EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY-Parthenonは、EYにおけるブランドの一つであり、このブランドのもとで世界中の多くのEYメンバーファームが戦略コンサルティングサービスを提供しています。
本稿は、人口減少時代に動き出した上下水道インフラ経営シリーズの第6回目です。
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要点
上下水道事業における課題は、人財、施設、財務の観点から厳しさを増しています。その中でも近年、特に人財の課題が最も大きい課題として着目されています。
上下水道分野におけるDXの定義はさまざまな考え方がありますが、これまでの事例を基に、本稿では、「施設管理の高度化」「危機管理向上」「技術継承」「業務効率化」「サービス水準向上」などを目的として、施設や管路における技術的な業務や料金徴収・総務業務など事務的な業務でデジタル技術を活用することで、今までの働き方や意識に対して変革をもたらす取り組みを指します。
これらを支えるデジタルテクノロジーの急激な進化により、データの収集・連携・分析から、人が実施する業務の支援・自動化、AI等による検知・予測という機能面でさまざまなソリューションが開発されています。
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政府においても、2022年3月国土交通省において「インフラ分野のDXアクションプラン」1が策定されたことを皮切りに、2022年6月には政府「経済財政運営と改革の基本方針2022」(いわゆる骨太の方針)2や「デジタル田園都市国家構想基本方針」3において、インフラDXへの投資が明示され、政府におけるDXへの取り組みが本格化しました。
大きな転換点となったのは、2024年7月に岸田総理大臣(当時)が愛知県を訪問し、豊田市のDXに対する取り組みを視察したうえで、上下水道DX技術のカタログを2024年度中の策定と今後5年程度での標準整備を進める旨を発言しました。明確にDXの標準整備が年度目標をもって示されたことで、政府におけるDXの具体的な促進策が加速化しています。
2024年11月には、総理大臣を議長とするデジタル行財政改革会議において、今後の取り組み方針の一つに上下水道分野のDXが位置付けられました。また、2024年12月以降、国土交通省上下水道DX推進検討会が開催され、具体的なDXの標準整備に向けた目標値やロードマップが示されており、メンテナンスに関する上下水道DX技術の自治体における導入率を令和9年度末までに100%とする旨が示されました。
このような政府の推進に伴い、民間企業でも技術開発、実証、サービス導入に関する事例が加速度的に増加しています。上下水道DX技術カタログにおいて、掲載技術がR7年3月では119件だったものが、R7年10月に163件、R8年3月には189件(実証技術も含む)と増加しています。
例えば、政府が実施している「インフラメンテナンス大賞」においても、AIで水道管路劣化予測を実施するFractaや衛星データを活用した水道管の漏水調査を実施する天地人などが受賞しており、これらの企業においても自治体における受注実績が急速に伸びている状況です。
さらに、自治体における生成AI活用も加速しています。総務省が公表した生成AIガイドブックにおいては、生成AIの導入率(令和7年6月)は都道府県・政令指定都市で約9割、市区町村で約3割という状況です。上下水道事業に特化した生成AIの活用はまだ事例が少なく、今後の進展が待たれるところです。
弊社が支援した阪神水道企業団では、BPRとDXの取り組みを合わせて実施しており、2024年3月にDX戦略4を作成・公表しました。その後2年間で実導入の取り組みが進んでいます。モバイル端末やWiFiの整備といったITインフラの充実や、電子決裁などにより業務効率の上昇を実感されています。さらに、職員がご自身でノーコードツールを活用してアプリを作成するなども進んでいるということです。現在では職員からの提案などを受け付ける内部向けのアプリや、施工協議の申請・受付を行うアプリを職員が作成して工事業者などとのやりとりに活用しています。職員自身が改善を実施すること自体が意識改革にもつながるという点はまさにDXの目的に合った取り組みだと考えます。
最先端のDXソリューションの導入において公共調達の仕組みがうまく合わないことも実感します。民間ではPoCと呼ばれる実証試験を行ってうまくいったらそのままその技術を導入することも多くありますが、公共調達ではその枠組みがなく実証をするインセンティブが民間に少ないのは課題です。また、共同調達においても、公共調達は制度上は可能ですが、複数自治体がDXを共同調達する事例は調整に時間がかかる、自治体ルールなどの違いが原因で事例が少ないのが現状です。
福島県会津地方では4つの水道事業者等が協定を結んだうえで衛星活用による漏水調査ソリューションを共同調達しました。これにより、民間にとって案件規模が大きくなるメリットがあるだけではなく、水道事業者等においても、管路データの共有化、連携事務の標準化、水道技術意識の平準化など、意識も含めた改革につながっています。5
福岡市では、スタートアップからの調達そのものを改革してDX導入を加速化させています。
福岡市では公民連携ワンストップ窓口“mirai@”を開設しており、公共側からテーマを提示して実証試験から実導入までワンストップで実施する仕組みや、民間側からの提案で実証をサポートする仕組みなどを設けています。すでに、令和3年度以降、上下水道分野で14件の実証・実導入を実施しています。実導入までワンストップでいける仕組みがあることにより、スタートアップなど開発投資に限りのある企業でも取り組みやすい仕組みとなっているのではないでしょうか。
民間側も上下水道DXに対して市場拡大・参入の機会ととらえていますが、参入に関してはハードルも多いのが現状です。
DXソリューションなどはその導入スピードからすると、自社で一から開発するのは能力・スピード面の両方で厳しいことも多く、そのため、提携や買収などを手段として活用することも重要です。
通信設備関連建設のミライト・ワンは、西武建設や国際興業の買収により水道実業(建設や維持管理・システム)のケイパビリティを獲得するとともに、DXソリューションにおいてもFractaとの業務提携、ドローン子会社設立などを軸に自治体との共同研究なども進めています。実業・ソリューションという水道事業における「武器」と顧客や実証などの「フィールド」の構築を両輪で進めている参入事例の一つと言えます。
できることから進めるというDXの第一歩を歩み出した上下水道事業ですが、DXが進むことにより、大きく仕事や人のあり方が変革することも踏まえ、将来の上下水道事業のあり方を考えることが必要ではないでしょうか。(制度面の制約はありますが)
例えば、2020年から生産年齢人口(15歳~64歳)は30年後に26%減少、50年後に40%減少します。職員がこのスピードで減少するとした場合、浄水場の運転管理は何人で実施することができるでしょうか。
より詳しい情報をご希望の方はご連絡ください。
海外では浄水場や下水処理場を省人化・準無人化している事例があり、遠隔で勤務する維持管理人員の支援としてDXソリューションが使われています。これらの事例では、リスクマネジメントのツールとして使われており、人を減らすことそのものが目的となっていない点が注目されるべき特徴です。また、故障などの対応のためには職員が現場に行くことが必要ですが、広域的にメンテナンス人員が配置できればかなりの省人化が実現できるかもしれません。
省人化が進むことは、一人当たりの責任が大きくなることを意味します。その結果、一人当たりの報酬が増えることも十分に想定されます。コア技術と考えられるデジタル知見や緊急対応などの知見を蓄え、高度な業務を少人数で実施することにより、「上下水道事業はスーパーエンジニアがやる仕事」として、上下水道事業における仕事が魅力的なものに変わるかもしれません。
小規模の自治体において、「継承する技術がありません」という話を聞いたことがあります。このような自治体においても、DXによる支援が上下水道事業の技術力を確保する一助にもなると考えられます。
このようなDXのあり方を考えるにあたり、さまざまな関係者と話す中で印象的だった発言です。
中規模下水道事業体:「維持管理に必要な情報がモバイル端末(携帯・タブレット)に集約されていることで、業務が全てタブレットで行えます。庁舎に行かずともタブレットで維持管理・職員間のコミュニケーションが完結できます。」
大規模上下水道事業体:「職員の意識が変わるかどうか、働き方が変わるかどうかが各DXソリューション導入の判断基準としています。」
海外上下水道DXコンサルタント:「デジタルで知見を蓄える前提での技術継承が重要です。従来どおりの業務を続けたいと考える立場からは抵抗があるはずで、考え方そのものを変えることで継承できるはずです。導入後のビジョンを示すことが欠かせません。」
上下水道事業を支える人々が上下水道施設の安全・安心を保ちながら、魅力ある仕事として責任感と誇りを持って従事するにはどのような改革が必要でしょうか?
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上下水道事業では、経営環境の厳しさを背景にDXの導入が進み始めていますが、できるところから始めるというスモールスタートが現状です。長期的な視点から、「将来の上下水道事業のあり方」を考えることが今求められています。
人口減少時代に動き出した上下水道インフラ経営 全9回
人口減少・老朽化・災害リスクに直面する上下水道事業。官民連携やDX、広域化など経営改革の最新動向と課題解決のポイントを解説します。
#2 なぜ今、ウォーターPPPの拡大に合わせて官民パートナーシップの枠組み自体を見直す必要があるのか
上下水道分野における官民連携が拡大する中、持続可能なインフラ経営のために、官民双方の役割分担の見直しが求められています。
#3 上下水道と他インフラ事業との連携「複合インフラ管理」による経営改革とは?
従来、水道事業と下水道事業は個別に経営されてきましたが、上下水道事業の経営改革策として、「上下水道事業の一体的な管理」による効率化が期待されています。さらには道路・公園などの他インフラ事業と連携する「複合インフラ管理」による効率化も期待されています。
#4 上下水道事業はどのように広域連携し、経営改革策を進めればよいのか?
人口減少により上下水道事業の単独経営は厳しさが増す中、自治体同士の広域連携は合理的です。しかし、現場では進んでいません。2市共同ウォーターPPPや官民出資会社など「官民連携を活用した間接的な広域連携」が突破口になり得ます。
#5 エネルギー危機による電力価格の変動性が高い時代において、脱炭素化により上下水道事業の経営・料金の安定化をどう進めるか
電力価格の変動が続く中、上下水道事業では脱炭素を経営改革として捉える視点が重要となっています。省エネ・再エネ・DXの実装ポイントを解説します。
#6 コスト削減のツールではない、「人が幸せになる」「魅力ある上下水道事業」に向けたDXとは?
上下水道DXの最新動向を、国の政策動向や導入事例を踏まえて解説。人材不足や技術継承など事業運営の課題と今後の方向性を整理します。
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