クロスボーダー上場シリーズ 第7回:会計論点におけるSECスタッフからのコメントの傾向

情報センサー2026年3月 FAAS

クロスボーダー上場シリーズ 第7回:会計論点におけるSECスタッフからのコメントの傾向


米国上場を目指す場合、登録届出書類を作成し、SECに提出、SECスタッフからのコメントバックに回答することを繰り返して最終的に米国上場が承認されます。コメントへの対応をスムーズに進めていくためには、SECコメントの傾向を理解して、事前に対策を講じることが非常に重要となります。


本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 FAAS事業部 公認会計士 數田 成彦

入社後、主に、米国会計基準適用会社の会計監査に携わる。2012年より、東京事務所の財務会計アドバイザリーサービスに所属し、クロスボーダー上場支援、IFRS導入支援などに従事している。


要点

  • 米国上場を目指す場合、作成・提出された登録届出書類に対して、財務情報や非財務情報に関するSECスタッフのコメントを受領することになる。
  • 財務情報において、コメントが多い項目はセグメント報告、収益認識である。
  • SECコメント対応をスムーズに進める上で、コメントの傾向を理解して、対策を準備しておくことが重要である。

Ⅰ はじめに

クロスボーダー上場シリーズ第7回は、「第6回:SECコメントの事例分析と実務上のポイント」に続き、会計論点に焦点を当てて、米国証券取引委員会(Securities and Exchange Commission:SEC)スタッフからのコメントの傾向を解説します。

シリーズ各回の記事はこちらからご覧いただけます。

クロスボーダー上場シリーズ

第1回:クロスボーダー上場の概要
第2回:上場市場の選択
第3回:クロスボーダー上場のための準備
第4回:クロスボーダー上場の実行プロセス及び上場時の申請書類について
第5回:クロスボーダー上場における監査とSECコメントの最新動向
第6回:SECコメントの事例分析と実務上のポイント


Ⅱ SECスタッフのコメントレターの件数とコメントランキング

SECスタッフは、提出書類を確認して、コメントレターを発行します。

米国上場を目指す場合、登録届出書類である(F-1、20-F、F-4)を作成し、SECに提出する必要があります。登録届出書類はSECスタッフにより確認されてコメントバック、そのコメントに回答することを繰り返して最終的に米国上場が承認されます。

2025年6月30日までの1年間に、SECのスタッフがSEC提出書類に対して発行したコメントレターの件数は、過去2年間の高水準から減少に転じました(<図1>参照)。

図1 ① 年度別のSECコメントレター件数(50件単位で四捨五入)

図1 ① 年度別のSECコメントレター件数(50件単位で四捨五入)

図1 ② SECスタッフのコメント件数ランキング(2025年6月末までの1年間を集計)

Rank

項目

1

MD&A(経営者による財務状態及び経営成績の分析)

2

Non-GAAP指標

3

セグメント報告

4

収益認識

5

のれん及び無形資産

*Form 10-K及びForm 10-Qに関連するコメントレターのうち、各年の6月30日までの12カ月間で一般公開されたコメントレターを対象としている。なお、特別買収目的会社(SPAC)やブランクチェック企業に対して発行されたコメントレターは除外されている。

SECは、レビュー完了後20営業日が経過するまでコメントレターを公開しないため、最新年度の分析には、2025年6月30日までに発行され、2025年8月6日までに公開されたコメントレターが含まれている。

出所:”SEC Reporting Update - highlights of trends in 2025 SEC staff comment letters”, EY website, ey.com/en_us/technical/accountinglink/sec-reporting-update-highlights-of-trends-in-2025-sec-staff-comment-letters(2026年2月5日アクセス)

SECスタッフからのコメントレターの件数は、「MD&A」が第1位、「Non-GAAP指標」が第2位と、昨年と比較してランキングに変動はありません。

今回は、財務情報が記載されるF-Pagesにおいて、SECスタッフからのコメントが多い項目のうち、以下について解説します。

  • セグメント報告
  • 収益認識

Ⅲ セグメント報告

SECスタッフは、登録企業の提出書類だけでなく、決算説明会、企業のウェブサイト、業界やアナリスト向けのプレゼンテーションなども確認しています。SECスタッフは、公開情報での事業内容の説明と、セグメント情報での説明に矛盾がある場合、その理由を企業に説明するように求めてくる可能性もあります。以下で、SECスタッフが特に着目する項目を説明します。

1. 事業セグメントの特定

セグメント情報の開示は「マネジメント・アプローチ」に基づいています(IFRS第8号第5項~第9項、米国基準ASC 280-10-05-3~05-4)。つまり、投資家が経営者である最高経営意思決定者(以下、CODM)と同じ視点で会社を理解できるように、企業内部で用いられている報告区分を反映すべきとされており、セグメント情報の開示では、事業セグメントを用いて、開示が行われます。

SECスタッフは、企業が事業セグメントをどのように特定しているかについて説明を求める場合があります。特に、組織構造やCODMに報告する従業員の役割・責任、CODMとのやり取りの詳細、業務上の意思決定をどのように行っているかなどの情報が求められます。また、SECスタッフは、予算や業績予想がどのように作成されているか、業績目標がどのように評価されているか、経営陣の報酬がどのように決定されているかなども考慮します。

事業セグメントであるということは、その構成単位がCODMによって業績評価や資源配分のために定期的にレビューされる個別の財務情報を持っているということになります。SECスタッフは、CODMに提供される財務情報の内容について説明を求めることが多く、CODMがどのような情報を使って業績評価や資源配分を行っているかを把握しようとします。

また、事業セグメントを1つしか特定していない企業の場合、SECスタッフは、より細分化された財務情報を評価せずに、どのように会社全体の業績や資源配分の意思決定ができるのかについて、より厳しく確認する傾向があります。

2. 事業セグメントの集約について

IFRS第8号、米国基準ASC 280では、登録企業が報告目的で事業セグメントを集約することを許容しています。

SECスタッフは、登録企業のウェブサイト、アナリスト向けのプレゼンテーション、公開情報などを確認し、それらの情報が事業セグメントの集約として適切でないと判断した場合、コメントすることがあります。例えば、2つの事業が1つの報告セグメントに集約されていながら、異なる傾向や業績の違いについての記述がある場合、それらの事業が異なる報告セグメントになる可能性が指摘されます。

SECスタッフは、事業セグメントを集約の上、報告している企業に対して、対象となる事業セグメントが経済的に類似している理由について、IFRS第8号、米国基準ASC 280の要件に基づいた検討した結果を提示するように求めることもあります。また、事業セグメントの集約に疑問を投げかける際に、過去及び将来の営業利益率、粗利益率、売上高、その他の業績指標の提出を求めることもあります。

3. 企業全体の開示

IFRS第8号、米国基準ASC 280では、たとえその情報がCODMに提供されていない、又はCODMが使用していない場合でも、重要性がある場合には以下の企業全体の開示を求めています。

  • 製品及びサービス別の売上高の分解:外部顧客との取引から得られる売上高を、各製品又はサービス、又は類似する製品・サービスのグループごとに開示すること
  • 地理別の売上高の分解及び長期保有資産:本社所在国及び所在国以外の重要な国における売上高及び長期保有資産の情報を個別に開示すること
  • 主要顧客に対する売上高の集中:主要顧客(総売上高の10%以上を占める顧客)との取引から生じる売上高の合計と、その売上高が報告されているセグメントを開示すること

SECスタッフは、企業の公開情報(例:報告セグメントに多様な製品やサービスが含まれていること、外国からの売上高や長期保有資産が重要である可能性があること、特定顧客への売上高の集中があること)から、これらの開示に過不足がないかを確認することがあります。

また、SECスタッフは、企業全体の開示における分解レベルの妥当性についても疑問を投げかけることがあります。例えば、地理的地域別の売上高は開示されているが、顧客別や主要製品カテゴリー別には開示されていない場合などになります。

セグメント報告は、CODMがどのような情報を用いて、どのように意思決定をしたのかを投資家に対して十分に理解するように開示をしていくことが重要であり、当該結論に至った検討結果を文書化して明確にしておくことが重要と考えます。


Ⅳ 収益認識

1. 収益の分解情報の開示

収益の分解情報の開示は、SECスタッフが最も頻繁にコメントをしている分野の1つです。IFRS第15号第110項~第129項、米国基準ASC 606-10-50-5では、企業が収益及びキャッシュフローの性質、金額、タイミング、不確実性が経済的要因によってどのように影響を受けるかを示すために、収益の分解情報を開示することが求められています。

IFRS第15号、米国基準ASC 606「顧客との契約から生じる収益」では、収益をどのように分解すべきかを明示していませんが、適用指針(IFRS第15号B87項~B89項、ASC 606-10-55-89~55-91)では、検討すべき項目の例が示されています。

この適用指針では、分解情報を決定する際には、財務諸表以外で行われる収益情報の提示方法や、CODMが定期的に確認する情報などを考慮すべきとされており、SECスタッフは、企業が収益分解を決定において、適用指針をどのように考慮したかについて、追加の情報を求める場合があります。

また、SECスタッフは、MD&A、投資家向けプレゼンテーション、決算説明会の情報など、公開情報を確認して、開示要件の目的が達成されているかを評価します。特に、企業が他のコミュニケーション手段で製品やサービスを説明している内容に比べて、収益の分解情報が限定的にとどまっている場合には、なぜそのような差が生じるのか、説明を求めるコメントが寄せられるケースもあります。

企業は、収益の発生源泉の特徴やリスクを分析して、財務諸表の利用者にとって有益な収益の分解情報のレベルを検討する必要があり、特徴やリスクに起因して、収益認識のタイミングに影響をもたらす可能性のある要因が存在する場合、収益の分解情報の開示を検討すべきと考えます。

2. 履行義務の識別

IFRS第15号、米国基準ASC 606を適用する上で、企業はまず顧客との契約において約束された財又はサービスを特定し、どれが別個の履行義務に該当するかを判断する必要があります。約束された財又はサービスは、それ自体で区別可能である場合、又は実質的に同一であり、顧客への移転パターンが同じである一連の区別可能な財又はサービスの一部である場合、別個の履行義務として判定されます。

過去1年間、SECスタッフは、企業が顧客との契約において履行義務をどのように識別したかについて、より詳細な情報の開示を求めています。

企業は、契約に含まれる履行義務の識別を慎重に評価する必要があり、詳細な開示を行うことが求められます。

3. 履行義務の充足

IFRS第15号第31項~第45項、米国基準ASC 606-10-25-23に従い、企業は約束された財又はサービスを顧客に移転することによって履行義務を充足した一時点、又は一定期間で収益を認識します。IFRS第15号、米国基準ASC 606では、契約の開始時点で、企業が約束された財又はサービスが一定期間で履行義務を充足するかを判断する必要があります。一定期間における履行義務の充足ではない場合、一時点と見なされます。

企業はどのタイミングで履行義務を充足するか(例:出荷時、サービス提供時など)を開示することが求められています。また、履行義務の充足時点を判断する際に行った重要な判断についても開示が求められます。

さらに、企業が履行義務の充足が一定期間と判断した場合、進捗度の選定方法を開示することが求められます。

SECスタッフは、企業が財又はサービスの支配が移転されるタイミングや、収益認識方法について、より詳細な情報を提供するようにコメントをする場合があります。

その他、未充足の履行義務に対する将来の収益認識のタイミングや損益計算書で個別表示が求められる重要な収益に対するコメントなどを行っています。


Ⅴ おわりに

米国市場へのクロスボーダー上場を目指す上で、SECスタッフからのコメントレターへの対応は避けては通れません。コメントレターへの対応をスムーズに進めていくためには、コメントレターの傾向を理解して、事前に対策を準備しておくことが非常に重要となります。


サマリー

米国上場を目指す場合、登録届出書類を作成し、SECに提出、SECスタッフからのコメントバックに回答することを繰り返して最終的に米国上場が承認されます。コメントへの対応をスムーズに進めていくためには、SECコメントの傾向を理解して、事前に対策を対策を講じることが非常に重要となります。


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