EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
投資家から企業に対する「生物多様性、生態系、及び生態系サービス(以下BEESと略す)」の情報開示の需要が増加しており、これに応えるため、国際サステナビリティ基準審議会(以下ISSBと略す)は、BEES関連のリスクと機会に関する国際的な開示基準を開発することを決定しました。これを受けて、いずれSSBJ基準にもBEES関連の基準が導入されると想定され、将来的には対象企業に対する自然関連情報の開示の義務化が考えられます。すでに自然関連財務情報開示タスクフォースの提言に沿った任意開示を行う企業は世界中で増加していますが、情報収集、準備、分析には時間もかかるため、早期の準備が必要となります。
本記事では、ISSBのBEES基準の特徴や開発状況と、これからさらに需要が高まるBEES関連の情報開示について解説します。
企業のビジネス活動は、自然資本に大きく依存、影響しており、The Taskforce on Nature-related Financial Disclosures(以下TNFDと略す)においてはこの自然資本との関わりを分析することで、ビジネスにおけるリスクと機会を把握し、開示することを推奨しています。この自然資本に強靭性を与え、持続可能性をもって供給可能にしているのが生物多様性、生態系、及び生態系サービス(BEES)となります。つまり、ビジネス活動が必要とする自然資本はBEESが基盤となって成立するため、BEESとビジネス活動との関係性(依存・影響)を正しく分析、理解することができれば、自然関連のリスクを回避することができ、同時にビジネス機会も獲得できることになります。当然、企業の自然関連のリスクと機会は、企業のビジネス全体の見通しにも影響を与えることから、投資家の投資判断にとって重要な情報ともなります。
TNFDに沿って分析をすることは企業とBEESとの関係性を分析していることを意味し、そのように自然関連情報の任意開示を開始すると表明した組織は、2025年11月7日の時点ですでに733となっています。これはBEES関連の分析を通して自然関連情報開示を実施、検討する組織が増加していることを表しています。
ISSBのBEES基準の内容について、2025年11月6日に開催されたISSBの会議で下記が決定されました。
また、ISSB ChairのEmmanuel Faber氏は、企業に対してIFRS S1への準拠と将来のISSBのBEES基準への準備のために、TNFDフレームワークを引き続き使用することを推奨すると発言しています。
ISSBのBEES基準は、下記のようなタイムラインで開発されてきており、今後の予定も発表されています。
TNFDは、ISSBがBEES関連の基準の開発を進める中で、技術的な支援を継続することを示しています。2025年11月7日のISSBの発表を踏まえ、TNFDは追加のセクターガイダンスの開発を含むすべての技術的作業を2026年のQ3までに完了する予定です。その後はTNFDに関する作業を一時的に停止し、ISSBへの技術的な支援に注力する予定です。
加えて、TNFDは2025年11月7日の記事にて、IFRS S1やTNFDフレームワークに準拠した開示が、ISSB基準に基づく現在及び将来の法律で義務的に要求される開示に備えるのにも役立つことを示唆しております。つまり、TNFDの開示提言やLEAPアプローチは、BEES関連の国際基準にも大きく影響を与え、任意開示の域にとどまらない形で活用されていくと考えられます。
サステナビリティ基準委員会(以下SSBJと略す)は、ISSBが設立されたことを受け、日本におけるサステナビリティ開示基準を開発することを主目的として設立されました。日本基準を、包括的なグローバル・ベースラインとされるIFRSサステナビリティ開示基準の内容と整合性のあるものとすることが、SSBJの方針となっています。
SSBJ基準は、サステナビリティ開示ユニバーサル基準「サステナビリティ開示基準の適用」、サステナビリティ開示テーマ別基準第1号「一般開示基準」、サステナビリティ開示テーマ別基準第2号「気候関連開示基準」の3つが2025年3月に公表されており、2027年3月期より、プライム上場で時価総額3兆円以上の企業から順次適用義務化が開始される想定となっています。
ただし、現段階でのSSBJ基準は上述(1章、2章)のBEES関連や自然関連の基準はまだ含まれておりません。
2025年11月末時点において、ISSB BEES基準がSSBJ基準として将来的に採用されるか否かについての明確な情報はありません。
しかし、2025年6月2日にサステナビリティ基準委員会が公表した中期運営方針では、今後、ISSB により ISSB 基準が新規に開発されるか既存の基準が改訂された場合、SSBJ 基準を適用した結果として開示される情報が、国際的な基準を適用した結果として開示される情報との比較可能性を大きく損なわせないものとなる状態を維持するため、SSBJ 基準における取扱いについて、可及的速やかに検討を開始することとしています。
SSBJの方針を踏まえると、SSBJ基準へのBEESや自然関連開示の議論はこれからではあるものの、今後もSSBJは、新規に開発されるIFRSサステナビリティ開示基準の内容と整合性のある基準導入を実施していくことが想定されます。
一部の日本企業は、すでに有価証券報告書等における企業のサステナビリティ情報・気候変動関連情報のSSBJ基準に沿った義務的開示に直面しており、対象となる企業の範囲は徐々に広まっていきます。また、今回のISSBの発表を受けて将来的に自然関連情報の開示の義務化も可能性が出てきました。
すでにTNFD対応を始めている企業においても、情報収集と分析に時間がかかっており、すぐに準備ができるものでもないため、BEES関連の基準がSSBJ基準に導入された後では時間的に間に合わない可能性もあります。いずれ来るかもしれない自然関連情報開示の義務化に備えるためにも、時間的余裕のあるうちに開示義務化の対象となり得る日本企業はまず任意開示であるTNFD対応から始め、情報収集、分析を含めた事前準備を始めることが望ましいと考えられます。
われわれEYの気候変動・サステナビリティサービス(CCaSS)では、LEAP分析からTNFD開示まで一貫したご支援を提供することが可能です。加えて、ISSB/SSBJ等の規制開示についても高い専門性を有し、将来的なサステナビリティ保証の義務化も見据えてサステナビリティ保証チームやグローバルチームとも連携し、自然関連の重大なリスク・機会を開示するTNFD開示のご支援も可能です。ぜひお気軽にご相談ください。
参考文献
ISSB welcomes TNFD's support as it advances nature-related disclosures, ISSB, 2025(2025年11月27日アクセス)
TNFD welcomes ISSB decision on nature-related standard setting drawing on TNFD framework as adoption crosses 730 organisations and USD 22 trillion in AUM, TNFD, 2025(2025年11月27日アクセス)
IFRS Sustainability, Biodiversity, Ecosystems and Ecosystem Services, ISSB, 2025(2025年11月25日アクセス)
IFRS Sustainability_ Staff paper_Agenda reference 3_Research Project – Biodiversity, ecosystems and ecosystem services_November 2025, ISSB, 2025(2025年11月27日アクセス)
IFRS Sustainability_ Staff paper_Agenda reference 3_Research Project – Biodiversity, ecosystems and ecosystem services_May 2025, ISSB, 2025(2025年11月27日アクセス)
サステナビリティ基準委員会(SSBJ), SSBJ, 2025(2025年11月26日アクセス)
ISSB公開草案「『SASBスタンダード』の修正案」及び「『IFRS S2号の適用に関する産業別ガイダンス』の修正案」への対応, SSBJ, 2025(2025年11月26日アクセス)
金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」(第8回)議事次第_資料2_サステナビリティ開示基準及び保証制度に係るロードマップ(案), 金融庁, 2025(2025年11月27日アクセス)
中期運営方針, SSBJ, 2025(2025年12月16日アクセス)
【共同執筆者】
大宮 萌(Haruki Omiya)
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部(気候変動・サステナビリティ・サービス)
シニアコンサルタント
2023年にEY新日本有限責任監査法人に入社し、CSRDやTNFD、SSBJ等のサステナビリティ開示支援や動向調査など幅広い業務に従事。
EY入社前は、化学・薬系企業において治験業務の経験を有する。
ISSB の生物多様性と生態系、生態系サービス関連の基準開発の方向性が明らかになったことで、国際基準への準拠への準備という意味でもTNFDへの取り組みの重要性が増しています。
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