平林は、「AIやテクノロジーの進展によって利便性が高まり、意思決定が容易になる一方で、人間は不確実性や偶発性を求めているので、ツーリズムでアナログ回帰が進むのではないか」、また「旅行者、地域、DMO(観光地域づくり法人)、既存の関連事業者がこれらのトレンドからどのような影響を受けるのか、新たな人の移動パターンが生まれることでどのような新しいビジネスチャンスが到来するのかを整理し、7つのトレンドにひもづく25のシナリオを掲載している」と述べました。
AI時代でも旅への欲求は止まらない。世界情勢の変化にどう応えるか
続いて、各トレンドの概要について個別に解説しました。
① グローバリゼーションの行方
「世界では、国境が本当になくなるかのようにヒトやモノの移動がシームレスになっていく一方で、リージョナリズム(地域主義)も進んでいます。分断が加速することで『自国優先主義』に回帰していくシナリオも考えられます」と説明します。
一方で、紛争リスクや分断による旅行コストの上昇があったとしても、「情報の流通は分断されず、人々の旅への欲求は止められない」と指摘しました。
② 人口動態・経済構造の変化
世界では高齢化社会と人口増加が同時多発的に起こっていることに伴い、アクティブシニア層や、「グローバルサウス」と呼ばれるインドやアフリカなどの新たな中間層の出現が注目されています。このマーケットをどう捉えるかが重要になると述べました。
③ AIの進化と社会実装
SEO(検索エンジン最適化)が主流だったマーケティングは、AIO(AI最適化)やGEO(生成エンジン最適化)へと早晩に大きく変化していくと予測します。平林は「今後は自律型で業務を遂行するAIエージェントなどによる既存のビジネスモデルの変革が起こるでしょう。ユーザーエクスペリエンスも劇的に変わっていきます」と語りました。こうした変化を前提に、人々の思考や行動がどう変わり、私たちはどう対応すべきかが問われるとしています。
また、生成AIを介した情報流通が主流となっても、AIが価値を提供するためにはデータへのアクセスが不可欠です。
「そのベースとなる一次データをもっているのは地域や事業者。そのデータがオープンではなく、なかなか手に入りづらい場合、データの価値そのものが上がっていきます」(平林)
この価値を踏まえて、AIの一次データアクセスを前提としたデータ提供・連携の仕組み作りなども、今後の方向性の一つと考えられます。
④ テクノロジーによる体験価値の変化
例えば、人間拡張技術の進展により、身体的な衰えを補うことで「旅を続けられる寿命」が伸びる結果、三世代で楽しむようなマルチジェネレーション型の旅行が増えていくなど、AI以外のテクノロジーが与える影響について説明しました。
⑤ サステナビリティからリ・ジェネレーションへ
サステナビリティの重要性は理解されているものの、“自分ごと化”が難しく、自らがサステナビリティに取り組むのが難しいという課題があります。平林は、「“自分ごと化”が進むことで、旅を通じて地域にどう貢献し、ポジティブなインパクトを与えられるかという行動変容が起きていくだろう」と説明しました。さらに、フードロスなどの課題を背景にサーキュラーエコノミーが浸透し、サーキュラーツーリズムという循環型の観光モデルがさまざまなステークホルダーを巻き込んで広がりつつあると述べました。
⑥ 日本のソフトパワーの活用
配信チャネルの拡大により、日本のアニメや音楽が世界に広がり、アニメを通じた日本の文化の浸透、音楽を通じた日本語の理解、そうした浸透による、「世界の日本化」が進んでいると指摘しました。また、日本各地が持つ最大の資産ともいえるウェルネスやウェルビーイングの価値が今後どのように変化していくかにも注目が集まると述べました。
⑦ 価値観の変化とアナログ回帰
AIによる便利さが極まる一方で、「不確実性や偶発性が旅の醍醐味(だいごみ)」であり、「旅はアナログ回帰するのではないか」と予測。
「最近はライブツーリズムという言葉もあり、例えば野球の試合やコンサートなど毎回全く同じものにはならないエンターテインメント、その時だけしか体験できない状況・偶然性に人々の興味・関心が移ってきています」(平林)
最後に「7つのトレンドを踏まえると、10年後は今までとは全く違う世界観が生まれ、ツーリズム市場の地殻変動が起こる」と述べ、「このチャンスをどう捉え、経済成長のエンジンにしていくかが問われています」とまとめました。