EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY-Parthenonは、EYにおけるブランドの一つであり、このブランドのもとで世界中の多くのEYメンバーファームが戦略コンサルティングサービスを提供しています。
本稿は、人口減少時代に動き出した上下水道インフラ経営シリーズの第7回目です。
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共同執筆者
藤木一到
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 EY-Parthenon トランザクション・アンド・コーポレートファイナンス インフラストラクチャー・アドバイザリー マネージャー
※所属・役職は記事公開当時のものです。
要点
上下水道業界において、近年、民間企業によるM&Aや業務提携の動きが顕著に増加しています。2026年に入り、メタウォーターによる水道機工へのTOB1)、三菱電機と神鋼環境ソリューションの戦略的業務提携2)、インフロニア・ホールディングスによる水ingの買収3)などが立て続けに発表されています。これらは個別企業の成長戦略と捉えることもできますが、上下水道事業を取り巻く市場変化に対して業界内外の企業が体制を組み替えている構造的な動きとして捉えることもできます。本稿では上下水道業界の変遷とともに現在のM&Aや業務提携が上下水道業界にとってどのような位置付けになるのか、一過性なのか今後も継続的な動きになるのかなどをひもといてみたいと思います。
2000年代以前については人口増加と高度経済成長を背景として、上下水道の普及拡大が急速に進みました。未整備地域の解消、都市部におけるインフラ整備、処理能力の増強など、いわゆる「整備・拡張」が中心であり、市場は構造的に成長していました。
発注方式は、上下水道事業を実施する自治体が設計と施工を分離して民間企業へ発注していたことから、設計企業と、施工企業が業界として分離されていました。普及のための整備拡張が重要であり、標準的な施設をいかに分業して早く作るか、が問われていた時代でもあります。管路・処理場、土木・建築・機械・電気、運転管理・料金徴収・建設・点検・修繕、といった施設・業種・業務ごとに細分化され、仕様書に基づく個別発注が基本とされてきました。各企業は分割された個々の業務領域に特化する形で、自らの戦う製品・サービスを開発していました。民間企業にとって業務の納品先は自治体であり、企業間の調整・判断も主に自治体職員を通じて行われていたため、企業間での直接的な連携は限定的であったと考えられます。
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2000年代に入ると、日本ヘルス工業(当時、現・ウォーターエージェンシー)と三菱商事によるジャパンウォーターの設立(2000年、現ウォーターエージェンシー)4)、ヴェオリアの日本市場参入に伴うジェネッツ、西原環境及びフジ地中情報等のグループ化(2002~07年頃)5)、日本ガイシと富士電機によるメタウォーター創設(2008年)6)、三菱商事、日揮及び荏原製作所による水ing創設(2010年に三菱商事及び日揮が資本参加)7)などが市場にインパクトをもたらしました。メタウォーターや水ingについては海外市場への成長戦略という一面も打ち出され、「和製水メジャー」というキーワードも聞かれました。この時期は後述するように官民連携(第三者委託等)が大きく推進される見込みもあり、外資系企業や商社などさまざまなプレイヤーが上下水道事業に着目して事業参入したものと推察されます。
その後は、明電舎・オルガノ(機電一体提案、2012年)8)、クボタ・東芝(膜分離活性汚泥法開発に関する連携、2015年)9)、メタウォーター・水道機工・国際航業(戦略パートナーシップ、2014年)10)など、資本を伴わない業務提携も2010年代には多く締結されています。資本を伴わない業務提携では、各企業が持つ顧客や案件等を情報交換し提案強化や新たな製品・サービス開発を行うことが主眼にあり、自社にはない顧客や業務範囲への広がりの可能性を各企業が検討していたものと考えられます。
表 2000年以降の主な業務提携・事業統合の事例
2020年代に入ると上下水道業界における企業間連携のあり方は質的に変化しているように見えます。従来の業務提携を中心とした連携に加え、M&Aや経営統合といった資本を伴う再編が増加し、連携の深さと範囲が拡張しています。近年はJR西日本のJCLaaSや福知山市包括委託への参画、中部電力の第一環境への出資等の業界外からの参入事例も相次いでいる他、大型のM&Aも進んでいます。
2026年に入ると、メタウォーターによる水道機工へのTOBや、インフロニア・ホールディングスによる水ingの買収といった資本再編に加え、三菱電機と神鋼環境ソリューションによる戦略的業務提携など、業界主要プレイヤー間での連携強化に関する動きがありました。
メタウォーターは2026年2月から水道機工の公開買付けを実施しTOBが成立しました。買付総額は約60億円規模とされており、取引成立後、水道機工は上場廃止となる見込みとなりました。上場廃止後は東レが引き続き約51%を保有し、メタウォーターが49%を保有する形で、2社共同出資による合弁体制へ移行していく予定です。
本TOBは今後起こり得る事業環境の変化への対応力強化として、技術者のリソースの拡充・保管、新技術や新たなビジネスモデルのマーケティング・設計・開発等に対処するためとしている他、株式市場の短期的な評価にさらされる中では採用できなかったより中長期的な視点からの事業投資の実行等を狙いの1つとしています。両者は前述の通り2014年に業務提携関係が締結されていましたが(メタウォーター・水道機工・国際航業の3社による戦略パートナーシップ)、それらの基礎的な関係が発展した形と捉えることもできます。
2026年4月インフロニアは荏原製作所、三菱商事、日揮ホールディングスの3社から水ing株式の全数を取得し、100%子会社化することを発表しました。
本買収により、水ingグループが保有する水処理エンジニアリング力及びフィールドエンジニア等と、インフロニアグループが保有する事業の最適化や効率化を推進するプロジェクトマネジメント能力及び土木・建築技術・ノウハウを相互活用し、一気通貫での上下水道事業の設計・建設・維持管理・運営を狙うとしています。
インフロニアは「総合インフラサービス企業」をグループ全体戦略として位置付け、上下水道分野ではコンセッション等も積極的に受託しており、より長期的かつ包括的な官民連携においての競争力確保のための買収と想定されます。
本提携は、三菱電機が保有する電気・制御・監視技術及びデータ活用に関する知見と、神鋼環境ソリューションが保有する水処理プロセス技術や設備設計・施工能力を組み合わせ、新規ソリューション開発と官民連携への共同提案を実施することを目的としています。
具体的には、浄水場・下水処理場のプロセス最適化を実現するソリューションを共同開発するとともに、官民連携事業に対し、共同で参画し提案を行うことで、浄水場・下水処理場運営における安定稼働やLCC低減を推進していくことを狙いとしています。
これまで個別に業界内にあった技術開発目的の提携、クロスセル・アップセルを目的とした営業的な提携と一線を画し、それらを包含した形で一歩踏み込んだ関係性構築を狙っていることが伺えます。
これら直近発表のあった3つの提携の背景・目的・狙いで共通するのは「長期的な視点」です。市場内にある個々別々・是々非々の案件対応ではなく、より中長期を見据えて戦略的に投資を実行しやすくするためのアクションの1つであることが読み取れます。
こうした民間企業の動きは、①整備拡張時代の終焉、②自治体発注構造の変化が背景にあるものと考えられます。こうした動きの萌芽ともいえる動きは、今から約20年前の2000年代前半にさかのぼります。
2000年代前半には、上下水道事業における自治体から企業への発注構造の変化点がありました。個別・仕様発注から包括的な性能発注の事例が生まれ始めた時期です。例えば、2001年に国交省は「性能発注の考え方に基づく民間委託のためのガイドライン」が発行され、以降2010年代にかけて下水処理場を中心に急速に包括的民間委託が日本全国で導入されました。水道分野では2002年に水道法が改正され、第三者委託という運営委託の仕組みが導入されました。法改正直後の2002年に群馬県太田市で浄水場の運転・維持管理業務を一括契約する第三者委託(2007年に浄水施設に加えて取水から配水までの各施設、料金徴収等の営業業務なども含めた水道事業の多くの業務の包括化に発展)、2009年には横浜市川井浄水場にて施設全体を一体的に更新・維持管理するPFI事業が国内で初めて実施されています。
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また、その時点で、日本の将来的な人口減少、水インフラ整備の完了(概成)が近づいていたことから、民間企業各社は維持管理・更新需要への対応をし始める必要性を考え始めていました。
上記の上下水道事業における包括的委託の受け皿として、案件ごとに受託者間が連携した枠組み(案件ごとに形成される特別目的会社(SPC)や共同企業体(JV))が数多く市場に生まれています。ただ、こうした枠組みは、個別案件ベースでの緩やかな連携であり、各企業の主たる業務領域や枠組みそのものは大きく変わってはいませんでした。
2023年に「水の官民連携」(ウォーターPPP)が内閣府のアクションプランで打ち出され、国土交通省とは、強力に水道・下水道ともに官民連携を推進していくことが示されました。
「水の官民連携」は長期契約(10年)、性能発注、維持管理と更新の一体マネジメント、プロフィットシェアの4要件が必要とされ、直近数年間に全国で急速に導入が進んでいくことが想定されています。特に下水道分野では水の官民連携が管路改築更新の補助金ともひも付けられ、別業種・別発注が当たり前であった処理場と管路を包括化する検討も必要とされるようになりました。他業種・他業務が質・量ともに増えることから、それらを束ねる統括管理業務なども設定され始めています。
官民連携と合わせて、国土交通省は広域連携、「地域インフラ群再生戦略マネジメント」(いわゆる群マネ)を推進しています。包括化(業務範囲の質と量の拡大)、広域連携(複数自治体における官民連携の共同発注)、複合化(上下水道一括、他インフラとのバンドリング)などが組み合わさり、かつ不可逆に進んでいくことが想定されます。
上記の国や自治体の動きに伴い、民間企業にはこれまで以上に長期・包括・成果責任を負うことになり、複合的かつ難易度の高いリスク分担や意思決定をすることが求められるようになります。単品機器・性能だけでなく、事業をマネジメントする能力も問われています。単なるケイパビリティの獲得にとどまらず、短期的な企業連携だけでは解決できないテーマ・技術・サービスに腰を据えて取り組んでいくことも必要になりつつあります。「自社はどんな業務領域で勝負するのか」、「長期的に誰と組んで仕事をしていくのか」を考えることが必要になっているのではないでしょうか。
仮に広域連携・官民連携・複合化などが大きく推進された場合、例えばフランスのように大手数社(企業グループ)が事業を一手に担う可能性や、もしくは、ドイツのシュタットベルケのように、地域インフラを全て担う官民出資会社が存在している可能性もあるかもしれません。上下水道市場の既存業界内プレイヤーにとどまらず、電力・ガス・交通・通信など他分野のプレイヤーとも企業再編・業務提携がより一層進むことも想定されます。
上下水道はたとえ広域化が進んだとしても本質的に地域に根差した事業であり、地域企業の存在は欠かせません。
漏水や設備故障、災害発生時の応急復旧といった突発対応においても、地域事情を熟知した事業者でなければ迅速かつ的確な対応は困難で、管工事、運転維持管理、管路調査・清掃、コンサル等を中心に地域固有の企業・ヒト(知識と経験)に強く支えられています。
一方で、人口減少や担い手不足により採用が難しくなってきていることや熟練技術者の高齢化に伴う事業承継の問題も顕在化してきており、地域企業特有の機能をどのように地域ごとに確保していくのかも今後重要な論点になります。
企業再編や広域化が進展したとしても、現場機能の中核を担う地域プレイヤーの重要性は変わらず、広域的な統括・マネジメント機能を持つ主体との役割分担と連携が、持続可能な事業運営を考える上では不可欠な要素と考えられます。
民間企業の連携自体は今に始まったことではなく、2000年代頃からさまざまに業界内で検討・実施されてきたことを概観しました。また、市場環境と自治体発注構造等の変化に伴い、近年急増しているM&A等を始めとして今後その民間企業の連携はさらに進化・深化していく可能性があります。業界内外の資本提携・業務提携が進み、これまでの「個別・局地戦」ともいえる業界構造から、企業連合同士が総合力を競いながら、水事業の安定した運営の実現やより高度なソシューションの開発が実現していく世界観が予想されます。5年後、10年後の業界地図は全く別の景色になっているかもしれません。民間企業各社はどの機能を自社で持ち、どの機能を外部と協力するかの基本戦略を考える岐路に立っているのではないでしょうか。
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上下水道分野で進む自治体のウォーターPPP等の発注構造の変化に伴い、これまでと同じ業務・仕事のやり方とは異なるアプローチが求められることが増え業界内では企業再編の動きが加速しています。
人口減少時代に動き出した上下水道インフラ経営 全9回
人口減少・老朽化・災害リスクに直面する上下水道事業。官民連携やDX、広域化など経営改革の最新動向と課題解決のポイントを解説します。
#2 なぜ今、ウォーターPPPの拡大に合わせて官民パートナーシップの枠組み自体を見直す必要があるのか
上下水道分野における官民連携が拡大する中、持続可能なインフラ経営のために、官民双方の役割分担の見直しが求められています。
#3 上下水道と他インフラ事業との連携「複合インフラ管理」による経営改革とは?
従来、水道事業と下水道事業は個別に経営されてきましたが、上下水道事業の経営改革策として、「上下水道事業の一体的な管理」による効率化が期待されています。さらには道路・公園などの他インフラ事業と連携する「複合インフラ管理」による効率化も期待されています。
#4 上下水道事業はどのように広域連携し、経営改革策を進めればよいのか?
人口減少により上下水道事業の単独経営は厳しさが増す中、自治体同士の広域連携は合理的です。しかし、現場では進んでいません。2市共同ウォーターPPPや官民出資会社など「官民連携を活用した間接的な広域連携」が突破口になり得ます。
#5 エネルギー危機による電力価格の変動性が高い時代において、脱炭素化により上下水道事業の経営・料金の安定化をどう進めるか
電力価格の変動が続く中、上下水道事業では脱炭素を経営改革として捉える視点が重要となっています。省エネ・再エネ・DXの実装ポイントを解説します。
#6 コスト削減のツールではない、「人が幸せになる」「魅力ある上下水道事業」に向けたDXとは?
上下水道DXの最新動向を、国の政策動向や導入事例を踏まえて解説。人材不足や技術継承など事業運営の課題と今後の方向性を整理します。
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