広がる防衛産業市場 民間企業の持つ技術や製品で国を守る新時代到来

広がる防衛産業市場 民間企業の持つ技術や製品で国を守る新時代到来


世界情勢の緊張が高まる中で、これまで以上に自国の平和と安全を、自らの責任で確保することが求められる時代に入った。従来の軍事的な脅威以外に、外部からの脅威として、経済や社会を混乱させる認知戦(情報戦)、サイバーリスクが増しており、国の安全を守るためにも防衛の視点がこれまで以上に重視され始めている。

EYストラテジー・アンド・コンサルティングは、経済安全保障や地政学リスクの観点から、自社の技術を生かして国を守るために何ができるのかを考え、防衛関連市場で技術や製品を応用しようとする企業を支援する。内容や狙いについて、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジック・インパクト パートナー 矢部壮一郎氏に話を聞いた。

(注)この記事は、日刊工業新聞2026年6月5日の掲載内容を引用しています



防衛関連企業以外の民間企業も参入。抑止効果を高める新しい防衛策「拒否的抑止」

―防衛産業が最近、注目し直されています。

日本では、米中関係や台湾情勢など国外で起きている事象に加え、北朝鮮や中国からの日本に対する威圧などにより、安全保障を考え直す場面が増え、防衛への意識が高まっています。こうした状況の下、日本も防衛力増強に舵を切り、26年度の防衛予算は9兆円を超え、過去最高になりました。政府は、「防衛産業」を17戦略投資分野の一つに位置づけています。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジック インパクト パートナー 矢部 壮一郎

―防衛産業の普及における新たな視点で、「拒否的抑止」を唱えていますね。

防衛力強化のためには、単に脅威から身を守るだけではなく、それ以前に標的にされないようにする、つまり仮に介入を試みたとしても、守りが堅く対応が困難であると認識させ、行動を思いとどまらせる「拒否的抑止」の戦略も必要です。相手を思いとどまらせる可能性があるものは、戦闘機や核ミサイルといった大型の防衛システムだけではありません。現代ではサイバーアタックや認知戦が多用されており、たとえば主要空港や発電所が標的にされて使用不能だ、などと偽情報を流して相手国を混乱させようとする動きが想定されます。そうした時に、国民が日頃から防衛に関する教育や訓練といったサービスを受けていれば、非常時に動じることなく冷静に行動できるほか、発電所が機能停止した場合でも自家発電により生活を継続できるなど、身近な製品やサービスをいわば防衛装備品化させることも大きな抑止力があるでしょう。「日本は標的にしにくい国だ」と思わせることが防衛に貢献し、ひいては経済・企業活動を守ることにもつながります。抑止につながる製品やサービスを提供するのは重工メーカーばかりではありません。身を守る服の分野ではファッション産業が関係するほか、有害物質の除去に関しては空調、フィルター業界が関係する場合もあるでしょう。このように、これまでは防衛産業と関わりのなかった企業においても、今後、防衛産業に参画することが増えると見込んでいます。「拒否的抑止」の発展は、企業の経済活動の安定化にも寄与しながら、防衛につながるという意味で自社製品をこれまでとは異なる角度で活用することで、さらに新しい市場を開拓できるチャンスが広がっていると解釈できます。

拒否的抑止の着想を加えたイノベーション創出支援サービス

拒否的抑止の着想を加えたイノベーション創出支援サービス

防衛力強化に伴うスタートアップ支援拡大

―防衛産業と言うと大手重工企業のイメージが強いですが、最近は新興企業やスタートアップも注目されているようですね。

ウクライナ情勢では、数十億円する航空機やミサイルに代わり、数十万円レベルの安価な攻撃用ドローンが大量投入されたり、事前にサイバーアタックが行われたりするなど、脅威の方向性が変わりました。それに伴い、防衛用ドローンやAIを活用したサイバー防御など、現代の手法に合わせた防衛力強化の重要性が増しています。このような先端防衛技術は、必ずしも防衛目的で開発されたものではなく、民間市場で発展してきた技術が防衛分野へ応用されています。こうした技術の発展は、防衛スタートアップ(防衛テック)による貢献が大きいと言えます。新技術の急速な発展と地政学的リスクの高まりが、タイミング的にクロスしたことにより、世界の投資資金が流入し、防衛テック関連分野への投資は2025年に約500億米ドル規模に達したともいわれ、前年から大幅な伸びが見られます。日本でも防衛スタートアップの支援が防衛省、経済産業省のタイアップで進められており、23年には両省による推進組織が発足。官庁、スタートアップに加えベンチャーキャピタルなどを巻き込み、防衛分野と民生分野を相互に活用するデュアルユースやスタートアップ・エコシステムの形成を目指し、活動が進んでいます。防衛産業は、単に日本の防衛力に貢献するだけでなく、新規の投資分野という点でも期待が高まっていると言えます。

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EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジック インパクト パートナー 矢部 壮一郎

企業が自ら提案することで、新たな市場開拓につながる

―防衛のための技術や製品の応用において、求められることは何でしょうか。

従来、防衛産業への参入は、障壁が高いと言われてきました。応札するまでの資格の取得や防衛産業独特のセキュリティー対応、加えて契約手続きの複雑さや代金支払いまでの期間が長いため資金繰りが難しく、企業が参入しづらい状態でした。しかし今、ウクライナなどの最前線では、スタートアップが提案する開発技術を迅速に装備品化している例が目立ちます。製品コンセプトの設計からプロトタイプの実運用までをわずか数週間で行っているケースもあります。日本でも、スタートアップが持ち込む新技術の提案をベースに防衛関連企業が実証を行い、早期量産を可能にする新たな高速装備化バリューチェーンが求められ始めていると言えます。従来の「防衛省の受注待ち」の時代から、企業が防衛省や自衛隊に提案する新時代に入ったということです。さらに、投資家が関与することで成立する防衛スタートアップ・エコシステムは、防衛産業の構造を転換する起爆剤となる可能性を持っているのです。

ミッションドリブンの技術提案は、ハイスピードな装備化を実現していくにあたり、従来型の開発プロセスに代わる標準的アプローチとなりうる

ミッションドリブンの技術提案は、ハイスピードな装備化を実現していくにあたり、従来型の開発プロセスに代わる標準的アプローチとなりうる

―企業から提案する時代ですね。政府にも企業側にも、新たなやり方や視点が求められそうです。

EYストラテジー・アンド・コンサルティングでは、軍事力だけが防衛力ではないという考え方のもと、日本の安全・安心を意識し、それに寄与できる社会を目指して政府や企業への支援を手がけています。経済安全保障の視点からの経営リスクアセスメント、防衛関連事業へ参入する際の戦略立案、拒否的抑止の着想を加えたイノベーション創出などの経営アジェンダに対し、在籍する幅広い領域の専門家が伴走支援します。防衛スタートアップ・エコシステムの構築に向け、技術研究から政策、資金に至るまで各領域におけるプレイヤーの交流促進も支援しています。防衛装備品の輸出に関する制度の見直しが進み、今後は国内だけでなく友好国など海外にも製品や部品、技術を輸出できる可能性が広がります。今、防衛市場は世界的に拡大しています。当社として、こうした分野に取り組みたい企業のサポートを積極的に行っていきたいと考えています。




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サマリー 

防衛市場の拡大を背景に、重工メーカーだけでなくスタートアップや一般企業にも防衛分野への参入機会が広がっています。AIやドローン、サイバー対策など民間技術の活用や、抑止効果を高める新しい防衛策「拒否的抑止」の考え方を通じて、安全保障と新たな事業機会の両立が期待されます。



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