビリティ開示テーマ別基準第2号「気候関連開示基準」の3つが2025年3月に公表されており、2027年3月期より、プライム上場で時価総額3兆円以上の企業から順次適用義務化が開始される想定となっています。

ただし、現段階でのSSBJ基準は上述(1章、2章)のBEES関連や自然関連の基準はまだ含まれておりません。

3.3. サステナビリティ基準委員会(SSBJ)のISSB BEES基準への言及

2025年11月末時点において、ISSB BEES基準がSSBJ基準として将来的に採用されるか否かについての明確な情報はありません。

しかし、2025年6月2日にサステナビリティ基準委員会が公表した中期運営方針では、今後、ISSB により ISSB 基準が新規に開発されるか既存の基準が改訂された場合、SSBJ 基準を適用した結果として開示される情報が、国際的な基準を適用した結果として開示される情報との比較可能性を大きく損なわせないものとなる状態を維持するため、SSBJ 基準における取扱いについて、可及的速やかに検討を開始することとしています。

SSBJの方針を踏まえると、SSBJ基準へのBEESや自然関連開示の議論はこれからではあるものの、今後もSSBJは、新規に開発されるIFRSサステナビリティ開示基準の内容と整合性のある基準導入を実施していくことが想定されます。

4. まとめ

一部の日本企業は、すでに有価証券報告書等における企業のサステナビリティ情報・気候変動関連情報のSSBJ基準に沿った義務的開示に直面しており、対象となる企業の範囲は徐々に広まっていきます。また、今回のISSBの発表を受けて将来的に自然関連情報の開示の義務化も可能性が出てきました。

すでにTNFD対応を始めている企業においても、情報収集と分析に時間がかかっており、すぐに準備ができるものでもないため、BEES関連の基準がSSBJ基準に導入された後では時間的に間に合わない可能性もあります。いずれ来るかもしれない自然関連情報開示の義務化に備えるためにも、時間的余裕のあるうちに開示義務化の対象となり得る日本企業はまず任意開示であるTNFD対応から始め、情報収集、分析を含めた事前準備を始めることが望ましいと考えられます。

われわれEYの気候変動・サステナビリティサービス(CCaSS)では、LEAP分析からTNFD開示まで一貫したご支援を提供することが可能です。加えて、ISSB/SSBJ等の規制開示についても高い専門性を有し、将来的なサステナビリティ保証の義務化も見据えてサステナビリティ保証チームやグローバルチームとも連携し、自然関連の重大なリスク・機会を開示するTNFD開示のご支援も可能です。ぜひお気軽にご相談ください。

【共同執筆者】

大宮 萌(Haruki Omiya)

EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部(気候変動・サステナビリティ・サービス)
シニアコンサルタント

2023年にEY新日本有限責任監査法人に入社し、CSRDやTNFD、SSBJ等のサステナビリティ開示支援や動向調査など幅広い業務に従事。
EY入社前は、化学・薬系企業において治験業務の経験を有する。


サマリー 

ISSB の生物多様性と生態系、生態系サービス関連の基準開発の方向性が明らかになったことで、国際基準への準拠への準備という意味でもTNFDへの取り組みの重要性が増しています。


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    この記事について

    執筆者


    EY Japan Assurance Hub

    時代とともに進化する財務・経理に携わり、財務情報のみならず、サステナビリティ情報も統合し、企業の持続的成長のかじ取りに貢献するバリュークリエーターの皆さまにお届けする情報ページ